技術情報・レポート

2019/04/25

デジタルマルチメータの基礎と概要 Part2 (第1回)

デジタルマルチメータの形態

デジタルマルチメータは幅広い用途で使われるため、さまざまな形態の製品が存在する。

ベンチトップ型

最も古くからある形態で設計や生産に使われることが多い。ベンチトップ型の製品はパネル面積が大きく取れるため、高機能に対応するスイッチや画面を実装できる。最近のデジタルマルチメータではグラフィック表示ができる製品や2つの測定結果を同時に表示できる製品がある。

図12. 多くの情報を表示できるベンチトップ型のデジタルマルチメータ

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

ベンチトップ型のデジタルマルチメータはラックに組込んで使われる場合があるため、背面に入力端子を持つ製品がある。

図13. 背面に入力端子を持つベンチトップ型デジタルマルチメータ

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現在市販されているほとんどのベンチトップ型デジタルマルチメータは通信機能を持っている。どのような規格(USB、LAN、GP-IB)の通信機能を持つかは製品によって異なる。

ハンドヘルド型

ハンドヘルド型は1970年代後半に登場した電池駆動の主に屋外の電気工事で使うためのマルチメータである。現場での使い易さ、頑強性、耐環境性などが要求される。ハンドヘルド型は小型であるため測定項目の設定をすれば画面に測定結果が表示される仕組みになっている。ハンドヘルド型の基本性能はA/D変換器の最大カウント数で示される。一般的な用途には6千カウントの製品がよく使われている。高分解能が要求される用途には3万カウント以上の製品が使われる。

図14. 6万カウントのハンドヘルド型デジタルマルチメータU1282(キーサイト・テクノロジー)

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ハンドヘルド型は電池で駆動するため、機種選定では用途に応じた電池寿命があるかを確認する必要がある。

ハンドヘルド型は用途に応じた製品が作られるため、多くの機種が存在する。このため利用者は用途に合った最適な製品を選ぶ必要がある。

USBモジュラー型

本体には操作パネルがなく、すべての操作をUSB通信経由で行うデジタルマルチメータである。操作スイッチや表示器がないためコンパクトな構造となっているのが特長である。用途が決まった生産ラインでの検査や教育現場での実習での利用が向いている。

図15. 5.5桁USBモジュラー型デジタルマルチメータU2741A(キーサイト・テクノロジー)

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PXI型

複数の測定モジュールを1つのケースに実装できるPXIシステム用に作られたデジタルマルチメータである。測定モジュールの設定や測定値の読み出しはPXIバス経由で行われる。特定用途向けの測定システムをコンパクト作るときに使われる。高精度な測定を行う際には実装する他の測定器からの影響を受けないよう配慮する必要がある。

図16. 6.5桁PXIデジタルマルチメータM9183A(キーサイト・テクノロジー)

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デジタルマルチメータ選定の視点

デジタルマルチメータは主に直流電圧、交流電圧、直流電流、交流電流、抵抗の測定に使われる。目的にあったデジタルマルチメータを選ぶにはいくつかの視点で製品仕様などを確認する必要がある。

安全(耐電圧)

安全のためデジタルマルチメータに印加できる上限電圧が規定されている。接地から絶縁された入力端子と接地間の最大電圧はIEC規格が定めるカテゴリーが本体に表示されている。ハンドヘルド型のデジタルマルチメータ以外の製品ではカテゴリー表示がないものがある。

図17. IEC 61010規格で定められた各測定カテゴリーの過渡電圧の振幅

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測定カテゴリーとは

国際規格(IEC61010)の安全規格やJISC 1010-1に規定されている定義で、主電源回路に対しては「測定カテゴリーⅡ、Ⅲ、Ⅳ」が規定されており、主電源に直接接続されないものを「測定カテゴリーⅠ」としている。測定器を使用する環境に応じた安全レベルを満たすようにしないと事故が生じる危険がある。

図18. IEC61010で規定された安全レベル

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基本性能

デジタルマルチメータは直流電圧測定が基本となるので、まず直流電圧に関わる下記の仕様から測定要求を満たすかを確認する必要がある。

・測定レンジ
・測定確度
確度仕様には校正後の時間が規定されている場合がある。通常は1年確度で評価する。
・温度係数
確度を規定している温度範囲以外で使用する際は温度係数の分を加算したものが確度となる。
・入力抵抗
インピーダンスが高い起電力を測定する場合は誤差の要因となる。
・入力バイアス電流
通常数十pA程度の電流ではあるが、測定対象に流れて誤差の要因となる。
・測定時のノイズ除去比
外部からのコモンモードノイズの影響に対する影響を示す。
・測定速度
変化する起電力を測定するときに注目する。

下記にはキーサイト・テクノロジーのベンチトップ型デジタルマルチメータの直流電圧測定仕様の比較を示す。

表1. キーサイト・テクノロジーのベンチトップ型デジタルマルチメータの直流電圧仕様比較
高性能モデル 汎用モデル(性能重視) 汎用モデル(価格重視) 低価格モデル
キーサイト社の型名 3458A 34470A 34465A 34461A 34460A 34450A U3606B
表示分解能 8.5桁 7.5桁 6.5桁 5.5桁
A/D変換器 マルチスロープ積分型A/D変換器 シグマデルタA/D変換器
最高サンプリング・レート 100K回/秒 5K回/秒 1000回/秒 300回/秒 190回/秒 70回/秒
DC10Vレンジの
1年間のDCV確度(%)
0.0005% of rdg
+0.00001% of rng
0.0016% of rdg
+0.0002% of rng
0.003% of rdg
+ 0.0004% of rng
0.0035% of rdg
+0.0005% of rng
0.0075% of rdg
+0.0005% of rng
0.015% of rdg
+0.005% of rng
0.025% of rdg
+0.005% of rng
DC10Vレンジの
1年間のDCV直線性(%)
0.000005% rgf
+0.000005% of rng
0.00005% of rdg
+0.0001% of rng
0.0001% of rdg
+0.0001% of rng
0.0002% of rdg
+0.0001% of rng
仕様なし
DC10Vレンジの入力抵抗 >10 GΩ 10 MΩまたは>10 GΩを選択可能 10 MΩ
DC電圧測定時の
入力バイアス電流
<20 Pa
(25 ℃)
<30 pA
(25 ℃)
仕様なし

交流電圧では下記の仕様を確認する必要がある。

・交流-直流変換方式
デジタルマルチメータには実効値変換方式と平均値変換方式のいずれかが採用されている。
平均値変換方式は安価に作れるが、波形による誤差が生じる。
・周波数帯域による確度
測定可能な交流の周波数範囲ごとの確度が規定されている。
デジタルマルチメータによって測定できる周波数範囲が異なるので注意が必要である。

表2. キーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータの交流帯域

キーサイト・テクノロジーのベンチトップ型デジタルマルチメータの交流帯域
高性能モデル 汎用モデル(性能重視) 汎用モデル(価格重視) 低価格モデル
キーサイト社の型名 3458A 34470A 34465A 34461A 34460A 34450A U3606B
交流電圧 1Hz~10MHz 3Hz~300kHz 20Hz~100kHz
交流電流 10Hz~100kHz 3Hz~10kHz 20Hz~10kHz
キーサイト・テクノロジーのハンドヘルド型デジタルマルチメータの交流帯域
表示カウント数 6,000 10,000 50,000 30,000 60,000
キーサイト社の型名 U1230
シリーズ
U1240C
シリーズ
U1251B U1252B
U1253B
U1271A U1272A
U1273A
U1273AX
U1281A U1282A
交流電圧 45Hz~1kHz 40Hz~2kHz 30Hz~30kHz 20Hz~100kHz 45Hz~20kHz 45Hz~100kHz 20Hz~30kHz 20Hz~100kHz
交流電流 45Hz~500Hz 40Hz~1kHz 30Hz~20kHz 20Hz~100kHz 45Hz~2kHz 45Hz~2kHz 20Hz~30kHz 20Hz~100kHz

抵抗測定では下記の仕様を確認する必要がある。

・低抵抗を測定する場合は4線抵抗測定ができるデジタルマルチメータを利用する。
2線抵抗測定しかできないハンドヘルド型ではリードの抵抗を除くNull機能を使う。
・抵抗測定値時に流す電流値は仕様に示されている。
抵抗の両端に発生する電圧が悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要である。
表3. キーサイト・テクノロジーのベンチトップ型デジタルマルチメータ抵抗測定電流
高性能モデル 汎用モデル(性能重視) 汎用モデル(価格重視) 低価格モデル
キーサイト社型名 3458A 34470A 34465A 34461A 34460A 34450A U3606B
測定方式 4線抵抗測定 2線抵抗測定
抵抗レンジ 10Ω 10mA
100Ω 1mA 1mA 1mA 0.83mA
1kΩ 1mA 1mA 500μA 0.83mA
10kΩ 100μA 100μA 100μA 100μA
100kΩ 50μA 10μA 10μA 10μA
1MΩ 5μA 5μA 1μA 900nA
10MΩ 500nA 500nA 100nA 205nA
100MΩ 500nA 500nA 100nA 205nA
1GΩ 500nA

表示/解析機能

デジタルマルチメータは1つの測定結果を数字で表示する機能を持つことが基本であるが、最近のデジタルマルチメータは交流電圧と周波数を同時に表示する機能や測定結果を測定値に変化をグラフィックで見せるバー表示などがある。

図19. 複数の情報を表示するパネル画面

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提供:キーサイト・テクノロジー

多機能なデジタルマルチメータでは測定結果の平均値、分散、最大値、最小値といった統計処理を行うことができる。また測定結果を保存するメモリを持ったモデルでは測定トレンドやヒストグラムを表示することができるものがある。

テストリード、プローブ

デジタルマルチメータで測定する対象はさまざまであるため、下図に示すように多くのテストリードやプローブが用意されている。

図20. さまざまなテストリードやプローブ

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高電圧を測定する場合はプローブの耐電圧を確認する必要がある。暗い分電盤での作業などに適したプローブに取り付ける照明装置や本体、テストリード、アクセサリをまとめられるキャリングケースなどのアクセサリを用意しているメーカもある。

測定器メーカによって用意されているテストリード・プローブやアクセサリは異なるので、必要なものが揃っているかの確認は必要となる。

通信制御コマンド

デジタルマルチメータが登場した初期のころは測定結果を外部のプリンタに出力して印字する程度の機能があればよかった。その後、1960年代後半にヒューレット・パッカード社によって考案されたGP-IBの普及によってコンピュータから測定器を制御することが容易になった。GP-IBが登場したころは製品ごとに制御コマンドは異なっていたが、1987年に基本的な文法と共通コマンドがIEEE-488.2規格として定められた。ヒューレット・パッカードのTMSL(Test and Measurement System Language)とテクトロニクスのADIF(Analog Data Interchange Format)をもとに、1990年にSCPIコンソーシアムによって共通の測定器制御コマンドが定められたため、機種を変更しても制御プログラムの修正は大幅に少なくなった。但し、機種固有の制御コマンドは残るため、計測システムなどで機種を変更する際には制御コマンドの互換性を確認する必要がある。

デジタルマルチメータによっては複数の製品と互換性がある制御コマンドを持つものがある。例えばキーサイト・テクノロジーの34401Aの後継機であるTrueVoltシリーズのデジタルマルチメータは34401Aの制御コマンドで動作するようになっている。

使用環境

一般的な室内での測定ではあまり使用環境を気にする必要はないが、高精度な電圧測定を行う校正作業では温度管理された部屋が必要となる。

また、ハンドヘルド型のデジタルマルチメータは屋外で利用されるため、厳しい使用環境に耐えることが求められる。特に落下など衝撃が加わることがあるので通常の測定器より頑強なつくりになっている。耐環境性を要求されるところで利用されるデジタルマルチメータは幅広い温度範囲での動作に加え、IEC529規格に定められたIP-67に適合した防水機能(水面下15㎝~1m、30分間で水中に没しても水が浸入しない)と防塵機能(粉塵の侵入が完全に防御される)を持ち、1~3mからの落下に耐える設計になっている。

大きなインバータなどノイズ源がある環境で利用する場合は、同相ノイズ除去比(CMRR)が高いことが必要となる。

表4. キーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータのCMRR

キーサイトのベンチトップド型デジタルマルチメータのCMRR
高性能モデル 汎用モデル(性能重視) 汎用モデル(価格重視) 低価格モデル
キーサイト社の型名 3458A 34470A 34465A 34461A 34460A 34450A U3606B
CMRR 140dB 140dB 140dB
キーサイトのベハンドヘルド型デジタルマルチメータのCMRR
表示カウント数 6,000 10,000 50,000 30,000 60,000
キーサイト社の型名 U1230 U1240C U1240B U1251B U1253B U1270 U1280
シリーズ シリーズ シリーズ U1252B シリーズ シリーズ
CMRR 100 dB 120 dB 90 dB 90 dB 100 dB 120 dB 120 dB

電池駆動時間

ハンドヘルド型デジタルマルチメータは電池で動作する設計になっている。多くは入手しやすい単三型(AA)、単四型(AAA)の電池であるが、市販されている電池の種類にはマンガン電池、アルカリ電池、リチウム一次電池および充電が可能なニッケル水素電池がある。どの電池が使えるかは製品仕様に示されている。なおパナソニックのマンガン電池やアルカリ電池の仕様では5℃~45℃が使用温度範囲となっているため、寒冷地の屋外などで使用する場合は使用温度範囲が-40℃~60℃となっているリチウム一次電池を利用することが望ましい。マンガン電池やアルカリ電池は低温では電池容量が少なくなるので注意が必要である。

表5. 日本国内での最高気温、最低気温の記録
1位 2位 3位 4位 5位
最高気温 41.1℃
埼玉県
熊谷市
(2018年7月23日)
41.0℃
岐阜県
美濃市
(2018年8月8日)
41.0℃
岐阜県
金山町
(2018年8月6日)
41.0℃
高知県
四万十市
(2013年8月12日)
40.9℃
岐阜県
多治見市
(2007年8月16日)
最低気温 -41.0℃
北海道
旭川市
(1902年1月25日)
-38.2℃
北海道
帯広市
(1902年1月26日)
-38.1℃
北海道
旭川市江丹別
(1978年2月17日)
-38.0℃
静岡県
富士山頂
(1981年2月27日)
-37.9℃
北海道
枝幸町歌登
(1978年2月17日)

充電可能なニッケル水素電池は公称電圧がマンガン電池やアルカリ電池より低いため、利用できるかの事前確認が必要となる。

ハンドヘルド型デジタルマルチメータの多くは省電力とするために液晶ディスプレイを搭載しているが、表示の見易さを特長としたモデルは消費電力の大きな自発光型の表示器を搭載しているため、電池駆動時間は短くなっている。長い電池駆動時間を要求する場合は仕様の確認が必要となる。

利用支援

デジタルマルチメータは測定器の中では使い易いものではあるが、正確な測定を行う場合や高度な機能を使う場合はメーカの支援が必要となることがある。また、企業や研究機関などで保有するデジタルマルチメータの台数は多く、長期に渡って利用するため、校正や修理が発生する頻度は多くなる。

このためメーカの利用支援が期待する水準であることを確認することが望ましい。