クリップ正弦波
(clipped sine wave)
正弦波(サイン波)の山と谷の先端(各ピーク)が平らに削り取られた(クリップされた)波形。完全な正弦波よりも矩形波(くけいは、方形波)に近い歪んだ形状のため高調波を多く含み、電力変換回路などで使用され、モータや電子機器への過熱・破損リスクを低減する。
clip(クリップ)は「留める」以外に「切る」「刈り込む」「切り揃える」の意味があり、ここでは「(ピークを)平らに刈り揃えた」という意味。電子回路や音響、画像処理ではクリッピング(clipping)は信号の「飽和(saturation、サチレーション)と同義。そのためクリップ正弦波は別名「飽和正弦波」と呼ばれる。「クリップ = 飽和」はなかなか想像が及ばない。クリップ正弦波は「正弦波の頂点がクリッピング(飽和)により平坦化された波形。別名、飽和正弦波。」とも説明できる。
音響機器ではパワーアンプが最大出力を超えて、信号が歪み矩形波に近づくと、音が歪みスピーカの破損につながる。クリップ正弦波を「アンプがサチっている(入力オーバーで飽和している)」と表現することもできる。電源(インバータ)では修正正弦波(疑似正弦波)の一種として扱われることがある。クリップ正弦波は修正正弦波(擬似正弦波)ほど平坦部分が大きくないが、どちらも高調波を多く含むことは同じ。
試験用交流電源の拡張機能として、クリップ正弦波の出力機能がある。エヌエフ回路設計ブロックが2023年10月発売のモデルDP020ASは出力波形を正弦波とクリップ正弦波のどちらかに選択できる。クリップ正弦波の設定は電圧または周波数、クリップ率(かクレストファクタ)の3種類から選択できる。同社HPの技術用語集 「パラメタ可変波形」では、「波形頭部をクリップする割合をパラメタとして設定できると、容易に飽和正弦波を作成でき、クリップ率を変えて各種試験信号として使用することができる。各種パラメタを設定できる発振機能が“パラメタ可変波形”機能である」旨が解説されている。当然ながら同社のマルチファンクションジェネレータ WAVE FACTRY WF19xxシリーズには「パラメタ可変波形機能」が装備されている。クリップ正弦波はファンクションジェネレータ(信号発生器)や交流電源(計測用電源)の用語といえる。
クリッピング(clipping)は、全体から特定の「切り抜き・切り出し・制限」を行うことを指す英語である。第一には広報・マーケティング(メディアのクリッピング)で「メディア調査、記事収集」の意味で使われている。計測器のクリップ正弦波はクリッピングの用例には出てこない。新聞記事の「切り抜き」を指すクリッピングの方がメジャーである。

.png)