計測関連用語集

TechEyesOnlineの用語集です。
計測・測定に関連する用語全般が収録されており、初めて計測器を扱う方でも分かりやすく解説しています。
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GMSL(じーえむえすえる)

(Gigabit Multimedia Serial Link) 車載向けの高速伝送技術。ADAS(エーダス)などで車載カメラからの映像信号のインタフェース規格として実績がある。様々なIC製品をラインアップするMaxim Integrated(略称:マキシム)社が開発した技術だが、Maxim社は2022年にAnalog Devices(アナログ・デバイセズ、ADI)に吸収され、子会社となったので、GMSLはADI製品としてPR(告知)されている。車載の高速カメラI/Fとしてはトップシェアである(2024年現在)。 カメラなどから出力されるパラレル信号をシリアライザでシリアル信号に変換し、クロック信号をデータラインに重畳することで、1本線での高速伝送を低遅延で実現する、SerDes(サーデス)技術の1種。MIPI(ミピー)が車載カメラを主要な用途として2020年にA-PHYを策定し、ネットビジョン社がA-PHYのSerDesデバイスを、日本ケミコンがA-PHY対応カメラモジュールを2023年に発売し、GMSLの競合として登場している。ソニーはGMSLに対抗するGVIFという規格を製品化している。自動車用のカメラの高速通信規格として、GMSLは一番先行して販売実績があるが、その他の規格が(活況な自動車のネットワーク市場を狙って)追っている。

JPCAショー(じぇいぴーしーえーしょー)

(JPCA Show) 正式名称は「国際電子回路産業展」。本部事務局を一般社団法人 日本電子回路工業会(東京都杉並区西荻北の回路会館2F)が行う、「電子機器トータルソリューション展」を構成する展示会の1つ。他にJIEP:マイクロエレクトロニクスショー(最先端実装技術・パッケージング展)などの複数展で構成されている。JPCAとは 日本電子回路工業会(Japan Electronics Packaging and Circuits Association)の略称。つまり、JPCAショーとは「日本電子回路工業会の展示会」という意味である。 2025年6月4日~6日に開催された展示会から、14社の計測器を紹介する。 1. 株式会社フィッシャー・インストルメンツ:各種の膜厚計。 2. 株式会社日立ハイテク:生産ライン向けのX線膜厚計を展示。説明員には株式会社日立ハイテクアナリシス(旧日立ハイテクサイエンス)も。 3. リゴル:オシロスコープや信号発生器など。昨年から出展している様子。説明員には販売店の太陽計測株式会社も。 4. ローデ・シュワルツ:昨年から出展。2025年4月に開催したR&S Technology Symposiumで展示していたヤマハファインテックの高周波ベアボードテスタ(開発中の試作品)を展示(R&SのVNAを併用)。 5. シチズン・ファインデバイス株式会社:光プローブ電流センサ OpECS(Optical probe Electric Current Sensor、オペックス)。新方式の電流プローブ。2013年から信州大学と共同研究。開発~製造はシチズン・ファインデバイスのマイクロデバイス事業部が行うが、販売のみ岩崎通信機に委託。岩崎通信機が持つ、オシロスコープやプローブの販売チャネルを活用。 2018年のJPCAショーでOpECSの試作品を展示。その後製品化し、2024年には、より小型の新製品(黒色の2号器)を発売。岩崎通信機は2023年から共同開発者となり、2号器の開発・製造に関与している様子。ロゴスキーコイルや一般的なクランプ式電流プローブ、シャント抵抗での電流測定と比較しても、周波数や電流などの性能が良好なので、今後のパワー半導体の評価などに期待される。 電気学会 産業応用部門大会(2025年8月19日~21日、徳島大学)で岩崎通信機はOpECSを展示。信州大学 曽根原先生は大学見本市(2025年8月21日/22日、東京ビッグサイト西4ホール)にOpECSを展示。信州大学、シチズンファンデバイス、岩崎通信機の3団体が各種の展示会にOpECSを出展している。 6. 日本バーンズ株式会社:計測器の輸入商社。ロックインサーモなどを展示(サーモとはサーモグラフィ)。 7. 株式会社アルゴ:商社。顕微鏡サーモを展示(同じくサーモグラフィ)。 8. J-RAS株式会社:マイグレーションテスタ。 9. アンドールシステムサポート株式会社:英国 Pickering社のPXIモジュールの販売店。 10. 井原電子株式会社:プリント基板が主力事業だが、測色計や色差計もラインアップ。 11. santec:3D OCT(光学三次元測定器)。 12. 株式会社ハイロックス:マイクロスコープ。本体は1種類だが、レンズのラインアップが多い。 13. エスペック株式会社:神戸R&Dセンターが2023年に開発した卓上/小型サイズのワンデバイスチャンバを展示。同じく開発品のサーモストリームは大型のためパネル展示のみ。 14. 株式会社村田製作所:製品の90%以上が海外で販売される、世界的な電子部品メーカ。医療・ヘルスケア機器統括部がつくる「疲労チェッカ」の測定体験会を実施。疲労の度合いを測定し、数値化して表示。 2025年の出展品を眺めると、膜厚計、色差計、マイクロスコープなどの科学分析機器や光学・視覚測定器から、3次元測定器(長さの測定器)のような物理量測定器や電流プローブのようなオシロスコープ関連製品、マイグレーションテスタなどの環境試験器、ベアボードテスタまで、電子機器の実装や検査に使う評価機材(計測・分析機器)が出展されている。環境試験器や硬度計、高速度カメラが並ぶTEST(総合検査機器展)と、視点は異なるが似た展示会といえる。

時間軸(じかんじく)

オシロスコープの用語としては以下。掃引のタイミングをコントロールするオシロスコープの回路。時間軸はs/div(※)で設定。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)より)(※)divはディビジョンの略で、オシロスコープ画面のマス目(縦横の線)。

シグナル・インテグリティ(しぐなるいんてぐりてぃ)

(signal integrity) integrityは「忠実」なので、日本語にすると「信号忠実度」や「信号完全性」。デジタル伝送では、意図したとおりの波形に実際になっているかが重要になる。送信側、伝送路、受信側などの各装置はノイズや損失など様々な影響を受けて波形が変化する。短い距離や低い伝送レート(bps、baud)では波形が変化しない(十分な忠実度があった)が、USBやHDMIのような高速のシリアル通信が普及すると、広帯域オシロスコープ(高速オシロスコープ)でシグナル・インテグリティを確認するようになった。逆に言うと、2000年代に新情報家電(デジタルカメラ、DVD、液晶パネル、スマートフォンなど)が普及すると、それを評価すために従来よりも広帯域なオシロスコープが求められ、高周波の技術がある海外のオシロスコープメーカがこれに応えた。 テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)では「シグナル・インテグリティ:デジタル信号の高速化によって生じるリンギングやクロストーク、グランド・バウンスなどのノイズがいかに抑えられているか、すなわちデジタル信号の波形品質のこと」とある。 2021年2月に表記の仕方を調べたら、計測器メーカ(キーサイト・テクノロジーやテレダイン・レクロイ)は「シグナル・インテグリティ」だが、マクニカやイノテックのようなITベンダー(電気・電子機器、部品の商社)は「シグナルインテグリティ」と表記している。どちらの表記も良く使われる。また、2023年3月20日配信のキーサイト・テクノロジーのニュースは「シグナルインテグリティー」という表記だった。同じメーカ内でも表記の仕方は統一されていないようである。

シグナルインテグリティアナライザ(しぐなるいんてぐりてぃあならいざ)

(signal integrity analyzer) Wavecrest(ウェーブクレスト)社の代表的なモデルの品名。SIR-3000シリーズやSIR-4000C/Dがある。オシロスコープ(オシロ)で、ジッタやタイムインターバルの測定を強化した製品。オシロとしては周波数帯域約15GHzと広帯域で、アイパターン測定もできる。モデルによってはBER測の機能もある。 Wavecrestは1986年に米国ミネソタ州で設立し、米国中西部を中心に多くの半導体デバイスメーカに納品して成長した。日本法人のウェーブクレスト株式会社は2001年2月に設立し、SIRは国内大手半導体メーカの開発・製造用の機材として使われた。2000年代は高速デジタル通信が普及した時代で、PCI Express(PCIe)、SATA(サタ)、FibreChanne(ファイバーチャンネル)などの通信規格が開発され、多くの電子機器に採用された。またver(バージョン)やGEN(ジェネレーション、世代)が改良されて通信速度が速くなっていった。そのたびに、より高速(広帯域)、高機能な測定器(評価ツール)が登場した。 SIA-3000シリーズの基本性能は、時間測定分解能200fs(フェムト秒)のタイムインターバル測定、オシロスコープ、アイパターン、BERT(ビット誤り率測定)を備え、ジッタ、スキュー、立ち上がり時間/立ち下り時間の測定が可能。エントリーモデル(SIA-3100)から上位モデル(SIA-3400、SIA-3600など)へのアップグレードはチャンネルカードの差し換えで可能。2005年8月に日本で発売された新製品SIA-3400Dは「PCI Express1.1(2.5Gbps)、SATA I(1.5Gbps)、SATA II(3.0Gbps)、XAUI(3.125Gbps)、3X FibreChannel(3.1875Gbps)などの評価ソフトウェアを装備し、コンプライアンステストに最適」とPRされている。 シグナルインテグリティは「信号の忠実度」、「信号完全性」という意味で、キーサイト・テクノロジーやテクトロニクスなどがデジタル信号の品質を示すことばとして、高速デジタル通信の普及と共に使い始めたが、Wavecrestの製品はその走りであった。レクロイ(現テレダイン・レクロイ)にネットワークアナライザの1種で、シグナル・インテグリティ・ネットワークアナライザSPARQというモデルがあったが、シグナルインテグリティを製品名にした製品は他にはあまり聞かない。アンリツの現役BERTであるMP1900Aの品名はシグナルクオリティアナライザである(BERTや誤り率測定器、ビットエラー測定器という名称ではない)。シグナルインテグリティやシグナルクオリティなどの表現は、従来の計測器とは違う、先進のイメージがあるためか、最近の計測器の名称(品名)に使われていると思われる。 広帯域オシロスコープでアイパターンだけでなくBER測定もする手法は、キーサイト・テクノロジーがPAM4信号の評価で提案している(以下のKeysight Worldの記事が詳しい)。反対にアンリツはBERTでアイパターンも測定できるBERTWave(バートウェーブ)というモデルが、MP1900Aと並ぶBERTの現役製品である。

指数平均(しすうへいきん)

デジタルオシロスコープのアベレージング(平均化)機能で、平均値の計算方法の1つ。直近のデータに高い重み付けを与える移動平均。指数平均の場合、Nは回数の設定ではなく、最新データの重みづけの数値を設定する。この数はアナログのRCフィルタの時定数に相当し、小さいと早く変化し、大きいとゆっくり変化する。

ジッタ測定器(じったそくていき)

ジッタ(パルス信号の時間方向のゆらぎ)を測定する機器。CD・DVDなどオーディオ・映像機器の評価に使うジッタメータが代表例。アイパターン測定はジッタ測定ともいえる。伝送品質の評価をするエラーレート測定もジッタ測定の1種といえる。オシロスコープ(ジッタ解析ソフトが必要)やタイムインターバルアナライザは広義にはジッタ測定器である。ジッタメータとタイムインターバルアナライザは同じ要素技術を元にしている(菊水電子工業にはタイムインターバルジッタメータ、という品名のモデルがあった)。このようにジッタ測定器の意味は広い。

周波数測定器(しゅうはすうそくていき)

周波数を測定する機器の総称。オシロスコープやカウンタなどがある。

周波数帯域(しゅうはすうたいいき)

(frequency band) 周波数の範囲のことを帯域という。測定器で周波数に依存する項目の仕様には、周波数帯域が明記される。たとえば「利得:○○dB(ただし周波数帯域:1GHz)」なら、○○dBの値は1GHzまでの周波数で保証される(帯域は上限しか明記されないことも多い)。 オシロスコープ(オシロ)の仕様に記されている周波数帯域とは、正弦波入力を与えた場合に、表示される振幅が3 dB低下した(約70%)ところの周波数fで規定している。たとえば、周波数帯域1GHzのオシロは1GHzまでの信号を正確に表示できるが、その電圧値は入力信号よりも3dB落ちた値で表示される。 オシロの周波数特性で、減衰しないフラットな周波数が(そのオシロが想定できる周波数を示す仕様である)周波数帯域の値ではない。オシロで測定できる最大の周波数については、このように周波数帯域を規定していることを知っておくことは、オシロを使って測定するための事前の基礎知識といえる。 参考記事:デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第2回)・・オシロの仕様の1番目に周波数帯域の解説をしている。

10:1プローブ(じゅったいいちぷろーぶ)

(10:1 probe) 一般的にオシロスコープに標準添付している電圧測定用のプローブ(電圧プローブ)は、パッシブプローブの分圧プローブで、減衰比が10:1の物(測定対象の信号を1/10に減衰する)が多い。このためこの標準プローブを10:1プローブと呼ぶ。パッシブプローブは減衰比が1:1(減衰しない)から1000:1まで各種のモデルがあり、信号電圧が小さいときは1:1、反対に高電圧を測定するときは高電圧プローブ(100:1や1000:1)が使われる。オシロスコープのプローブは測定条件(測定対象)によって適切に選ぶ必要がある。

受動プローブ(じゅどうぷろーぶ)

(passive probe) 受動素子だけで構成されたプローブ。オシロスコープで一般的に使用されている電圧プローブを指していることが多い。別名、パッシブプローブ。オシロスコープ本体に標準付属している場合が多いため、標準プローブという呼称もある。周波数帯域は500MHzくらいまでが多いが、安価な200MHzモデルなどもあり、メーカによって多くの種類が販売されている。 電流プローブでも受動部品でつくられたAC電流プローブは受動プローブだが(広義の意味)、「受動(パッシブ)型」などの表記で分類されている。受動プローブというと一般的には電圧プローブを指していることが多い(狭義の意味)。

首都圏パナソニックFA(しゅとけんぱなそにっくえふえー)

1980年代にあった、松下通信工業株式会社の計測器の販売会社。松下(パナソニック)は計測器から撤退してしまったので(日立電子と同じように)計測器のラインアップや組織(開発部門や販売会社)の概要は不明。松下通信工業(略称:松下通工、後のパナソニックモバイルコミュニケーションズ株式会社、2022年に解散)は松下電器(現パナソニック)の関連会社で、通信機器(携帯電話や無線基地局など)を主力事業にしていたが、計測器もつくっていた。オーディオ関連測定器、ラジオやTVなどの無線通信用測定器、低周波の測定器(RC発生器、カウンタ、デジタルマルチメータ、電圧計など)をラインアップしていた。松下電器は第二次世界大戦前に(現在のトリガ掃引式以前の)強制同期式オシロスコープを販売していた計測器の老舗である。アナログオシロスコープ(VP-5260A、VP-5610A、VP-5562A 20MHzなど)や指示計器タイプのモデルもつくっていた。老舗ではあるが、2000年頃にはすでに古い時代の機種群が多く、時代にマッチした新しい計測器ではなくなっていた。松下グループの事業再編の中で、計測器は生産中止になった。 オシロスコープと映像関連測定器のラインアップが豊富なTektronixs(テクトロニクス)は、ソニーと出資比率50対50の合弁で、ソニー・テクトロニクス株式会社を設立した(1965~2002年)。1990年代まではソニー、松下という日本を代表する家電メーカが電子計測器に関わっていたが、高度経済成長を支えた計測器も1990年代以降には成長が鈍化した。2000年代には、光海底ケーブルのバブルによる光通信測定器の売上激減や、国産携帯電話メーカの衰退、ICE(マイコン開発支援装置)のフルICEからJTAGへの推移による市場規模の激減など、計測器市場に大きな変化があった。 首都圏パナソニックFAはエリア別にあった販売会社の1社だが、詳細は不明。現在の松下の計測器(形名VP-〇〇〇〇)の保守会社は「パナソニックFSエンジニアリング株式会社」になる。同社はJCSS事業者で、計測器の校正事業を行っている(2020年1月現在)。 「RC発振器VP-7201A」の取扱説明書に、連絡先として「パナソニックモバイルコニュニケーションズ株式会社の横浜市都筑区佐江戸町」が記載された冊子がある(発行年月は不明だが2003年~2022年)。表紙には「電子計測販売会社」として「パナソニックFAシステム株式会社」の全国の営業拠点が記載されている。同社の本社(品川区西五反田)には首都圏支店があり、首都圏パナソニックFAは(2003年以降に)同社の首都圏支店として統合されたと推測される。 松下通工や日立電子の計測器は、それなりに歴史がある。松下、日立ともに老舗の計測器メーカといえる。だたし、撤退してしまったので、今ではどんな機種群がラインアップされていたのか全容がわからない。両社ともアナログオシロスコープのメーカとして、岩崎通信機と競争していた(今では直流電源の豊富なラインアップで有名な菊水電子工業も、1970年頃にはアナログオシロスコープが主力製品だった)。1980年頃の理工系の学校の実験機材として、panasonic(松下通工)やhitachi(日立電子)のロゴが付いたアナログオシロスコープはめずらしくなかった。iwatsu(岩崎通信機)よりもパナソニックや日立のほが圧倒的に知名度があるに決まっている。アナログ式のリレー試験器といえば京浜電測(現デンソクテクノ)だったが、デジタル式になってからはエヌエフ回路設計ブロックがトップメーカである。計測器がアナログからデジタルに変わったとき、計測器メーカも様変わりしている。 松下通工と同じようにテレビ・オーディオ測定器(映像の計測器)が得意だった目黒電波測器は、オーナーが2度変わり、自己破産もしたが、現在は株式会社計測技術研究所の目黒電波事業部として健在である。

焦点(しょうてん)

オシロスコープの用語としては以下。ディスプレイ表示のシャープさを調整するためにCRTの電子ビームを調整するオシロスコープの機能。(テクトロニクス「オシロスコープのすべて」(2017年4月発行)より)

シリアルトリガ(しりあるとりが)

(serial trigger) 2000年代初頭に、それまでのパラレル通信から高速なシリアル通信に通信方式の大きな変換が起きた。SATA、USB、PCI Expressなどである。2000年代は新しい情報家電製品としてデジタルカメラや大型デイスプレイ、DVDレコーダなどが登場し、これらの製品に小型で高速なシリアル通信の各種規格が採用されていった。USB2.0(480Mbps)の制定は2000年4月である。USB2.0の伝送速度は今となっては速くはないが、当時は十分に高速で、高速シリアル通信の走りである。2005年には、高速シリアル通信のアナライザとして高速オシロスコープが登場する(キーサイト・テクノロジーの54855A、周波数帯域6GHz)。シリアル通信(シリアルバス)の各種規格の特徴を捉えてトリガをかける機能(トリガタイプ)をシリアルトリガと称している。 シリアル通信は高速だけではなく低速な規格もつくられた。テクトロニクスが2008年に発売したDPO3000シリーズ(周波数帯域100M~500MHz)にはオプションで「DPO3EMBD 組込みシリアル・トリガ&解析モジュール」があった。2000年代に組込みシステムなどに普及したシリアル通信規格のI2C、SPIに対応したトリガを提供した、低速シリアルトリガの走りの製品である。I2CとPSIのパケット・レベルでトリガがかけられた。信号のデジタル表示やデコードしたデータの表示など、バス解析を行うツールで、組込み機器の設計、デバッグをするエンジニアに重宝された。DPO3EMBDはソフトウェアではなくドングルで、DPO3000本体に挿入するとトリガ機能が使用できた。この方式はDPO4000シリーズから導入されている。 同じく2008年に横河電機(現横河計測)が発売したDLM2000シリーズ(形名7101xx、DL1740/DL9000以降に発売された同社のMSO初号器)にはオプションソフトウェアで、F2(I2C+SPIトリガ&解析)、F3(UART+I2C+SPIトリガ&解析)があった。ただし、本体購入時にF2やF3を指定しないと、購入後に追加するにはメーカ引き取り改造となり、メーカサイドも営業ではなくサービス部門の扱い(修理と同じ)なので、納期などを含めてユーザには大変手間がかかった(DLシリーズとその後継のDLMシリーズはすべて同じ)。テクトロニクスはドングル(ハードウェア)の追加購入なので在庫があれば即納だが、横河は修理扱いなのでサービス部門の工程いかんで、「納期未定、1か月位かかると思ってください」という趣旨の回答が普通だった。国内の汎用オシロスコープ市場を1980年代から2010年代頃まで2分したテクトロニクスと横河だが、両者の設計ポリシーには大きな違いがある。横河は「オプションは初めに本体購入時にすべて選んで付けてください。後から追加はできますが、メーカ引き取り改造なので時間と手間がかかります」という設計思想である。 2020年7月時点で、キーサイト・テクノロジーのInfiniiscan(インフィニスキャン)にはシリアルトリガ機能があり、シリアル通信の連続したパターン(たとえば1010111など)を指定してトリガをかけて、波形表示ができた。レクロイのオシロスコープにはソフトウェアオプションとして「シリアルトリガとデコード」と題した項目に数十の製品がある(2024年9月)。たとえばWM8Zi-AudioBus TDはWaveMaster 8Zi(周波数帯域16GHz)の「AudioBusのトリガとデコード」をするオプションで、デジタルオーディオのシリアルデータをアナログ波形で表示できる。同社HPには「Serial AudioBusトリガ、デコード、およびグラフのパッケージで、デジタル オーディオ バスを適切に分析、デバッグするために必要なすべてのツールを提供している」旨が記載されている。 このようにシリアルトリガは2000年以降にオシロスコープに標準搭載(規格によってはオプション)になったトリガタイプで、新しい規格の登場や規格のヴァージョンアップがあると、オシロスコープも追従して新しい製品を発売している。ミドルクラスでもシリアルバス解析が主流な機能になったことが、以下の参考記事「オシロスコープの動向と、最新1GHz帯域モデルの各社比較」に詳しい。 テクトロニクスがは広帯域オシロスコープのトリガ機能を解説した冊子、「トリガ入門 DPO7000シリーズ、DPO/DSA70000Bシリーズ、MSO70000シリーズのPinpoint®トリガとイベント・サーチ/マーク機能について」には、シリアルデータのパターンを指定して、合致するパターンでトリガをかける「シリアル・パターン・トリガ」が説明されている。これは前述のキーサイト・テクノロジーのシリアルトリガと同じである。ただし名称がシリアルトリガではなく「シリアル・パターン・トリガ」である。ミドルクラスよりも周波数帯域が上のモデルではトリガ機能が高度化、複雑化していて、多くの種類のトリガ機能(トリガタイプ)があり、メーカによってその内容、名称は異なる。ミドルクラスで普及したシリアルトリガは、今後機能や名称が変わる可能性がある。つまりシリアルトリガは進歩している。

シングルエンド(しんぐるえんど)

電気信号の伝送方式には大きくシングルエンドと差動がある。信号線が1本で、グランドとの電位差によって信号を伝送しているのがシングルエンド。single-ended signalling(最後まで1本で伝送する方式)が語源と推測される。2本の信号線を使い、1本にはプラスの信号を、もう1本にはマイナスの信号を送り、差分で1か0を表現するのが「差動(ディファレンシャル、differential)」である。シングルエンド方式は電線が1本で簡易だがノイズの影響を受けやすく、長距離、高速通信には向かない。差動はオシロスコープ(オシロ)のプローブの品名に大変よくでてくる。 オシロなどではシングルエンドと呼ばれるが、有線通信の分野では(たとえばプロトコルアナライザの解説などでは)不平衡と呼ばれる。2本での伝送は平衡と呼んでいる(1本には伝送したい信号を、もう1本にはその信号の逆位相信号を送ると、信号が平衡関係にあるため)。たとえばシリアル通信の代表的な規格であるRS-232Cは不平衡。 シングルエンド(single end)=不平衡(unbalance)で、両方は全く同じことを違う表現をしている。シングルエンドは、「ある電圧を基準として、それより電圧が高いか低いかで1と0を表現する」伝送方式とも説明されている。「(2本の)差動」と「シングル(1本で)エンド(最後まで伝送)」という表現がシングルエンドと差動の語源である。見方を変えると「(2本の線が)平衡(している)」、「(1本なので平衡していない、つまり)不平衡」という表現になる。 計測器は機種群(カテゴリー)ごとにその測定原理があり、それに沿った解釈や用語がある。そのため、全く同じ現象を別のことばで表現していることがある。オシロやプローブは差動やシングルエンド、有線通信では平衡、不平衡、と説明される。計測の初心者からは「どちらか1つに統一してくれ」という声が聞こえてきそうである。それ以前に、差動とシングルエンドが対になる用語であることを、その名称から推測することはほぼ無理である。

シングルエンドプローブ(しんぐるえんどぷろーぶ)

(single ended probe) オシロスコープの電圧プローブで能動型のプローブ(アクティブプローブ)の内、差動プローブでない物(伝送方式がシングルエンド)を、シングルエンドプローブと呼ぶ。FETプローブの呼称が広く普及しているが、メーカによって「シングルエンド・アクティブプローブ」など、名称が様々で初心者にはわかりにくい。アクティブプローブのもう1種である差動プローブは、名称に「差動」と必ず付くので、単にアクティブプローブといっても差動ではなくシングルエンドであることがわかるので、「アクティブプローブ(FETプローブ)」というような表記もある。「アクティブ電圧プローブ」や「低電圧シングルエンドプローブ」など、シングルエンドプローブの名称は多くあり、統一されていない。入力段にFETを使っていることが多いのでFETプローブの呼称が多いが、必ずしもFETを使っているとは限らない。 TechEyesOnlineの記事「オシロスコープのプローブの種類」では「差動ではなくシングエンドのプローブ」という意味で、FETプローブではなくシングルエンドプローブの呼称にたが、TechEyesOnlineの計測器ページのカテゴリー名は通例に従いFETプローブである。 差動プローブは、パワエレ用途の高電圧差動プローブと、高速のシリアル通信用の低電圧差動プローブの2種類が流行りのため、シングルエンドプローブも高電圧と低電圧に分類しているメーカもあり、また低電圧を広帯域と呼ぶ場合もあり(広帯域差動プローブ)、オシロスコープのアクティブプローブは名称から判断することが大変に困難である。高電圧や広帯域に対応したオシロスコープメーカ各社が、自社の優位性をPRする製品名を使う(他社との差別化を品名で示す)ので、名称が統一されてわかりやすくなることはない。 シングルエンドとは信号とグランドの2本で伝送する方式を指し、2つの信号の差で伝送する差動と区別している。シングルエンドはグランド基準とも呼ばれるが、パッシブプローブも電圧基準なのでシングルエンドである。シングルエンドはアクティブプローブで差動ではないことを示すのに使用されることばなので、シングルエンドしかないパッシブプローブはあえてシングルエンドとはいわない。ただしドイツのPMK社(日本の代理店は岩崎通信機)はパッシブプローブのPKTシリーズ(システム機器用の、両端がBNC端子の、外観が同軸ケーブルのプローブ)を「パッシブ・シングルエンドプローブ」と呼称している。プローブの知識の程度によるが、この品名から「パッシブプローブでシングルエンドではない物があるのか?」と考える人がいるかもしれない。

シンクロスコープ(しんくろすこーぷ)

(syncroscope) 電気信号の波形を映し出し、時間(周波数)や電圧を観測する測定器であるオシロスコープ(オシロ)のこと。アナログオシロスコープとほぼ同義。略称:シンクロ。 岩崎通信機(略称:岩通)が「同期(sync、シンク)がとりやすいオシロスコープ」の意味で製品名にしたとされる。同社の測定器の歴史は1954年に発売した国産初のトリガ式オシロスコープSS-751から始まった(TechEyesOnlineの記事「ユニバーサルカウンタの基礎と概要 (第3回)」にそのことが語られ、SS-751の写真を掲載)。以前は同社の「トリガ機能付きオシロスコープ」の品名だったが、現在のオシロはトリガが標準になったので、この呼び方はほとんど使われない。1980年頃の同社オシロには「SS-5712 SYNCROSCOPE」のような表記がされていた(SS-xxxxは同社のアナログオシロの形名)が、1990年代には呼称は「アナログオシロスコープ」になり、シンクロという表記は無くなった。 現在ではオシロといえばほぼデジタルオシロだが、1980年頃はアナログオシロが主流で、オシロのことを「シンクロ」と呼称している電気技術者が多くいた。岩崎通信機がアナログオシロ時代の国産トップブランドだったことを伺わせる。月刊トランジスタ技術(略称:トラ技)は多くの計測器の記事や広告を掲載しているが、1964年の創刊号にはトランジスタを採用した、当時の「最新のシンクロスコープ」の解説記事を岩崎通信機が書いている。 オシロがシンクロと呼ばれたのは、三菱電機のPLCの名称である「シーケンサ」がPLCの代名詞のように呼称されていたり、Canalyzer(キャナライザ)やsniffer(スニファー)ということば(メーカが命名した通称)がCANバスアナライザやLANプロトコルアナライザとして呼称されるのと似ている。 ともあれ、海外ではテクトロニクスがトリガ掃引式のオシロスコープ初号器 511型(周波数帯域10MHz)を1947年に発売したことと、それより7年後の1954年に岩崎通信機が国産初のトリガ式オシロスコープ SS-751を発売したことは、どちらも計測器の歴史では有名である。 計測器情報: 岩崎通信機のアナログオシロスコープ製品例・・同社の形名/品名はSS-6000シリーズやSS-7000シリーズのアナログオシロスコープと、TS-8000シリーズ、TS-80000シリーズのアナログストレージオシロスコープがあったが、現在はアナログオシロはすべて生産終了している。ラインアップはDS-5000シリーズ、DS-8000シリーズ(2023年1月現在の同社HPより)。

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