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LCRメータの基礎と概要 (第1回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「交流インピーダンス測定の目的」「交流インピーダンス測定の応用分野」「理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタの特性」「実際の抵抗、コンデンサ、インダクタの特性」「交流インピーダンスの測定の原理」「【インタビュー】コイルを使う技術者に向けて情報発信するサガミエレク」

第2回:「LCRメータの構造」「LCRメータで表示できるパラメータ」「試料との接続」「測定誤差の考え方」「【コラム】各社のLCRメータ、インピーダンスアナライザ」

第3回:「LCRメータを使っての測定例」「LCRメータ以外の測定器を使っての測定例」「LCRメータの校正」「おわりに」「【インタビュー】エヌエフ設計ブロックのインピーダンス測定器の取組み」

はじめに

日常生活ではあまり気付かないが交流インピーダンス測定はさまざまなところで行われている。例えば家庭にある体重計についている体組成計・体脂肪計も交流インピーダンスを測定した結果から筋肉や脂肪、骨などの体を構成する組織を推定している。最近ではスーパーマーケットなどに並ぶ魚の鮮度を調べる測定器があるが、これも交流インピーダンス測定をした結果から魚の鮮度を推定している。このほかにも1960年代に日本で開発された歯科用の根管長測定器や水質を管理するための電気伝導率計も交流インピーダンス測定を応用した機器であり広く使われている。

今回の解説記事では主に数MHzまでの低周波の交流インピーダンスを測るLCRメータについて解説する。LCRメータは信号源と測定対象に流れる電流と端子間の電圧の信号の大きさと位相差を求める電子回路によって構成されている。今回の解説にはLCRメータだけではなくロックインアンプや周波数特性分析器(FRA)などを使っての低周波インピーダンス測定事例を含めて解説を行う。

記事の執筆にはLCRメータやインピーダンスアナライザだけではなく、ロックインアンプや周波数特性分析器をラインアップに持ち、幅広いインピーダンス測定の知見を持つエヌエフ回路設計ブロックの協力を得た。

交流インピーダンス測定の目的

交流インピーダンス測定は測定対象の内部の状態を推定するために行われる。コンデンサやインダクタも等価回路で示された内部状態の各パラメータを交流インピーダンス測定から推定している。

生体や材料なども同様に等価回路を決めて、交流インピーダンス測定をすることによって内部の状態を推定する仕組みとなっている。例えば体組成計・体脂肪計では人体を下記のような等価回路とみなして複数の周波数を使って交流インピーダンスを測定する。

図1. 体組成を測定する場合の人体の等価回路

図1. 体組成を測定する場合の人体の等価回路

出典:体組成計の原理(タニタのホームページ)

交流インピーダンス測定では等価回路をどの程度複雑にするかは目的に応じて決める。

交流インピーダンス測定の応用分野

交流インピーダンス測定はコンデンサ、インダクタ、トランスなどの電子部品の測定に使われることが多いが、そのほかにも電池や腐食などの電気化学の分野、生体/医療/食品の分野、木材やコンクリートなどの材料分野でも使われている。

交流インピーダンス測定は非破壊で測定対象の内部状態を推定できる優位性がある。得られた推定値は他の測定方法で得られた結果との相関を知っておく必要がある。

また、交流インピーダンス測定を行うにはLCRメータなどの測定器だけではなく、さまざまな周辺機器を必要とする場合があるため、幅広い知識が要求されることもある。

理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタの特性

交流インピーダンス測定では理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタを組み合わせて等価回路を設定する。理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタがどのような特性を持っているかを述べる。

理想的な抵抗は直流でも交流でも電気の流れを抑制する特性は変化しない。一方、理想的なコンデンサやインダクタは周波数によって電気の流れを抑制する特性は異なる。コンデンサでは周波数が高くなるに従って電気の流れを抑制することは少なくなる。一方、インダクタは周波数が高くなるにしたがって電気の流れを抑制するようになる。

図2. 理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタに直流と交流を印加した時に動作

図2. 理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタに直流と交流を印加した時に動作

出典:群馬大学電子情報理工学科講義資料「電子回路I -高周波回路入門-」(松浦 裕之 2020年2月4日)

交流を理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタに印加したときの電圧と電流の位相は異なる。抵抗は電圧と電流の位相が一致する。このため加えられた交流によって抵抗内で電力は消費されるため抵抗は発熱する。

コンデンサの場合は印加された電流は電圧に対して位相が90°進む特性を持っている。インダクタの場合は逆に印加される電流は電圧に対して位相が90°遅れる特性を持っている。コンデンサやインダクタは電圧と電流の位相差が90°となるため、素子の中では電力は消費されないため発熱しない。

図3. 交流を印加した時の理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタの位相特性

図3. 交流を印加した時の理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタの位相特性

実際の抵抗、コンデンサ、インダクタの特性

実際の電子部品では配線インダクタンス、配線抵抗、浮遊容量、絶縁抵抗などの影響を受けるため理想的な抵抗、コンデンサ、インダクタとは異なる特性を示す。

実際の抵抗、コンデンサ、インダクタに交流を印加したときの特性は周波数によって異なってくる。市販されている電子部品の仕様書には周波数特性が掲載されているので電子機器を設計する場合は確認する必要がある。

図4. 実際の抵抗、コンデンサ、インダクタの特性

図4. 実際の抵抗、コンデンサ、インダクタの特性

電子部品のインピーダンス|Z|によって特性が異なり、電子部品の内部状態を示す等価回路として並列モデルを選択するか、直列モデルを選択するかが変わってくる。おおよその目安は下図のとおりである。

図5. 実際の電子部品の等価回路モデルの選択

図5. 実際の電子部品の等価回路モデルの選択

出典:Challenges and solutions for Impedance measurements(キーサイト・テクノロジー)

LCRメータでは等価回路モデルを初期設定するようになっている。製品によっては等価回路の設定を測定したインピーダンスから自動的に切り替える仕組みが付いているものがある。LCRメータの表示は測定されたインピーダンスから等価回路モデルのパラメータに換算して容量値やインダクタンス値を表示するようになっている。

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