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電池の進化~EV化のキーパーツ

電池は私たちの身の回りで多く使われており生活に欠かせないものとなっています。スマートフォンやノートパソコンの普及に大きく寄与してきました。自動車の電動化(電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)でキーパーツとなるリチウムイオン電池の進化は世界レベルでの脱炭素化に向けた取り組みになってきており、性能向上や低コスト化が喫緊の課題となっています。

本稿では、電池の歴史を述べて、乾電池から鉛蓄電池、全個体電池まで一通りの主要な電池を俯瞰し、構造や原理を図解します。その後に自動車で採用されている電池の課題や今後の方向性について概説し、最後に電池の開発で使用される計測器の一例を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、本稿に記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

電池の歴史※1

現在使われている電池に関連する主な技術の歴史を述べます。各電池の基本原理などについては、次章の電池の種類と原理で解説します。

※1

1930年代にイラク バクダッドで発見された紀元前の壺、いわゆるバクダッド電池が最初の電池ではないかとの説があります。賛否の諸説があるようですので、本稿では言及しませんが、書籍や検索エンジン等で閲覧してください(キーワード例:Baghdad battery)

1789年にイタリアのガルバーニはカエルの足に金属を触れさせると足の筋肉が動くことを発見したことが電池発明のきっかけだとされています(図1)。

図1 ガルバー二の実験
図1 ガルバー二の実験

1800年にイタリアのボルタがガルバーニの理論を反証することで現在の電池の原型である「ボルタ電池」を発明しました(図2)。電池を構成する材料は銅(図中のC)、亜鉛(図中のZ)、希硫酸です。

図2 ボルタ電池(発明時のイラスト)
図2 ボルタ電池(発明時のイラスト)

1867年にフランスのルクランシェがボルタ電池を改善したダニエル電池をさらに改善して、長時間使えて安価なクランシェ電池を発明しました。この電池は後のマンガン乾電池の原型となり普及しました。

図3 ルクランシェ電池(発明時のイラスト)
図3 ルクランシェ電池(発明時のイラスト)

1887年に屋井先蔵がクランシェ電池の問題点と指摘されていた電解液がこぼれることを防ぐために、電解液を布にしみこませて電解液が漏れることを防ぎ、電池を缶で覆いました。これが乾電池の発明と言われています。なお、特許の観点で世界的に先発明者をあげると、ドイツ カールガスナが1886年に最初の特許を取得しています。日本では、1892年に屋井の出願と前後して高橋市三郎の特許が先に権利化されています。出願は屋井の方が、9日早いです。

鉛蓄電池は1859年にフランスのプランテによって発明されました。日本においては、島津製作所の二代目社長 島津源蔵が初めて鉛蓄電池を開発しました。株式会社GSユアサの社名は島津源次郎が開発した当初のGS蓄電池(GSは島津源次郎の頭文字)の名前に由来しています。1899年にスエーデンのユングナがニカド電池(日本工業規格での表記、通常ニッカド電池と呼称)を発明しました。1990年に松下電池工業、三洋電機がニッケル水素電池を量産化しました。

電池の種類と原理

実用化されている電池の種類をまとめると、図4となります。大きく分けると、化学電池、物理電池、生物電池です。

図4 電池の種類
図4 電池の種類

化学電池は化学反応によって電気を発生する方式です。大きく分類すると、一次電池、二次電池、燃料電池になります。一次電池は化学反応で電気を放電しますが、使い切るとエネルギがなくなる使い切りです。二次電池は放電と逆方向に電流を流して化学反応で電気を充電します。エネルギを使い切っても、充電することで繰り返し使える電池です。化学電池の一次電池にはマンガン電池、アルカリ電池、リチウム電池、酸化銀電池が一般的に使われています。二次電池は自動車の電動化やノート型パソコンで多く使われているリチウムイオン電池の他に、自動車で使われている鉛蓄電池も主流です。物理電池は光や熱を電気に変換する方式です。太陽電池や原子力電池などがあります。生物電池は生物の反応を利用して発電する方式や、微生物による水素生産を利用する方式がありますが、現時点は研究段階です。それでは、主要な電池の原理や構造について説明します。なお、各電池の詳細な技術内容については、専門書等の技術資料を参照してください。

1 化学電池

化学電池の基本原理は酸化反応と還元反応です。ある物質が酸素と結合することを酸化、酸素を放出することを還元と言います。電気的に言い換えれば、ある物質が電子を放出することを酸化、電子を受けとることを還元となります。電池の基本構成は、正極、負極、電解液です(図5)。

図5 化学電池の基本構成
図5 化学電池の基本構成

主要な一次電池の特徴を説明します。

1) マンガン電池

歴史の章で説明したルクランシェ電池を改良したものです。単1~単5の円筒形が販売されています。構造は図6の通りです。外装の内側に負極の亜鉛缶、亜鉛缶の内側に電解液をしみこませたセパレータ、その内側には正極材の二酸化マンガンが詰められています。缶の中心には電気を取り出す炭素棒が挿入されています。

図6 マンガン電池の構造
図6 マンガン電池の構造

2) アルカリ電池

アルカリ電池と言われるのは、電解液にアルカリ性の水酸化カリウムを使っているからです。マンガン電池と同じく、負極は亜鉛、正極は二酸化マンガンです。電池特性の公称電圧はマンガン電池と同じです。電解液の水酸化カリウム水溶液は内部抵抗が小さいのでパワーを必要とする機器に向いています。電池の構造は図7です。

図7 アルカリ電池の構造
図7 アルカリ電池の構造

3) リチウム一次電池

金属リチウムを負極材とした電池をリチウム電池と言います。なお、後ほど説明するリチウムイオン電池とは異なった種類ですので、区別するために、ここではリチウム一次電池と呼びます。リチウムは金属の中でイオン化傾向が最も大きいので、高電圧が得られます。リチウムは水と反応しやすいので、電解液は水溶液ではなく、有機溶媒が用いられます。正極材は色々な種類の材料が使われています。材料によっては、アルカリ電池等と同じ公称電圧(1.5V)にして互換性を持たせています。

4) 番外編1 水電池

非常用の電池として売られている水電池があります。商品名はNOPOPOです。名前の由来は、No Pollution Power(No=~ではない、Pollution=汚染、Power=力)です。特徴は、注水すると放電が始まります。未開封でしたら20年間の保存が可能なようです。きれいな水だけでなく、ジュースやコーヒ、唾液やし尿でも発電できます。

5) 番外編2 海水電池

海水が電解質となり発電します。日本救命器具株式会社が生存艇用の装備品として販売しています。

次に主要な二次電池の特徴を説明します。二次電池は充電することによって繰り返し使える電池です。歴史の章で説明した、プランテの鉛電池が始まりとされています。二次電池の放電と充電の原理は図8の通りです。放電の原理は一次電池で説明しました。負極で酸化、正極で還元が起きます。充電は放電と逆に外部から電源を印可することで、負極で還元、正極で酸化が起きます。充電と放電は可逆反応となります。

図8 二次電池の充電・放電の原理
図8 二次電池の充電・放電の原理

6) 鉛蓄電池

鉛蓄電池は主に自動車用として使用されています。負極にPb(鉛)、正極に酸化鉛(PbO2)、電解液に希硫酸が用いられています。正極、負極は平板状なので、短絡を防ぐために、セパレータが配置されています。鉛蓄電池の特徴であり避けなければならない事象はサルフェーションです。放電時にPbSO4が析出します。この物質は柔らかいので、充電・放電されれば電解液に溶解しますが、長時間放置すると、PbSO4が硬くなり、電流が流れにくくなります。サルフェーションを避けるために、時折エンジンをかけることが望まれます。

図9 鉛蓄電池の構造
図9 鉛蓄電池の構造

7) ニカド電池

正式な名称は、ニッケル・カドミウム蓄電池です。JISではニカド電池とされています。なお、ニッカド電池、カドニカ電池は三洋電機株式会社の商標です。1963年に三洋電機株式会社が量産化しました。負極にカドミウム、正極に水酸化ニッケル、電解液に水酸化カリウムが用いられます。水酸化カリウムはアルカリ性なのでアルカリ二次電池と言えます。特徴は大電流を流せることです。欠点として、メモリ効果があります。放電しきらない状態で充電を繰り返すと、容量が減っていきます。ガラケと言われた携帯電話機で経験しました。使用しているカドミウムは有害物質に分類されているので、回収対象となります。資源有効利用促進法により、小型の充電式電池には、スリーアローマークの表示が義務付けられています。一般社団法人JBRCが回収に関する事業を行っています。

図10 スリーアローマーク
図10 スリーアローマーク

8) ニッケル水素電池(Ni-MH電池)

ニカド電池よりも小型、高性能化の要求により誕生しました。特長は、正極にはニカド電池と同じ水酸化ニッケルが使われ、負極には水素の吸蔵や放出を行う材料を使うことです。性能面での特長は、ニカド電池に比べて、大容量であること、負極での材料が溶解・析出を起こさないこと、有害な成分を含まないこと、安価のレアメタルを用いていることが挙げられます。欠点としては、ニカド電池と同様にメモリ効果が発生することです。ノート型パソコンのバッテリやトヨタ プリウスの初代車種では高圧バッテリとして使われていました。市販されている小型電池としては「eneloop®」があります。

9) リチウムイオン電池

リチウムイオン電池を世界で初めて商品化したのは、ソニーのグループ会社です。命名も同社です。性能の特長である、小型軽量、大容量を出力することができることから、スマートフォン、パソコンなどの家庭電器製品に加えて、近年電動車で採用され、生活に欠かすことのできない電池となりました。

リチウムイオン電池は今なお技術進化の過程なので、選択される材料(正極、負極、電解質、セパレータなど)の組み合わせにより、化学・電気的反応が異なってきますが、基本的な原理は、放電時にはリチウムイオンが負極から正極へ移動し、充電時はリチウムイオンが正極から負極へ移動することです。リチウムはイオンのままですので、リチウムイオン電池と命名されたようです。2019年10月に吉野彰(共同受賞者 米国 グッドイナフ)がノーベル化学賞を受賞しましたが、その材料でのリチウムイオン電池の仕組みは図11となります。

図11 リチウムイオン電池の原理
図11 リチウムイオン電池の原理

10) 燃料電池

一般的に言われている燃料電池は水素を用いる方式です。水を電気分解すると水素と酸素が発生する実験を経験したことがあると思います。燃料電池はその反応と逆の方法で電気を取り出します。

  • 水素を発生させる化学反応:水 + 電気エネルギ → 水素 + 酸素
  • 電気を取り出す化学反応:水素 + 酸素 → 電気エネルギ + 水

この原理で言うと、電気エネルギと水しか発生しないのでクリーンなエネルギであることが理解できます。これまで説明してきた電池と同様に化学反応を行っていますが、水素を供給し続けることが必要ですので、「電池」というよりは「発電機」と言ってもいいかもしれません。

燃料電池で使われる電解質の違いでいくつかの方式が実用化されています。車載用途としては固体高分子型が最適と考えられているようです。基本的な構造は図12です。エネファーム(ene・farm)の名称(燃料電池実用化推進協議会が名称を統一)で呼ばれている給湯機器も燃料電池が使われています。

図12 固体高分子型燃料電池
図12 固体高分子型燃料電池

2 物理電池

物理電池には、太陽電池と原子力電池などがあります。

1) 太陽電池

現在の主流となっているシリコン太陽電池は1954年に米国のピアソンらによって開発されました。なお、基本原理の発見は100年近くさかのぼります。太陽電池は電気をためるわけではないので、今まで述べてきた化学電池とは原理が異なります。太陽電池には、材料や製造方法に色々ありますが、現在、最も多く使われているシリコン系の動作原理を説明します。太陽電池に光が当たると、光子のエネルギにより、半導体から電子と正孔が発生します。これを電気として取り出します。

図13 シリコン系太陽電池の発電原理
図13 シリコン系太陽電池の発電原理

太陽電池の市場へ日本企業は早くに参入しましたが、価格競争の結果、中国系のサプライヤが市場の大部分を占めています。

2) 原子力電池

いわゆる原子力発電と異なります。大別すると、熱変換方式と非熱変換方式があります。非熱変換方式は研究開発の段階です。熱変換方式の基本原理は、放射性物質が崩壊した時に発生する熱を利用し、熱変換素子で電気を生成します。熱変換原理として「ゼーベック効果」があります。エストニアのゼーベックによって発見されました。ゼーベック効果の身近な実例では熱電対による温度計測があります。原子力電池の用途として、宇宙探査機があります。米国の1950年代の衛星探査機で採用されています。土星より以遠を探査する衛星では太陽光によるエネルギが得にくいことから電源として採用されています。JAXAの探査機には、事故が発生した時の安全性を考慮して原子力電池を搭載していないようです。

3 その他の電池

これまで紹介した電池の分類で示していませんが、大型の蓄電設備用として実用化されている電池を紹介します。レドックスフロ電池やナトリウム硫黄電池があります。レドックスフロ電池は電極の活物質として金属ではなく液体を使っていることが特徴です。太陽光発電や風力発電の電力貯蔵用として採用されています。ナトリウム硫黄電池は名前の通り、電極としてナトリウムと硫黄が使われます。NAS電池と呼ばれることが多いですが、NASは日本ガイシ株式会社の登録商標です。レアメタルを使用しないので資源の懸念がありません。用途は自然エネルギの蓄電用です。国内外で200か所以上の納入実績があるようです。