TDSシリーズ
(TDS series)
電気計測器の世界でTDSといえばTektronix(テクトロニクス)社のデジタルオシロスコープ(オシロ)で、世界市場でシェアNo.1だった機種群のこと。1999年に発売されたTDS3000シリーズは、国産計測器メーカとして後発でオシロ市場に参入した横河電機(現横河計測
)のDLシリーズ(DL1500/1600/1700など)と国内市場を二分した。TDSシリーズとDLシリーズは設計思想がまったく違い、両社にそれぞれファンがいた。TDS3000は電気・電子技術者に幅広く受け入れられた汎用オシロスコープ(MHz帯域)の王道モデルだが、メモリは多くなく、増やせないことが欠点だった。国内シェアはTDSシリーズがNo.1、DLシリーズがそれを猛追するNo.2と推定される(横河レンタ・リースの計測器有料トレーニングは実機としてTDS(MSO)シリーズとDL(DLM)シリーズを選択できるが、その比率からの推定)。
TDS3000シリーズはTDS3000B、TDS3000Cとエンハンスド(モデルチェンジ)してメモリも増えて、DSOやMSOが主流になった時代も延命し、2019年に3シリーズMDOが発売されるまで販売された(つまり20年間、汎用オシロスコープの代表器だった)。特にDPO3000シリーズが登場する2000年代まではTDS3000はデファクト・スタンダードといえる。TDS3000より安価なローエンドモデルにTDS1000/TDS2000シリーズがあり、安価なエントリークラス(入門器)として学校やメーカの教育機材として使われたが、現在はTBS1000/2000などがあり、TDSシリーズは終焉した。
2000年頃に同社はTDS7000シリーズ(周波数帯域4GHz)、TDS6000シリーズ(周波数帯域6GHz)のラインアップがあった。2005年にキーサイト・テクノロジーが54855A(周波数帯域6GHz)を発売し、高速オシロスコープという機種群を開発すると、テクトロニクスはすぐに同等製品を発表した。周波数帯域を伸ばす競争が始まり、TDS7704B(7GHz)やTDS6154C(15GHz)が発表された。2006年にはDPO72004シリーズ(20GHz)がリリースされ、広帯域オシロスコープのTDSシリーズはTDS3000シリーズよりも早く終焉した。
テクトロニクスのTDSの語源はTektronix Digital Scopeの略という説があるが定かではない。
「TDSシリーズ」ではなく、略記のTDSは、計測関連では以下がある。
1. ひずみ測定メーカの株式会社東京測器研究所のデータロガーの形名(TDS-150/540など)。
計測器情報:
東京測器研究所のTDS-xxの製品例
2. 東京電力系のインフラ設備・エンジニアリング企業の東京電設サービス株式会社の略記は「TDS」である。
3. TDS(Total Dissolved Solids、総溶解固形物)は、水中に含まれる無機塩類(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなど)と水に溶解する有機物の濃度の総計のこと。数値が低いほど不純物が少ないので、TDS値は水質指標の基準の1つ。水の中に溶けている電解質の総濃度を調べる水質計(科学分析機器)をTDSメータと呼称する。原理は水中の電気伝導度を測定し、係数をかけた値を便宜的にppmに換算して濃度として表示する。機器(水質計)の名称は、ポケットテスタやポケットメータが多い。つまり小型の可搬型で、屋外で簡便に簡易水質検査をすることが主である。ラボ(実験室)で試料を分析するベンチトップの分析機器ではなく、フィールドユースの分析計である。電気伝導度など、電気の物理量を測定するので、いわゆる電気計測器と思われがちだが、主要な計測器メーカはつくっていない。そのため、計測器でTDSというとテクトロのオシロスコープがまず思い浮かび、TDSメータは出てこない。
輸入商社の株式会社エムケー・サイエンティフィックは、防水ポケット型の「導電率/TDS/温度計(EC59 PROなど)」を取り扱っている。「導電率(EC)、TDS、温度の3 in 1テスタ、生産者のためのオールインワンソリューション」、「IP67適合で本体を水に落としても、問題が起きない構造」とPRしている。外観はペンシル型でポケットに入れて持ち運べるサイズ、重量である。
参考記事:
東亜ディーケーケーのポータブルマルチ水質計
参考用語
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TDS2000シリーズの後継器。
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TDS1000シリーズの後継器。