技術情報・レポート

2018/09/28

デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「歴史の長いオシロスコープ」「オシロスコープをさまざまな視点で分けてみる」「オシロスコープの選定ポイント」「【コラム】デジタルオシロスコープの登場に貢献した高速A/D変換器」

第2回:「オシロスコープの基本仕様の理解」「オシロスコープのトリガ機能」「パラメータ測定および演算機能」「波形データの印字、保存、通信」「【コラム】国内で販売されているデジタルオシロスコープ」

第3回:「さまざまなプローブ」「デジタルオシロスコープの校正」「おわりに」「【インタビュー】テクトロニクス社のオシロスコープ事業への取り組み」(10月下旬頃掲載予定)

はじめに

オシロスコープは電子回路技術者にとって日々使う道具である。オシロスコープの原型は19世紀末に登場しており、その後のエレクトロニクス技術の進化によって高性能化や高機能化が進んだ。現在では単なる現象の変化を波形として目視で観測するための測定器から、取り込んだ波形データを加工してさまざまな測定値を得ることができる複合測定器となってきている。

現在、市場で多く使われているデジタルオシロスコープは1970年代初めに原型が作られて、高速A/D変換器の進歩によって広帯域化が進んでいった。最近ではGHz帯域の信号を12ビットの分解能で波形観測できるオシロスコープも各社から登場してきた。

また、デジタル半導体の高集積化や低価格化が進んだため、ベーシックなオシロスコープは個人が電子工作のために購入できる価格となった。

今回の記事ではオシロスコープとプローブについて歴史、製品の種類、機種選定のポイント、製品の内部構造、製品仕様、トリガ機能、演算機能、プローブ、校正についての基礎知識を紹介していく。

紙面の都合があるため、下記に示すすべての種類のオシロスコープについて解説ができないが、よく使われているベンチトップ型のオシロスコープを使うための必要な基礎知識を解説する。

図1. さまざまなオシロスコープ

図1. さまざまなオシロスコープ

今回の記事執筆には長年オシロスコープを開発して、グローバルにビジネスを展開しているテクトロニクス社の協力を得た。

歴史の長いオシロスコープ

オシロスコープは長い歴史を持つため、世代交代をしながら発展してきた。ここでは歴史を追って世代交代の流れを説明する。

アナログオシロスコープ

アナログオシロスコープはフェルディナント・ブラウンが陰極線管(ブラウン管)を発明して、1897年に電気現象の変化を陰極線管に表示したのが起源となっているが、使い易いオシロスコープではなかった。下記の図は当時の電気現象を観測する実験を行うための教育用の実験装置の図である。

図2. 1900年代初めに販売された教育用陰極線管

図2. 1900年代初めに販売された教育用陰極線管

1931年に米国のGeneral Radio社が本体とディスプレイが分離された強制同期式オシロスコープを535-Aを開発した。その後、同社は1934年に本体とディスプレイを一体にしたオシロスコープを発表した。1932年に英国のA.C. Cossor社からも強制同期式オシロスコープが発売された。日本でも1937年に逓信省電気試験所(現在の産業技術総合研究所の一部)の笠井完氏が「陰極線オシログラフ」という解説書を執筆している。日本では第二次世界大戦前に東京電気(現在の東芝)や松下無線(現在のパナソニック)などが強制同期式オシロスコープを販売していた。

強制同期式オシロスコープは入力周波数に掃引周波数を手動で合わせる方式のため、連続する安定した波形の観測しかできなかった。

図3. 強制同期式オシロスコープのブロック図

図3. 強制同期式オシロスコープのブロック図

第二次世界大戦後の1947年にテクトロニクス社がトリガ掃引式オシロスコープを製品化した。これにより掃引開始点をトリガ回路によって作り出すことができるようになった。現在使われているオシロスコープはトリガ回路を持っている。

図4. トリガ掃引式オシロスコープ

図4. トリガ掃引式オシロスコープ

アナログオシロスコープは広帯域化と小型化が進み、エレクトロニクスエンジニアにとって必須のツールとなった。1984年に発売されたテクトロニクス社の4チャネルのアナログオシロスコープ2465は完成度の高いオシロスコープであり、当時のベストセラー機であった。2465の上位機種にあたる2467はブラウン管に暗視カメラなどで使われているマイクロチャンネルプレートを組込んだオシロスコープであり、広帯域の波形を明るく見ることができた。このため高速波形の観測が必要なデジタル回路の評価などに役立った。

図5. アナログオシロスコープ 2465

図5. アナログオシロスコープ 2465(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

一般のアナログオシロスコープは繰り返し現象を観測するために使われたが、1960年代初頭に登場した残光時間の長いCRTを使ったストレージオシロスコープは単発現象を管面に一時的に保持できるものであった。電源の突入電流波形やデジタル信号のグリッジ波形の観測などに利用された。

アナログオシロスコープは2000年初頭まで販売されていたが、デジタルオシロスコープの価格が安くなったこと、デジタルオシロスコープの画面更新レートが高速化したなどアナログオシロスコープの優位性が失われて現在ではあまり利用されなくなってきた。

デジタルオシロスコープ

1970年代の初頭にテクトロニクス、レクロイ、ニコレの各社は現在のデジタルオシロスコープにつながる開発を行っていた。当時、米国テクトロニクス社の技術者であった広島県呉市出身のHiro Moriyasu氏が黎明期のデジタルオシロスコープ開発に貢献したのは日本ではあまり知られていない。

下記はテクトロニクス社が1973年に発売した黎明期のデジタルオシロスコープである。当時はDPO(Digital Processing Oscilloscope)と呼ばれていた。アナログオシロスコープにA/D変換器、波形メモリに磁気コアメモリ(小さなドーナツ状のフェライトコアを磁化させることにより情報を記憶させる現在は使われなくなったメモリ部品)を取り付け、データ処理は外部に接続されたコンピュータ(PDP-11)で行った。現在のマイクロプロセッサを搭載したデジタルオシロスコープと基本的な仕組みは変わらない。

図6. 1973年に発売された黎明期のデジタルオシロスコープ(テクトロニクス社)

図6. 1973年に発売された黎明期のデジタルオシロスコープ(テクトロニクス社)

出典:IEEE spectrum誌 1974年3月号に掲載されたテクトロニクス社の広告

高速A/D変換器が登場するのは1980年代中ごろ以降であるため、各社からデジタルオシロスコープが数多く登場して普及が拡大するのは1990年以降となる。

CCDを用いた初期のデジタルオシロスコープ

高速A/D変換器が登場する以前のデジタルオシロスコープで高速現象を観測するために1969年にベル研究所で発明されたCCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)が用いられた。現在ではCCDと光センサを一体にした画像センサがカメラなどで利用されるが、CCDはアナログ信号を高速に記録するアナログメモリとして利用できる。高速現象をCCDメモリに高速に保存して、その後A/D変換器で低速に読みだせば高速現象を観測できる。

図7. CCDメモリを用いたデジタルオシロスコープ

図7. CCDメモリを用いたデジタルオシロスコープ

テクトロニクス社では1982年に7000シリーズのプラグイン7D20として、CCDを使った最初の70MHz帯域、40MS/s、8ビット、波形メモリ1024ワードのデジタルオシロスコープを実現した。その後、1986年に発売されたテクトロニクス社の2430は2チャネル、150MHz帯域、100MS/s、8ビット、波形メモリ1024ワードのCCDメモリを使ったデジタルオシロスコープであった。1988年に発売された同じシリーズの最上位機種の2440は300MHz帯域、500MS/sであった。

図8. CCDメモリを使ったデジタルオシロスコープ 2430A

図8. CCDメモリを使ったデジタルオシロスコープ 2430A(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

高速A/D変換器を用いたオシロスコープの登場

1980年代になるとテレビ画像の高画質化の研究が進み、高速A/D変換器が活発に開発されるようになった。この研究成果から生まれた100MS/s以上の高速A/D変換器が市販されるようになり、デジタルオシロスコープに搭載されるようになった。初期の高速A/D変換器を搭載したデジタルオシロスコープは取り込んだ波形がCPUによって画像処理されたため、大容量の波形メモリを搭載すると画像が表示されるまでの時間が掛かるという欠点があった。

波形メモリの容量が小さなデジタルオシロスコープでは現在でも波形データ処理をすべてCPUで行うものがある。

図9. 初期の高速A/D変換器を搭載したデジタルオシロスコープ

図9. 初期の高速A/D変換器を搭載したデジタルオシロスコープ

1991年に発売されたテクトロニクス社のTDS340は2チャネル、100MHz帯域、500MS/s、8ビット、波形メモリ1kワード(オプションで50kワード)の高速A/D変換器を搭載したデジタルオシロスコープであった。

図10. 高速A/D変換器を搭載した初期のデジタルオシロスコープ TDS340

図10. 高速A/D変換器を搭載した初期のデジタルオシロスコープ TDS340(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

高速デジタル画像処理機能の搭載が進む

デジタルオシロスコープはA/D変換器によって取り込んだ大量の波形データを処理して画像データに変換するためにデッドタイムが必要となり、波形の取りこぼしが生じて波形更新レートが速いアナログオシロスコープとは表示が異なって見えることがある。

波形の取りこぼしがあると発生頻度の少ない異常波形を捕らえることが難しくなり、回路評価を効率的に行えない課題があった。

図11. 波形更新レートの早いオシロスコープの効果

図11. 波形更新レートの早いオシロスコープの効果

波形更新レートを早くするためには高速に波形データを処理できる画像処理DSP(digital signal processor)を搭載して、効率的なアルゴリズムで波形データを表示できるようにすることが必要である。

最近の多くのオシロスコープには波形データ処理を高速に行うための画像処理DSP回路を搭載している。

図12. 最近の高性能デジタルオシロスコープのブロック図

図12. 最近の高性能デジタルオシロスコープのブロック図

画像処理DSPは波形更新レートを早くするだけではなく、輝度階調を付けることによってアナログオシロスコープのような表示ができるようになった。下記にはビデオ波形をアナログオシロスコープで観測した場合(左)、初期のデジタルオシロスコープで観測した場合(中)、最近の高性能デジタルオシロスコープで観測した場合(右)を示す。

図13. オシロスコープの違いによるビデオ信号の見え方

図13. オシロスコープの違いによるビデオ信号の見え方

1999年にテクトロニクス社は画像処理DSPを搭載したデジタルオシロスコープTDS3000シリーズを発売した。この製品の登場によってアナログオシロスコープとデジタルオシロスコープの画面の見え方の差はほぼなくなった。

図14. 画像処理DSPを搭載したデジタルオシロスコープ TDS3000

図14. 高速DSPを搭載したデジタルオシロスコープTDS3000(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

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