400Hz交流電源
(400Hz AC power supply)
多くの電気機器は商用周波数(50/60Hz)で動作するが、地上では使わない特殊設備はもっと高い周波数の400Hzで動いている。それらに電力を供給する電源。航空機用地上支援設備(GSE:Ground Support Equipment)などで400Hzの交流安定化電源として使用される。400Hz出力に特化した特殊電源(周波数変換器)。交流電源をつくる主要な計測器メーカがラインアップしている(計測技術研究所、菊水電子工業、高砂製作所、松定プレシジョン)。計測用電源メーカではないシンフォニアテクノロジー(株)や日本カーネルシステム(株)もつくっている。
航空機や防衛関連機器の電源系は、自動車のシガーソケットが12V/24Vで統一されているように、400HzがMIL(ミル)規格などの国際的な標準仕様になっている。航空機や船舶、衛星などに搭載する機器は軽量・小型化が求められるため、50/60Hzよりも高周波の400Hzで駆動している。高い周波数にするとモータ、変圧器、発電機などの磁気部品が小さくなり、機体全体の総重量を減らして燃費や積載量を向上できる。具体的な利点は、コア損失が低減されて電力効率が上がる、周波数が高いと誘導リアクタンスが大きくなり電流が小さくなるため電線を細くできる、高周波は飛行機内の電子システムへの電磁干渉(ノイズ)が比較的少ない、などの理由がある。
これら400Hz機器を整備・メンテナンスのために地上で稼働させるときは、実機と同じ条件で動作させる必要があり、通常の商用電源装置ではなく400Hzが出力できる専用の交流電源が使われる(需要があるので各電源メーカがつくっている)。実際の使用環境を模擬した電源条件で評価を行うことができるモデルは研開発用途や評価試験にも使用される。
(株)計測技術研究所には400Hz出力に特化した「QUAD Ene-phant® QAシリーズ」がある。ラインアップは出力容量15kVAのモデルQA-15K-T4-4から90kVAのQA-90K-T4-4まで4モデルあり、周波数は360Hz~440Hzの範囲で可変できる(2026年5月 同社HPより)。航空機や船舶に搭載される設備の地上での試験に使用される。エンジン発電機に代わる地上用電源として使用できる(400Hz±40Hzで周波数を可変できるので周波数変動試験も可能)。電源ケーブル長が遠距離になると生じる電圧降下をキャンセルする「電圧リモートセンス」を標準搭載し、供給電源と機体が離れている格納庫(ハンガー)内での使用に対応している。ただし品名は交流電源ではなく「周波数変換器(三相出力400Hz専用)」である。このモデルの同社の位置付けは「商用電源(50/60Hz)を航空・船舶用途の400Hzへ変換し、安定して供給する周波数変換器」である。QUAD Ene-phant® QAシリーズは大容量プログラマブル交流電源として単相、三相、600Vの3ラインアップと、周波数変換器の三相400Hzモデルがある(2023年8月にこのラインアップになっている)。
菊水電子工業(株)のHPには「航空・宇宙電子機器の電源ソリューション(Aerospace Electronics Power Solutions)」が掲載されている(2026年5月)。当然、400Hzに対応する製品がある。PCRシリーズには400Hzを含む高周波出力が可能なモデルがあり、航空機搭載機器の開発・評価環境に最適なソリューションを提供する高精度・高性能な交流安定化電源(CVCF)である、と説明している。
同社はViavi Solutions社(旧Aeroflex / IFR)のRF測定器や無線機テスタ、アビオニクス試験機の国内総代理店をしている。同社はマルコーニ時代から無線通信測定器(無線機テスタや信号発生器など)を取り扱ってきたので、Viavi(ビアビ)になった現在でも商権を継続している。菊水電子工業はベンチトップの直流電源で有名だが、(知る人はほとんどいなくなったが)2000年代初頭まではオシロスコープをつくっていた(1980年頃に神奈川県の優良企業を紹介した冊子で菊水は「自社の主力事業はオシロスコープ」と述べている)。現在はEMC分野の計測機器のラインアップもある(つまり単なる電源メーカではない)。mova(ムーバ)端末の発売など、1990年代から日本の携帯電話は普及したが、同社は早くからマルコーニの無線機テスタを取り扱うなど、しっかり通信計測器の市場にも参入している。当時、実利がどれだけあったかは不明だが、現在の同社ラインアップ(アビオニクス市場へのソリューション提供)につながっているのは先見の明がある(目利きである)と筆者は思う。
1895年に実用的な無線電信技術を開発したグリエルモ・マルコーニ(Guglielmo Marconi)は、1897年にその技術を事業化するために「マルコーニ無線電信会社」を英国で設立した。Marconi(マルコーニまたはマルコニー)といえば、無線電信通信の老舗企業である。マルコーニの計測器部門「マルコーニ・インスツルメンツ」はAeroflex(エアロフレックス)に買収・統合され、マルコーニの無線通信機器事業はAeroflexへ引き継がれ、その後さらにViavi Solutions(ビアビ・ソリューションズ)の傘下になった。ローデ・シュワルツやアンリツを知らなくても、マルコーニが世界初の無線電信をしたことは多くの電気技術者が知っている。

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