計測関連用語集

TechEyesOnlineの用語集です。
計測・測定に関連する用語全般が収録されており、初めて計測器を扱う方でも分かりやすく解説しています。
フリーワード検索をはじめ、カテゴリー、索引から簡単にお調べいただけます。

フリーワード検索

検索用語一覧

3

各用語の詳細ページでは関連用語などを確認することができます。
このアイコンが表示されている用語には、詳細ページに図解や数式での説明があります。

YEW(わいいーだぶりゅ)

(Yokogawa Electric Works) 横河電機製作所(現横河電機)の略号。1986年頃まではYEWがCI(コーポレート・アイデンティティ)だった。 横河電機は1915年に電気計器の研究所として設立し、1920年に「株式会社横河電機製作所」になった。1986年に横河電機株式会社に社名変更し現在に至る(同社ホームページより)。1983年頃までは「YEW」が企業ロゴとして表記されている製品が多かった。同社の指示計器(針が振れるアナログ式の電圧計、電流計、電力計)は黒い箱型で、弁当箱の愛称があった。最上部には接続端子、その下の約半分くらいが(針が振れる)表示窓で、下半分の何もない黒い箇所に大きく「YEW」と刻印してあった。大学・専門学校などの工学系の学生は黒いYEWを使い実験を行ったので、YEWは電気測定器の代表と広く認識された。 YEWは1963年(昭和38年)9月にhp(ヒューレット・パッカード、現キーサイト・テクノロジー)との合弁企業、YHP(横河ヒューレット・パッカード株式会社)を設立するなど、日本の計測器のトップブランドであった。ただし1975年に世界初のDCS(分散形制御システム/総合計装制御システム「CENTUM」)を発表するなど、横河電機はFA/IA/PAメーカ(工業計器の会社)である。1988年にはYHPから資本を引き上げ、高周波測定器(移動体通信など)に参入し、2002年には(NTTに測定器を納入する)大手通信計測器メーカの安藤電気を100%出資のグループ会社とし、有線通信計測器や半導体テスタをラインアップに加えるなど電気計測分野を拡充したが、現在はそれら全部から撤退している。2010年には測定器ビジネスを分社化し、横河メータ&インスツルメンツ(現横河計測)に統合するなど、今の横河電機のコアコンピタンスに従来の「電気計測」は感じられない。 余談だが、現在の計測器としての記録計の主流であるメモリレコーダではなく、計装の記録計としてのデータロガーは横河電機の主力機種の1つである。ただしこれは電気計測器というより工業計器の一部である(電気計測器の総覧などにはこのデータロガーも掲載されているが、メモリレーダとは用途や顧客が全く異なる計装の記録計である)。計測器の記録計か、計装の記録計かは素人には判別が難しいので、やっかいである。 計装の国内トップベンダーとなったYEWは、同業の北辰電機製作所を1983年に吸収して会社名を横河北辰電機とし、1986年には現在の横河電機株式会社(Yokogawa Electric Corporation)になり、YOKOGAWAを新しいCIとし、YEW時代は終わった。現在の横河電機は、工業計器・プロセス制御システム専業の国内大手電機メーカである。この分野では世界6大メーカ(グローバル・ビッグ6)の一つといわれ、売上の70%が海外事業、従業員の70%が外国籍のグローバル企業である。メーンバンクはみずほで、芙蓉クループの代表企業といえる。 一方で、横河の計測器を継承する子会社の横河計測は、電気計測器の日本市場シェアとしては10%以下(推定)。横河計測は大手計測器メーカの1社ではあるが、「横河」は現在では計測器のトップブランドではなくなった。「横河」と聞いて一目置くのは、YEWを知っている高齢の電気技術者だけである。 計測器情報:YEWの指示計器(電圧計、電流計)の製品例

YHP(わいえっちぴー)

(Yokogawa Hewlett Packard) hp(ヒューレット・パッカード)が日本につくった合弁会社(1963年~1998年)。YHP設立以前は、無線機器を取り扱う商社のセキテクノトロン株式会社(旧関商事株式会社)がhp製品を輸入販売していた。 1939年に、ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードは米国カリフォルニア州でhp(Hewlett-Packard Company、エイチピーと呼称)を創業し、世界No.1の電子計測器メーカとなった。日本のYEW(横河電機製作所)は1963年にhpと合弁でYHP(横河ヒューレット・パッカード)を設立した。YEWは国産初の電磁オシログラフをつくるなど、日本を代表する老舗計測器メーカだった。高周波(RF)測定器はYHPがつくり、YEWはDC~低周波の記録計などをつくるという棲み分けをした(競合しないように機種群の分担を決めた)。当時のYEWはブリッジをラインアップし、回路素子測定器の要素技術を持っていたが、それらはすべて技術者とともにYHPに移ったと推測される。YHPはhpの日本法人(販売会社)でhp製品を販売したが、国内に開発拠点を持ちYHPとして計測器の開発も行った。回路素子・材料の測定器(LCRメータやネットワークアナライザなど)の開発拠点が神戸にあったと筆者は記憶している。1980年代に筆者は国内大手計測器メーカの技術部門にいたが、各計測器メーカの特許出願情報が回覧された。そこには「横河HP」という会社名でインピーダンス測定の多くの特許が掲載されていた。YEWのブリッジは生産終了し、後継機種となるLCRメータなどはつくられていない。インピーダンス計測器は、YEWではなくYHPが開発を行った。 高周波計測器を手掛けるYHPと、「レコーダ、低周波の電力計(デジタルパワーメータ)、ミドルクラスのオシロスコープ」をつくる横河電機(1986年に社名変更)との差は30年間で大きく開いた(YHPは計測器のトップメーカになっていた)。1995年に横河電機はYHPへの出資比率を下げ、高周波測定器の開発に着手した。時は携帯電話の3Gが商用開始する前夜で、1998年にはYHPから完全に資本を引き揚げ、携帯電話評価用の信号発生器を中心に、次々と通信計測器を発表した。 YHPは会社名を日本HPに変更していたが、2000年にhpがIT機器以外の事業(計測器と科学分析機器、ライフサイエンス事業)を分社し、Agilent Technologiesを設立したので、日本HPもアジレント・テクノロジーとなる。さらに2014年にはAgilent Technologiesは科学分析機器のみとなり、計測器はKeysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)となり、現在に至る。 世界No.1の総合計測器メーカhpは日本では、高度経済成長期に設立したYHPに始まり、1998年以降に日本ヒューレット・パッカード、アジレント・テクノロジー、キーサイト・テクノロジーと社名が変わった。横河電機は2002年に幸運にも通信計測器大手の安藤電気を吸収し、安藤電気がアジレント・テクノロジーとシェアを競った光通信測定器をラインアップに加え、高周波測定器を強化した。ただし、2000年代後半には光通信以外の通信計測器はすべて中止し、2010年には横河メータ&インスツルメンツ(現横河計測)に計測器部門を移管した。これによって横河電機は(計測器をつくらない)計装(工業計器)のメーカに名実ともになり、(メモリレコーダなどの計測器ではない)計装ユースのDAQ(データロガーなど)をラインアップしている(計測器の記録計か、計装の記録計かは素人には判断が難しい)。 マイクロウェーブ展2022(2022年11/30~12/2、パシフィコ横浜)に、キーサイト・テクノロジーはPXIネットワークアナライザM983xA(新製品)を出展した。「Keysight TechnologiesのR&D拠点の1つであるキーサイトの事業所(兵庫・神戸市)で開発した製品である」ことが、展示会を取材した日経誌で報じられている。

ワイヤレス(わいやれす)

(wireless) 日本語では「無線」。ただしワイヤレスはすでに日本語になっていて「ワイヤレスLAN」、「ワイヤレスイヤホン」など多くの無線機器の名称で使われている。計測器でもワイヤレスは基本用語である。 ワイヤレスとは「ワイヤ(wier)がない(less)」ということで、通信するための電線(や光ファイバ)などの線材がないという意味である。ワイヤレスを無線と翻訳したので、線を使った通信は有線といわれる。有線のことを英語ではwired(ワイヤード、ワイヤがある、線でつながっている)と表現するようで、通信計測器の世界的なベンダであるアンリツでは、光ファイバ通信などの有線通信(無線でない通信)を「ワイヤード」と呼称している。同社では製品群を大きくワイヤレスとワイヤードの2つに分類している(同社以外では「有線(通信)」や「光通信」という表現が一般的で、ワイヤードとはいわない)。ただし、一般には同社は通信の中でも特に「ワイヤレスの会社」と認識されている(※)。 株式会社リックテレコムが主催する展示会に「ワイヤレス・ジャパン」があり、毎年5月に東京ビッグサイトで開催されている。2023年は5G/ローカル5G、LPWA/IoT、ミリ波、産業DX、スペースICT、Beyond 5G/6Gなどがテーマだった。広く無線機器(計測器も含む)が出展するイベントである。同じく無線の展示会にマイクロウェーブ展(MWE)がある。こちらは学会が主催するワークショップに併設する展示会である。 ワイヤレスに近いことばに「モバイル」がある。Mobile(可動性の、移動可能な、という意味)は携帯電話やノート型パソコンで使われる移動体通信や、移動体通信の機器そのものを指す。モビリティ(Mobility:「体の動きやすさ、機動性」が元の意味で、「人やものを空間的に移動させる能力や機構」に使われる)は自動車を指すことばに使われ、自動車はこれからのワイヤレス通信の大きな市場になろうとしている。Automotive(オートモーティブ)は「自動車の、自動車に関する」という意味である。ワイヤレス(無線)、モバイル(移動体)、オートモーティブ(自動車)はそれぞれ関連していることばといえる。 (※)「アンリツの旧社名“安立電気株式会社”は1931年(昭和6年)の共立電機と安中電機の合併で設立。安中電機の36式無線電信機は、1905年(明治38年)の日本海海戦(日露戦争)で「敵艦見ゆ」の信号を発信。(アンリツのホームページ、沿革より)」 つまりアンリツは100年以上前から無線機をつくっていた会社が祖となっている、日本のワイヤレスのインフラと共に歩んだ会社である。NTTやNTTドコモが構築してきた日本の通信インフラを計測器の面で支え、インフラ構築と共に発展してきた通信専業の計測器メーカといえる。通信の中でも特にワイヤレスに注力し、キーサイト・テクノロジーやローデ・シュワルツという世界的な高周波(無線通信)の計測器メーカと伍している国産企業である。同社の無線機テスタやシグナリングテスタ、送信機テスタなどが、次々と登場する最先端の無線通信方式を試験・評価することで、日本の無線通信インフラは開発・製造から施工・保守までが行われてきたし、今後も続いていくといっても過言ではない。

  • 1