計測関連用語集

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スコープコーダ(すこーぷこーだ)

(scope coder) 横河計測のメモリレコーダ(現在のレコーダの主流の、メモリに蓄積して表示するデジタル式のレコーダ)の品名。通称(現在の同社では形名)は同社のオシロスコープ(オシロ)と同じDL。実体はレコーダだが、オシロと同じ名称をつけたのにはメーカ内部の深い事情が推察される。横河には2系統のレコーダがある。 まずは工業計器のセンサとして主に温度を記録するもの。横河電機はIA(インダストリー・オートメーション)/FA(ファクトリー・オートメーション)の会社なので、プラントや工場の温度を記録する目的のレコーダをソリューション部門がラインアップしている。特長はペーパーレスで、離れた場所の中央監視室(制御室)にデータを送る。本体や表示画面は無く、入力信号の種類別のモジュールを電源モジュールなどにスタック(横に重ねて付けて伸ばしていく)ようなタイプもある。工場内のデータ集録を第一の主眼にしている。同業者の代表メーカはチノーなどで、いわゆる電気計測器メーカではない。 次が計測器の主流であるレコーダ。日置電機のメモリハイコーダや、エー・アンド・デイ (旧三栄測器)のオムニエースのような、計測器としての記録計の王道の機種群。ここに位置するのがスコープコーダで、横河電機の計測器事業部だった現横河計測がつくった。横河のレコーダというと前述の工業計器のレコーダ(μRやDARWIN)が一番に連想されるので、そうではなく計測器事業部が作った(計測器としての)レコーダである、と計測器事業部の看板商品のDLの名前を付けたと筆者は推測している。そのため、レコーダなのに、オシロです、という体をしていた。 あるレンタル会社はDLという名前に配慮して、オシロのページにスコープコーダを掲載していた。ところが横河計測のホームページでは「オシロ/波形測定器」ではなく「データロガー/データ収集(DAQ)」の項目に「高速データロガー」の注釈で掲載されていた(2023年2月現在)。スコープコーダは「レコーダのようなオシロ」(つまりレコーダではなくオシロであるという主張)で登場したはずなのに、一体いつオシロからレコーダに豹変したのか!と筆者は驚いたが、2023年10月現在、オシロとデータロガーの両方のページに掲載されている。つまりオシロでもありレコーダでもある(両方のいいとこどりをした、中間の仕様の製品)という趣旨である。 スコープコーダの前身の1種にオシログラフィックレコーダ(OR1400など)というオシロのような品名のレコーダがあった。このように横河の計測器部門にはレコーダとオシロの混血のような品名が登場する。「スコープコーダはAR(アナライジングレコーダ)の後継である」とメーカはその出自を説明している(参考記事を参照)。 当サイトのカテゴリー(機種分類)では、オシロの中に「レコーダオシロ」という分類をつくり、スコープコーダを掲載している(DLという名称やメーカの趣旨に沿って、特別にこの分類を作成した)。 2010年代にオシロの3大メーカ(テクトロニクス、キーサイト・テクノロジー、レクロイ)はADコンバータが8ビット以上の高分解能オシロスコープを発売したが、横河計測には12ビット分解能のスコープコーダがあるので、同社は前3社と同様な高分解能オシロスコープをラインアップしていない(参考記事の8チャンネルオシロを参照)。ただし、2023年5月に初めての8ビット以上のモデルDLM5000HD(12ビット分解能)を発売した。高分解能モデルと同様に2017年~2020年にかけて多チャンネルオシロの発売が続いた(前述3メーカは横河計測がオンリーワンだった8chモデル市場に参入した)。横河計測は8chの最新モデルDLM5000を2020年8月に発売したが、アナログオシロ時代の老舗、岩崎通信機は同年11月に12ビットの8chモデル、DS-8000を発売した。前述3メーカの8chモデルも同様に10~12ビットの高分解能で、唯一横河計測だけが従来の8ビットだった。テクトロニクスはミドルクラスのオシロのラインアップは高分解能(8ビット以上)が標準である(2023年現在)。つまりオシロの主流は知らない間に高分解能になっていた。

Streamline(すとりーむらいん)

キーサイト・テクノロジーの「コンパクトUSB計測器」と称されるPCとUSB接続して使用する測定器群の通称(愛称)。2010年代後半に発売され、IQ信号任意波形発生器、オシロスコープ、ベクトル・ネットワーク・アナライザなどのラインアップがある(2021年4月現在)。特に2018年以降ネットワークアナライザの機種数が増えた。「Windows 7 または 10(64ビット)の PCとUSB3.0で接続するだけで、ベンチトップ型の計測器相当の高性能を省スペースで実現できる」ことが売りである(同社製品カタログ5992-2994JAJP 0000-08cSより) 。

スロープ(すろーぷ)

(slope) オシロスコープで観測する立ち上がりや立ち下がりの波形は傾斜(勾配)なので、スロープと表現されることが多い。スロープはエッジとも呼ばれ、スロープが一定の電圧(トリガレベル)になったときにトリガを発動するのがエッジトリガである。エッジトリガはオシロスコープの最も基本の機能なので、「立ち上がりスロープでトリガをかける」や「トリガスロープ」などの表現が頻繁にされる。 スロープ:グラフやオシロスコープの画面上の斜線で、垂直軸と水平軸の比を表す。正のスロープは左から右へ上り、負のスロープは左から右へ下る(2017年発行 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」より)。 スロープ:グラフや画面上に表示される線で、垂直軸の距離と水平軸の距離の比率で表す(テクトロニクスの冊子「信号発生器のすべて」より)。

絶縁型オシロスコープ(ぜつえんがたおしろすこーぷ)

(isolated type oscilloscope) 信号の入力部が絶縁入力仕様のオシロスコープ(オシロ)。「絶縁入力オシロ」とも呼ばれるが、品名からは判別ができない。オシロの分類として「絶縁型オシロ」という名称が正式にあるわけではない(※)。 オシロにプローブを接続する際に注意すべき最も大事なことはグランドである。周波数帯域が高くないレコーダやデータロガーなどは絶縁入力が基本(標準仕様)だが、通常のオシロは非絶縁である。プローブの入力グランドは共通で、シャーシ(計測器本体の筐体)に接続されている。電源プラグが適切にコンセントに接続されていればシャーシは大地グランドにつながる。つまり接続されたプローブのグランドはすべて共通でグランドにつながる。たとえば商用電源(AC100V)をオシロスコープで測定しようとしてプローブを接続したらショートして、ブレーカが落ちる、機器が壊れる、プローブが熔ける、というような事故が起きる可能性がある。そのため、フローティング電圧の測定には、絶縁型オシロや差動 プローブが使用される。 屋外での使用を想定したハンドヘルドの縦型モデルに絶縁型オシロが多く、フルークの190やテクトロニクスのTHS3000がある。現場用の可搬型測定器は大手以外の多くのメーカがあり、海外メーカのSiglent(シグレント、中華系オシロスコープの計測器メーカ)などもラインアップがある。テクトロニクスにはポータブルサイズの絶縁型オシロとしてTPS2000シリーズがある。TPS2000の特長は「フローティング測定のために設計された、グランド間およびチャンネル間が絶縁されたオシロで、標準でバッテリが付属しているため屋外でのアプリケーションにも使用可能」とある。 横河計測のスコープコーダ(DL850、DL950、DL350など)をTPS2000の同等品として絶縁型オシロとみなす向きもあるが、スコープコーダはレコーダ(DAQ)なので解釈はわかれる(形名は同社のオシロと同じDL(デイーエル)ではあるが)。 テクトロニクスとフルークは2007年から親会社が同じである(持ち株会社、フォーティブ)。両社は日本では同じ場所(品川のビルの同フロア)にいる。テクトロニクスの会社名は「株式会社テクトロニクス&フルーク テクトロニクス社」になった(2022年1月現在)。THS3000やTPS2000はすでに生産中止で、後継品はない(2023年7月現在)。絶縁型オシロはフルークがラインアップしている。テクトロニクスはフルークと重複するモデルを避けているわけではなく、絶縁型オシロの新製品を開発するだけの市場規模が見込めないと判断していると思われる(オシロのプローブで絶縁対策を施した光アイソレーションプローブは、注力してラインアップしている)。前述のスコープコーダはTPS2000と基本仕様はほとんど変わらないが、実態は(日置電機のメモリハイコーダのような)メモリレコーダで、オシロではない(筆者の解釈)。 オシロの種類の中で大きな売上を占める広帯域オシロスコープ、別名高速オシロも品名などの名称には全く表記されず、カタログで仕様を確認しないとわからない。この点がサンプリングオシロスコープなどと異なる。どういう基準で品名が命名されるかはメーカの自由(メーカの内部基準)であり、ユーザも含めた外部の計測器関係者には謎である。オシロの品名の命名基準(メーカの深慮遠謀)をご存じの方はぜひご教授ください。 計測器情報:横河計測のスコープコーダ

Z軸(ぜっとじく)

(Z axis) オシロスコープの水平軸(時間)をX軸、垂直軸(電圧、振幅)をY軸と称した場合、表示波形の一部分の明るさを変える「輝度」を3つ目の軸としてZ軸と呼称する。 通常、水平軸は時間だが、2つの信号のうち片方の電圧を水平軸システムに入力するとリサジュー図形が表示される(設定はXYモードにする)。このようにオシロスコープの水平軸や垂直軸はX軸、Y軸と呼ばれることがある。 Z軸:オシロスコープのディスプレイの属性で、トレースが形成されるときの輝度変化を表す(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」の用語解説より)。 テクトロニクスの主力モデルDPOはアナログオシロスコープのような、信号頻度に応じた輝度表示を実現している。DPOのZ軸機能を使って波形トレースを見ると、信号の発生頻度が高い部分は明るく輝くので、基本的な信号波形とめったに発生しない間欠現象を輝度から見分けることができる。他社のオシロスコープでも輝度表示はできるので、テクトロニクスだけの機能ではない。

掃引(そういん)

(sweep) 測定値を画面にグラフ表示する計測器では、波形を描画していくこと。掃引信号発生器は周波数をある範囲で下から上に一定時間で変えていく可変信号発生器で、周波数を安定的に可変することを掃引と呼んでいる。RFやマイクロ波、ミリ波では可変信号発生器をスイーパというが、波長の測定器である光スペクトラムアナライザ(光スペアナ)と併用される波長可変光源は別名 チューナブルレーザー光源といい、スイーパではない。sweepでなくtunableというのは、光源の発信波長(LDの中心波長)を調整できる、という意味である。実態は波長を下から上へ可変(掃引)して、光スペアナで波長特性を測定するので、無線通信のスイーパ(掃引信号発生器)と同じ使い方である。「それならtunableといわずに無線と同じくsweeperといってほしい」と計測器初心者の声が聞こえてくるが、機種群(カテゴリー)によって(同じことでも)異なる表現や用語を使うことが多い(まったく計測器は知っている人達だけのニッチな世界である)。 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年発行)では「掃引:オシロスコープの電子ビームが、CRTディスプレイ上を水平方向に左から右へ移動すること」と解説されている。オシロスコープ(オシロ)も水平軸(時間軸)を掃引していて、最近のモデルは波形更新レートや波形取込レートなどの性能をPRしている。掃引時間と波形更新(取込)レートは定義が異なる。 現在のオシロはCRTを使っていないので、上記の説明はアナログオシロスコープについてである。掃引の説明として「電位を時間に対して振ることにより波形を描画していくこと。一定速度で上昇する電圧によって輝点を左から右へ移動させること。」などがあるが、これは老舗の計測器であるオシロをイメージした解説といえる。掃引の意味には「図形(グラフ)を描画する、輝点を移動する」ことも含まれるが、それは時間とは限らないし、掃引信号発生器は描画していない。 sweepの意味は「掃く」。ほうきで掃くように左から右に波形が現れたり、 周波数が下から上に変化したりすることをsweepと呼称し、日本語では「掃引」という熟語をあてた。

掃引時間(そういんじかん)

オシロスコープ(オシロ)やスペクトラムアナライザ(スペアナ)などの波形表示をする計測器で、表示画面を1回表示しきる時間(表示画面を1回、描画する時間)。掃引速度とも呼ぶ。計測器の表示では「SWP」と表記されることが多い。 スペアナの説明で「掃引時間は、スタート周波数からストップ周波数まで掃引するのに必要な秒数で、指定できる」と記載されているモデルがある(スタートは画面の左端でストップは右端になるので、画面を1回描画する時間である)。このように掃引時間は可変(設定)できることが多い(遅延掃引の機能があるオシロには主掃引、遅延掃引の2つがある)。 またオシロの説明で「掃引時間とは、ブラウン管面上で輝点を水平方向に1div(division、ディビジョン)移動させる時間のこと」という説明を発見した。1divは横軸の1目盛り(約1cm)で、たとえば水平軸を20ns(ナノ秒)に設定すると、1divが20nsで波形表示する。通常のベンチトップのオシロは横軸が10divあるので、「掃引時間は1divを描画する時間」ならば、画面の左から右まで1回表示するのに掃引時間の10倍かかることになる。前述の掃引時間とは「1divを何秒に設定するか」、つまり横軸の表示時間の設定のことをいっていると推測される。メーカによって「掃引時間」の定義が違っている例といえるが、通常は前述のスペアナの例のように画面を1回描画する時間のことである。

掃引速度(そういんそくど)

測定値を画面にグラフ表示する計測器で、横軸の描画速度のこと。オシロスコープでは時間軸、スペクトラムアナライザでは周波数、光スペクトラムアナライザでは波長。 別名:掃引時間。略記:SWP

ソニー・テクトロニクス(そにーてくとろにくす)

(Sony/Tektronix Corporation) テクトロニクス(Tektronix, Inc.)は米国オレゴン州に本社がある、1946年設立の老舗計測器メーカ。オシロスコープ(オシロ)では長らく世界No.1である。1965年にソニーと出資比率50対50の合弁で設立した日本法人がソニー・テクトロニクス株式会社(2002年に合弁解消したので、37年間の会社名)。hp(ヒューレット・パッカード、現キーサイト・テクノロジー)は1963年に横河電機と合弁でYHP(横河ヒューレットパッカード)をつくっている(1998年合弁解消)。高度経済成長の時代(1955年頃~1973年頃)、電子計測器は産業のマザーツールとして最先端のハイテク機器だった。そのため、松下電器は松下通信工業、日立製作所は日立電子、日本電気は安藤電気、など国内の大手電機・通信機器メーカは系列に計測器メーカがあった。電機メーカと計測器メーカは深い関係だった。Tektronixとソニーは同様に戦後すぐの 1946年に設立し、技術優先の思想や商品の独自性という共通する風土があったといわれる。 Tektronixは1946年に世界初のトリガ式オシロスコープ(オシロ)を発明したといわれる(※)。オシロとビデオ関連測定器(TVなどの映像用の信号発生器や波形モニタなど)を多くラインアップした。ソニー・テクトロニクスは1975年に御殿場工場を竣工し、国内で開発・製造を行った。つまり単なる販売店ではなく、AFGなどの信号発生器の事業部(開発部門)が日本にあった時期もある。 2002年に(ソニーとの合弁を解消し)日本テクトロニクスに社名変更。2007年にTektronixが米国の投資会社ダナハー(danaher)の傘下になり、2011年に日本テクトロニクスは(同じくダナハー傘下の)株式会社フルークと合併し、株式会社TFFのテクトロニクス社になる(2016年にダナハーからフォーティブが独立し、現在のTektronixはフォーティブ傘下)。 2012年にはケースレーインスツルメンツ株式会社(データロガーや半導体パラメータアナライザで有名なKEITHLEYの日本法人)と合弁し、会社名は「テクトロニクス社/ケースレーインスツルメンツ社」になる。2019年にTektronixはビデオ事業部をTelestream社に売却して、テレビ・オーディオ測定器から撤退。 2021年には会社名を「株式会社テクトロニクス&フルーク」に変更。Flukeはハンドヘルドのオシロをつくっているが、Tektronixはハンドヘルドの絶縁型オシロのモデルチェンジ(新製品の発売)をしていない。このことは、重複するモデルの調整を2社は行っていることを意味するか否かは不明。日本のケースレーはすでにテクトロニクスと組織が一体になっているが(以下の展示会レポートを参照)、フルークとの融合も今後進むと思われる(2023年4月現在)。 1980年代後半に、オシロをつくっていない大手計測器メーカ(hp、レクロイ、横河電機など)が、“高機能なデジタル化”を切り口にオシロ市場に新規参入しTektronixと競合しているが、いまでもTektronixは世界的なNo.1オシロメーカとして、時代にマッチする新製品を発売し続けている。当サイトが2023年1月に行った読者アンケートでは「使ったことがあるオシロのメーカ」、「好きなオシロメーカ」ともにTektronixがトップである。みんなの投票 第2弾 結果発表 (※)1931年に米国のGeneral Radio社が強制同期式オシロスコープを開発した、など諸説あるので、Tektronix以外に歴史に埋もれた世界初のメーカがあるかもしれない。詳しくは以下記事の「オシロスコープの歴史」を参照されたい。 デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

立ち上がりエッジ(たちあがりえっじ)

(rising edge、leading edge) デジタル信号の電位がLowレベルからHighレベルへ遷移することを言う。反対の用語としては立ち下がりエッジがある。(株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集より) 現在の電子回路はデジタル信号が多く使われている。0と1(HIGHとLOW)のパルス列(方形波)では、信号の立ち上がりや立ち下がりを捉えて処理を行うことは基本である。パルスの値が遷移する時間は短く、パルス波形の端(はじ)やふちなのでedge(エッジ)と呼ばれる。立ち上がりエッジや立ち下がりエッジは、電子機器が動作を行うときの電子回路の合図に使われる。

立ち上がり時間(たちあがりじかん)

(rise time、leading edge time) 立ち上がり時間は電気の基礎用語で、オシロスコープや電源、信号発生器など、計測器に共通で定義されている。逆の時間を立ち下がり時間という。計測器メーカ2社の解説を紹介する。 計測用電源のメーカ、高砂製作所の総合製品カタログ(電源・電子負荷に関する用語)には「入力電源を投入、または出力をONにした後で、出力電圧が10%から90%に変化するのに要する時間」とある。テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)では「パルスが低い電圧から高い電圧に移動するまでの時間で、通常、パルス振幅の10%から90%までの部分」とある。オシロスコープの立ち上がり時間とは、振幅が10%から90%に移る時間(下図のTr)を指す。 パルス用語としては、JIS C 0161(EMCに関するIEV用語)では次のように定義されている。 「パルスの瞬時値が最初に規定した下限値に到達し、その後規定された上限値に到達するまでの時間間隔。特に規定されていない場合、下限・上限値はピーク値の10%及び90%に固定とする。」 下限値と上限値は10%、90%に決まっているわけではなく、場合によっては違う値にすることもできる。たとえばオシロスコープの「 立ち上がり/立ち下がり時間トリガ」では、オシロスコープの使用者が下限値と上限値を設定してトリガをかけることができる。 方形波で、立ち上がり時間が短い信号は高い周波数の成分を多く含んでいる。逆に低い周波数帯域の信号は立ち上がり時間が長くなる。高速なデジタル通信に使われるパルス列にはシステムを十分に正常に動作させる、立ち上がり時間が短い、高速信号(高周波成分を多く含んだ信号)が使われている。 表記は「立上り」、「立ち上り」などもあり、不統一。

立ち下がりエッジ(たちさがりえっじ)

(falling edge、trailing edge) デジタル信号の電位がHighレベルからLowレベルへ遷移することをいう。反対の用語としては立ち上がりエッジがある。(株式会社Sohwa&Sophia Technologiesの用語集より) 現在の電子回路はデジタル信号が多く使われている。0と1(HIGHとLOW)のパルス列(方形波)では、信号の立ち上がりや立ち下がりを捉えて処理を行うことが多い。エッジはパルスの値が遷移する、波形の端(はじ)を意味している。

立ち下がり時間(たちさがりじかん)

(fall time、trailing edge time) オシロスコープの説明でこの用語を解説していることが多いが(立ち上がり時間など)、直流電源のラインアップが最も豊富な計測器メーカである菊水電子工業の製品総合カタログ(電源・電子負荷に関する用語)には、「入力電圧を遮断または出力をOFFした後、出力電圧が90%から10%に変化するのに要する時間」と説明されている。 デジタル信号を扱う場合、立ち上がりや立ち下がりのエッジを捉えて処理をすることは基本である。立ち上がりや立ち下がりの時間はデジタル回路では重要な仕様である。

多チャンネルオシロスコープ(たちゃんねるおしろすこーぷ)

通常のオシロスコープ(オシロ)の入力数は4(または2)チャンネルだが、レコーダ(やデータロガー)は8(または4)チャンネル入力が多い。1980年代に後発でオシロ(デジタルオシロスコープ)に参入した横河電機(現横河計測)は、老舗の記録計(レコーダ、ロガー)メーカで、1993年に8chオシロスコープDL5180を発表した。当時のオシロは最大4チャンネルが標準で、世界オンリーワンの(ベンチトップ、スタンドアロンの1筐体の)多chオシロだった。CDなどの回転体、メカ機構の技術者をユーザにしていた同社は8チャンネルモデルの需要を早くから得ていて、その後もモデルチェンジを続け、2020年夏に5世代目の8chモデルとしてミックスドシグナルタイプのDLM5000シリーズを発表している。 アナログオシロスコープ時代のオシロのトップブランドである岩崎通信機も2020年秋に高分解能オシロスコープ(12ビットADC)の8chモデル、DS-8000シリーズを発売した。高分解能オシロスコープを世界初で発売したテレダイン・レクロイもWaveRunner 8000HDシリーズに8chモデルがある。テクトロニクスも2017年頃に発売した5シリーズMSOや6シリーズMSOに8chモデルがある。とうとう2020年には(岩通のDS-8000と同じ11月に)キーサイト・テクノロジーも8chモデルをラインアップしたInfiniium EXRシリーズを発売した。主要海外オシロメーカが8chモデルを発売したことで、横河計測がオンリーワンではなくなり、「多チャンネルオシロスコープ」というジャンルが確立した。当サイトでは2021年に各社(主要5社)の代表機種を比較をした記事を作成して公開している。 2007年のテクトロニクスのMSO4000シリーズ発売と、その後の各メーカのオシロ品名へのMSOの波及、2012年のレクロイ(現テレダイン・レクロイ)の高分解能モデルの発売とその後のオシロ各社の参入(※)、2017~2020年のオシロ各社の多チャンネル(8ch)オシロのリリース、と近年のオシロは新しいカテゴリ(ジャンル、形態)が生まれている。2022年6月にテクトロニクスは3シリーズMSOの下位モデル「2シリーズMSO」を発表した。外観は通販で売っている10万円以下の簡易オシロであるタブレットモデルだが、周波数500MHzまでの組込みシステム開発をターゲットとしている。省スペースモデルのDLMシリーズで高シェアな横河計測などにタブレットオシロが広がる予感を感じさせる。 (※)横河計測はスコープコーダという8ビット以上のレコーダオシロを1997年からラインアップしているので、高分解能オシロはつくってこなかった。ところが2020年5月発売のDL5000(8ch/8ビット)を、2023年5月にDL5000HD(12ビット)に改良した。これで主要オシロメーカの多チャンネルオシロはすべて高分解能になった。 計測器情報: 岩崎通信機 DS-8000、キーサイト・テクノロジー EXR、テクトロニクス MSO58、テレダイン・レクロイの例、横河計測 DLM5000 多チャンネルオシロは品名には出てこないが、シリーズの代表画像には8chタイプの写真を使っていることが多いので、画像から判断することができる(確実なのは1モデルごとに仕様を確認することである)。 参考記事(以下)は、トップページに比較表と各社モデルの一言コメントを掲載。2ページ目以降の各社モデル紹介は、各メーカが何を特長として紹介しているかに注目。たとえば「プローブのラインアップが多い」など、各社の一番の特長を(多チャンネルモデルだけにフォーカスするのではなく)紹介している。主要オシロメーカのラインアップやカバーする範囲など、各社の特長が伺える。 2010年6月にベンチ・ラボユースのモデルでオシロスコープに参入し、2018年6月には広帯域モデルも揃えてオシロ3大メーカに伍する構えのローデ・シュワルツは、2022年発売のR&S MXO4に始まる新世代オシロシリーズの展開として、2023年11月1日にR&S MXO5(同社初めての8チャネル・オシロスコープ)を発表した。これで8chモデルは海外4社、国内2社の主要オシロメーカがすべてラインアップすることになった。

タブレット型オシロスコープ(たぶれっとがたおしろすこーぷ)

マウスやキーボードの代わりにペンを画面にあてて入力するタッチパネルのノートPCをタブレット型と呼ぶが、同じようなサイズ(画面の大きさや、薄い奥行き)のオシロスコープのこと。「タブレット型」という表現が確立してはいないが、amazonなどのECサイトで「タブレットオシロスコープ」として数万円の商品が掲載されている。それらは主に海外製で、大手計測器メーカ(フルークやキーサイト・テクノロジー)がつくるハンドヘルドのモデルよりも性能が低い、趣味の電子工作ユーザ向けである。 ところが、オシロスコープの世界的トップベンダーであるテクトロニクスはエントリークラスの「3シリーズMSO」の下位機種として、2022年6月に「2シリーズMSO」を発売した。この形状が前述のタブレットオシロスコープと同じである。仕様は最大500MHz周波数帯域で、組込みシステムの開発、デバッグに使えるミドルクラスのオシロスコープである。価格は最低238,000円だが、仕様やオプションによっては百万円以上になる。MSO(ミックスドシグナルオシロスコープ)でタブレット型のモデルが出現したので、「タブレット型オシロスコープ」ということばを解説した。 中国の計測器メーカOWON (オウオン)には可搬型(ハンドヘルド)のオシロスコープがあり、日本でも通販や秋葉原のショップなどで「タブレットデジタルオシロスコープ」が購入できる。OWONは、2000年代に中華系の激安計測器として輸入が始まったGood Will(GW Instek)やRIGOL(リゴル)に次いで、2010年代に日本に上陸した「中華系計測器の第二弾メーカ群」の1社である(2022年に日本法人を設立)。またShanghai MCP Corp.(INSDAC)も可搬型の計測器を多くラインアップする中国の計測器メーカで、ECサイトに周波数、チャンネル別に約10モデルのタブレット型オシロスコープを掲載している。 計測器情報(2シリーズMSO):モデルMSO22、モデルMSO42

単掃引モード(たんそういんもーど)

オシロスコープ のトリガモード の1つで、画面上で信号を1度トリガして停止するもの。(2017年発行 テクトロニクスの冊子「オシロスコープのすべて」より) トリガはオシロスコープの基本機能で、意図した現象(イベント)を捕捉して画面上にに信号波形を表示するもの。トリガタイプ(トリガの種類)はエッジトリガやパルス幅トリガなど10種類以上あるが、トリガのかけ方には3つのモード(トリガモード)がある。ノーマル、オート、シングルの3種類で、上記の冊子でいう単掃引モードはシングルに相当する。通常はシングルモードと呼び、単掃引モードという表現はあまりしていない。

単発信号(たんぱつしんごう)

オシロスコープで1度だけ観測される信号で、過渡的現象(トランジェント・イベント)とも呼ばれる。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)より)

遅延時間軸(ちえんじかんじく)

オシロスコープの掃引を、メイン時間軸掃引からあらかじめ決められた時間だけ相対的に遅らせて開始、またはトリガする時間軸。これにより、メイン時間軸掃引だけでは見ることのできなかったイベントをよりはっきりと観測できる。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)より)

中華系オシロスコープ(ちゅうかけいおしろすこーぷ)

(chinese oscilloscope) 「中華オシロ」とも呼称される。安価なオシロスコープ(オシロ)の代名詞で、2000年頃から国内で販売されるようになり、ECサイトでも購入できる。2020年代には日本法人も増え、広帯域モデルも発売されている。以下に数社の概要を述べる。 1.Good Will(グッドウィル)。Good Will Instrument Co., Ltdは計測用電源メーカとして1975年に台湾で設立。GW Instekがブランド名。日本の販売店はテクシオ・テクノロジー。旧ケンウッドの計測器部門が販売店になっていることは安心感がある。ケンウッド(旧トリオ)はアナログオシロスコープ時代からの老舗計測器メーカで、文教向けのオシロスコープでは実績があった。テクシオ・テクノロジーは2021~2022年にオシロスコープ以外の多くのカテゴリーの新製品(コンパクトAC/DC電源、LCRメータ、デジタルパワーメータなど)を発売している。その多くがGW Instekブランドである。安価なオシロというイメージが先行したが、現在では直流から高周波まで基本測定器を揃える総合計測器メーカで、決して安価なモデルだけではない。 GW Instekブランドのオシロスコープは2000年代前半に日本に上陸した。当時はいまのようにECサイトで計測器を販売はしていなくて、秋葉原の計測器ショップに製品が並ぶなど、計測器販売商社が取り扱った。2006年には日本法人のインステック・ジャパンが設立し、デジタルマルチメータ、直通電源などの低周波の基本測定器だけではなくRF分野のスペクトラムアナライザ(スペアナ)なども、販売・修理・校正の事業を展開したが、2014年にインステック・ジャパンはテクシオ・テクノロジーに吸収された。 2.RIGOL(リゴル)。RIGOL Technologies Co.,Ltd.(普源精電技術有限公司)は1998年に中国・北京で大学生3人が計測器メーカとして創業(社名は3人の名前が由来らしい)。前述1項のGW Instekとほぼ同時期に日本に輸入開始され、リーダー電子が販売店をしていた時期もあったと筆者は記憶している。2015年にリゴルジャパン(日本法人)を設立。オシロスコープのラインアップが多いが、デジタルマルチメータや信号発生器などの基本測定器もある。2019年には6シリーズの新製品を日本市場で発表している(オシロ3、スペアナ1、信号発生器2)。2020年の日本語総合カタログには29機種が掲載されている(オシロ10、スペアナ4、SG2、FGとAWG6、DMM3、DAQ1、DC電源2、電子負荷装置1)。リゴルジャパンのホームページには11シリーズのオシロが掲載されている(2023年1月現在)。中華系計測器メーカとしてはGW Instekに次ぐラインアップであるが、モデルはオシロが主力といえる。月刊トランジスタ技術の2022年の紙面にはRIGOL製オシロで測定した波形が掲載された記事がある。電子機器の自作をする技術者が安価で品質の良いモデルとしてRIGOLを購入していると推測される。2022年度には複数の媒体を使い値引きキャンペーンなどを展開している。 3. OWON(オウオン)。福建のリリパット社(Fujian Lilliput Optoelectronics Technology Co., Ltd.)の計測器ブランド。「OWONは1990年設立、2010年から日本で販売開始、2022年にOWON JAPAN合同会社(日本法人)を設立」(OWON JAPANのホームページより)。オシロスコープはベンチトップだけでなくハンドヘルドやPC接続型のモデルもある。ホームページの販売店情報(2023年1月現在)には、T&Mコーポレーション株式会社(日本国内総代理店)、ヤマト科学株式会社(日本国内正式認定代理店)、ウェーブクレスト株式会社(正規代理店)がある。 4. Shanghai MCP Corp.(INSDAC)。上海にあるShanghai MCP Corp.の日本法人である日本INSDAC株式会社のホームページには「2020年に日本法人設立。INSDACはINS(Instrument)計器+DAC(Didactic)教育的。ローコストでハイパフォーマンスな電子計測器と学習キットを提供。Shanghai MCP Corp.はヨーロッパ・南アメリカ・アフリカをマーケットとして30年間営業している」とある。 最近(2022年下期)、安価な電位差計が複数のECサイトに掲載されている。製品画像には「MCP lab electronics MCP-01 POTENTIOMETER」と表記されている。ECサイトには会社名(メーカ名)が未記載なことが多いが、Shanghai MCP Corp.の計測器と思われる。国産の三和電気計器は1950年代から1990年代までは販売会社で、製造は三和電気製作所などが分担していた。Shanghai MCP Corp.の製造部門がMCP lab electronicsなのかもしれない。 5.Siglent(シグレント)。SIGLENT TECHNOLOGIESは中国の深圳に本社があり、2002年からデジタルオシロスコープの研究を開始したらしい。日本ではウェーブクレスト株式会社(Wavecrest)株が販売店をしていて、同社ホームページに製品が紹介されている。2023年2月現在、日本法人はないが、OWONの代理店であるT&Mコーポレーションが取り扱いを始めた。公表されていないが海外の大手オシロスコープメーカのL社のOEMをしているという噂がある(老舗の計測器メーカが東南アジアで安価なモデルを製造することは良くあるので、まんざら信憑性がない話でもない)。会社名はAgilent Technologies(アジレント・テクノジー)に似ているが、他の中華系メーカに比べると日本では情報が少ない。 6.HANTEK(ハンテック)。Qingdao Hantek Electronic Co.,Ltd.は、中国山東省青島に本社があり、 1999年にUSBオシロスコープの開発を開始した(同社の英語のホームページより)。現在は国内での販売はamazonなどの通販サイトがメインと思われる。 台湾、中国の安価なデジタルオシロスコープはGW Instekを筆頭に2000年代前半に輸入された。従来、50万~100万円していたMHz帯域(100MHz以上)のモデルが、数万円~十数万円の価格になった。つまり、1桁下に価格破壊した。これによって安価なアナログオシロスコープはその魅力を失い市場から消えた。当時のミドルクラスのヴォリュームゾーンだった350MHz帯域のモデルをつくっていた国産オシロスコープメーカ(岩崎通信機、ケンウッドティー・エム・アイ、横河電機など)は打撃を受けたと推測される。老舗の松下通信工業(パナソニックモバイルコミュニケーションズ)や日立電子(日立国際電気)は系列企業の整理・統合もあり、オシロスコープを含む計測器から撤退した(ケンウッドはGW Instekに吸収された)。中華系オシロスコープは、テクトロニクスやキーサイト・テクノロジーというオシロスコープの世界的な老舗メーカが安価なモデルをつくる契機にもなったと思われる。

直線補間(ちょくせんほかん)

デジタルオシロスコープはサンプリングされた値だけを表示するのではなく、補間表示の機能がある。補間方法には直線補間とサイン補間があり、直線補間とは、サンプリングされた2点間を直線で補間する。信号を正確に再現するためには、最高周波数成分の少なくとも10倍のサンプルレートが必要といわれている。