ENOB
(Effective Number Of Bits)
ADコンバータの有効ビット数のこと。ADコンバータの性能は分解能(ビット数)だが、もう1つの指標にENOBがある。分解能のビット数とENOBは異なる。ENOBは実測したSN比から計算式によって算出される。ADC(AD変換器)はノイズやひずみを含むため、ENOBが実質的な分解能を示しているといわれる。
2018年頃からオシロスコープ各社が高分解能モデルを発売し始めた。従来、オシロスコープのADコンバータは8ビットだったが、テレダイン・レクロイが2012年に10ビットモデルを発売し、2018年以降に同業2社が追随した(2021年5月現在の8chモデルを比較すると、8ビット以上が主流になっている。以下の参考記事「大手5社の8chモデル紹介」が詳しい。※)。オシロスコープの最も大事な性能は周波数帯域で、時間軸の分解能にあたるのがサンプリングレート(S/s、単位:時間)である。つまりオシロスコープは時間(周波数)の波形測定器(時間波形の観測器)で、2005年から2018年にかけて周波数帯域を上に伸ばし、広帯域オシロスコープが盛んに開発された。広帯域の高額なモデルもAD変換器は8ビットと決まっていて、縦軸(電圧)は安価なDMMよりも精度が劣るので、テスタ(計測器)というより観測器(スコープ)だった。高分解能モデルの出現で、オシロスコープ(観測器)はやっと計測器(オシロテスタ)になったといえる。
キーサイト・テクノロジーは高分解能オシロスコープの仕様にENOBを積極的に明記し、「分解能では不十分で、ENOBが重要である」という見解である。他社はあまりPRしていない(現状はあまり重要視していないように筆者は感じる)。「ENOBはメーカにとっては大切だが、ユーザは気にする必要はない」という見解もある。ADCの代表的なデバイスメーカであるアナログ・デバイセズ(Analog Devices)には「これほど年月を経てもENOBと分解能の関係は不透明」という技術資料がある。
キーサイト・テクノロジーは2024年9月に、InfiniiVision 3000G Xシリーズ(8ビット、ハイレゾ設定で12ビット)の上位モデル、InfiniiVision HD3シリーズ(14ビット)を発売した。2018年に発売した周波数帯域110GHzの世界最高速の広帯域オシロスコープ、UXRシリーズ(以下の参考記事、「キーサイト・ワールド」で世界初公開を取材)の技術を取り入れ、ノイズフロアを低減したといわれている(高周波が売りの同社ならではの改良である)。当然、ENOBがどれだけ向上したかを、他のモデルと比較してPRしている。
※ 横河計測は2023年6月にDLM5000シリーズを12ビットのDLM5000HDシリーズに更新。2023年11月にはローデ・シュワルツも12ビットの8chモデル、MXO5シリーズを発売し、主要なオシロスコープメーカは高分解能モデルが主流の時代になった。中華系オシロスコープメーカ(リゴルやSIGLENT)は安価な12ビットモデルを2023年頃から積極的にラインアップしている。