ズーム電源
(DC power supply with zoom function)
広い出力範囲を持つ計測用DC電源の名称。主に高砂製作所の製品の品名になっている。
一般的な直流安定化電源は単一のレンジを持ち、出力できる範囲を電流と電圧で規定している。たとえば高砂製作所のGPシリーズの「GP035-5」は「出力電圧0~35V、出力電流0~5A」で、電圧/電流を最大35V/5Aまでの範囲で自由に設定できる。つまり35V/5Aレンジの製品である。ユーザが望む(使いたい)電圧と電流の組み合わせは多様なので、計測用電源メーカは同じシリーズ(たとえばGPシリーズ)でも多くのモデル(電圧/電流の組み合わせ)をラインアップしている。これは大きなレンジのモデルが小さなレンジのモデルの代わりにはならない(大は小を兼ねない)ことを意味する。ユーザは何種類もの電源を用意するため、電気エンジニアの実験室には多くのDC電源が保有されている。
最新の計測用電源を率先して開発・リリースしてきた高砂製作所は「一定範囲の中で焦点を合わせられるカメラのズーム機能のように、ある程度の電圧・電流範囲を1台でカバーする広い出力の電源があれば、従来の単一レンジの複数台を1台にでき、資産がスリム化され顧客に喜ばれる」と考えた。電圧・電流の最大値でなく電力(容量)で仕様を規定した、新しいコンセプトの「ズーム電源」EXシリーズを1991年に発売した。機能を進化したエンハンスド・モデルやシリーズ化を進めて、EX Ⅱ、HX、ZXなどを発売し、現在はZX-S、KX-Sの2シリーズをラインアップしている(2023年6月現在)。
ズーム電源の登場によって、同業の菊水電子工業やテクシオ・テクノロジーなどが同しコンセプトの電源を「ワイドレンジ電源」の名称で発売した。「電力で規定したスイッチング方式の直流安定化電源」は2010年代には各社の主力製品となった。「ワイドレンジ」(キーサイトは「オートレンジ」と呼称)はDC電源の新しいカテゴリーとして確立した(ズームと呼称しているのは高砂製作所だけで他社はワイドレンジが多いため、当サイトでは「ワイドレンジ」と呼ぶ)。
計測器情報:ズーム電源の例