絶縁型オシロスコープ
(isolated type oscilloscope)
信号の入力部が絶縁入力仕様のオシロスコープ(オシロ)。「絶縁入力オシロ」とも呼ばれるが、品名からは判別ができない。オシロの分類として「絶縁型オシロ」という名称が正式にあるわけではない(※)。
オシロにプローブを接続する際に注意すべき最も大事なことはグランドである。周波数帯域が高くないレコーダやデータロガーなどは絶縁入力が基本(標準仕様)だが、通常のオシロは非絶縁である。プローブの入力グランドは共通で、シャーシ(計測器本体の筐体)に接続されている。電源プラグが適切にコンセントに接続されていればシャーシは大地グランドにつながる。つまり接続されたプローブのグランドはすべて共通でグランドにつながる。たとえば商用電源(AC100V)をオシロスコープで測定しようとしてプローブを接続したらショートして、ブレーカが落ちる、機器が壊れる、プローブが熔ける、というような事故が起きる可能性がある。そのため、フローティング電圧の測定には、絶縁型オシロや差動
プローブが使用される。
屋外での使用を想定したハンドヘルドの縦型モデルに絶縁型オシロが多く、フルークの190やテクトロニクスのTHS3000がある。現場用の可搬型測定器は大手以外の多くのメーカがあり、海外メーカのSiglent(シグレント、中華系オシロスコープの計測器メーカ)などもラインアップがある。テクトロニクスにはポータブルサイズの絶縁型オシロとしてTPS2000シリーズがある。TPS2000の特長は「フローティング測定のために設計された、グランド間およびチャンネル間が絶縁されたオシロで、標準でバッテリが付属しているため屋外でのアプリケーションにも使用可能」とある。
横河計測のスコープコーダ(DL850、DL950、DL350など)をTPS2000の同等品として絶縁型オシロとみなす向きもあるが、スコープコーダはレコーダ(DAQ)なので解釈はわかれる(形名は同社のオシロと同じDL(デイーエル)ではあるが)。
テクトロニクスとフルークは2007年から親会社が同じである(持ち株会社、フォーティブ)。両社は日本では同じ場所(品川のビルの同フロア)にいる。テクトロニクスの会社名は「株式会社テクトロニクス&フルーク テクトロニクス社」になった(2022年1月現在)。THS3000やTPS2000はすでに生産中止で、後継品はない(2023年7月現在)。絶縁型オシロはフルークがラインアップしている。テクトロニクスはフルークと重複するモデルを避けているわけではなく、絶縁型オシロの新製品を開発するだけの市場規模が見込めないと判断していると思われる(オシロのプローブで絶縁対策を施した光アイソレーションプローブは、注力してラインアップしている)。前述のスコープコーダはTPS2000と基本仕様はほとんど変わらないが、実態は(日置電機のメモリハイコーダのような)メモリレコーダで、オシロではない(筆者の解釈)。
オシロの種類の中で大きな売上を占める広帯域オシロスコープ、別名高速オシロも品名などの名称には全く表記されず、カタログで仕様を確認しないとわからない。この点がサンプリングオシロスコープなどと異なる。どういう基準で品名が命名されるかはメーカの自由(メーカの内部基準)であり、ユーザも含めた外部の計測器関係者には謎である。オシロの品名の命名基準(メーカの深慮遠謀)をご存じの方はぜひご教授ください。
計測器情報:横河計測のスコープコーダ