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学び情報詳細

~ ダントツのコスパでDMMが13万9千円で登場 ~ 1Mサンプリングのデジタイザ搭載 (7Mデータメモリ) の6.5桁高精度デジタルマルチメータ

ケースレーインスツルメンツ(以下、ケースレー)は、1946年創業当時から、テクトロニクスと合併した現在まで、科学者・研究者向けに、電位計、ナノボルトメータ、ピコアンメータ、高確度の電流源など、微細な現象の測定ソリューションを提供し、業容を拡大してきた。そのブランドは、「測定の限界を極める企業」として、技術に携わる人々に定着している。そのケースレーが、昨年4月に、デジタルマルチメータ(DMM)に新たな風を吹き込む、新製品DMM6500を発売した。大型5インチ(12.7cm)カラー液晶搭載で、スマホ感覚のタッチスクリーン操作が斬新だ。ケースレーの得意分野である微小電流の測定ができるのはもちろん、1Mサンプリングのデジタイザを搭載したことにより、トランジェントな電圧・電流波形が、オシロスコープ感覚で観測可能だ。従来のDMMにはない、新しいユースケースが拓けてくるだろう。しかも、価格は破格の139,000円(税抜き・2019年1月現在)。

発売から8ヶ月が経過したタイミングを捉え、あらためて、開発の経緯、製品の狙い、市場(顧客)の反応などについて、テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社のアプリケーションエンジニア 宮尾様と営業担当部長 柴崎様にお聞きした。

DMM6500 6.5桁タッチスクリーン式マルチメータ

DMM6500 6.5桁タッチスクリーン式マルチメータ

開発の足取り

DMM6500の誕生は、約3年前(2015年1月22日)に発売された上位機種DMM7510に端を発する。つまり7.5桁のDMMが、まず先に開発された訳だ。7.5桁のDMM7510の性能・機能を削ぎ、6.5桁に仕上げたといっても、DMM6500は電圧/電流感度など、性能は上位機種のDMM7510に比べ少し落ちるものの、かなり踏襲している。簡単な比較を下表に示す。デジタイザのサンプリング速度 1Mサンプリングは変わらない。データメモリ容量はDMM7510の11Mデータ程ないが、競合機種が10K(10000)程度というから、DMM6500の7Mデータは半端な容量ではない。その上、価格は、1/3以下の139,000円だから、ダントツのコスパだ。

破格の価格を実現できたのは、DMM7510、DMM6500に採用されているプラットフォームの共通化が大きな要因という。実は、DMM7510の開発をさらに遡ること1年5ヶ月前の2013年8月28日に発売されたソースメータ(SMU)2450のプラットフォームが、現在のプラットフォームの始まりという(下図)。約5年も前だ。

このプラットフォームは、革新的なグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)と最新の静電容量方式タッチスクリーン技術により、直感的な操作をはじめて可能にした。マニュアル要らずで、操作方法の習得時間が短縮できるため、エンジニア/科学者はすぐに操作方法がわかり、作業に集中できるという。ピンチ/ズームといったスマホライクな操作は、非電気系の測定器に不慣れな科学者・研究者にも好評だ。ケースレーの顧客は、科学者や研究者が多いことが、革新的なGUIが生まれた所以なのだろう。

ケースレーは、今後もこのプラットフォームを活かし、新製品の開発を進めていくとのこと、次の製品が楽しみだ。

DMM7510 DMM6500 競合メーカ6.5桁DMM
DC電圧感度 10 nV 100 nV 100 nV
電流感度 1 pA 10 pA 100 pA
抵抗感度 0.1 μΩ 1 μΩ 100 μΩ
デジタイザのサンプリング速度 1 Mサンプリング(18ビット) 1 Mサンプリング(16ビット) 1 kサンプリング
データメモリ容量 11 Mデータ(標準)
27.5 Mデータ(コンパクト)
7 Mデータ 10000 データ
価格 ¥456,000 - ¥472,000 ¥139,000 ¥135,480
注)競合機種は、価格レンジが同一レベルの6.5桁DMMを選択
2450/2460

2450/2460
ソースメータ(SMU)
2013年8月28日発売

矢印
DMM7510

DMM7510
7.5桁グラフィカル・サンプリング・マルチメータ
2015年1月22日発売

矢印
DMM6500

DMM6500
6.5桁タッチスクリーン式マルチメータ
2018年4月17日

DMM6500が創造した新しい価値

DMM6500の魅力は、革新的なGUIによる使いやすさとダントツのコスパだが、従来のDMMにないものがある。ここでは、3つの特長を挙げよう。

① 従来のDMMにはない、微小電流10μAレンジ(10pA分解能)が、測定領域を広げる

まずは、下図をご覧いただきたい。DMM6500は、デジタイズ、キャパシタンス/温度測定など、15種類の幅広い測定機能を備えている。特にDC電流レンジは注目に値する。10μAレンジは、10pA分解能である。同じケースレーの2100シリーズの6.5桁DMMは10mAレンジが最小レンジであるから、DMM6500は3桁も感度がよいことになる。ナノボルトメータやピコアンメータの領域に近い測定が可能となったともいえよう。抵抗測定性能の1μΩ分解能も特筆に値する。次項②で取りあげるデジタイザモードでも、電圧/電流感度は高感度だ。

測定項目

② 1Mサンプリングのデジタイザが、従来見えなかったものを「見える化」する

DMM6500には、2つのAD変換器が搭載されている。ひとつは、一般的なDMMに搭載されている積分型のAD変換器で、もうひとつは、デジタイザと呼んでいる、サンプリング速度が1M(メガ:10の6乗回/s=サンプリング時間間隔1μs)の16ビットAD変換器だ。デジタイザの方は、DC電圧とDC電流(前項の図中の青枠・青丸)測定で機能する。積分型の場合、DC電圧(10V)測定で最高でも約20kサンプリングであるから、デジタイザは50倍以上もサンプリングが速いことになる。では、1Mサンプリングのデジタイザを搭載したことで、どんな測定が新たに可能となったのか。アプリケーションエンジニアの宮尾様にデモを見せていただいた。

測定対象のデバイスは、「キーファインダ」などと呼ばれる、Bluetooth通信機能搭載の忘れ物防止・探し物発見器だ。写真の空色タグがそのデバイスで、ネットでは数百円で売られている。スマホとペアリング(連繋)しておけば、キーホルダを忘れて、その場を離れると警告してくれる。どこかに落とした場合も、スマホのアプリが、最後にタグとのペアリングが切断した場所をマップ上に表示してくれる。このタグを重要なモノに付けておけば、盗難防止にも使える訳だ。IoTデバイスとも言えよう。IoTデバイスに求められる仕様のもっとも重要なポイントは、「バッテリのもち」で、低消費電力で設計されなければならない。

デモには、入力に挿入されたテスト冶具が使われている
タグのボタン電池をはずし、冶具側に移し、ケーブルでデバイスに電源供給している。

備考)デモには、入力に挿入されたテスト冶具が使われている。タグのボタン電池をはずし、冶具側に移し(右図)、ケーブルでデバイスに電源供給している。

測定されたDMM6500の画面上の波形は、Bluetoothのアドバタイジング※1動作中の、デバイスの消費電流波形だ。画面上のカーソルの読み値から、ピーク電流は19.35mAと読み取れる。ΔXは6.199msとあるが、1Mサンプリング=1μsの時間分解能でデータが捕捉されていることが分かる。もちろん、演算機能を使えば、カーソル設定区間の電流の平均値も得ることができる。

このように間欠的な信号で、おまけに微小電流波形の測定は、オシロスコープでは困難だろう。DMM6500なら簡単だ。IoTデバイスに限らず、電圧/電流のトランジェントな現象を捉えるアプリケーションには、欠かせないツールとなるだろう。

※1 BLE(Bluetooth Low Energy)デバイスが、設定されたインタバルで、自己のサービス内容をパケットに載せ、情報を周囲に発信(ブロードキャスト)する動作

DMM6500画面 BLEアドバタイジング動作中の電流波形

DMM6500画面 BLEアドバタイジング動作中の電流波形

③ スキャナ・カード(オプション搭載)で、DMMがデータロガーに変身

DMM6500のユニークさのもうひとつは、多チャネル化ができることだ。10チャネルの2極(10ch)、または4極(5ch)のスキャナ・カードと9チャネルの熱電対スキャナ・カードが用意されている。リアパネルにスキャナ・カードを挿入すれば、データロガーに変身。電圧や温度測定ポイントが数点ならば、高価なデータロガーを用意する必要はない。

リアパネルとスキャナ・カード

リアパネルとスキャナ・カード

ソフトウェアサポート

DMM6500では、従来のSCPI※2プログラムのほか、強力なTSP(Test Script Processor)プログラムが可能である。TSPはケースレーの特許で、スピードを要求されるアプリケーションでは、特に威力を発揮する。例えば、2台のDMM6500をTSP-Linkで結び、電圧-電流特性を測定するシステムが容易に組めるなどだ。しっかりと同期の取れたシステムを構築できることが、ここでは肝となる。すなわち、基本的にTSP-Linkで接続された機器は1台として機能する。TSP-Linkは、最大32台の機器をサポートしている。PCなどは不要で、DMM上で直接テストスクリプトが実行できる上に、GP-IBやEthernet、USB接続などに比べ、テスト時間が大幅に短縮できる。

PC制御ソフトウェアとしては、KickStartが用意されていて、ケースレーの電源、DMM、ソースメータ(SMU)に加え、テクトロ製品など(対象製品は、メーカホームページ参照)、複数の計測器を最大8台までコントロールできる。これを使えば、迅速なセットアップ、テストの実行、データの収集など、一連の作業の効率は、大幅に向上する。因みに、KickStartは、DMM6500の購入で無料(期間限定:2019年3月29日金曜日まで)とのこと。

※2 スキッピ:Standard Commands for Programmable Instrumentsは、計測器メーカが集まり、策定された、測定器を制御するコマンド言語

顧客の反応

ダントツのコスパで登場したDMM6500だが、反響は大きい。ピンチ/ズームなど、スマホライクな操作感覚は、波形を扱えるDMMの操作を難しくしていないし、15種類もの測定項目があるにもかかわらず、ユーザインタフェースは快適で、ユーザに受け入れられている。

ケースレーとテクトロニクスの合併により、ユーザ層も拡大している。オシロスコープで苦労して微小電流測定をしていたユーザが、DMM6500のデジタイザ機能を重宝しているとの由。両社統合のシナジー効果がでているようだ。今後も、DMM6500のプラットフォームに、新しい測定器が次々と搭載され、登場してくるだろう。これからの、テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社の動きに目が離せない。

テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社 アプリケーションエンジニア 宮尾様(左)と営業担当部長 柴崎様

製品を前に、テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社 アプリケーションエンジニア 宮尾様(左)と営業担当部長 柴崎様(右)

DMM6500の主な仕様

測定機能 DC電圧、AC電圧、DC電流、AC電流、抵抗(2線)、抵抗(4線)、キャパシタンス、周期、周波数、ダイオード、電圧デジタイズ、電流デジタイズ、熱電対、サーミスタ、2線・3線・4線のRTD
DC電圧 レンジ 100 mV/1 V/10 V/100 V/1000 V
分解能 100 nV/1 μV/10 μV/100 μV/1 mV
確度 ±(0.0020% of reading + 0.0006% of range) at 1 Vレンジ 90日
DC電流 レンジ 10 μA/100 μA/1 mA/10 mA/100 mA/1 A/3 A/10 A
分解能 10 pA/100 pA/1 nA/10 nA/100 nA/1 μA/1 μA/10 μA
確度 ±(0.015% of reading + 0.005% of range) at 100 mAレンジ 90日
熱電対 タイプ J/K/N/T/E/R/S/B
デジタイズ電圧 レンジ 100 mV/1 V/10 V/100 V/1000 V
分解能 10 μV/100 μV/1 mV/10 mV/100 mV
確度 ±(0.030% of reading + 0.010% of range) at 1 Vレンジ 2年確度
デジタイズ電流 レンジ 100 μA/1 mA/10 mA/100 mA/1 A/3 A/10 A
分解能 10 nA/100 nA/1 μA/1 μA/10 μA/100 μA/1 mA
確度 ±(0.05% of reading + 0.03% of range) at 100 mAレンジ 2年確度
デジタイズ追加特性 最高分解能 16ビット
入力結合 DCカップリング
サンプル・レート 1 k~1 MS/sでプログラム
電源 電源 100 V、120 V、220 V、240 V(±10%)
電源周波数 50~60 Hz、400 Hz、電源投入時に自動認識
消費電力 30 VA(代表値)
寸法 ベンチタイプ 224.0 mm × 107.2 mm × 387.4 mm (幅 × 高さ × 奥行)

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取材協力:テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社 ホームページは こちらから

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