ひずみ測定器の生産品目の拡大を目指す甲府共和電業が新工場を稼働開始
日本でのひずみ測定のパイオニアである共和電業は甲府共和電業での生産品目を拡大するため中央自動車道の甲府南インターチェンジ近くに工場を移転し2020年8月から稼働を開始した。
今回は共和電業の事業と甲府共和電業の新工場を紹介する。
共和電業は日本のひずみ測定のパイオニア
1949年に設立された共和電業の始まりはひずみ測定ではなく無線通信機用測定器を作る会社であったが、設立の翌年の1950年に運輸省運輸船舶試験所(現在の海洋技術安全研究所)から受注した「ひずみゲージおよびひずみ測定器」の開発に成功したことからひずみ測定ビジネスが始まり、その後大きく成長した。
【ミニ解説】ひずみゲージとは
橋やビルなどの建築物から手のひらに乗るような小さなプリント基板までの構造物の変形の状態をひずみと呼び、ひずみ量を検出するのがひずみゲージである。
ひずみゲージは1938年にカリフォルニア工科大学のエドワード・E・シモンズ(Edward E. Simmons)やマサチューセッツ工科大学のアーサー・ルージー(Arthur Ruge)によって発明された。その後アメリカの機関車メーカーであるボールドウィン社が特許権を取得し、二人の頭文字を取ったSR-4の名称で商品化した。このセンサは飛行機の翼の強度を測るために使われた。
共和電業の創業者の渡辺理氏は第二次大戦中の陸軍航空技術研究所に勤務していた時に墜落したアメリカの爆撃機B29の翼桁に貼られたひずみゲージを見たと伝えられている。
ひずみゲージの原理は抵抗線に力が加えられた時の伸びや縮みによる抵抗値の変化を利用したものである。
図5に示すようにひずみゲージの抵抗値の変化はブリッジ回路によって電気信号に変換され、信号はアンプに送られて5000~10000倍に増幅され電圧信号としてひずみが読み取られる。
ひずみ測定には時間によって変化がほとんどない静ひずみと変化が早く生じる動ひずみがある。ひずみゲージは同じであるが測定器は異なる。
ひずみ測定のさまざまな要求に応じられるのが共和電業の強み
ひずみゲージの原理は発明された当時と変わりはないが、測定条件に合わせた様々なひずみゲージやひずみ測定器を開発する必要がある。また、ひずみゲージを構造物に張り付ける方法などは経験の蓄積が必要となる。共和電業は長年にわたってひずみ測定を行ってきたため、さまざまな測定条件で使える多くのひずみゲージや測定器を保有するとともに、測定ノウハウをエンジニアリングや教育として提供できる能力を持つようになった。共和電業の強みはひずみ測定の多様な要求にさまざまな製品や手段で提供できる能力を持つことである。
構造物の信頼性を評価するためにひずみ測定を必要とする分野は広く、共和電業は製品やサービスを図8に示す分野に提供している。
共和電業のひずみゲージが使われているのは橋梁などの建設物、プラントなどに使われるタンク、自動車や鉄道車両などの大きなものから、小さなプリント基板までさまざまなところで使われている。図9には自動車の衝突試験で利用されたときの写真を示す。自動車の衝突試験では、ひずみゲージをはじめ数百に及ぶセンサが車体やダミー人形に取り付けられており、耐衝撃性を有する専用の測定器で測定データを集録している。
共和電業では画像による変位測定(サンプリングモアレカメラ)、FBG(Fiber Bragg Grating)センシング技術を使ったひずみ測定、配線ではなく無線を使ったひずみ測定など新しい測定手段を提案している。
現在、社会インフラの老朽化が社会問題となっているため、古くなった橋梁や道路などの健全性を診断する需要が拡大していく。ここではひずみ測定が必須となるため共和電業は今後の成長分野になると期待している。
ユーザーへの継続した技術情報の発信と新たなチャレンジ
共和電業の強みは創業以来長年に渡って蓄積したひずみ測定技術である。特に1958年から継続して発行している共和技報は1999年には500号となり、現在でも自社の製品や技術を多くの人に知ってもらう発行を継続している。また1977年からひずみ測定を行うユーザーに対して「ひずみ基礎講習会」を定期的に行っていることも共和電業の大きな強みとなっている。
最も新しい先進的な取り組みとして、NEDOの2019年度戦略的省エネルギー技術革新プログラムに採択された「多品種少量生産に適した半導体デバイス製造ファブの実現」への参画がある。共和電業はひずみゲージを自社で生産しているため、このプロジェクトに参加してミニマルファブを活用したひずみゲージおよび応用センサの少量多品種生産の実現を目指している。
【ミニ解説】ミニマルファブとは
2008年に産業技術総合研究所が「究極の多品種少量生産」を目指したコンセプトを提案した半導体生産システムで、0.5インチ小径ウェハを使い工程ごとに独立した装置を並べて生産システムの構築を行う。局所クリーン化技術によりクリーンルーム不要を実現している特長がある。
現在は半導体の試作システムを構築できる段階にありR&D分野を中心に導入が進んでいる。今後、少量多品種の生産システムを構築することが目標となっている。
NEDOはミニマルファブを使った生産システムのコアプロセス技術を確立することを目的に共和電業、浜松ホトニクス、ミニマルファブ推進機構、横河ソリューションサービス、誠南工業、デザインネットワークによるプロジェクト「多品種少量生産に適した半導体デバイス製造ファブの実現」に助成を行っている。
ひずみ測定器の生産を行う甲府共和電業
共和電業の生産拠点はひずみゲージやひずみゲージを応用したセンサを生産する山形共和電業(山形県東根市、1973年設立)とひずみ測定器やシステム製品を生産する甲府共和電業である。
甲府共和電業は1986年に設立され、協力会社が部品実装したプリント基板から製品の組み立てと検査を行う工程を社内に持っている。2016年からは共和電業本社で行っていた特注システムの生産が移管されつつある。
図12には甲府共和電業で生産されている測定器やシステムの事例を示す。
生産品目の拡大と生産効率の向上を目指す甲府共和電業の新工場
共和電業では2019年から2021年までの第6次中期経営計画に従って事業運営を行っている。生産については「コスト低減、品質と納期の安定によるお客様満足度向上」を目指している。
汎用製品から特注・システム製品まで多品種の製品の組み立てを担当する甲府共和電業ではセル生産方式による一個流しの生産や、工場スペースを有効利用するため日々の生産品目に合わせた生産場所の割り当てなど多くの改善を行ってきた。新工場ではより高い生産性と安定した品質を目指していく。
今までの甲府共和電業の工場と比較して、新工場は敷地面積で3.5倍、延べ床面積で1.9倍と大きく拡張を行った。
地域との共生を大切にする甲府共和電業
甲府共和電業の現場を直接指揮されている専務取締役小澤正夫様に同社の取り組みについて伺った。
今回の甲府共和電業の工場移転の目的の一つは本社で担当していた計測システムを甲府で組み立てを可能にすることである。このため大きなシステム製品を組み立てる1階の作業スペースを高くして作業をしやすくした。もう一つは将来を見据えたチャレンジに対応できるスペースを確保した。
甲府共和電業は地域に根差した企業として発展していくためにいくつかの取り組みを行っている。厚生労働省山梨労働局のホームページに掲載されているデータによると山梨県は全国と比較して女性の就労率が高く、結婚後も女性は離職せず継続して働く割合が高い傾向がある。甲府共和電業は女性の社員やパートの働きやすい環境を整備することに努めてきた。具体的には個人の事情に配慮してパートの就業時間に幅を持たせることや、特別休暇や産休制度を整備してきた。このため甲府共和電業の社員やパートの離職率は極めて低くなっている。
また、生産に携わる社員の教育にも力を入れており、自社の商品の技術勉強会と商品の使われ方やお客様の声を営業担当者から直接聞く機会を設けている。商品の技術や使われ方を知ることによって社員やパートのモチベーションは高まっている。
これからも行政などからの支援も得ながら、地域に根差した企業として発展していく決意である。
取材を終えて
ひずみ測定のパイオニアである共和電業の新しい取り組みに触れることができた。社会インフラなどの健全性を測定する需要は伸びていくと思われるので共和電業の活躍を期待していきたい。