技術情報・レポート

2019/04/25

デジタルマルチメータの基礎と概要 Part2 (第1回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「さまざまな電圧測定器」「デジタルマルチメータの形態」「デジタルマルチメータ選定の視点」「【コラム】電子測定器の進化をリードしているキーサイト・テクノロジー」

第2回:「デジタルマルチメータの内部構造」「デジタルマルチメータでの主な測定」「測定結果の記録/保存」「【コラム】各社のデジタルマルチメータとその他の電圧電流測定器」

第3回:「最近のベンチトップ型デジタルマルチメータ」「最近のハンドヘルド型デジタルマルチメータ」「デジタルマルチメータの校正」「おわりに」「【インタビュー】キーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータ事業への取り組み」(5月下旬旬頃公開予定)

はじめに

デジタルマルチメータは電気・電子計測では最も幅広く使われている測定器である。測定器のデジタル化の歴史の中でも初期に登場したもので、1960年代から現在に至るまでさまざまな製品が各社で開発された。半導体の進歩によってデジタルマルチメータの価格は低下して、現在では6.5桁のベンチトップ型の製品でも安価に入手できるようになった。

デジタルマルチメータは直流電圧を高精度に測定できる高分解能A/D変換器に直流電流、交流電圧/電流、抵抗などを測定できる回路が付け加えられたものである。直流電圧のみを測定する製品はデジタルボルトメータといって区別している。

今回の記事ではデジタルマルチメータが登場する以前の電圧測定の歴史から、製品の選定や利用を行うための基礎知識、最新動向などを解説する。

今回の記事執筆には長年デジタルマルチメータを開発して、さまざまなタイプの製品をグローバルに販売しているキーサイト・テクノロジーの協力を得た。なお、キーサイト・テクノロジーは1939年に創業したヒューレット・パッカードをルーツとし、アジレント・テクノロジーを経て、現在のキーサイト・テクノロジーとなっている。

さまざまな電圧測定器

直流や交流の電圧を測定する要求は古くあり、現在までにさまざまな測定器が登場した。今回の記事ではデジタルマルチメータについて詳しく解説するが、まず全体像を示す。

図1. さまざまな直流電圧測定器

図1. さまざまな直流電圧測定器

指示計器

電圧を測定する仕組みは19世紀の終わりにエドワード・ウエストンが指示計器を発明したことから始まり、指示計器は現在まで使われている。最近ではデジタル化が進み指示計器の需要は減っているが、直感的な針の動きや外部電源を必要としないなどの特長が生きる分野では今でも使われている。

1960年代までは高精度な電圧測定器として、下記のような大型の指示計器が使われていた。高精度な測定では指針が示す位置を目盛板から読み取るための熟練した技能が必要であった。

図2. 標準用直流電圧計MLS形

画像の説明文

提供:横河電機

電圧/電流/抵抗が測定できる回路計(アナログテスター)が登場して、開発から電気工事の現場まで幅広く使われるようになった。変動する信号の動きを指針で見ると現象を把握しやすい場合もあるので、回路計は現在でも使われている。

図3. 3201 回路計

画像の説明文

提供:横河計測

電位差計(ポテンショメータ)

高精度なデジタルマルチメータが登場するまでは、電圧を高精度に測定するには電位差計が主に用いられていた。例えば精密な電圧測定が必要な熱電対の校正に電位差計が使われていた。電位差計が登場したのは古く、1841年にポッゲンドルフ(Johann Christian Poggendorff)が電位差計の原理を提案して、19世紀後半には電位差計が製品として作られるようになった。

電位差計は基準となる電圧源と抵抗器によって構成されている。古くから安定した直流電圧源はウエストン型標準電池(20℃で1.01859Vの起電力)があり、特性が安定したマンガニン線を使った抵抗器も作られていた。電位差計は下記のような原理によって構成され、基準となる電圧源と未知の電圧の比率から、未知の電圧値を得る仕組みである。

図4. 電位差計の原理図

画像の説明文

電位差計の基本は直流電圧を測定するものであるが、交流電圧を直流電圧に変換する回路を加えれば交流と直流の電圧を高精度に測定できる製品を作ることができる。

図5. 精密交流直流電位差計/直流標準電圧発生器 741(ヒューレット・パッカード)

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

電位差計の操作は検流計の指針を見ながら抵抗値を切り替える作業を手動で行うものであるが、この操作を自動で行える製品を1952年にアンドリュー ケイ(Andrew Kay)が発明した。この製品は電子回路のA/D変換器を持たないが、機械式のリレー回路によって電圧値を求めて数字表示することができた。その後、この原理と同じものは日本でも横河電機などが製品化した。

図6. 数字式電圧計(VD-11形)

画像の説明文

提供:横河電機

電位計の機能はすべてデジタルマルチメータでできるようになったため、現在ではほとんど使われなくなっている。

電子電圧計

高い入力インピーダンスで数MHz帯域までの交流電圧を測定するために作られた測定器である。当初は真空管を使った電圧計であったため、真空管電圧計(valve voltmeter、通称はバルボル)と呼ばれていたが、電子回路がトランジスタ回路に置き換わってからは電子電圧計と呼ばれるようになった。

電子電圧計はラジオや音響機器の調整・検査に多く使われた歴史がある。現在でも構造がシンプルであり、測定の目的にあった特殊なフィルターを組込むことができるなどの特長があるため、音響機器の検査や鉄道信号の点検などに現在でも使われている。

この測定器の構造は下記の通りである。

図7. 電子電圧計 410C(ヒューレット・パッカード)

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

デジタルマルチメータ

電子回路のA/D変換器を搭載したデジタルマルチメータは1950年代の終わりに登場した。未知の電圧を測定するために基準電圧源、アナログ積分回路、カウンタが用いられた。測定の高分解能化や高速化を実現するために積分回路は進化して現在に至っている。また、現在では新しい回路方式の高分解能A/D変換器が登場して、多くの製品に使われている。

図8. ヒューレット・パッカードの最初の3桁デジタル電圧計 405AR

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

初期の製品は直流電圧のみの測定であったが、測定の目的によって交換できるプラグイン方式のデジタルマルチメータが登場した。下記には1963年に登場した3440Aの事例を示す。

図9. プラグイン方式のデジタルマルチメータ 3440A(ヒューレット・パッカード)

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

日本国内でもプラグイン方式のデジタルマルチメータが作られるようになり、プラグインの種類を競っていた。

積分型A/D変換器の高性能化は1980年代末まで続き、標準器クラスのデジタルマルチメータが登場した。代表的な製品は1989年に発売された8.5桁の3458Aである。この製品は現在でもキーサイトテクノロジーブランドで販売されている。

図10. 8.5桁デジタルマルチメータ 3458A

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

デジタルパネルメータ

装置に組込まれて使われていた指示計器(メータ)の代わりに使われているのがパネルメータである。パネルメータは入力値をスケーリングして表示することができるため、用途の応じた単位で表示ができる。デジタルパネルメータは入力値を表示するだけではなく、測定結果をアナログ信号や通信によって出力できる製品がある。

図11. デジタルパネルメータ453A

画像の説明文

提供:鶴賀電機