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2021/04/27

電池の進化~EV化のキーパーツ

車載用電池の課題

車載用の電池として使われているのは、鉛蓄電池とリチウムイオン電池です。両電池の課題について説明します。

1 鉛蓄電池の課題

電池を構成する主要な材料の鉛は有害物として扱われており、有害物に関する規制、RoHs指令やELV指令により鉛の使用は禁止されましたが、鉛蓄電池の代替えとして、コストや生産性等の要件で有効な代替え技術がないことから使用が容認されています。電動車では12V(ボルト)の鉛蓄電池は無用と思われるかもしれませんが、実際は搭載されています。理由はコストの観点で12V系のエンジン車用として設計され量産されている部品を流用しているからです。例えば、オーディオやランプがあります。電動車で注意が必要なことは、12Vのバッテリがあがったら、他の車から助けてもらうことはできますが、助けることは禁止されています。

2 リチウムイオン電池の課題

自動車用リチウムイオン電池のとって大きな課題は、電池の特性(容量、出力、寿命)、安全性、コストです。リチウムイオン電池のコストは基本的に、電極で使用する材料に影響を受けます。一方、電極の材料は航続距離や充電時間と相反する傾向を示すようですので、材料選択は悩ましい課題と思われます。また、日中韓の主要な企業による激烈な競争となっています。CATL(寧徳時代新能源科技)をはじめとした中国勢が急速に事業を拡大しています。リチウムイオン電池の正極で主に使用されているレアメタルの中で、コバルトの確保が課題です。コバルトは銅やニッケルの副産物として生産されているので急激な増産は難しいです。また、資源の総量が少ないことに加えて生産地が偏重しています。

バッテリの需要が増加することは明確のため、コバルトが枯渇する事態が想定されるようです。日本においては、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がレアメタルの短期的な供給障害に備えるために国家備蓄を担っています。需給逼迫時に日本企業に対して放出や売却を行います。合わせて、海外の資源開発の支援も行っています。レアメタルを確保する方策として、リチウムイオン電池のリサイクル事業が活発化しています。そもそもコバルトの使用を抑えたり、使わない電池が開発されたりしていますが、電池の性能に関する課題を実用的に解決して製品化には至っていないようです。米国EVメーカのテスラは2020年9月にコバルトフリのバッテリを数年後に量産すると表明しました。バッテリのコストが車両の1/2から1/3を占める試算もあります。図14にリチウムイオン電池のコスト構造の一例を示しますが、レアメタルの使用(図中の正極、負極活物質)を減らすことがコスト低減の課題であることが判ります。

図14 リチウムイオン電池のコスト構造
図14 リチウムイオン電池のコスト構造

出典:JOGMECの資料を改変して作成

一方、電池の生産面に関する動向として、OEMの一部が外部調達から内製化への方向を表明しています。電動化車両の中でコスト比重が高い電池のコスト削減策と推察されます。電池サプライヤにとって、脅威となる動向かもしれません。安全性については、市場で発生している発煙や発火事例は重大な課題と言えます。最近話題となっている事例ではリコール費用が一千億円を超えると言われています。リチウムイオン電池はエネルギ密度が高く、可燃性の有機溶剤を使用しているので、安全設計が重要です。そのための機構として、電池管理システム(BMS Battery Management System)が導入されています。

リチウムイオン電池の発煙・発火の基本的なメカニズムは、1.セパレータの損傷による電極のショート。セパレータの損傷要因は機械的、充電の繰り返しによる劣化、製造不良も含まれます。2.過充電によりプラス電極が分解して酸素を発生し、有機物の電解液と反応し燃焼。3.電解液が分解してガスが発生しケースが破損。有機物の電解液が飛散して発火へ至ります。BMSに求められる機能は、電池の残量を高精度に検出、充電・放電制御、セルバランス制御、冷却制御などがあります。電池の状況をリアルタイムでモニタし、電池の特性を有効に働かせつつ、異常が発生した場合は適切な処理ができるようにします。最近は、BMS用のICが採用されています。各制御の技術内容等については他の情報源を参照してください。

今後の方向性

リチウムイオン電池の発煙・発火などの品質課題を軽減する技術として、可燃性の有機溶剤を使用しない全個体電池の開発が急速に進んでいます。既存のリチウムイオン電池に比べてエネルギ密度が大きくなるので、小型化、航続距離の延伸、コスト低減が期待されています。全個体電池は名前の通り、液体を使用しません。電極と個体との反応で電気を発生します。全個体電池の構造をイメージ図で示すと図15です。リチウムイオン電池の電解液が固体電解質に置き換わったと考えると判りやすいです。

図15 全個体電池の構造例
図15 全個体電池の構造例

電極や電解質媒体の材料が各所で研究されています。主流となる材料候補はまだ、定まっていないと思われます。リチウムイオン電池の色々な課題を解決する方策として、新たな材料の探査が進められていますが、材料の探索手法としてマテリアルズ・インフォマティクスが導入されています。従来は材料を変えて実験を繰り返していましたが、AI(人工知能)を使って過去の実験データなどを統計分析するインフォマティクス(情報科学)の手法により、材料開発を高効率化する取り組みです。電池の方式に大きなブレークスルーがない限り、当面、リチウムイオン電池は蓄電池の主流であることが想定されるので、今後も技術開発が伸展するでしょう。なお、車載用リチウムイオン電池の方向性は図16の通り、現行の液体系の電解質構造から全個体電池へ移行し、その先は新たな方式の電池が創出されると想定されています。

図16 電動車用バッテリの技術トレンド
図16 電動車用バッテリの技術トレンド

出典:経済産業省の資料を改変して作成(LIB:Lithium Ion Battery)

関連計測器の紹介

電池の開発で使用される計測器の一例を紹介します。

図17 電池の開発用計測器(一例)
図17 電池の開発用計測器(一例)

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

菅総理の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする脱炭素社会の実現を目指すことが宣言されました。自動車産業ではその中心的な役割をなすエンジン車から電気自動車へのシフトにおいて、基幹部品である電池への期待がますます高まっています。電池の基本原理は大きく変わっていませんが、今後とも性能改善や低コスト化は継続して展開されるでしょう。さらに、将来、革新的な電池が開発されることを期待しましょう。


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