市場動向詳細

なぜ軸受が必要なのか ~ 摩擦との戦いから生まれた機械要素 ~

クルマ1台に軸受(ベアリング)は何個使われているでしょうか?実は、一般的なクルマには100~150個ほどの軸受が使われています。エンジンやトランスミッションはもちろん、ホイール、ステアリング、電装品、ウォーターポンプなど、クルマのさまざまな場所で軸受が活躍しています。軸受は、回転する軸を支えながら摩擦を減らし、機械を滑らかに動かすための部品です。一般的には軸受を意識することはほとんどありません。しかし、「クルマ」には多くの軸受が欠かせません。そして、クルマの進化とともに、軸受に求められる役割も変化しています。エンジン車では高速回転や高温、高荷重への対応が求められます。ハイブリッド車を始めとした電動車では、モータの高速回転や低損失化など、新たな性能が求められています。本記事では、クルマを主な題材として、軸受について解説します。始めに、軸受に関する歴史を紹介します。次に、軸受の定義および関連する技術について概説します。最後に、軸受に関連する計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

軸受とは何か

「軸受」は英語でbearing(ベアリング)と呼ばれます。「bearing」の語源は「支える」を意味する動詞「bear」に由来し、「荷重を支えるもの」という意味を持っています。近代の機械工学が導入された明治時代には「bearing」の訳語として、当初は「軸承」が使われていましたが、その後、工業規格の整備や技術用語の統一が進む中で「軸受」が標準用語として定着しました。「軸受」は回転や往復などの運動をつかさどる機械部品の摩擦抵抗を減らし、スムーズな動作を支えるための部品です。自動車や航空機などのエンジンや車輪、家電のモータや歯車などあらゆる機械に組み込まれています。

「軸受」の種類は大きく分けると、「転がり軸受」と「すべり軸受」に分類できます。なお、英語では、「転がり軸受」を「rolling bearing」、「すべり軸受」を「plain bearing」と表記することが一般的です。単語としての「軸受」と「ベアリング」との使われ方ですが、機械分野では使い分けることがあります。「軸受」は、図面や規格、学術論文、特許などの正式文書で使われています。一方、「ベアリング」は、軸受のカタカナ語として一般的に定着していますが、「軸受」の中でも、「ボール」や「玉」が入った「転がり軸受」を指すことが多いようです。「転がり軸受」は転動体と呼ばれる「玉やころ」により、その転がり運動によって軸を支える機構部品です。転動体が転がることで摩擦を減少させ軸をなめらかに回転させる役割を担っています。「すべり軸受」は、軸と軸受の接触面を直接すべらせながら軸を支える軸受です。転がり軸受のようなボールやローラーなどの転動体は使用せず、軸と軸受の間に油や空気などで形成される潤滑膜によって摩擦や摩耗を低減します。「転がり軸受」をさらに分類すると、荷重方向による分類と転動体の種類による分類に分けられます。図1は軸受の分類です。詳細は後ほど解説します。

図1 軸受の分類
図1 軸受の分類

余談

「ベアリング(bearing)」は「熊」を意味する「bear」とつづりは同じですが、語源は異なるとされています。熊の英語表記「bear」は古英語の「bera」に由来し、ゲルマン語では「茶色いやつ」を意味していたと考えられています。当時、人々は恐ろしい存在である熊を直接的に「熊」と呼ぶことを避けて、「茶色いやつ」と婉曲的に表現していました。その後、「bera」が現代英語の「bear」へ変化したようです。同様の例としてロシア語の「熊」を意味する語も、「はちみつを食べるやつ」という意味に由来すると言われています。日本でも、「へび」を「長いもの」、イノシシを「山の神」と呼ぶなど、本来の名称を避けて別の表現を用いる文化が見られます。

軸受の基本構造

図2は軸受の基本構造です。装置のハウジング等に固定される外輪(Outer Ring)、軸に取り付けられ、軸と一緒に回転する内輪(Inner Ring)、内輪と外輪との間で転がり、摩擦を小さくする玉(剛球/Ball)、玉の間隔を一定に保ち球同士の接触を防ぐ保持器(ケージ/Cage)で構成されています。玉と内輪および外輪とは基本的に点接触です。

図2 軸受の基本構造
図2 軸受の基本構造

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

摩擦との戦いが生んだ軸受の歴史

「軸受」の歴史は、人類が重量物を効率よく移動させるために、摩擦をいかに低減してきたかの歴史とも言えるでしょう。現在のベアリングは、数千年にわたる技術の蓄積の上に成り立っています。

① 自然のすべりを活用

人類が最初に利用した軸受は、現在でいう「すべり軸受」の原始的な形態であったと考えられています。摩擦による発熱や摩耗を抑えるため、水や動物性油脂などが潤滑材として用いられたと考えられています。この段階では軸受は独立した機械部品ではなく、機械構造の一部であったようです。この単純な「すべらせる」という発想が現在の軸受技術につながっているのでしょう。図3は古代エジプト時代に巨像運搬を描いた壁画(紀元前1800年頃)です。左側の巨像は、いかにも「そり」と思われる台座に載せられていることが判ります。さらに、「そり」の先端部分にいる人物が、「つぼ」から液体(おそらく水)を注いでいることから、地面を潤滑していると推察されます。ピラミッド建設では「ころ」を用いた運搬が行われたとの説は知られていますが、直接的な資料は確認されていません。

図3 古代エジプトの巨像運搬を描いた壁画
図3 古代エジプトの巨像運搬を描いた壁画

出典:Wikimedia commons、Colosse-djéhoutihétep2.jpg、public domain、PD-US

② すべり軸受の初期形態

ツタンカーメンが生きた時代(紀元前1350年頃)になると、「すべり軸受」の体をなしているものが製作されています。図4はツタンカーメン墓から発掘された「描彩された木製の小箱(Painted wooden chest / Polychrome chest of Tutankhamun)」の側面に描かれた画像です。チャリオット(2輪軽戦車)に乗って狩りをするツタンカーメンが描かれています。チャリオットには、車輪とハブ(軸)が描かれていることが判ります。ハブがあることから、何がしかの「すべり軸受」が設けられていたと推定されます。

図4 ツタンカーメン墓から発掘された「描彩された木製の小箱
(Painted wooden chest / Polychrome chest of Tutankhamun)」の画像
図4 ツタンカーメン墓から発掘された「描彩された木製の小箱

出典:Prof. Mortel、Wikimedia Commons、Painted wooden chest from the tomb of Tutankhamun, 1333-1323 BCE; Egyptian Museum, Cairo(4).jpg、CC BY 2.0

③ 転がり軸受の萌芽

古代ギリシャから古代ローマにかけて(紀元前300年頃~西暦100年頃)、より具体的な実例が現れます。ローマ時代には、転動体を利用した軸受の実例が確認されています。最も有名なものは、ネミ湖の湖底から発見された巨大な船から見つかった木製のボールベアリングです。回転テーブルの支持機構部に使われていたと考えられており、現在確認されている最古級の転がり軸受の実物の一つとされています。この時代の軸受は木製であり、精度も現代の製品には遠く及びませんが、「すべらせる」だけでなく「転がす」ことによって摩擦を低減するという発想が存在していたのでしょう。転がり軸受の基本原理は、この時代に誕生しています。

図5 ネミ湖の船
図5 ネミ湖の船

出典:Unknown Author、Wikimedia Commons、Nemi-Schiff.jpg、Public Domain、PD-US

④ 軸受の構想化

中世からルネサンス期にかけて風車や水車、機械式時計などの発展により軸受の技術は大幅に進歩しました。一方で、より効率的な機構構造を考える動きが現れます。その代表がレオナルド・ダ・ヴィンチです。1500年頃に、軸受に関連するさまざまなスケッチを残しています※1。図6、7はボールベアリングと推察されるスケッチの一例です。図6の右上の円形状の図を見ると、大きな球が8個、球と球との間に小さい車輪、外部リングと内周リングから構成されていることが判ります。この構造では、球同士を接触させないことで、摩擦の発生をきっかけに摩耗が発生することの防止を意図しているのであろうと推察されます。この構造は現代のボールベアリングの基本構成と同じ発想となっています。図7は、「ねじ式ジャッキ」を描いています。左上の断面図を見ると、2枚の円板の間に球が配置されています。ジャッキで物を持ち上げると、円板だけの構造では、円板が直接こすれ、摩擦が大きくなりますが、球が配置されると、すべり摩擦から転がり摩擦へ変化するのでジャッキを持ち上げる力を弱めることができます。この構造は、現代のスラストベアリングと同様な原理です。

図6 保持器つきベアリング
図6 保持器つきベアリング

出典:“ Leonardo da Vinci、Wikimedia Commons、Leonardo da Vinci - Codex Madrid I.pdf、public domain、PD-US ”を抜粋して作成

図7 ボールスラストベアリング
図7 ボールスラストベアリング

出典:“ Leonardo da Vinci、Wikimedia Commons、Leonardo da Vinci - Codex Madrid I.pdf、public domain、PD-US ”を抜粋して作成

※1

レオナルド・ダ・ヴィンチが残した5000枚を越えるノートやスケッチは総称して「Codex(コデックス、手稿)」呼ばれます。内容は、絵画論、数学、建築、植物、解剖、土木、発明、機械工学、地理など極めて多岐にわたり、なかには語学の練習ノートまでも含まれています。軸受で引用したものは、Codex Madridと呼ばれています。

表1 Codex一覧
名称 内容
Cod 機械工学、歯車、軸受、摩擦、機械要素
Codex Madrid 幾何学、要塞、土木
Codex Atlanticus 最大の手稿集。飛行機械、兵器、機械設計など
Codex 水理学、天文学、地質学
Codex Ar 科学・工学メモの雑集
Codex 機械技術、数学、摩擦研究

⑤ 近代ボールベアリングの発明

1794年、ウェールズの発明家フィリップ・ヴォーン(Philip Vaughan)は、馬車の車輪と車軸の間に鋼球を配置した転がり軸受の特許を取得しました。この発明は、現在の玉軸受(Ball Bearing)につながる原型として位置付けられています。これにより、すべりによる摩擦を転がり摩擦に置き換えることで、摩擦低減と耐久性が大きく向上しました。

⑥ 産業革命とベアリング工業の確立

19世紀後半になると、産業革命による機械化の進展に伴い、より高精度な軸受への需要が急速に高まりました。1883年、フリードリヒ・フィッシャ(ドイツ)が鋼球を高精度に大量生産可能な研削機を開発しました。この技術革新により近代的な軸受産業の発展に貢献しました。その後、玉軸受を始め、円筒ころ軸受など、さまざまな「転がり軸受」が実用化され、自動車、工作機械など、産業分野への用途が広がりました。図8はフリードリヒ・フィッシャの研削機の動作イメージです。研磨ディスクを傾けることで、球体の自転運動+公転運動を生み出し、均一に研磨できることが特徴です。フリードリヒ・フィッシャ研削機の概要については、SCHAEFFLER社のサイトをご覧ください。
https://schaeffler-tomorrow.com/en/article/impeccable-round-and-smooth

図8 フリードリヒ・フィッシャの研削機
図8 フリードリヒ・フィッシャの研削機

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

フリードリヒ・フィッシャは「球を真球に研削する原理」を確立しましたが、ベアリング産業を発展させたのはエルンスト・グスタフ・ホフマン(英国)と評価されています。図9はホフマンの球研削機の基本原理です。特徴は、研磨用の砥粒(とりゅう)を使わずに球体を製造できることです。溝付きの研削ディスクで鋼球を挟み、上下のディスクを逆回転させることで、球面全体を均一に仕上げます。

図9 ホフマンの玉研削機
図9 ホフマンの玉研削機

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

⑦ 現代の高性能軸受

軸受の性能を左右する主要部品の一つが、転動体である鋼球です。鋼球の製造原理は、ホフマンが確立した研削方式を基礎としています。現在でも、鋼球を二枚のディスクの間で転動させながら、砥粒によって均一に研削し、真球へ近づけるという基本原理は変わっていません。しかし、現代の高性能軸受に使用される鋼球は、単に研削するだけで製造されるものではありません。高純度な軸受鋼の採用、精密な熱処理管理、ダイヤモンド砥粒などを用いた研磨制御、鏡面仕上げ技術、サブミクロン精度の品質管理など、材料工学、加工技術、計測技術を総合的に活用して製造されています。最新の高性能軸受用鋼球では、真球度誤差が0.1μm(1万分の1mm)程度という極めて高い精度が実現されています。これは、人の髪の毛の太さの数百分の一から千分の一程度に相当します。

軸受市場の動向

日本における軸受の受注金額推移(2016年~2025年)※2は図10です。軸受の受注高は2016年以降、景気変動に伴う増減を繰り返しながら推移しています。2020年にコロナ禍の影響で大きく落ち込んだ後、2021年には過去10年間で最高水準となるレベルまで回復しました。その後は、いわゆる調整局面に入り、2024年まで緩やかに減少したものの、2025年には再び増加へ転じています。全体としては6,000~8,000億円程度の範囲で推移しており、安定需要を特徴とする成熟市場であると考えられます。一方で、将来的には新たな分野が追い風になる可能性があります。

  • EV(電気自動車)向け高性能軸受
  • 産業用ロボット
  • 半導体製造装置
  • 宇宙・航空分野 など

特にロボットや半導体製造装置では、高精度ベアリングの需要拡大が期待されています。

※2

日本の各種統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト:e-Statをご覧ください。

図10 軸受受注統計
図10 軸受受注統計

出典:政府統計「機械受注統計調査結果表(月次・大分類、中分類)2026-8-19公開」を元に作成

軸受にはどのような種類があるのか

1)すべり軸受

すべり軸受(plain bearing)とは、軸と軸受面とが直接または潤滑被膜(油や空気など)を介して、ボールやローラを使わず、軸そのものが軸受面の上を滑って回転します。すべり軸受の材質には、鉄系金属、銅系金属、樹脂などがあります。すべり軸受は、荷重の作用方向にもとづいて、軸に対して直角方向の荷重を受けるラジアル軸受と、軸方向の荷重を受けるスラスト軸受に分類されます。主な種類は、ジャーナル軸受、スラスト軸受、流体軸受、動圧軸受などです。

2)転がり軸受

内部に転動体と呼ばれる「ボール」か「ローラ」を内蔵しています。転動体を転がすことで回転運動を滑らかにする軸受のことです。一般的な転がり軸受は、内輪、外輪、転動体(ボールもしくはローラ)、保持器で構成されます。主な種類は、玉軸受(Ball bearing)、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、円すいころ軸受、球面ころ軸受です。

表2 すべり軸受と転がり軸受の比較
すべり軸受 転がり軸受
支える仕組み 軸と軸受を滑らせる 玉・ころを転がす
転動体 なし あり
代表例 ジャーナル軸受、流体軸受 玉軸受、ころ軸受
潤滑 重要 一般に必要
特徴 構造が比較的単純、大荷重・高速回転にも対応可能 摩擦が小さく、交換・取り扱いが比較的容易

3)玉軸受

転がり軸受の一種で、鋼球(ボール)を転がして軸を支える軸受です。実務で単に「ベアリング」という場合、一般的には「玉軸受」のことを指しています。

図11 玉軸受の一般的な構造
図11 玉軸受の一般的な構造

出典:Silberwolf、Wikimedia commons、Angular-contact-ball-bearing single-row din628 type-b 120.png、CC BY 2.5

図12 玉軸受の動作
図12 玉軸受の動作

出典:PlusMinus、Wikimedia commons、BallBearing.gif、CC BY-SA 3.0

① アンギュラ玉軸受

アンギュラ玉軸受は、転動体(玉)と軌道輪とに接触角がついている玉軸受です。半径方向の荷重(ラジアル荷重)だけでなく、軸方向の荷重(アキシャル荷重)を受けることができます。高速回転や高剛性が求められる用途に適しています。図13はアンギュラ玉軸受の構造と原理です。身近な例では、自転車のハンドルと前輪を結ぶ機構で使われています。

図13 アンギュラ玉軸受の構造と原理
図13 アンギュラ玉軸受の構造と原理

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

② 深溝玉軸受

最も一般的な玉軸受。深溝玉軸受は、軌道輪内の溝の寸法がそこを転がる玉の寸法とほぼ同じになっています。深溝玉軸受は、同じ大きさの溝の浅い軸受よりも荷重許容量が大きいですが、内輪と外輪のずれの許容量が小さいです。軌道輪にずれが生じた状態では、深溝玉軸受よりも溝の浅い軸受の方がより大きな荷重を支持できます。

③ 自動調心玉軸受

自動調心玉軸受は、外側の軌道輪の軌道が球面になっており、その曲率が軸受中心と一致しています。このため、軸がある程度傾いても回転を維持できるという特徴があります。

図14 自動調心玉軸受の動作
図14 自動調心玉軸受の動作

出典:Lidingo、Wikimedia commons、Ball bearing self aligning.gif、public domain

④ スラスト玉軸受

スラスト玉軸受はスラスト軸受の一種でもあり、軌道輪(軌道盤)が左右から玉を挟む形の軸受である。アキシャル荷重が直接軸受に伝達され、ラジアル荷重はほとんど支持できません。ラジアル荷重がかかると軌道輪をずらす力が働くため、少しのラジアル荷重でも軸受に損傷を与えます。

図15 玉軸受の力を受ける成分
図15 玉軸受の力を受ける成分

出典:Carnaubo、Wikimedia commons、Schema Ball bearing, angular contact single.svg、CC BY-SA 4.0
Carnaubo、Wikimedia commons、Schema Ball bearing, deep groove.svg、CC BY-SA 4.0
Carnaubo、Wikimedia commons、Schema Ball bearing, self aligning.svg、CC BY-SA 4.0
Carnaubo、Wikimedia commons、Schema Ball bearing axial, deep groove.svg、CC BY-SA 4.0

4)ころ軸受

ころ軸受(roller bearing)は、転動体として直径より長さの方が若干大きい円柱を使います。ころ軸受は玉軸受よりもラジアル荷重の許容量が大きいですが、アキシャル荷重の許容量は小さく、アキシャル荷重がかかると摩擦が大きくなります。軌道輪の内輪と外輪がずれると、玉軸受より急激に荷重許容量が低下します。

図16 ころ軸受の基本構造
図16 ころ軸受の基本構造

出典:Silberwolf、Wikimedia commons、Cylindrical-roller-bearing din5412-t1 type-n ex.png、CC BY 2.5

5)針状ころ軸受

針状ころ軸受(needle roller bearing)は非常に細長い円柱を転動体として使います。転動体が細いため、軸受の外径は内径より若干大きいだけで、他の軸受よりも薄い構造です。しかし転動体の直径が小さいと軌道輪と接した部分が鋭く曲がるため、軸受の疲労は比較的早いようです。

図17 針状ころ軸受の基本構造
図17 針状ころ軸受の基本構造

出典:Wikimedia commons、Needle bearing.jpg、public domain

6)円すいころ軸受

円すいころ軸受(tapered roller bearing)は、円すい台形の軌道輪と円すい台形の転動体を使います。ころ軸受はラジアル荷重しか支持できないですが、円すいころ軸受はラジアル荷重もアキシャル荷重も支持でき、接触面が大きいために玉軸受より荷重許容量が大きくなります。自動車(トラックやバスを含む)の車輪の軸受に使われています。大きな荷重がかかると円すいがくさびのように作用し、転動体を軌道輪から押し出すように力がかかります。すると軌道輪のえり部分と接触して摩擦が増大します。

図18 円すいころ軸受の基本構造
図18 円すいころ軸受の基本構造

出典:Silberwolf、Wikimedia commons、Tapered-roller-bearing din720 ex.png、CC BY 2.5

7)球面ころ軸受

球面ころ軸受(spherical roller bearing)は、中心が太く両端が細い転動体を使い、それに合うような形状の軌道輪を使います。斜め方向の荷重が作用しても自動的に調整して支持できます。球面ころの各部は異なる速度で回転するため、軌道輪との接触面に逆向きの力も働きます。

図19 球面ころ軸受の基本構造
図19 球面ころ軸受の基本構造

出典:Silberwolf、Wikimedia commons、Spherical-roller-bearing double-row din635-t2 120.png、CC BY 2.5

8)スラスト軸受

スラスト軸受は、垂直な軸などのアキシャル荷重を支持するのに使われます。玉、円すい、円柱などの転動体が使われます。

図20 スラスト軸受の基本構造
図20 スラスト軸受の基本構造

出典:Silberwolf、Wikimedia commons、Thrust-cylindrical-roller-bearing din722 120-ex.png、CC BY 2.5

軸受の性能を決める要素

1)荷重

図21は軸受に作用する荷重のイメージです。左側は軸に対して直角の方向に作用するラジアル荷重です。右側は軸方向に作用するスラスト荷重です。

図21 荷重の種類
図21 荷重の種類

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

2)潤滑

軸受の性能・寿命は、鋼球や軌道面の精度だけでなく、潤滑状態によって大きく左右されます。潤滑には主に5つの役割があります。

① 摩擦の低減

軸受内部では、鋼球・内輪軌道面・外輪軌道面が接触しながら高速で運動しています。潤滑油が油膜を形成することで、金属同士が直接接触することを防ぎます。

② 摩耗防止

潤滑剤がない場合、金属面が直接接触し、軌道面の傷や焼き付きが発生します。

③ 発熱の抑制

軸受が発熱する主な要因は、摩擦とせん断抵抗です。潤滑油は摩擦低減や熱の伝搬を行います。特に高速動作時は、油が冷却媒体として機能します

④ 防錆

軸受の鋼は錆びやすいため、潤滑油は表面に油膜を形成して、腐食防止や保管時の寿命を延ばします。

⑤ 異物侵入の防止

グリースや潤滑油は粉塵、金属粉、水分の侵入を抑制します。混入した微粒子を運び去る働きもあります。

3)潤滑方式

潤滑の方式は、大きく分けると、グリース潤滑とオイル潤滑です。オイル潤滑には色々な方式があります。設計条件や運転条件によって選択されます。

① グリース潤滑

半固体状の潤滑剤であるグリースを使用する潤滑方式です。グリースの基本成分は、基油(ベースオイル)+増ちょう剤(基油を半固体化する成分)+添加剤で構成されています。基油には鉱物油や合成油が用いられ、増ちょう剤にはリチウム石けんなどが使用されます。また、添加剤として防錆剤や酸化防止剤などが配合されています。グリース潤滑のメリットは、密封(シール)しやすいこと、保守が容易なこと、および比較的低コストであることです。そのため、モータ、ファン、自動車の補機類などに広く採用されています。

② オイルバス潤滑

軸受の一部を油槽内の潤滑油に浸し、軸受の回転によって油をかき上げて潤滑する方式です。低中速回転のときに用いられます。特徴は、構造が比較的シンプル、潤滑状態が安定、グリース潤滑より冷却効率が高いことです。歯車装置、減速機などに適用。

③ 滴下潤滑

オイルカップや給油器から潤滑油を一滴ずつ供給する方式です。

④ 飛まつ潤滑

回転する歯車や回転体が潤滑油を飛散させ、その油滴によって軸受を潤滑する方式。特徴は、給油装置が不要で減速機装置内では広く適用されています。注意点としては、回転速度によって給油量が変動します。

⑤ オイルミスト潤滑

潤滑油を霧状にして供給する方式。特徴は、油使用量が少ない、発熱が少ない、高速回転軸に適する、です。

⑥ オイルエア潤滑

極少量の油を圧縮空気で連続的に供給する方式。適用例は工作機械の主軸や高速スピンドルなどです。

⑦ ジェット潤滑

潤滑油をノズルから高速で噴射し、軸受内部へ直接供給する方式。特徴は優れた冷却効率と超高速回転軸受に対応します。適用例は、ガスタービン、航空機エンジンなどです。

自動車における潤滑方式は部位によって異なります。

  • ホイールベアリング
    現在の乗用車では、ほとんどがグリース潤滑
  • オルタネータ・エアコンコンプレッサ・電動モータ
    これら補機類の軸受も、ほぼグリース潤滑
  • エンジンのクランクシャフト軸受・コンロッド軸受
    これらは転がり軸受ではなく滑り軸受ですが、潤滑方式は強制循環給油(オイル潤滑)です。エンジンオイルポンプが油を送り、軸受の潤滑、冷却、摩耗粉の除去です。
  • トランスミッション・デファレンシャル
    内部のベアリングは主にオイルバス潤滑や飛沫潤滑。歯車が油をかき上げ、ギヤ・ベアリングを同時に潤滑します。
  • EV(電気自動車)の駆動モータ
    基本的にはグリース潤滑軸受が主流です。

4)寿命

① 疲労寿命のメカニズム

軸受は摩耗で寿命を迎えるとは限りません。多くの転がり軸受では、鋼球(転動体)および、軌道面(レースウェイ)に繰り返し接触応力がかかり続けることで、内部に微小な疲労亀裂が発生します。そして最終的に、亀裂発生 → 亀裂進展 → 表面剥離 → 振動・騒音増加 → 軸受寿命となります。この現象を転がり疲労(Rolling Contact Fatigue)と呼びます。

② L10寿命

軸受は全く同じ製品でも寿命がばらつきます。軸受の寿命を議論する際、もっとも重要視される指標はL10 (基本定格寿命)です。世界的な標準規格(ISOやJIS)でも、軸受の寿命計算のベースとしてこのL10が採用されています。L10とは、同一条件で運転した軸受群のうち、90%が損傷せずに運転できる寿命です。言い換えると、10%が疲労破壊する寿命ともいえます。例えば、L10寿命=50,000時間であれば、90%の軸受は50,000時間以上使用可能、10%の軸受は50,000時間未満で疲労損傷する可能性があるという意味になります。なお、寿命計算式は、総回転数で表すL10、時間で表すL10h、自動車の場合は走行距離で表すL10sが用いられます。L10の算出に際して、荷重の影響が極めて大きく、例えば、玉軸受では荷重が2倍になると寿命は1/8となります。L10の詳細については各種技術書や、製造メーカのサイトをご覧ください。

軸受をどのように選定するのか

軸受選定で、もっとも重要なことは、「荷重」「回転数」「寿命(L10)」の3要素を満足する軸受を選ぶことです。その上で、精度、潤滑方式、使用環境、取付条件を考慮して最終的な型番を決定します。基本の流れは「荷重条件 → 軸受形式選定 → 回転数確認 → 寿命計算(L10) → 精度・すきま選定 → 潤滑方式選定 → 使用環境確認 → 型番決定」となります。

  • 軸受形式の選定
    荷重の種類に応じて軸受形式を選びます。
  • 回転速度の確認
    軸受には許容回転速度があります。例えば、高速向き:深溝玉軸受、比較的低速向き:円すいころ軸受。高速になるほど、発熱、潤滑方式、保持器強度の検討が重要になります。
  • 寿命計算(L10寿命)
    軸受選定で最も重要な項目です。
  • 精度等級の選定
    工作機械主軸などでは高い回転精度が要求されます。軸受の精度等級には普通級(0級)に加えて、6級、5級、4級、2級などがあり、等級の数字が小さいほど高精度です。一般的なモータでは普通級(0級)が使用されることが多く、工作機械の主軸では、要求される回転精度に応じて4級など高精度軸受が適用されます。
  • すきまの選定
    ラジアル内部のすきまです。標準、C2(小)、C3(大)、C4(さらに大)。一般モータではC3が使用されるようです。
  • 潤滑方式の選定
    グリース潤滑にするのかオイル潤滑にするのか。
  • 使用環境の確認
    環境条件(高温環境、水環境、粉塵環境、真空環境)の確認
  • 取付寸法の確認
    軸径、ハウジング径、軸受幅などから軸受の型番を決定します。

軸受の型番と呼び番号

軸受の呼び番号は、軸受の種類・寸法・構造などの仕様を表す世界共通の識別番号です。JIS B 1513(転がり軸受の呼び番号)で規定されています。寸法関連については、JIS B 1512(3部構成)で規定されています。呼び番号は基本番号と補助番号とから構成されています。基本番号は軸受の基本仕様(軸受の種類、寸法)を、補助番号はシール、内部すきま、精度、保持器などの詳細仕様を表します。

図22 軸受の呼び番号
図22 軸受の呼び番号

出典:Copilotが生成した画像を元に作成

進化する特殊軸受

一般的な転がり軸受は、鋼製の内輪・外輪・転動体によって軸を支持します。しかし、近年では高速回転、高精度、無給油運転、耐食性、低騒音などへの要求が高まっており、用途に応じたさまざまな特殊軸受が開発されています。代表的な特殊軸受を紹介します。

① セラミック軸受

セラミック軸受は、転動体(玉・ころ)または軌道輪にセラミック材料を使用した軸受です。特徴は、軽量(鋼球の約40%)、耐食性・耐熱性(薬品や高温環境下に強い)、絶縁性(電食を防ぐ)です。用途例は、EV(電気自動車)駆動モータ、工作機械主軸、半導体製造装置です。

② 磁気軸受

磁気軸受は、電磁石などの磁力を利用して回転軸を非接触で浮上・支持する軸受です。特徴は完全非接触(摩耗がなく、超高速回転が可能)、潤滑不要(オイルフリーでクリーンな環境に対応)、能動制御(電磁石の制御により振動を極小化可能)。用途例は、ターボ分子ポンプ(半導体製造等)、高速コンプレッサ、発電設備(ガスタービン等)などです。

③ 空気軸受

空気軸受は、圧縮空気によって形成される数μm程度の極薄な空気膜で軸を非接触支持する軸受です。特徴は、極小の摩擦(発熱が少なく、超高精度な回転・位置決めが可能)、発塵がない(潤滑油を使わないためクリーンルームに最適)、耐荷重が小さい(空気膜で支えるため、過度の荷重には弱い)。用途例は半導体露光装置・検査装置、超精密加工機・測定機などです。

④ 水潤滑軸受

水潤滑軸受は、油やグリースの代わりに「水(海水含む)」を潤滑剤として利用する滑り軸受です。特徴は、環境負荷ゼロ(油漏れによる水質汚染のリスクがない)、冷却性能(水の比熱が高いため冷却効果に優れる)、耐薬品性(海水環境下でも直接使用可能)。用途例は、船舶のプロペラ推進軸、水力発電用水車、水中ポンプなどです。

⑤ 動圧流体軸受

動圧流体軸受は、軸の回転によって流体(油や気体)に発生する動圧を利用して非接触で軸を支える軸受です。特徴は、静音性・低振動(転動体の衝突音がないため非常に静か)、高回転精度(油膜ダンパー効果により回転ぶれを吸収)、長寿命(運転中は非接触となるため摩耗が少ない)。用途例は、HDD(ハードディスクドライブ)、PC用冷却ファン、光ディスクドライブ(Blu-ray/DVD)などです。

⑥ 宝石軸受

宝石軸受は、人工ルビーや人工サファイアといった高硬度材料を軸受部材に使用する極小サイズの滑り軸受です。特徴は、超耐摩耗性(ダイヤモンドに次ぐ硬度で摩耗がほぼ発生しない)、超低摩擦(鏡面仕上げにより微小荷重での摩擦が極めて小さい)、耐腐食性・非磁性(磁気や薬品の影響を受けない)。用途例は、機械式腕時計、ダイヤルゲージ等の精密測定器、航空・宇宙用アナログ計器などです。

高級腕時計のカタログにある「21石」「25石」といった表記は、摩耗しやすいギアの軸受部に配された人工ルビー(宝石軸受)の個数を表しています。

関連計測器の紹介

軸受に関連した計測器の一例を紹介します。

図23 軸受に関連した計測器の例
図23 軸受に関連した計測器の例

その他の各社製品や仕様などについては、計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

軸受は、産業機械や自動車、鉄道、エネルギ設備など、さまざまな機械を支える基盤技術です。使用環境や要求性能の高度化に対応するため、材料、潤滑、デジタル技術などを取り入れた開発が継続的に進められており、さらなる長寿命化や省エネルギ化、高精度化が図られています。機械社会を陰で支える重要な存在として、今後も着実な技術進化を期待しましょう。

自動車関連の他の記事は こちらから