技術情報・レポート

2020/07/14

校正室を知り尽くすフルークが提案する新しい8.5桁DMM

校正用標準器の代名詞であるFLUKEブランドは、世界の電気標準室で必ず使われている業界標準である。近年では電気から物理量である温度・圧力の校正分野に機種群を拡充してきたが、昨年(2019年)8.5桁の高精度/高確度デジタルマルチメータ(DMM)を18年ぶりにモデルチェンジし、従来のプロダクトラインには無かったモデルを新しくシリーズ化した。今回、紹介するDMMは、各社の標準室に採用されている同社の電圧・電流・抵抗の校正器(5700Aシリーズなど)と校正管理ソフトウェアによって、校正室の最新の課題解決を更に進めるものとなっている。株式会社TFF フルーク社 校正器営業部 営業部長 矢野陽太氏、マーケティング 蜷川晴伸氏、プリセールス・エンジニア 馬渕瑶子氏にお話を伺い、デモをお願いした。

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フルーク社の沿革、ラインアップ

フルーク社は1948年に米国コネチカット州でジョン・フルークにより創業され、高精度・高安定な標準器・校正器では世界の業界標準である。現在はフォーティブコーポレーション(Fortive Corporation)に米国フルーク・コーポレーションがあり、日本法人として株式会社TFF フルーク社がある※1。電気校正の製品群は、直流低周波を得意とした以下のラインアップが知られている。これらは国家検定機関や各企業の標準室、校正室、校正現場、製造ラインなどで幅広く使われている。

  1. 国家標準の基準に準ずる計測器732C(直流電圧基準)、742A(抵抗基準)、792A(交流電圧基準)など
  2. 直交流電圧・電流・抵抗出力の校正器(5502A、5522A、5730A)
  3. オシロスコープ用校正器9500Bシリーズ
※1

フルーク製品は機種群によって、黄色い筐体の現場測定器はFLUKE、校正関連機器はFLUKE Calibration、有線通信関連測定器はFLUKE networks、産業向け温度測定機器(Raytek、Ircon、Datapaqブランド)はFLUKE Process Instrumentsなどの事業体がある。

8558A/8588A開発の背景

フルークの高精度DMMの歴史は古く、すでに1980年代初頭にはモデル8000Aがあり、8500Aを経て2002年に8.5桁の8508Aを発売した。8508Aは市場で高シェアの他社モデルより高性能である。8508Aは18年間販売したロングセラーで多くの標準室に導入されたが価格も高額で、お客さまによってはオーバースペックであるという難点があった。そこで今回のモデルチェンジで廉価版モデルも新しいシリーズに加え、従来の後継器として高級器の8588A、廉価版の8558Aという2機種のラインアップになった。お客さまの要望によって選択肢が広がったといえる。8558Aは校正トップメーカとして更にシェアを伸ばす意欲作である。他社同等モデルと比較して、機能・性能が大変優れた仕様になっている。8558A/8588Aの発売は2019年5月、日本での出荷は2019年秋に開始された。

8508A、8558A/8588A

8508A(左)と8558A/8588A(右)

8558A/8588Aの特長

1. 高速測定

8558A/8588Aは読み取り1 回あたり200 ナノ秒でメモリにデジタル化し、100,000読み取り/秒で 4.5桁のデータをUSB、イーサネット、GPIB で PC に配信する。高速で高解像度のデータ収集により、質の高い多くの情報から速く正確な決定ができるので、測定システムのスループットが高いといえる。高速測定のために、内部回路は前身モデルとは違う設計をしている。18ビットSAR ADC※2と高速ADCの2種類を使い、デジタイズ※3や高速処理を実現した。

※2

Successive Approximation Register Analog Digital Converter 逐次比較型ADコンバータ。ADCの方式は複数あり、一般的にDMMは積分型が多い。高ダイナミックレンジ、高精度に適した方式としてSARやデルタシグマ(ΔΣ)型がある。

※3

従来DMMは積分型ADC(一定時間積分して1つの値を出す)を使い測定値を表示しているが、別のより高速なADCでサンプリングしてオシロスコープのように測定する機能が最近のDMMにはある。ここではそのことを指す。「デジタイズI(電流)」や「Digi I」などと表記される。一般にデジタイズ(digitize、デジタル化)は連続的な値(アナログ)を離散的な値(デジタル)に変換することなので、ADCと同じこと。

2. 優れたユーザインタフェース

測定したい機能(たとえば直流電圧を測定する)を選択すると、接続すべき端子(電圧入力のHI(赤色)とLO(黒色))だけが緑色に点灯し、ケーブルの接続をガイドする。グリーンライト表示はどの端子に接続するかが一目でわかり、校正実施者の接続間違い防止に配慮したフルークのオンリーワン機能である。表示画面が大きくなったことは一目瞭然だが、前身モデルではできなかった日本語表示にも対応した。

3. 測定後の解析

従来、データ取得後の解析はPCなどで処理しなければならないが、本器はサブメニューで測定の不確かさや分布などの状況を容易に確認できる。例えばDC出力のパフォーマンスを定量化し、それぞれ10回の測定値で平均とノイズを評価できる。統計とともにトレンドやヒストグラムが表示される。

左上の端子の根元が緑色に点灯

左上の端子の根元が緑色に点灯

トレンド表示

トレンド表示

ヒストグラム表示

ヒストグラム表示

4. 99 %の確度規定

各レンジによって確度が異なるため、他社同等品と比べてすべて優れているとはいえないが、フルークでは信頼性水準を99 %と95 %の2つの表記で確度を明記している。一般に高精度DMMの確度規定は95 %水準であるため、99 %で規定している点は信頼性が高い。

5. 高抵抗、大電流測定

多くの種類の計測器を保有しているお客さまでは、10 GΩの抵抗測定や、1 A以上、時には10 Aを超える電流の測定の要望がある。頻度は多いわけではないが、幅広い仕様にこのモデル1台で対応できることは顧客の負担軽減になる。前身モデルを長く販売してきた経験から、10 GΩ抵抗測定や大電流測定(8558Aは2 Aまで、他社モデルは1 Aまで、8588Aは30 Aに対応)ができる仕様になっている。

市場で要求される国際規格への対応

校正や検定に対する要求事項として、信頼性、小さな不確かさ、測定値の安定性・桁数拡大、高速化、機能数の拡張などがあげられる。特に近年では測定の不確かさ、校正管理・監査が注目されている。単に校正(測定)し合否判定するのではなく、校正結果の信頼性が重要度を増している。具体的にはISO/IEC17025※4や、最近の自動車業界で話題のIATF16949※5がある。フルークではこれらに自動校正システムで対応している。

※4

国際標準化機構(ISO)が作成した、校正機関・試験所に関する国際規格。 校正作業を行っている機関(〇〇会社の××標準室など)の能力を認定する基準として使われる。認定マークは校正の品質が国際的に認められた証明となる。ISO/IEC17025の認定は校正機関が認定範囲を決めて取得する必要がある。略して「ISO17025」と呼ばれることも多い。ISO(International Organization for Standardization。アイエスオー、イソ、アイソ)は各国の国家標準化団体が集まった組織。IECは国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)。

※5

IATF(International Automotive Task Force 国際自動車産業特別委員会)が作成した、自動車業界の品質マネジメント規格。審査によってこの規格に適合したサプライヤから各自動車メーカは部材を調達するのがIATF16949認証制度。認証制度は欧米の自動車メーカ9社と自動車産業5団体で運営される。

自動校正ソフトウェアMET/CAL/TEAM®(メット・キャル・チーム)はISO/IEC17025に対応したワークフローに従って校正していくシステムである。IATF16949もISO/IEC17025を含む規格要求であるため、このソフトウェアで同様に対応できる。規格が規定している手順をソフトウェア内ですべて完結させるように設計されている。校正対象製品の受付から校正完了までの作業をワークフロー形式で行い、校正が終了したら状態を校正完了にして試験成績書を出力する。監査のときは規格に従った手順をしているかが重要だが、校正システムの手順書(プロシージャー)※6を印刷して示せば、それに手順が書かれている。

※6

procedures 日本語では「手続き」。ここでは校正手順書の意味。

MET/CAL/TEA®によるワークフロー管理のイメージ

MET/CAL/TEAM®によるワークフロー管理のイメージ

MET/CAL/TEA®のワークオーダー画面

MET/CAL/TEAM®のワークオーダー画面

自動校正の利点は人為的なミスや校正実施者によるばらつきを抑制できることだ。資産登録した校正器の不確かさは同システム内で管理され、校正対象品のばらつきは正しく校正される。人によるばらつき、校正器自体のばらつきを管理したうえで、校正対象品のばらつきを確認(校正)することで、校正で検討されるべき3つのばらつきをカバーする。結果の妥当性が証明され、ISO/IEC17025に適したシステムである。

校正ソフトウェアをユーザが独自に作成するには通常、使用する標準器(校正器)や校正対象品のモデルごとにレンジ、不確かさなどの校正ポイントをすべて調べて構築する必要がある。MET/CAL/TEAM®にはフルークの標準器情報が予め登録されていて(他社モデルも一部登録)、使用するモデルを選択することができる。そのため標準器ではレンジの指定、校正対象品はレンジや不確かさの情報だけを入力すれば簡便にソフトウェアの構築ができる。8588Aも標準器として登録されていて、今までより高い信頼性で国際規格に対応することで、より良い校正環境作りに貢献している。

標準器5790Bと8588AによるAC電圧の校正

標準器5790Bと8588AによるAC電圧の校正

おわりに

冒頭にも述べたが、フルークは電気・温度・圧力の校正分野における老舗メーカで、各種のセミナーを活発に開催してきた。電気の校正について深く知るために「不確かさ」や「ガードバンド」※7を、まだ広く認知されていない温度の校正については基礎から幅広くセミナーを開催してきた。コロナ禍で開催されたメトロロジー※8・オンライン セミナーも活況だ。フルーク製品は隔年開催のINTERMEASURE(インターメジャー)に出展されるが、毎年秋に開催のNCSLI※9技術フォーラムの併設展示ではフルーク製品を扱う3社が並び、電気・温度・圧力・自動校正のすべてを見ることができる。今後もフルークの校正機器とサービスに注目していきたい。

※7

guard band 測定の不確かさに相当する幅のこと。フルークのセミナーでは「校正結果の適合性と不確かさの関わりについての考え方」と解説している。

※8

metrology 計測・計量の理論から実践までの体系のこと。メートル法が誕生したワールド・メトロロジー・デー(世界計量記念日)にはフルークキャリブレーションの米国本社では、記念イベントが開催される。

※9

National Conference of Standards Laboratories International(直訳すると国際国立標準研究所会議) 計量・計測標準、計測器校正分野の国際団体。日本NCSLIが開催する総会は日本の計量・校正の大会である。新型コロナウイルスの感染対策で2020年のNCSLI技術フォーラムは中止の予定。

馬渕瑶子氏と8588A(上)、マルチファンクション校正器5730A(下)

馬渕瑶子氏と8588A(上)、マルチファンクション校正器5730A(下)

主な機能と仕様

主な仕様
主な昨日

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取材協力:

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