技術情報・レポート

2020/03/18

マンガを使って直流安定化電源の基礎知識の啓蒙に挑む菊水電子工業

堅い技術資料が多い測定器業界において、マンガという新しいツールを使って直流安定化電源の技術解説に挑戦した菊水電子工業株式会社グローバル事業部営業推進部長の茂戸藤寛様に書籍出版に至るまでの経緯や読者の反応などについて伺った。

図1. インタビューでお話を伺った菊水電子工業の茂戸藤寛様

Q1:マンガを使うことを決めた理由は何ですか

菊水電子工業では長年に渡って直流安定化電源を市場に供給しているが、最近は新興国メーカの製品も国内市場で見るようになり価格競争が激しくなってきた。特に企業の実験室や学校教育の現場で数多く使われる小型の直流安定化電源は技術的な差別化が難しく、価格競争だけのレッドオーシャンな市場になっている。販売の面では幅広い市場でどのようにして、菊水電子工業の製品に親しみを持って選んでくれるかが課題であった。菊水電子工業では2005年に直流安定化電源の啓蒙を目的に「電源入門講座(電波新聞)」という書籍を当時の技術者が執筆したが、当時と今では技術者を取り巻く環境が大きく変化したので、新たな方法で直流安定化電源の啓蒙をしていく必要があると強く感じていた。

菊水電子工業では営業推進部が中心となって、市場に自社製品の存在感を示す新しいツールの調査や検討を行った。外務省が「海外安全対策マニュアル」にマンガを使って解説するなど、マンガというツールが広く使われていることを知り、マンガに関心を持っている販売推進の担当者と電源設計をしている技術者によるチームを作ってマンガの制作を始めた。菊水電子工業ではホームページやカタログなどを外部の力に頼らず制作してきたので、マンガ制作というハードルの高い施策でも実現できたと思っている。今回はマンガのストーリ作りから紙面のコマ割りまでの多くの作業を自社内で行った。超入門書という位置付けにしたので直流安定化電源装置の説明には回路図を用いないという方針でマンガを作った。

【ミニ解説】

日本では平安時代末期ころに作られた「鳥獣戯画(国宝)」からマンガ文化は始まったと言われており、マンガを情報伝達の手段として使う習慣が他の国より浸透している。下記の調査でも日本は他のOECD諸国に比べてもマンガを読む頻度が高くなっている。

図2. 学生の読む本の種類・頻度の国際比較
(「月に数回」または「週に数回」と回答した生徒の割合【複数回答可】)

出典:OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2018年版(国立教育政策研究所)

知識を伝える目的で作られた「学習マンガ」を研究する京都精華大学の伊藤遊氏によると、元教師である秋 玲二(あき れいじ、1910年 - 2006年)が現在の学習マンガの基礎を築いた。日本を代表する漫画家の横山隆一、手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄らも学習マンガを描いている。

2012年にNTTコムリサーチが全国の15歳~44歳の男女を対象行ったマンガに関するアンケート調査によると、マンガ好きであると言った世代は男女ともに20歳代にピークがある。菊水電子工業のマンガによる直流安定化電源の解説書が狙った読者の世代と一致する。

図3. 国内での「マンガが好き」の年齢別調査

出典:「マンガに関するアンケート」に関する調査結果(NTTレゾナント株式会社、2012年5月29日)

マンガは他の媒体に比べて文章と画像が組み合わせて作られているため、「目的に応じた多様な表現ができること」と「画像を使っているため記憶に残りやすい」といった特性を持っている。このため現在では広告や商品説明などといった場面でもマンガが多く使われるようになっている。

Q2:マンガを使った直流安定化電源の解説書を読者はどのように評価していますか

マンガを使った解説書は2018年1月に菊水電子工業のホームページに連載形式で掲載した。多くの人にこの取り組みを知ってもらうために展示会などの機会を使って積極的に紹介していった。最も関心を持って読んでくれたのは、スイッチング電源メーカや電源装置の研究をしている大学であった。このような企業や大学には回路図を示さないで電源の動作を説明した超入門書は本来必要でないと思っていたが、回路図に馴染みない新入社員や学生が最初に勉強するための教材としてよくできているとの高い評価を頂いた。マンガという媒体は若い人にとって抵抗なく読める媒体であることが理解できた。参考書として紙媒体で提供してほしいとの要望を受けて2020年に書籍化を行った。

菊水電子工業にとっても電源の利用する技術者や投資家の方々へのブランド構築や自社の売上増という貢献ができたので成功であったと考えている。また直流安定化電源を販売している測定器商社の方々からも製品がよく理解できると好評を頂いた。

図4. 菊水電子工業が制作した直流安定化電源の入門書

Q3:今後の取り組みはどうされますか

今回の取組みでマンガという媒体の効果はよく理解できたが、マンガ媒体は他の媒体やイベントなどに比べて企業にとって大きな負担が掛かることも事実である。菊水電子工業には直流電源以外に交流電源、電子負荷装置、耐電圧試験器などさまざまな製品がある。また販売地域も国内だけではなくマンガ文化が異なる海外もあるため、日本で始めたマンガによる直流安定化電源の解説を英語化して海外の方にも読めるようにして現在反応を見ている。今後マンガによる解説をどのように進化させていくかは市場の声を聴きながら進めていきたい。

菊水電子工業では中堅技術者向けに「KIKUSUI mag(キクスイマグ)」という会員向けのサイトを2016年に立ち上げた。ここでは菊水電子工業の技術者が記事を執筆するという形式にしており、専門的な技術情報の提供を行っている。

今後とも信頼される電源メーカとして、幅広い電源利用者への情報提供を継続して行っていきたいと考えている。

図5. 菊水電子工業が制作した直流安定化電源の超入門書に登場する製品

取材を終えて

菊水電子工業は測定器業界の中では新しい形の販売プロモーションを積極的に取り組む会社として知られている。専門知識を持った人を対象にした固い技術情報の提供に注力してきた測定器業界ではマンガを使った入門解説書というのは見られなかった。今回の新しい取り組みが測定器業界に新鮮な刺激を与えるものと期待される。

今回の取組みが今後どのように展開されるかが楽しみである。

取材協力:菊水電子工業株式会社 ホームページは こちらから

マンガでわかる直流安定化電源紹介ページは こちらから

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