絶縁
(insulation、isolation)
一般に絶縁とは「縁を絶つ」 = 「関係を断ち切ること、縁切り」だが、電気用語では「電流が伝わるのを絶つ」という意味で使う。電気における絶縁とは、電気機器や電子回路で感電防止や電位の分離のために、不導体を用いて「電流を遮断する」ことを意味する。電気工事などの現場で使われる基本用語である。
「絶縁」を意味する英語はinsulationとisolationがあり、両者は電気工学では違う意味だが、日本語では2つとも「絶縁」と表記される。insulationは2点間の電気抵抗が非常に大きく、電圧を加えても電流が流れない状態。絶縁が保てなくなると一方から他方へ放電が起こる(絶縁破壊)。自然現象の落雷(かみなり)は良く知られている。そのため、ここでいう「非常に大きな電気抵抗」を絶縁抵抗と呼ぶ。絶縁抵抗は高抵抗(高い電気抵抗)のことだが、測定器は高抵抗計ではなく絶縁抵抗計と呼ばれている。他方、isolationは「電気的に分離された状態」を指し、信号や電力は伝達されるが導体は分離されている状態を意味している。正確な日本語にすると「絶縁分離」といえる。
insulation(インスレーション)の例
受配電に使われる高圧や特別高圧の電気機器(キュービクルなど)は絶縁抵抗計で絶縁抵抗の状態を定期測定して、あるべき絶縁が保たれ、「漏電がない、感電の危険がない」ことを確認している。ここで使われるハンドヘルドの絶縁抵抗計をメガーという。共立電気計器や日置電機、三和電気計器、カスタム、マルチ計測器、横河計測などの現場測定器をラインアップするメーカがつくっている。絶縁抵抗の検査は、正確な電気抵抗の値ではなく、非常に高い抵抗であることのチェックなので、メガーはアナログの指示計器(針が振れて測定値を指示する)が主流である。最近はバーコードや音で抵抗の大きさを示すデジタル式メガーも増えている。つまり、デジタル表示で数値を見るよりも、針の振れ具合で瞬時に絶縁が保たれていることを素早く確認するのがメガーの使い方である。
菊水電子工業HPの製品情報ページでは直流電源、交流電源の次(3番目)に「安全関連試験機器」が掲載されている(2025年現在)。ここには「耐電圧・絶縁抵抗試験器」のTOSシリーズが並んでいる。電気用品安全法などの世界各国の安全規格に対応した安全関連試験機器である。たとえば病院で使われる医療機器は安全規格で絶縁抵抗が定められ、医療機器メーカはTOSシリーズのような測定器で設計から製造までの各工程で確認をしている。日置も絶縁抵抗計(メガー)とは別に「安全規格測定器」のタイトルで絶縁・耐電圧試験器や漏れ電流試験器をラインアップしている(2025年、HPより)。一口に絶縁抵抗の測定器といっても、その用途によって広範で素人にはわかりにくい。メガーには接地抵抗計の機能を持つ「接地・絶縁抵抗計」なるモデルもある。
isolation(アイソレーション)の例
電磁誘導によって電力を伝達するトランスや光で信号を伝達するフォトカプラは絶縁の電気部品である。信号や電力は伝達されるが導体は分離されている状態なので、ここでいう絶縁は「分離・隔離」に近い概念といえる。絶縁を目的としたトランスを絶縁トランスと呼び、絶縁増幅器もある。
データロガーなどの記録計(レコーダ)の入力は絶縁されているが、一般のオシロスコープは非絶縁である。特別に絶縁入力にしたモデル(絶縁型オシロスコープ)も少ないながらある。横河計測のスコープコーダはレコーダとオシロスコープの両機能があり、絶縁型オシロスコープに近いレコーダである。DUTからオシロスコープまでを光信号に変換して伝送する光絶縁プローブは光アイソレーションプローブとも呼ばれる(光インスレーションプローブではない)。isolationは電気機器や計測器で多くの用途に使用されている。
このように日本語の「絶縁」は広い意味があるので、理解するのが簡単ではない概念である。


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