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光スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第1回)

はじめに

現在では虹が七色に見えるのは空気中に浮遊する水滴に太陽光が当たり、光の波長によって屈折率異なることから生じることは知られているが、分光についての知識が得られるまでは虹がどうして見えるかは人々の関心事であった。

万有引力の法則を発見したイギリスの物理学者のアイザック・ニュートンは1666年にプリズムを使った実験によって白色の太陽光は虹に含まれている色の光が混じったものであることを発見して1672年に発表した。これが分光の研究の始まりと考えてよいので、長い歴史を持つ分野であることが判る。

図1. アイザック・ニュートンのプリズム分光実験

図1. アイザック・ニュートンのプリズム分光実験

出典:ニュートンのプリズム分光実験が1666年である根拠(光と色とホームページ)

光は電波と同じ電磁波の一種であるため、分光は光に含まる周波数成分を観測する無線通信分野で使われるスペクトラムアナライザと同じ機能となる。ただし扱う周波数が電波にくらべて高いため測定器の原理や内部構造は異なる。

図2. 光と電波の波長と周波数

図2. 光と電波の波長と周波数

今回は分光測定器の一つであり、光ファイバ通信分野の開発では必須の測定器となっている光スペクトラムアナライザについて解説する。記事執筆にあたり光スペクトラムアナライザの分野でさまざまな製品を長年に渡って開発してきた横河計測の協力を得た。

さまざまな分野で使われている分光測定器

分光技術の応用が歴史の中で登場するのは1860年にさかのぼる。ドイツの科学者であるロベルト・ブンゼンとグスタフ・キルヒホッフはプリズムを使った分光器を使って元素の炎色反応の研究を行いルビジウムとセシウムを発見した。この発見によって分光化学が進歩して、ほかの研究者によってタリウム(1861年)、インジウム(1863年)、ガリウム(1875年)、スカンジウム(1879年)、ゲルマニウム(1886年)などの元素が発見された。

図3. 高校の化学で学ぶ炎色反応

図3. 高校の化学で学ぶ炎色反応

現在では分光測定はさまざまな分野で使われている。用途によって分光する光の波長は異なっている。大きな市場規模を持つ分野としては材料の分析、塗装や印刷物の色彩の評価、照明光の評価、光ファイバ通信に使う部品や装置の評価である。利用には専門知識や周辺機器が必要な場合もあるため、用途ごとに参入している測定器メーカが異なっている。最近ではバイオロジーや環境測定の分野での利用が拡大している。

図4. 分光測定の応用分野

図4. 分光測定の応用分野

光ファイバ通信の概要

光スペクトラムアナライザを理解するためには主に利用される光ファイバ通信について理解する必要があるため概要を述べる。

光通信の始まり

古代より光を使えば早く情報が伝達できることは知られており、のろしを使って情報伝達が行われていた。その後、文字情報を送るための手旗信号が発明された。日本では1893年に赤と白の小旗を持って日本語の通信を行う手旗信号が考案された。いずれも人の目を使った通信のため天候によって到達距離は影響される。

1880年には、実用的な電話機を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルと助手のチャールズ・サムナー・テンターがフォトフォン(photophone)を開発し、音声が光を使って213m伝送された。これが電話通信での最初の実験である。しかし電波を使った無線通信が実用化されたため、光を使って空間を伝送する用途は家電製品の赤外線リモコンなど限られた用途でしか普及しなかった。

図5. グラハム・ベルのフォトフォン(photophone)の原理

図5. グラハム・ベルのフォトフォン(photophone)の原理

出典:石英系光ファイバ技術発展の系統化調査(河内 正夫、国立科学博物館 技術の系統化調査報告書、2018年)

光ファイバ通信の始まり

空間を使った光通信は安定に長距離を伝送することができない欠点があったが、現在では外部環境の影響を受けにくい特長を持つ光ファイバを用いた長距離の有線通信が普及している。

現在の光ファイバの構造は1958年にインド人のナリンダー・シン・カパニーによって発明され、内視鏡への利用がされた。日本では1963年に東京工業大学の学園祭で内視鏡用の光ファイバ束を使った音声の伝送実験が展示されたという記録が残っている。

図6. 1963年に東京工業大学で行われた光ファイバ通信の実験

図6. 1963年に東京工業大学で行われた光ファイバ通信の実験

出典:最初の光ファイバ通信の実験は東京工業大学の全学祭かー昭和38年5月ー(東京工大クロニクル1986年10月号)

光ファイバ通信のメリット

有線通信では電線を使って電気信号を送ることが長い間行われてきた。最近では下記の表に示すような理由により、公衆回線の伝送線路やデータセンター内の伝送線路は電線から光ファイバに置き換わってきている。

表1. 光ファイバ通信のメリット
低損失 平衡対ケーブル、同軸ケーブルのいずれと比べても低損失。伝送損失は0.2dB/km以下と小さい。
広帯域 同軸ケーブルに比べて高い周波数の信号を伝送できる。光ファイバで送る信号の周波数帯域は数百MHz~THzとなっている。
細径・軽量 同軸ケーブルに比べて細径・軽量である。ファイバ1心の太さは、被覆を施して直径0.25mmであり、同軸ケーブルに比べて細い。このため多数の心線を束ねて敷設できるので有利となる。
無誘導 光ファイバは金属でないので外部からのノイズによる電磁誘導などの妨害を受けることがないため信頼性の高い通信が可能となる。
省資源 通信用の光ファイバの原料は石英であるため、同軸ケーブルの材料である銅に比べ資源量が豊富である。

大容量の高速な情報伝送が必要なデジタル社会を実現するために光ファイバ通信の特長が生かされるため急速に普及が進んだ。

光ファイバ通信システムの構成

現在の光ファイバ通信システムの基本的な構造は送信部で電子信号を光信号に変換して光ファイバを経由して受信部で光信号から電気信号に戻す仕組みになっている。伝送距離が長い場合は光ファイバの途中に光ファイバ増幅器を挿入して光ファイバによる信号の減衰の影響をなくすようにしている。

双方向通信を行う必要がある場合は2本の光ファイバを使って上り信号と下り信号を伝送する仕組みとしている。

図7. 光ファイバ通信システムの基本構成

図7. 光ファイバ通信システムの基本構成

一般に通信システムで使われる光ファイバは石英ガラスで作られているため、遠距離通信を可能とするため石英ガラスによる吸収が少ない波長が通信に用いられる。

図8. 石英ガラスファイバの光損失特性

図8. 石英ガラスファイバの光損失特性

長距離伝送では損失の少ない第2の帯域(1.3µm)と第3の帯域(1.55µm)が使われている。現在使われている光ファイバでは光の強度が半分になる距離は第2の帯域では約10km、第3の帯域では約20kmとなっている。電気信号を送る同軸ケーブルでは約1㎞で信号の強度が半分になることと比較すると光ファイバ通信の優位性が判る。

光ファイバ通信が始まった1970年代半ばでは第1の帯域(0.85µm)のレーザダイオードが使われた。その後1980年代に第2の帯域のレーザダイオードが登場したため光損失の少ない伝送路が実現された。第1の帯域はデータセンター内での短距離の光配線に現在は使われている。

光ファイバ通信システムの発展を支えた技術

光ファイバ通信システムを構成する要素はレーザダイオード、光ファイバ、光ファイバ増幅器、フォトダイオードである。これらは1980年以降急速に進化して現在に至っている。特に半導体レーザと光ファイバの進化が著しい。基幹系光ファイバ通信システムでは大容量化を実現するために、変調技術を使ったデジタルコヒーレント光ファイバ通信が使われるようになってきている。

図9. 光ファイバ当たりの商用伝送容量の推移

図9. 光ファイバ当たりの商用伝送容量の推移

出典:わが国の光ファイバ通信研究(前編)(末松安晴、科研費NEWS 2015年度 VOL.3)

WDMの登場が光スペクトラムアナライザの需要を押し上げた

1990年代中ごろから普及が始まった1本の光ファイバに複数の異なる波長の光信号を伝送するWDM(波長分割多重、Wavelength Division Multiplexing)は光通信の伝送量を大幅に増やした。

図10. WDMの仕組み

図10. WDMの仕組み

複数の波長の光を1本の光ファイバを使って伝送するため、お互いの光信号が決められた波長で送られているか、異なる波長の各信号のレベルが正常に送られているかなどを確認する目的で光スペクトラムアナライザが使われたため需要は大幅に増えた。

光ファイバ通信の通信用光測定器

1980年代から光ファイバ通信が急速に普及したため、光ファイバ通信機器の開発から敷設や保守のための測定器が開発された。現在では下図に示す光測定器が使われている。

敷設や保守で使われる現場測定器は屋外でも使われるため、電池で駆動できるようになっている。

図11. 光ファイバ通信用の光測定器(写真は横河計測の製品)

図11. 光ファイバ通信用の光測定器(写真は横河計測の製品)

光通信システムの開発には光信号から変換された電気信号の評価が必要になるため、広帯域オシロスコープやビット誤り率試験器(BERT)などの電気測定器が使われる。

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