拡張トリガ
(enhanced trigger)
オシロスコープは1950年代にトリガ掃引式が標準になり、エッジトリガ機能が装備された。1990年代はデジタルオシロスコープが普及し始めたが、同時にエッジトリガ以外のデバッグ用途のトリガ機能が開発されていった。これらのエッジトリガ以外のトリガ機能(トリガタイプ)は拡張トリガと呼ばれた。
拡張トリガは、特定の波形に簡単にトリガがかかるようにすることで、オシロスコープのデバッグ力を向上させた。いまやオシロスコープは波形の観測にとどまらず、不具合のデバッグができることで使用する技術者が広がった。オシロスコープは通常4チャンネルが普通なので、トリガにかかった異常波形を画面に表示させ、異常の原因になったと思われる過去の波形を探して別チャンネルに表示し、同時観測してデバッグを進めることができるようになった。
enhancedは「強化された」という意味。たとえば横河計測のDLM3000シリーズのトリガ操作部には「EDGE」と「ENHANCED」の2つのボタンが並び、これは「エッジトリガ」か「拡張トリガ」のどちらを選択するかを選ぶボタンである。テクトロニクスの技術資料「3シリーズMDO 印刷可能ヘルプ」には拡張トリガとして、パルス幅のトリガ・イベント、連続イベントのトリガ(AトリガとBトリガ、シーケンストリガのセットアップ)、シリアル・バスにトリガを設定、などのサブタイトルで説明がされている
テクトロニクスは冊子「オシロの上級活用法を身につける~オシロスコープ基礎の基礎 組込みエンジニア必須のスキル」(日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長 稲垣 正一郎 著)の第2章/3章で拡張トリガについて解説している。次の7つ、パルス幅トリガ、ラントトリガ、ロジックトリガ(一般にはパターントリガ)、セットアップ&ホールトリガ、立上り/立下りトリガ(一般には立ち上がり/立ち下がり時間トリガ)、ビデオトリガ、バストリガ(一般にはシリアルトリガ)を説明している。
この技術資料では拡張トリガということばがあるが、「3シリーズMDOのデータシート」ではトリガタイプとしてエッジの次にシーケンス(Bトリガ)、パルス幅・・と列記して説明し、拡張トリガということばはない。最近のエントリークラスからミドルクラスのモデルには、10程度のトリガタイプが標準装備しているので、現在では拡張トリガということばはあまり使われなくなっている。
テクトロニクスがミドルクラスのタブレット型モデルとして2022年6月に発売した2シリーズMSOは、エッジトリガ以外に7つのトリガタイプがある(オプションのシリアルトリガは8種類)。これらトリガについてデータシートなどの説明資料では「拡張トリガ」という表記はない。2023年1月に同社HPに公開された「2シリーズMSOのラントトリガ」という動画の説明文では「高度なトリガ」として紹介している。エッジトリガ以外を「拡張トリガ」ではなく「高度なトリガ」と表現するようになっている例である。
横河計測は最新モデル(2023年6月発売、DLM5000HDシリーズ)でも、トリガ操作部には次の4つのボタンがある。左上からEDGE(エッジトリガの選択)、その右にENHANCED(エンジトリガ以外の選択)、左下にMODE(トリガモードの選択)、その右にB TRIG(Bトリガの選択)。MODE以外の3つは同社のオシロスコープの特長的なボタンである。テクトロニクスの3リシーズMDOのトリガ操作部には上からFORCE(force trigger、強制トリガ)、SLOPE(トリガスロープの選択)とMODEの3つのボタンがある。キーサイト・テクノロジーのInfiniiVision 3000G XシリーズのTRIG操作部には左上からTrigger、Force Trigger、Mode/Coupling(トリガモードとトリガカップリングの選択)の3つのボタンがある。岩崎通信機の最新モデルDS-8000シリーズのTRIG操作部には上からAUTO、NORMAL、SINGLEのボタンがある(これらは3種類のトリガモードの選択ボタン)。つまり主要なオシロスコープメーカのミドルクラスの売れ筋モデルには、ENHANCEDなるボタンは横河計測以外にはない。


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