偏波モード分散
(polarization mode dispersion)
分散とは、光ファイバに入力されたパルス波形が、伝搬する間にパルス波形の幅が広がる現象をいう。これによって隣接パルスとの符号間干渉が生じて通信エラーの原因になる。シングルモードファイバは、1つのモードで伝搬しているが、正確には直交する2つの偏光モードで伝搬している。光ファイバのコアは理想的には真円だが、実際にはケーブルが曲がると側面からの外圧で真円ではなくなり、2つの偏光モードの伝搬速度に差ができて信号波形が劣化する。この現象をPolarization Mode Dispersionと呼び、日本語では「偏波モード分散」や略記のPMDと表記される。高速の光ファイバ伝送システムでは、性能を制限する一因になるため、重要な指標である。
PMD測定器は現在の国産メーカはつくっていない。日本の光ファイバ通信インフラを構築したNTTに、1970年代から1990年代まで多くの光通信測定器を納品したアンリツ、安藤電気は、波長によって伝搬速度が違うことで生じる波長分散の測定器は、光ファイバの重要な評価装置として1980年代にラインアップしたが、光部品一般に使われる偏波コントローラ(偏波スクランブラ)やPMD測定器は標準品としてはつくらなかった、と筆者は記憶している。アドバンテスト(旧タケダ理研工業)は、まだ通信計測器に注力していた2002年頃に「PMDにも対応した光ネットワークアナライザ」と謳ったQ7760A 光ネットワークアナライザを販売していた(品名はネットワークアナライザだが、光部品を評価する光測定器である)が、同社は2010年頃に計測器の事業から撤退してしまったので、現在は販売終了。電電ファミリーではないアドバンテストは研究開発用途が大きい光部品の評価用測定器に注力していた(当時の偏波スクランブラでは同社のQ8163が有名)。アンリツのOTDR CMA500aにはPMD測定モジュールがあった(2012年頃)が、製造中止である。横河計測はPMD測定器をラインアップしていない。アンリツや安藤電気(現横河計測)が光ファイバ用の、OTDRをつくり続けているのは国内の市場規模が大きいからである。PMD測定器の需要が国内には少ないために国産メーカはつくっていないと推測される。
もう1社、光コンポーネントの評価に注力し続けているのがキーサイト・テクノロジーである。同社は2000年頃まではの光パワーメータから光スペクトラムアナライザ、OTDRまで多くの光測定器をラインアップした光計測器の世界No.1メーカだったが、2000年当初の光海底ケーブルバブルで、光測定器のモデルを大幅に縮小した。OPMと光源という基本測定器に特化し、光スペクトラムアナライザやOTDRなどから撤退したが、光コンポーネント評価用のモデルは継続した。同社の2024年現在の現役モデル、N7788C 光学コンポーネント・アナライザは、偏光制御機能と分析機能の両方があり、測定範囲0ps~300psでPMDを測定できる。ただし、同社にPMD専用測定器はない。現在、PMD専用測定器はLuna(※)などの海外メーカが提供している。
(※) Luna Innovations Incorporated(本社:米国バージニア州)は、光の測定・制御をキーワードに、偏波、位相も含めた測定器やモジュールを提供するメーカ。光ファイバセンサ、計測装置、テスト機器の開発・製造をしている。「光通信用ファイバコンポーネント・測定器」のLuna(ルナ)と呼称される。PMDは、元はGeneral Photonics社だったが、2019年にLUNA Innnovations社に買収・統合された。
LunaのPMDは有名だが、日本法人はない。光関連機器・部品の商社が代理店をしている。株式会社オプトサイエンス、アイウェーヴ株式会社、株式会社ハイテックなど、EXFO(エクスフォ)を取り扱っている商社がLunaも扱っている。「PMDの国産メーカがなく、海外で有名なLunaの日本法人もない」ことは、国内ではPMDの需要が少ないことを意味している。
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