シリアルトリガ
(serial trigger)
2000年代初頭に、それまでのパラレル通信から高速なシリアル通信に通信方式の大きな変換が起きた。SATA、USB、PCI Expressなどである。2000年代は新しい情報家電製品としてデジタルカメラや大型デイスプレイ、DVDレコーダなどが登場し、これらの製品に小型で高速なシリアル通信の各種規格が採用されていった。USB2.0(480Mbps)の制定は2000年4月である。USB2.0の伝送速度は今となっては速くはないが、当時は十分に高速で、高速シリアル通信の走りである。2005年には、高速シリアル通信のアナライザとして高速オシロスコープが登場する(キーサイト・テクノロジーの54855A、周波数帯域6GHz)。シリアル通信(シリアルバス)の各種規格の特徴を捉えてトリガをかける機能(トリガタイプ)をシリアルトリガと称している。
シリアル通信は高速だけではなく低速な規格もつくられた。テクトロニクスが2008年に発売したDPO3000シリーズ(周波数帯域100M~500MHz)にはオプションで「DPO3EMBD 組込みシリアル・トリガ&解析モジュール」があった。2000年代に組込みシステムなどに普及したシリアル通信規格のI2C、SPIに対応したトリガを提供した、低速シリアルトリガの走りの製品である。I2CとPSIのパケット・レベルでトリガがかけられた。信号のデジタル表示やデコードしたデータの表示など、バス解析を行うツールで、組込み機器の設計、デバッグをするエンジニアに重宝された。DPO3EMBDはソフトウェアではなくドングルで、DPO3000本体に挿入するとトリガ機能が使用できた。この方式はDPO4000シリーズから導入されている。
同じく2008年に横河電機(現横河計測)が発売したDLM2000シリーズ(形名7101xx、DL1740/DL9000以降に発売された同社のMSO初号器)にはオプションソフトウェアで、F2(I2C+SPIトリガ&解析)、F3(UART+I2C+SPIトリガ&解析)があった。ただし、本体購入時にF2やF3を指定しないと、購入後に追加するにはメーカ引き取り改造となり、メーカサイドも営業ではなくサービス部門の扱い(修理と同じ)なので、納期などを含めてユーザには大変手間がかかった(DLシリーズとその後継のDLMシリーズはすべて同じ)。テクトロニクスはドングル(ハードウェア)の追加購入なので在庫があれば即納だが、横河は修理扱いなのでサービス部門の工程いかんで、「納期未定、1か月位かかると思ってください」という趣旨の回答が普通だった。国内の汎用オシロスコープ市場を1980年代から2010年代頃まで2分したテクトロニクスと横河だが、両者の設計ポリシーには大きな違いがある。横河は「オプションは初めに本体購入時にすべて選んで付けてください。後から追加はできますが、メーカ引き取り改造なので時間と手間がかかります」という設計思想である。
2020年7月時点で、キーサイト・テクノロジーのInfiniiscan(インフィニスキャン)にはシリアルトリガ機能があり、シリアル通信の連続したパターン(たとえば1010111など)を指定してトリガをかけて、波形表示ができた。レクロイのオシロスコープにはソフトウェアオプションとして「シリアルトリガとデコード」と題した項目に数十の製品がある(2024年9月)。たとえばWM8Zi-AudioBus TDはWaveMaster 8Zi(周波数帯域16GHz)の「AudioBusのトリガとデコード」をするオプションで、デジタルオーディオのシリアルデータをアナログ波形で表示できる。同社HPには「Serial AudioBusトリガ、デコード、およびグラフのパッケージで、デジタル オーディオ バスを適切に分析、デバッグするために必要なすべてのツールを提供している」旨が記載されている。
このようにシリアルトリガは2000年以降にオシロスコープに標準搭載(規格によってはオプション)になったトリガタイプで、新しい規格の登場や規格のヴァージョンアップがあると、オシロスコープも追従して新しい製品を発売している。ミドルクラスでもシリアルバス解析が主流な機能になったことが、以下の参考記事「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」に詳しい。
テクトロニクスがは広帯域オシロスコープのトリガ機能を解説した冊子、「トリガ入門 DPO7000シリーズ、DPO/DSA70000Bシリーズ、MSO70000シリーズのPinpoint®トリガとイベント・サーチ/マーク機能について」には、シリアルデータのパターンを指定して、合致するパターンでトリガをかける「シリアル・パターン・トリガ」が説明されている。これは前述のキーサイト・テクノロジーのシリアルトリガと同じである。ただし名称がシリアルトリガではなく「シリアル・パターン・トリガ」である。ミドルクラスよりも周波数帯域が上のモデルではトリガ機能が高度化、複雑化していて、多くの種類のトリガ機能(トリガタイプ)があり、メーカによってその内容、名称は異なる。ミドルクラスで普及したシリアルトリガは、今後機能や名称が変わる可能性がある。つまりシリアルトリガは進歩している。


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