2020/07/21

【編集後記】ゆるふわ取材日記Vol.1

 梅雨前線の長期停滞により異例の記録的大雨が続きました。洪水などの豪雨災害により被害に遭われたすべての方に心よりお見舞い申し上げます。

たまさか更新の“ゆるふわ取材日記”
第一回目は、「季節のバナー画像シリーズ」(※1)第30号の取材日記〔埼玉県大里郡寄居町〕をお届けします。

 7月に入ってなかなか晴れ間を見ることがありません。コロナ禍で3月から直接の取材を自粛していましたが、間隙を突いて取材に行ってきました。

 季節のバナー画像シリーズも30回を重ねました。季節のバナー画像シリーズは会員の皆様からご紹介いただいた場所(※2)の中から取材地を決めています。第29号の2月の梅の画像が掲載されたまま放置されているのが悔しくて、早く季節感を取り戻したいと思っていました。

 取材日も小雨まじりでしたが、京亭で鮎料理を堪能している頃には空が明るくなってきました。
 埼玉県大里郡寄居町は、かつて鉢形城の城下町で秩父往還の宿場町として栄え、荒川上流域がもたらす豊かな自然環境に恵まれた水の郷です。また町の中心部にある寄居駅は東武鉄道の東上線、秩父鉄道の秩父本線、JR東日本の八高線の3路線が接続するターミナル駅になっています。

 寄居駅の南口を降りるとまず目に留まるのは、2013年に閉店したライフ寄居店(大型商業施設)の廃墟です。ライフの駐車場はタイムズに変わって利用されていました。
 曇天がもたらす雰囲気なのか、かなり寂しい駅前です。対照的に北口側には立派な町役場庁舎が建っていました。

寄居町商店街入口

駅南の旧商店街の入口

 ここから路上を南下すると荒川に架かる正喜橋が見えてきます。橋の手前を西側へ路地を入っていくと京亭に着きます。

京亭の木彫り看板

京亭玄関口の木彫りの看板

左から順に、京亭の玄関に飾ってあった(販売している?)かじか酒用のかじかの燻製。京亭2階の部屋からの眺め。コース料理のお品書き。部屋の障子戸を閉めても聞こえてくる川音が心地よい清涼感をもたらす

 鮎料理のコースもさることながら、佐々紅華(※3)の邸宅として建築された数寄屋造りの建物と荒川を望む日本庭園、そして美人で気立てのよい仲居さんのおもてなしもあり、時間を忘れて心ゆくまで楽しむことができました。これまでの取材の中で一番贅沢な時間だったかもしれません。

潤香

潤香(うるか)
鮎の新鮮な内蔵を塩辛にしたもの。苦みが混じりつつも気品ある香味

険しい顔付きの天然鮎

養殖ものと違い天然は顔付きが険しいのだとか

京亭の前菜

京亭の前菜
新水雲(しんもずく)、玉蜀黍(とうもろこし)品種は未來(みらい)、鮎の中骨の骨せんべい(お造りにした残り)、新牛蒡(ごぼう)の胡麻酢和え、沢蟹(えび)梅煮

 池波正太郎も随筆集「よい匂いのする一夜」(講談社文庫)の中で京亭について、「自分の家のような旅館・・・・・」と居心地の良さを称賛しています。
 時代は変われどもよい伝統が受け継がれているようです。すでに2か月先まで予約でいっぱいだとか。。
 一度行ったら再訪者(リピーター)になるのは誰しも当然の流れでしょう。

池波正太郎も唸らせた絶品の鮎飯。熱い飯に鮎の芳香が溶け込んでいる

水槽の鮎

 優雅な気分で京亭を後にして正喜橋を渡り、日本百名城にも選定されている鉢形城址の取材をしました。

正喜橋から見えたのが昨年の台風19号の被害で流されたまま放置された車(京亭の仲居さんに教えてもらった)

京亭の外観と対岸の鉢形城址から見た京亭

 戦国時代、北条氏による北関東支配の拠点となった鉢形城。最後は豊臣秀吉の小田原征伐にて攻防戦を展開し、1か月に及ぶ籠城戦の末に北条氏邦は開城したと言われています。 なるほど、天然の要害と言われるだけあって、荒川と深沢川を堀に見立てた断崖の上にありました。今も随所に曲輪や空堀の跡が残るのを見ながら戦国の世に思いを馳せます。

鉢形城址の石積土塁

北条氏邦の重臣、秩父孫次郎が守った秩父曲輪には石積土塁があった

鉢形城址の井戸跡

北条家の家紋「三つ鱗」がある鉢形城歴史館に併設する休憩施設。通り抜ける風が気持ちいい。地元限定のコーラでいっぷく

鉢形城址の休憩施設

三の曲輪跡にある復元された井戸の跡。南瓜が葉を広げている


 寄居の荒川は玉淀(※4)と呼ばれる名勝で、大正から昭和にかけては七代目松本幸四郎のような文化人の別邸や旅館なども川沿いに集まり、観光地として賑わっていたということです。町並みがどこか寂しそうだったのは、かつて繁栄し今は朽ち果ててしまった昭和の遺物が所々に残されているからでしょうか。

雀宮公園の案内板

近くには今は雀宮公園となっている七代目松本幸四郎の別邸跡地があります。紅葉の名所だとか

 全国名水百選認定の「風布川(ふうっぷがわ)と日本水(やまとみず)」、また水源の森百選に認定されている「日本水の森」など水郷である寄居には、水が育んだ生態系によってホタルやトンボ、清流には鮎をはじめサンショウウオやサワガニが生息し、夏にバーベキューや水遊びで賑わう「かわせみ河原」に冬は白鳥が飛来します。その河原を見下ろすように立つ日本一の大水車は、川の博物館(かわはく)内にあり、町のシンボルになっています。

大正時代の鮎漁

埼玉県写真帖(1912年・大正元年)に収蔵されている鮎漁(寄居町像ヶ鼻付近の荒川での鵜飼の様子)

かわはくの大水車

川の博物館(かわはく)の大水車

東武線鉢形駅のロゴマーク(左)。大水車の前を流れる荒川とそこに生息するカワセミ、駅リニューアルに合わせて制定された。寄居発小川町行東武鉄道8000系ワンマン車。東武鉄道の池袋方面からの終点は2005年に小川町になった。

鮎飯のおみや

お持ち帰りパックにしてもらった京亭の鮎飯

(おわり)

※1:入口はTechEyesOnlineトップ画面の一番下のバナー部分にあります。
※2:時々、TechEyesOnline会員様向けにおすすめの取材地を教えていただくアンケートを実施しています。
※3:生没年1886-1961。浅草オペラの創始者で作曲家。「君恋し」「祇園小唄」「唐人お吉」などのヒット曲がある。
※4:水がゆるやかに流れる様を玉の色に見立て、「玉のように美しい水の淀み」だというのが「玉淀」の名の由来。(出典:寄居町ホームページ/寄居町観光協会ホームページ)


(季節のバナー画像シリーズ取材班)


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