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光スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第2回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「光ファイバ通信の概要」「分光測定器の基礎」「【コラム】レーザ光を使う際の注意点」

第2回:「光スペクトラムアナライザの構造」「光スペクトラムアナライザの基本仕様」「光スペクトラムアナライザを使うために知らなければならないこと」「光スペクトラムアナライザの設置の注意点」「【コラム】日本国内で販売されている光ファイバ通信市場向け光スペクトラムアナライザ、波長計」

第3回:「光スペクトラムアナライザの利用事例」「光スペクトラムアナライザの校正」「おわりに」「【インタビュー】横河計測の光スペクトラムアナライザの取組み」

光スペクトラムアナライザの構造

光スペクトラムアナライザは回折格子を使って分光を行う精密機械である。分光された光はフォトダイオードによって電流信号に変換されたのちにI-V変換回路によって電圧信号となり、A/D変換器を使ってデジタル情報にする。下図は高精度に光スペクトルを測ることができるモノクロメータを搭載した光スペクトラムアナライザのブロック図である。

図21. 光スペクトラムアナライザのブロック図(AQ6370D、横河計測)

図21. 光スペクトラムアナライザのブロック図(AQ6370D、横河計測)

光スペクトラムアナライザには波長の自己校正をするための光源を持つことができるようになっている。この校正用光源は広帯域なSLD(Super Luminescent Diode)光源とアセチレン吸収セルで構成されており、外乱の影響を受けにくい分子の吸収線が絶対波長として取得できることを利用している。内蔵されている校正用光源から得られ光を使って光スペクトラムアナライザの波長精度が維持されているかを確認できる。

図22. 1510〜1545nmにおけるアセチレンの透過率

図22. 1510〜1545nmにおけるアセチレンの透過率

出典:SRM 2517a - High Resolution Wavelength Calibration Reference for 1510 to 1540 nm Acetylene 12C2H2(NISTホームページ)

モノクロメータとポリクロメータ

モノクロメータは回折格子を回転することによって光センサ(一つのフォトダイオード)に入力される波長を選択できるようになっている。回折格子を回転させるモータの制御が測定波長性能に影響してくる。モノクロメータは機械的な精度や動作の再現性が要求され、高精度な光スペクトラムアナライザなど比較的高額な測定器に採用されている。

図23. モノクロメータの構造

図23. モノクロメータの構造

ポリクロメータは回折格子を固定して複数のセンサを持つリニアイメージセンサによって構成されている。可動部分がないためコンパクトな光スペクトラムアナライザを作ることができる。ただし複数のセンサを使うためセンサの特性のばらつきが生じる。また1つのセンサの大きさによって波長分解能が決まるため高分解能な測定には向かない。

図24. ポリクロメータの構造

図24. ポリクロメータの構造

ポリクロメータを使った光スペクトラムアナライザはコンパクトであるため装置に組み込む用途にも使われる。下図に示す分光装置は光ファイバ通信設備に組み込んで使われる。

図25. ポリクロメータを使ったWDMモニタ(WD100、横河電機)

図25. ポリクロメータを使ったWDMモニタ(WD100、横河電機)

出典:WDMモニタ WD100(横河技報、Vol.44 No.1、2000年)

光検出器の種類

モノクロメータを搭載した光スペクトラムアナライザの受光センサにはフォトダイオードが用いられている。フォトダイオードの種類によって取り扱える波長が異なっているので光スペクトラムアナライザの測定波長範囲に合わせて1つもしくは2つのフォトダイオードが使われている。

図26. 各種フォトダイオードの波長感度特性

図26. 各種フォトダイオードの波長感度特性

出典:大容量データを高速に長距離伝送するファイバによる光通信の基礎とスペクトル測定(トランジスタ技術(CQ出版)、2005年7月号)

水蒸気の影響を除くガスパージ

光スペクトラムアナライザによって測る波長帯域で正確な測定をする場合は空気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素による光の吸収の影響を排除する必要がある。光スペクトラムアナライザではモノクロメータ内部に水蒸気や二酸化炭素を含まない気体を外部から注入して満たすガスパージの仕組みを持っている製品がある。

図27. ガスパージによる水蒸気の影響の排除

図27. ガスパージによる水蒸気の影響の排除

ガスパージを行うための仕組みは外部に置いた純度の高い窒素ガスボンベから光スペクトラムアナライザに窒素ガスを注入する方法がある。この方法以外に下図に示すような水蒸気や二酸化炭素を連続的に取り除く装置が販売されているのでこれを使うことも可能である。

図28. ガスパージ装置の利用

図28. ガスパージ装置の利用

【ミニ解説】大気の窓

太陽から放射される光は大気中のさまざまな気体によって特定のスペクトルは吸収されたのちに地表に到達する。透過率の高い波長領域は「大気の窓」と呼ばれている。

図29. 大気中の気体による光の吸収

図29. 大気中の気体による光の吸収

大気の吸収によって、宇宙からのX線や紫外線、波長の長い遠赤外線は地表まで届きにくい。そのため、大気に吸収される波長の光や電磁波を扱う天文学の研究では大気の影響を避けるために高山や宇宙で観測を行う。

光スペクトラムアナライザの基本仕様

光スペクトラムアナライザの性能を示す基本的な仕様について解説する。

基本的な仕様項目

基本仕様項目は波長分解能、波長確度、スキャン速度、光学ダイナミックレンジ、感度、測定波長範囲になる。これらの仕様項目を理解することによって測定の目的に適した光スペクトラムアナライザを選択することができる。

図30. 光スペクトラムアナライザの基本仕様項目

図30. 光スペクトラムアナライザの基本仕様項目

波長分解能

隣接する波長のスペクトラム形状を正確に観測するためには高い波長分解能が要求される。市販されている光スペクトラムアナライザでは光ファイバ通信で使われる1550nmで5pmが最高性能である。

レーザダイオードのサイドモード抑圧比(SMSR)やWDM信号を測定をする場合は高い波長分解能が要求される。

下図に示す通り、波長分解能を上げて波長幅の広いスペクトルを持つ光を測定すると受光素子に入力される光エネルギーは小さくなるため表示されるピークパワーは変化する。また波長幅の狭いスペクトルを持つ光を測定すると受光素子に入力される光エネルギーは変化しないためピークパワーは変化しない。

図31. スペクトル形状による分解能とパワー表示の関係

図31. スペクトル形状による分解能とパワー表示の関係

波長確度

モノクロメータを用いた光スペクトラムアナライザでは波長確度は分光器の機械性能によって決まる。特に回折格子を回転させる構成要素である高分解能エンコーダとモータを組み合わせた精密サーボ機構が性能を決めることになる。波長の確度を維持するためには光スペクトラムアナライザ本体に内蔵されている校正用光源を使って自己校正をすることが望ましい。

図32. モノクロメータの回折格子を回転させるサーボ機構

図32. モノクロメータの回折格子を回転させるサーボ機構

測定速度

高速に測定することが要求されるレーザダイオードの生産ラインでの試験では測定速度の仕様が重視される。測定速度を速めるには分光器の受光素子以降の電子回路や制御ソフトの性能も重要な要素となる。

ダイナミックレンジ

高感度で高ダイナミックレンジが実現されると光スペクトル全体の形状が正確に把握できる。高ダイナミックレンジを実現するにはダブルモノクロ方式の分光器を採用することになる。同じ光を2回分光することによってダイナミックレンジを拡大することができる。実際の光スペクトラムアナライザでは1つの分光器内で光を往復させることによって高ダイナミックレンジを実現している。

図33. ダブルモノクロ方式の分光器の仕組み

図33. ダブルモノクロ方式の分光器の仕組み

出典:光スペクトラムアナライザの開発(ANDO技報、2001年)

サイドモード抑圧比(SMSR)の測定では波長分解能とともに高いダイナミックレンジも要求される。下図にはサイドモードの測定事例を示す。

図34. SMSR (サイドモード抑圧比)の評価で重視される分解能とダイナミックレンジ

図34. SMSR (サイドモード抑圧比)の評価で重視される分解能とダイナミックレンジ
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