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デジタルマルチメータの基礎と概要 (第1回) 「DMMの歴史と変遷」

エンジニアにとって、いちばん身近でポピュラーな測定器のひとつは、DMM※1やマルチメータ、テスタなどと呼ばれているデジタルマルチメータでしょう。実験ベンチには必ず1台は在って、電圧や抵抗のちょっとしたチェックに使われます。受配電設備の現場でも、なくてはならない測定器のひとつです。この記事では、マルチメータが歩んできた歴史、動作原理、測定機能と確度仕様、使用上の注意、安全規格などについて、なるべく平易に4回にわたって解説していきます。

※1 DMM:Digital Multi Meterの略称で、読みはディーエムエム

デジタルマルチメータの基礎と概要(第2回) DMMの原理、AD変換方式、ノイズの影響
デジタルマルチメータの基礎と概要(第3回) DMM測定機能と確度仕様
デジタルマルチメータの基礎と概要(第4回) DMM使用上の注意と安全規格、精度維持管理


DMMの歴史

アナログメータの電圧計がデジタル化され、世に初めて出たのは1960年前後と目されます。Webで調べると、日本では、江藤電気が数字式電圧計(デジタルボルトメータ)の出荷を1958年に開始をしています。また、タケダ理研工業株式会社(汎用測定器は、アドバンテストを経て、現エーディーシーが継承)は、1963年に一台で直流電圧、直流電流、抵抗値、交流電圧および周波数を測定できる日本で初めてのデジタル電圧計を製品化、「デジタルマルチメータ」として発売しています※2

※2 江藤電気、およびアドバンテストのホームページ情報(各社の歩み)による

DMMにはハンドヘルドとベンチトップの2つのタイプがあります。当時のデジタル電圧計は、3.5桁のDMMといえども、ディスクリート部品の回路構成のため、大振りでベンチトップタイプのDMMでした。1967年発売のタケダ理研TR-6334を例にとると、表示は、今ではあまり見ることのないニキシー管※3で、1桁が1枚PCBの10進スケーラボードでできていて、桁数分のボードが並べられていました。

※3 ニキシー管:数字あるいは文字・記号の情報を表示する一種の冷陰極放電管(冷陰極管)‐ウィキペディアの解説より引用

今では、3.5桁のDMMは、ハンドヘルドというよりも手のひらにのるパームトップタイプの小型のDMMとなり、4.5桁も含め、高性能・高機能のものが、各社から多数発売されています。

電圧・電流・抵抗が主な測定項目の基本的な測定器ですが、年々、性能・機能も向上し、内部回路の集積度も上がり、ワンチップ化されたASICなどの採用で小型化が進みました。現場測定では、世界をリードしているフルーク社のイエローのボディを良く見掛けます。フルーク社によると、同社がはじめてデジタルマルチメータをハンドヘルドタイプにしたのは1977年発売のmodel 8020Aからで、40年も前のことです。日本のメーカでは、日置電機、横河メータ&インスツルメンツなど多数のメーカから、現在、多くの機種が発売されています。写真1に例を示します。表1は仕様例。

写真1. 代表的なハンドヘルドDMM

Fluke80 シリーズⅤ

>Fluke80 シリーズⅤ

DT4254

DT4254

732-03

732-03


出典: 左から順に、フルーク、日置電機、横河メータ&インスツルメンツ


表1. ハンドヘルドDMMの仕様例 732-03

表1. ハンドヘルドDMMの仕様例 723-03

出典: 横河メータ&インスツルメンツ


ベンチトップタイプで、最高DC電圧分解能8.5桁をもつDMMにキーサイト・テクノロジーの3458Aがあります。DC電圧確度は8ppm/年で、高性能DMMの標準として世界中で認められ、研究開発、製造、校正ラボで使用されています。

写真2. 高性能ベンチトップDMMの例 3458A

写真2. 高性能ベンチトップDMMの例 3458A

出典: キーサイト・テクノロジー


参考ですが、DMMの桁数について触れます。前述したように、DMMはハンドヘルドタイプの3.5桁からベンチトップの8.5桁のものまで多種多彩です。最大の数値表示が、1999のものも4000のものも、3.5桁や3-1/2などの呼び方をしますが、正確を期す(底数10の対数で解く)と、1999表示は3.3桁、4000表示は3.6桁、6000表示は3.8桁、9999表示でフル4桁ということになります。しかし、この表現は、一般的にはあまり使われていないようです。

以上の様にDMMにはさまざまなタイプがありますが、俯瞰をしますと表2のような整理ができます。現在では、それぞれDMMは主に利用される用途に応じた測定ニーズによって、特徴のある機能進化が進んでいます。

表2. DMMの主な利用用途

表2. DMMの主な利用用途

気になる最近のDMM

デジタルマルチメータは、電圧・電流・抵抗など基本パラメータを測定するツールで、派手さはありませんが、中には気になる機能を搭載したものがあります。

ハンドヘルドDMMは、現場測定で利用されることが多いですが、場合によっては、測定対象の設備の操作をしながら測定をしなければならないこともあります。このとき問題となるのは、設備の操作パネルと測定箇所が遠いと、1人で測定することが出来ません。Fluke 233では、マルチメータのディスプレイ部を切り離し、10mまで離して置くことができます。本体の測定値はリアルタイムで2.4 GHz ISMバンドのワイヤレスで送られてきますので、測定箇所が離れた場面や、危険な場所での測定を1人で行うことができるなど、新しい使い方の可能性を秘めているマルチメータと言えるでしょう。

写真3. Fluke 233リモート・ディスプレイ・マルチメータ

写真3. Fluke 233リモート・ディスプレイ・マルチメータ

出典: フルーク社


気になる機能のもうひとつは、データ集録・処理機能を搭載したDMMです。最新のキーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータ 34465Aは、50,000データ(オプション2,000,000データ)の内部メモリにデータをロギングし、写真5のようなトレンドチャートやヒストグラムの解析・表示が可能です。従来の数値のセグメント表示ではなく、グラフィカルディスプレイ(4.3インチLCD)を搭載した「測定から解析までできる」新しい概念のマルチメータと位置づけられます。わざわざPCに接続し、テストプログラムを作成しなくても、DMM単独でグラフィカルな表示面に、測定データの変動傾向やばらつきを、その場で簡単に確認できることが訴求ポイントです。さらにCSVファイルへのエクスポート機能を使用すれば、データ解析をコンピュータでも実行できます。

写真4. グラフィカル表示搭載のDMM 34465A

写真4. グラフィカル表示搭載のDMM 34465A

出典: キーサイト・テクノロジー

写真5. データ収録・統計処理の表示例

写真5. データ収録・統計処理の表示例

出典: キーサイト・テクノロジー


このDMMはTruevoltシリーズと銘打って、AC実効値測定に、デジタル・ダイレクト・サンプリング方式を採用※4していることが特徴です。高速でデジタルサンプリングされたデータから理論的な数値計算で真の実効値(True RMS)を求めており、最大10のクレストファクタを実現しています。従来、AC電圧の測定は、平均値整流や対数変換方式による実効値変換方式が主で、アナログ回路によるものでした。この点でもデジタル・ダイレクト・サンプリング方式の34465Aは、新しい提案のDMMと言えそうです。

以上、雑駁な話題を書いたに過ぎませんが、DMMの歴史と変遷に触れてみました。次回の第2回は、DMMの中身、原理やAD変換方式について、触れてみたいと思います。

※4 キーサイト・テクノロジーは、前モデルの34410A/34411Aから、デジタル・ダイレクト・サンプリングを採用しています。


第2回はこちらから

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