船 ~ 人類が最初に生み出したモビリティ ~
船は人類にとって最初に獲得したモビリティ※1の一つです。地球上の約70%は海ですが、世界貿易の約90%以上を担う海上輸送は現代社会の基盤と言えるでしょう。本稿では船舶に関連した技術について解説します。最初に建造量の推移、船の歴史について世代ごとに概説します。次に、船の力学(アルキメデスの原理、復元力)を概説します。その後に船の構造(基本構成、主要部である舵、船首、スクリュ、エンジンなど)、船の種類を紹介します。そして、関連技術として、海上試験、船の大きさ、法的な扱い、国際ルール、造波抵抗、犠牲電極、船の表示などについても触れます。最後に船舶に関連する計測器を紹介します。
(mobility) 移動性、可動性。人や物を移動させるための手段や仕組み全体を示す概念。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
【余談】ふねにまつわる漢字
「ふね」にまつわる漢字をいくつご存じでしょうか。一般的に使われるものから、旧字などを含めると100文字以上あるようです。「ふね」という言葉の豊かさは、その歴史の深さを物語っています。以下に、「ふね」に関連する主な漢字を挙げます。
舟(ふね):小型のふね。部首として使われ、「舟へん」
船(せん/ふね):人や物を運ぶ一般的な船。「船舶」は主に法律や行政、ビジネスで使用される船を指す呼称。
舩(せん/ふね):「船」の異体字。人名や地名などで使用。JIS規格 第2水準漢字で定められている。
舶(はく):荷物や人を運ぶ大きな船
艇(てい):小型の細長い船。ボートやヨット
艦(かん):軍用の船。「航空母艦」
艘(そう):船を数える単位。「1艘」
航(こう):船で進む。「航海」
舷(げん):船の側面。右舷・左舷
舵(かじ):船を進む方向を制御するための装置
舳(へさき):船の前方
艫(とも):船の後部
建造量の推移
図1は国別の船舶建造量シェアの推移です。2000年頃まで日本は世界シェアの4割近くを占めていましたが、その後、中国・韓国が急速に台頭しました。日本、韓国、中国の3カ国で世界シェアの90%以上を占めています。近年の日本シェアは低下傾向となっており直近では日本のシェアは約13%です。
出典:各所が公開しているデータを元に作成
船の歴史
「ふね」の歴史について、主な世代を観点として概説します。
① 第1世代:原始的な船(~紀元前3000年頃)
人類が最初に利用した船は、自然の素材をそのまま活用した単純なものでした。代表的なものとしては、丸太をくり抜いた丸木舟や、葦(あし)や竹を束ねた筏(いかだ)です。これらは主に川や湖といった水域で使われ、推進方法は棒などによる人力でした。水上を移動する新たな手段として、重要な役割を果たしていたと推察されます。
② 第2世代:古代文明(紀元前3000年~中世初期)
文明の発展とともに船は大きく進化しました。エジプトではナイル川の航行に帆船(はんせん)が用いられました。この時代になると、造船技術が発達し、船は広範囲をカバーする重要な移動手段となりました。また、ギリシアやローマではオールを用いるガレー船※2が軍事目的で発展しました。中国ではジャンク船※3と呼ばれる帆船が登場しました。この時代の革新的な技術は帆の導入です。風を利用することで航行距離が大きく伸び、交易圏が拡大しました。
人力(オール)と帆を用いて推進する軍船や交易船。風だけに頼らず航行可能。
中国で発達した伝統的な大型帆船。竹骨で補強した、すだれ状の帆を備え、東アジアの交易や漁業、軍事など幅広く活躍。
③ 第3世代:中世から大航海時代(約1000年~1700年)
中世から大航海時代にかけて、外洋航海に適した構造へと進化しました。ヨーロッパではカラベル船やキャラック船、ガレオン船※4などが開発され、荒れた海にも耐えうる設計が確立され、より大型化されました。さらに、羅針盤(らしんばん)や海図といった航海技術も発展し、長距離航海が可能となりました。コロンブスの新大陸到達に象徴されるように、船は地理的発見の重要な手段となりました。
カラベル船:15世紀のポルトガルで活躍した小型帆船。大航海時代の探検で重用。キャラック船:15~16世紀に欧州で主力となった大容量の積載力を持つ大型帆船。大航海時代の主力船。ガレオン船:16~17世紀にスペインなどで用いられた大型武装帆船。貿易と海戦の両面で活躍。
出典:PHGCOM、Wikimedia Commons、Portuguese Caravel.jpg、CC BY-SA 3.0
出典:Dietrich Bartel (my father)、Wikimedia Commons、Santa-Maria.jpg、CC BY-SA 2.0
出典:Cephas、Wikimedia Commons、Galeón Andalucía Quebec City 02.jpg、CC BY-SA 4.0
出典:Copilotが生成したイラストを元に作成
④ 第4世代:産業革命期(18世紀後半~19世紀)
産業革命は船の歴史に大変革をもたらしました。蒸気機関が導入され、風に依存しない航行が実現しました。推進機構としては、外輪船に始まり、やがてスクリュ機構へ移行しました。また、船体は木造から鉄鋼へ変化し、大型化と耐久性の向上が進みました。船の運用面では、定期航路が確立され、安定的な輸送が可能となりました。
⑤ 第5世代:近代(20世紀初頭~20世紀後半)
20世紀に入ると、蒸気機関に代わってディーゼルエンジンが主流となり、船の性能はさらに向上しました。原油を輸送するタンカや貨物船、旅客船といった用途別の船が発達し、軍事面では潜水艦や航空母艦なども登場しました。技術面では、レーダや無線通信といった電子技術の導入により、安全性や運航効率が劇的に改善されました。船は単なる移動手段から産業と物流とを支える重要なインフラとして確立されました。
⑥ 第6世代:現代の船(20世紀後半~現在)
現代の船は、大型化と効率化が追求された段階にあります。特にコンテナ船の登場は国際貿易の効率を飛躍的に高めました。さらに、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)船や超大型タンカなど、用途に特化した専用船舶が登場しました。航海にはGNSS※5や自動識別装置(AIS)などの高度なデジタル技術が活用され、運航の電子化・自動化が進んでいます。加えて、カーボンニュートラル対応のための燃費改善や排出ガス削減といった取り組みも重要な課題となっています。
(Global Navigation Satellite System) 全球測位衛星システムの総称。人工衛星からの電波を利用して、地球上での位置・速度・時刻を高精度に測定するシステム。主なGNSS、GPS:米国、GLONASS:ロシア、Galileo:EU、BeiDou:中国、みちびき:日本。なお、「GPS」はGNSSの一種、GPS=GNSSではない。
⑦ 第7世代:将来の船(次世代)
将来の船は、持続可能性と自動化を中心に進化すると考えられます。水素燃料やアンモニアなどの次世代燃料や電動推進といったカーボンニュートラル技術の導入が進む一方、AIを活用した自動運航船の実用化も進展しています。次世代の船は環境負荷低減、運航効率向上、安全性向上を高いレベルで両立させながら発展するでしょう。
船の力学
1)船はなぜ浮くのか
船の大きな特徴は重い船体でも水に浮くことです。理由は水から受ける浮力によるものです。浮力が働くのは、水中の水圧が船体を下から支えているからです。アルキメデスは、この浮力が水面下の形状がどのようなものでも、その物体が押しのけている流体の容積と同じ重さに等しいことを発見しました。これを「アルキメデスの原理」と言います。この浮力は船が押しのけた水の重さに等しくなるので、船の重さのことを「排水量」と呼ぶようになりました。
【ミニ解説】「アルキメデスの原理」の発見について故事が残っています。以下、Wikipediaを引用
「当時、ギリシア人の植民都市であったシラクサの僭主ヒエロン2世が金細工師に金(きん)を渡し、純金の王冠を作らせた。ところが、金細工師は金に混ぜ物をして王から預かった金の一部を盗んだ、という噂が広まった。そこで、ヒエロンはアルキメデスに、王冠を壊さずに混ぜ物がしてあるかどうか調べるように命じた。アルキメデスは困り果てたが、ある日風呂に入ったところ、水が湯船からあふれるのを見て、その瞬間アルキメデスの原理のヒントを発見したと言われる。
アルキメデスは、王冠と同じ質量の金塊を用意し、これと王冠を天秤棒に吊るしてバランスが取れることを確認した後に、天秤棒に吊るしたまま両方とも水を張った容器に入れた。空気中では天秤棒は、てこの原理によりバランスが保たれている。てこの原理は水中でも変わらないので、もし金塊の体積と王冠の体積が同じであれば、つまり金塊の密度と王冠の密度が同じであれば、両方を水中に沈めても、天秤棒のバランスは保たれるはずである。」
出典:Tonyle、Wikimedia Commons、Archimedes water balance.gif、CC BY-SA 3.0
2)復元力
船の復元力とは、波や風で船が傾いたときに、元の姿勢に戻ろうとする力です。船が傾くと船に作用する上向きの「浮力」と、下向きに作用する「重力」の位置がずれて、船を直立状態に戻そうとする回転力が生まれます。復元力は、船の幅が広いほど浮力の中心が大きくずれるので大きくなります。また、船の重心が低いほど安定します。
船の構造
1)船の基本構造
船の基本的な構造を貨物船とタンカを例に挙げて解説します。
① 貨物船
図11は貨物船の側面図と断面図です。
| 船首(Bow) | 船の前端部で、波を切って航行する部分。 |
| 船尾(Stern) | 船の後端部で、推進装置や操舵装置が配置される部分。 |
| 舵(Rudder) | 水流を利用して船の進行方向を変える操舵装置。 |
| スクリュ(Screw Propeller) | 回転によって推進力を発生させる推進装置。 |
| 船体外板(Shell Plate) | 船体を覆い、強度と水密性を確保する鋼板。 |
| キール(Keel) | 船体最下部を貫く中心構造材で、船の骨格。 |
| 二重底(Double Bottom) | 船底を二重構造とした空間で、安全性向上やバラスト水搭載に利用。 |
| 甲板(Deck) | 乗組員が作業し、貨物や設備が配置される上部床面。 |
| 隔壁(Bulkhead) | 船内を区画し、浸水拡大を防ぐ仕切り壁。 |
| 機関室(Engine Room) | 主機関や発電機などの機器を収容する区画。 |
| 船橋(Bridge) | 操船や航海の指揮・監視を行う中枢区画。 |
出典:Copilotが生成したイラストを元に作成
② タンカ
図12はタンカの基本構造です。
| 船首(バウ) | 船の前端部。波を切って進む部分。 |
| バルバスバウ(バルバス・バウ) | 船首水面下の球状部分。航行抵抗を減らす。 |
| 船尾(スターン) | 船の後端部。推進装置や操舵装置を配置。 |
| 船体外板(シェルプレート) | 船体を形成する鋼製の外殻。 |
| キール(キール) | 船体最下部を通る船の骨格となる構造材。 |
| 二重底(ダブルボトム) | 船底を二重構造とした安全性向上のための空間。 |
| バラストタンク(バラストタンク) | 海水を出し入れし船の姿勢や安定性を調整。 |
| 貨物タンク(カーゴタンク) | 原油などの貨物を積載するための区画。 |
| 縦通隔壁(ロングバルクヘッド) | 船を左右方向に仕切る縦方向の隔壁。 |
| 横隔壁(トランスバルクヘッド) | 船を前後方向に区切る横方向の隔壁。 |
| 甲板(デッキ) | 乗組員が作業し、機器や配管が配置される上部床面。 |
| カーゴ配管(カーゴパイピング) | 原油の積み込み・荷揚げを行う配管系統。 |
| カーゴポンプ(カーゴポンプ) | 原油をタンク間や陸上設備へ移送するポンプ。 |
| 機関室(エンジンルーム) | 主機関や発電機などを収容する区画。 |
| 船橋(ブリッジ) | 操船や航海の指揮を行う中枢部。 |
| デッキ機器(デッキマシナリー) | 係船や荷役作業に使用する機械類。 |
| バウスラスター(バウスラスター) | 船首で横方向の推力を発生させる装置。 |
| 舵(ラダー) | 水流を利用して船の進行方向を変える装置。 |
| スクリュ(プロペラ) | 回転によって推進力を生み出す装置。 |
出典:Copilotが生成したイラストを元に作成
2)主要な構成部
船を構成する主な構成部について解説します。
① 船首の形状
船首(Bow:バウ)の形状は、抵抗性能、耐波性能、積載能力、速力に大きく影響します。近年はCFD(数値流体解析)の発達により多様な船首形状が開発されています。代表的な船首の形状を紹介します。
- ストレート・バウ
船首がほぼ垂直に立った形です。水線長を長く確保できるため、積載効率や推進効率に優れています。近年のコンテナ船や大型商船で多く採用されています。 - ラウンド・バウ
船首全体が丸みを帯びた形です。波当たりが穏やかで衝撃が少なく、乗り心地の向上に効果があります。漁船やクルーザーなどで採用されています。 - バルバス・バウ
水面下の船首に球状の突起(バルブ)を設けた形です。船体とバルブが作る波を干渉させて造波抵抗を減らし、燃費を向上させます。大型貨物船やタンカ、コンテナ船で広く採用されています。 - クリッパー・バウ
船首が前方へ張り出し、滑らかな曲線を描く形です。波を切り分けて進むため耐波性能に優れ、かつての快速帆船や現在の練習帆船などに見られます。 - 逆傾斜バウ
船首上部が後方へ傾いた形です。造波抵抗を減らせるほか、軍艦ではレーダ反射の低減にも効果があります。最新の軍艦や大型ヨットで採用が増えています。
出典:Geminiが生成したイラストを元に作成
② 舵
船の針路を変える機構で、断面は流線形です。一般的にスクリュの背後に配置しています。舵に働く揚力は流れのスピードの2乗に比例します。そのため、スクリュの後の流れの速い中に置くと大きな揚力が得られます。船が停止状態からでもスクリュを回すと船を回転させることができます。舵の角度が流れに対して約35度以上になると舵の揚力が減少し舵の利きが悪くなります。この事象は航空機でも聞きなれている「失速」と呼ばれます。飛行機の翼と同様な「フラップ」を設けると強い旋回力を得ることができます。
出典:Tosaka、Wikimedia Commons、Rudder(Flap).PNG、CC BY-SA 3.0
③ スクリュ
船のスクリュは、大きく分けると、羽根の角度が固定された「固定ピッチプロペラ」と角度を変えられる「可変ピッチプロペラ」です。
- 固定ピッチプロペラ:ブレードの角度(ピッチ)が固定されているシンプルなプロペラ。
- 可変ピッチプロペラ:ブレードの角度を変えることができるプロペラ
出典:Copilotが生成したイラストを元に作成
プロペラの主な方式として、「ダクトプロペラ」、「二重反転プロペラ」、「タンデムプロペラ」、「ポッド推進プロペラ」、「ポンプジェット推進機」が挙げられます。
- ダクトプロペラ:プロペラの周囲をリング状のダクトで囲んだ方式。低速域で大きな推力を発生。タグボートなどで採用。高速船には不向き
- 二重反転プロペラ:前後に2枚のプロペラを配置し、互いに逆方向に回転させる方式。後方のプロペラが渦エネルギーを回収。
- タンデムプロペラ:同じ方向に回転する2つのプロペラを直列配置した方式
- ポッド推進プロペラ:電動機を船外のポッド内に収納した推進装置。舵が不要。クルーズ船で広く採用
- ポンプジェット推進機:羽根車で吸い込んだ海水をノズルから噴射して推進する方式。潜水艦や高速艇で採用。
出典:Copilotが作成したイラストを元に作成
④ エンジン
船は数千年にわたって帆にたよっていました。しかし、18世紀後半の産業革命以降、蒸気機関の登場によって、自然の風から解放され、自らの動力で推進できるようになりました。その後、ディーゼルエンジンの普及によって効率が飛躍的に向上しました。現在はカーボンニュートラルに向けて、新燃料(LNG、メタノール、水素、アンモニアなど)に対応する機関の開発や採用が進んでいます。ディーゼルエンジンの形式は、大型船舶向けでは、自動車で採用されている4サイクル方式ではなく、2サイクル方式が主流です。エネルギー効率は自動車用に比べて約1.5倍以上を達成しているようです。その他の形式として、ガスタービンエンジンが挙げられます。高速船で採用されていますが、燃費性能が課題です。最新の自衛艦(一般的な表記は軍艦。日本では軍艦を使用しない)では、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンのハイブリッド方式となっています。なお、原子力については、長期間運転を可能にすることから船との相性は良いとされています。軍用艦で成功していますが、商船では普及していません。その理由は、建造費、核物質管理、運用コストなどです。一方、船におけるカーボンニュートラル対応などの背景から、小型原子力(SMR:Small Modular Reactor)の適用が検討されています。
⑤ 横揺れ防止
船は水面上に浮かぶため、陸上の乗り物とは異なり、波によって6種類の運動が発生します。前後移動(サージ)、左右移動(スウェイ)、上下動(ヒーブ)、縦揺れ(ピッチ)、船首揺れ(ヨー)、横揺れ(ローリング)。この中でも横揺れは船の左右の重心移動を伴うため、最も大きな角度変化が発生する運動です。この横揺れを抑制する装置は、特に大型の船では、貨物の安全確保、乗員・乗客の快適性向上、操船性能・航海安全の維持などの理由から必要となっています。横揺れ抑制の主な装置は、①ビルジキール、②フィンスタビライザ、③アンチロールタンク、④ジャイロスタビライザです。
- ビルジキール
船底と船側の角(ビルジ)に、前後に長い板を取り付けます。船が横に傾こうとすると、板が水を押す抵抗(ブレーキ)となって揺れを小さくする。ほとんどの船に装備されている最もシンプルな仕組み。 - フィンスタビライザ
船の左右の船底付近に、飛行機の翼のような小さな翼を出します。翼の角度を動かすことで、左右で逆向きの力(揚力)を発生させ、船の傾きを打ち消す。 - アンチロールタンク
船の左右に大きな水タンクを置き太いパイプでつなぎます。船が左に傾いたとき、水の移動によって揺れを打ち消す。 - ジャイロスタビライザ
船の中に置いた重いコマ(フライホイール)を高速回転させます。コマが回ろうとする力(ジャイロ効果)を利用して、船が傾いたときに真っ直ぐに戻そうとする力を生み出します。停泊中や低速航行時でも高い効果を発揮。
出典:ChatGPTが作成したイラストを元に作成
⑥ 燃料
船の主な燃料は「重油」で、C重油とA重油に区分されます。
- C重油:原油を精製した後の残成分で最も安価です。巨大なエンジンを動かす大型貨物船などで広く使われます。粘性が高いので使う前に約130℃まで温めてサラサラにする必要があります。
- A重油:軽油に近い特質で、サラサラしています。小型船のほか、C重油を使う大型船でも停泊時には固まるのを防ぐためにA重油を使用します。
近年、地球温暖化対策の強化を背景に、温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた規制が急速に進みつつあります。国際海事機関(IMO)は2050年ごろのネットゼロ実現を狙ってGHG削減戦略を強化しています。欧州連合(EU)もFuelEU Maritime※6を通じて、船が使用する燃料のGHG排出強度を直接規制する枠組みを導入しました。こうした規制強化により、従来の重油中心のエネルギー体系を見直し、LNG、メタノール、アンモニア、水素といった低炭素・脱炭素燃料への転換を迫られています。
欧州連合(EU)が、船で使用する燃料の脱炭素化の促進を目的として導入する規制。EUのGHG削減目標達成のための包括的な気候変動政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、 2023年7月に欧州議会及びEU理事会において採択された。
船の種類
船は、輸送する貨物や用途、航行海域などに応じてさまざまな種類に分類されます。例えば、原油を運ぶタンカ、コンテナを運ぶコンテナ船、自動車を運ぶ自動車運搬船、旅客を輸送するフェリや客船などがあります。それぞれ求められる性能や船体構造が異なります。代表的な船の種類とその特徴について、貨物船、旅客船、その他に分類して表にしました。
| 貨物船 | 貨物船は、貿易物資や国内貨物の輸送を行うための船です。現代の貨物船は、貨物の種類によってさまざまなタイプに分かれており、形や構造もそれぞれ非常に異なっています。このように、より輸送効率を高めるために、特定の貨物に合わせた構造や特徴をもつ船を「専用船」と呼び、原油を専門に運ぶオイルタンカやコンテナを運ぶコンテナ船などがその代表です。 |
|---|---|
| タンカ | 船倉はタンク状になっており、原油の積み下ろしを行うためのパイプラインやポンプを備えています。 |
| セメント専用船 | セメントを粉状のままバラ積込み輸送する船。荷揚用コンベアのセルフ・アンローダーをつけた構造の船が多い。 |
| 石灰石専用船 | 石灰石をばら積みで専門的に運ぶ船。荷揚用コンベアのセルフ・アンローダーをつけた構造の船もある。一般的に、大量輸送を求められるため、大型船が多い。 |
| コンテナ船 | 国際規格の海上コンテナを専門に運ぶ船で、国際定期航路の主力。 貨物船の中では最も高速です。 |
| 自動車専用船 | 自動車を専用に運ぶ船で、船内は何層にも分かれた駐車場ビルのようなつくりです。積み荷の自動車は自走してから積み込み積み下ろしされます。 |
| LNG船 | マイナス162℃の液化天然ガス(LNG)を運ぶ船で断熱構造のタンクには超低温に耐えられる特殊素材が使われています。 |
| LPG船 | 液化石油ガス(LPG)を運ぶ船で、低温で液化するタイプ(主に外航)と高圧で液化するタイプ(主に内航)があります。 |
| ばら積み船 | 穀物や石炭などの貨物をばら積みの状態で運ぶ船です。荷役装置を持つものと持たないものがあり、大型船では持たないのが普通です。 |
| 鉱炭兼用船 | ばら積み船の一種ですが、鉄鋼原料の鉄鉱石と石炭を運ぶために専用化した船で、船型もタンカに次いで大型化しています。 |
| ロールオンロールオフ船 | 貨物をトレーラシャーシごと運ぶ船で、貨物が自走して積み込まれます。 |
| 旅客船 | 旅客を運ぶ船には、国内の各地を結んで人を運ぶ一般旅客船、人と自動車を一緒に運ぶフェリや世界のさまざまな海域を周遊する外航クルーズ船、レジャを楽しむ観光船、離島航路などを結ぶジェットフォイルなどの高速旅客船もあります。 |
|---|---|
| 外航クルーズ船 | 季節やニーズに応じて世界のさまざまな海域を周遊するレジャ志向の客船で、豪華な設備と行き届いたサービスが魅力です。 |
| 一般旅客船 | 主に国内各地の港を結び、旅客を運ぶ船です。船によって生活物資も運びます。 |
| 長距離フェリ | 国内の主要都市を結び人と車を同時に運びます。貨物船の性格も持っており、国内貨物の輸送にも大きな役割を果たしています。 |
| フェリ | 離島航路などに就航するフェリで、地域の生活の足として重要な存在です。 |
| ジェットフォイル | 離島航路や近隣国への航路を結ぶ高速旅客船で、時速80㎞以上の高速で走ります。 |
| レストランシップ | 食事をしながら湾内クルーズなどを楽しむ新しいタイプの観光船です。 |
| その他の船 | 貨物船や旅客船の船の他にも、漁船、巡視船や消防艇などの官庁船、護衛艦や潜水艦などの艦艇、各種調査船などさまざまな船があります。また特殊な船として石油掘削船などの作業船があります。 |
|---|---|
| 護衛艦 | 海上自衛隊の保有する主力艦。高度な電子機器やミサイルを装備しています。 |
| 訓練船 | 船員になるための航海実習訓練に使われます。 |
| 巡視船 | 海難救助や沿岸警備に活躍する海上保安庁の船で、小型のものは「巡視艇」と呼ばれています。 |
| 漁船 | 漁ろう船(カレイ、タラ、ニシンなどを獲るトロール漁船)、工船、運搬船、その他(指導船、調査船)があります。 |
| 消防艇 | 船の火災時に消火活動を行う船で、海水を噴射する強力なポンプを備えています。 |
| 海底油田掘削船 | 海底油田を掘削する船で目的地まで他船で曳航されます。 |
関連技術
船に関連する固有の技術や情報について解説します。
1)海上試運転
船が完成し進水すると、岸壁での試験では確認できない試験項目を洋上で実施します。海で実際に航行し、性能・安全性・操船性を総合的に確認する最終試験です。一般的には「海上公試運転(Sea Trial)」と呼ばれます。主な試験項目は、速力試験(最高速力や燃費性能の計測など)、操縦性能試験(旋回、停止、後進、ジグザグ反転試験など)、機関・推進装置の性能確認(主機関、発電機、軸系、スラスターの作動など)、振動・騒音の確認、航海計器・自動化機器・安全設備の作動確認など多岐にわたります。
2)船の大きさ「トン」
船の大きさは「トン」で表されますが、船の種類によって指標が異なります。「トン」を表す指標は、重量を表す「排水量」、「満載排水量」、「軽荷重量」と容積を表す「総トン数」、「純トン数」があります。
| 排水量 | 水に浮かぶ船が押しのけた水の重さ。アルキメデスの原理により、この水の重さが船全体の重さ。主に軍艦などで使用される指標。 |
| 満載排水量 | 貨物、旅客、燃料などを一杯に積み込んだ状態での排水量(総重量)。 |
| 軽荷重量 | 船そのものの重さ(空荷の状態)。船体や機関のみの重量を指し、積荷や燃料などは含まれない。 ※満載排水量から軽荷重量を引いた重さが、実際に運べる貨物の最大量。最近は、満載排水量が公表されることはほとんどありません。造船技術が分ってしまうことを避けるためのようです。 |
| 総トン数 | 船内の閉鎖空間の容積をもとに国際的なルールで計算される数値。数値が大きいほど船内空間が広いことを示す。 |
| 純トン数 | 総トン数から航海に必要な場所(機関室、操舵室など)の容積を除いた指標。 |
3)船の速度「ノット」
速度の単位は国際単位では「m/s」が一般的ですが、船の速度の単位は「ノット」です。1ノットは1時間に「1海里」進むスピードで「1海里」は地球の円周(約4万km)の緯度1分の距離です。時速1.852km/hです。球形状の上を航行する船や航空機では便利なので採用されているようです。
4)船の法的な扱い
船種によって管轄する省庁が異なります。商船は国土交通省の海事局、漁船は農林水産省・水産庁が所管しています。また、13人以上の乗客を運送する船には、旅客船として特別な安全基準が適用され、関連する主な法令は、船舶安全法と小型船舶安全規則です。客船の区分と扱いは、小型遊覧船:12人以下(小型船の扱いで規制が比較的軽い)、フェリ・観光船:13人以上(旅客船として扱われ、より厳格な安全基準)、クルーズ船:数百から数千人規模の旅客を運送する大型旅客船となります。このように、旅客定員が13人以上になると、安全設備や運行管理などについて厳格な規制を受けます。
5)船の寿命
船の寿命は人間に比べてかなり短いです。特に海で使われる船は海水により鋼鉄が腐食することや自然の外力による疲労、さらに連続して運転されるエンジンを始めとした機械類の性能が劣化するためです。船の法定耐用年数からも寿命の短さがわかります。例えば、漁船(500トン未満):9年、カーフェリ:11年、一般の船(2000トン以上):15年です。ただし、法定耐用年数となっても、解撤(かいてつ:船を解体すること)するのではなく、別の船主に売られ第二の人生を歩むことになります。
6)船に対する国際ルール
船には名前を付けることが法的に義務化されています。船尾に船名と船籍を表示します。合わせて、船尾に国籍国の旗を揚げることも義務付けされています。さらに、複数の国を行き来する船については、国際海事機関(IMO : International Maritime Organization)が管理するIMO番号を取得します。この番号は船の生涯変わらず、船名や国籍が変わっても経歴を調べられます。
IMOの概要:海上の安全、船舶からの温室効果ガスの排出削減、海洋汚染防止等、海事分野の諸問題についての政府間の協力を推進するために1958年に設立された国連の専門機関です。本部は英国(ロンドン)に所在し、2026年1月現在で加盟国は176ヶ国、準加盟国は香港等3地域となっています。船は世界中を航海し、国際的に活動することから、海事分野のルールは各国が連携・協力して全世界的なものとして定められてきました。既に19世紀後半には、主要な海運国が中心となって、各種の技術的事項や灯台業務、海難防止・海難救助等の海上安全の確保を目的とする国際条約等の取決めがなされています。例えば、1912年4月に発生し世界に大きな衝撃を与えたタイタニック号沈没事故は、船舶の安全に関する措置の国際的な取決め策定へ向けた大きなきっかけとなり、1914年1月に「1914年海上人命安全条約」(1914SOLAS条約)が採択されています(第一次世界大戦の影響により未発効)。現在、このようなルール作りはIMOで行われており、世界の主要な海運国・造船国である日本は、国際機関の場で積極的に活動を行い、世界の海事分野のルール作りに積極的に貢献しています。
| 出典 | 国土交通省が公開しているサイトを引用 https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk1_000035.html |
| 参考 | Marine Traffic(マリントラフィック)は世界中で最も利用されている船の位置をリアルタイムで表示できるサイトです。世界中の船の位置を直感的に確認でき、船名や港名での検索も可能です。 https://www.marinetraffic.com/jp/ais/home/centerx:132.1/centery:35.3/zoom:5 |
7)海難事故の「不成功無報酬」
海難事故では人命救助が終了した後、通常、民間の海難救助会社が対応しますが、伝統的に「不成功無報酬(no cure、no pay)」の原則があり、救助に成功した場合のみ報酬が支払われます。もっとも、1989年に採択された「海難救助条約」では、環境を守るための活動を行えば、救助が成功しなくても「特別補償」をもらえます。
8)国際信号旗
海上において、船舶間での通信に利用される世界共通の旗です。言語の違いに関わりなく、アルファベットの文字旗26枚、数字旗3枚、回答旗1枚の合計40枚で構成されています。文字や信号の意味などをまとめたものが「国際信号書 International Code of Signal 」です。
出典:Wikimedia Commons、ICS-flags.png、public domain
9)造波抵抗
航行中の船を上から見ると、船首から斜めに発生している八の字型の波(ケルビン波)を見ることができます。この波の形は小さい模型でも実際の船でも同じになることを、ウイリアム・フルード(英国)が約170年前に算出手法を見出しました。この数値は「フルード数」と名付けられました。「フルード数」は、船の速度を、重力加速度(約9.8m/s2)と船の長さの積の平方根で割って計算されます。船が航行する際に波から受ける造波抵抗は「フルード数」によって決まります。よって、模型の船でも実際の船と大きさは異なっても形状が同じで、「フルード数」を同じにすると、実際の船と同じ形の波で、波の高さは模型の実寸比と同じ波が発生します。すなわち、模型を使った実験で実際の船の造波抵抗を推定することが可能です。「フルード数」が大きくなると造波抵抗も増加し、ある領域を超えるとエンジンの出力を高めても船の速度は速くなりません。概ね0.4前後です。この現象を「造波抵抗の壁」と称しているようです。造波抵抗を下げる方策としては、船の先頭の下部に球状の出っ張りを設けて小さい波を発生させ、船首から発生する大きな波を打ち消すことが可能です。
10)危険な波
海上を航行する船にとって、自然の波と船体の動きとが関係する危険な事象が発生することがあります。積み荷が片寄ってしまう荷崩れや、船体の破損など重大な事故につながります。代表的な事象は、青波:波が甲板の上まであがる、スラミング:船底が海面から離れた後、再び海面に激しく衝突する、バウダイビング:船首が波の斜面に突っ込む、などです。
出典:Copilotで作成
11)世界の二大運河
世界の二大運河としてスエズ運河とパナマ運河が挙げられます。スエズ運河はフェルディナン・ド・レセップスによって建設されました。パナマ運河もレセップスによって取り組まれましたが、難工事のため失敗し、その後、米国によって完成されました。パナマ運河には船の大きさに制約があり、最初の運河を通過できる船はパナママックス型と呼ばれ、幅:32.3m、全長:294.1m、喫水:12mの制約がありましたが、第二運河が開通すると、ネオパナマックス型と呼称され、幅:49m、全長:366mとなり、より大型の船が通過できるようになりました。
12)船体曲面の成形
船の表面は複雑な曲面となっています。そのため、鋼材の曲げ加工が必要ですが、数㎝の厚さを曲げるので、自動車の部品加工で使われるプレス機などは適用できません。通常の曲げ加工においては、ベンディングローラ(板金加工機)や油圧プレス機によって行いますが、複雑な曲面を成形する場合は作業員による「ぎょう鉄作業」が行われます。片手にガスバーナを持って鉄板を熱し、もう一方の手にホースを持って、水で冷まして、鋼材の収縮作用を利用して徐々に曲げていきます。
13)ブロック建造法
造船においては船体をいくつかのブロックに分けて同時に製造し、最後につなぎ合わせて完成させる工法です。船体をいくつもの大きな「ブロック(区画)」に分けて製作し、それぞれを事前に組み立てた後、船台やドックで順次接合して完成させる建造方法です。小組み立てに始まり、柱組み立てを経て、大組み立てとなります。最後は、船台やドックでの最終組み立てです。現在の大型商船などの製造において主流となっている工法です。かつて、日本の建造量が世界一を誇った原動力のひとつとして、ブロック建造法が挙げられます。図22はブロック工法で建造中の31万トンタンカです。塗装前なので各ブロックの接合部が見えます。左手前には接合前のブロックが置かれています。
出典:Melvil、Wikimedia Commons、310000 ton tanker in Japan Marine United Corporation kure.jpg、CC BY-SA 4.0
14)犠牲電極
船の船体は鉄鋼で作られていますが、スクリュは銅合金で製作されています。海中で異なる種類の金属(船体の鉄とスクリュの銅)が触れ合うと電蝕が発生し、金属部品がボロボロになります。そこで、金属の電蝕を防ぐために「犠牲電極(ぎせいでんきょく)」が取り付けられています。鉄や銅よりもイオン化傾向の大きい「亜鉛」などの板を取り付けて、船体の代わりに腐食させます。図23の船体に見える白い斑点は、亜鉛ブロックの犠牲電極です。
出典:US gov、Wikimedia Commons、Ship-propeller.jpg、public domain
15)船の喫水線表示
船の外側には、大きく分けて2つの線や目盛りが表示されています。
① ドラフトマーク(Draft Mark)
船体の船首・船尾及び中央付近の外板に表示された喫水(きっすい:水面から船底までの深さ)を読み取るための目盛りです。目的は、船の積載量の確認、喫水の測定、積み荷やバラスト水の量を計算、港や航路の水深に対する安全性の確認、です。
出典:Wikisearcher、Wikimedia Commons、Draft scale at the ship bow (PIC00110).jpg、public domain
② 満載喫水線標識(まんさいきっすいせんひょうしき)
英語で、Plimsoll Markまたはload lineと呼ばれます。船が安全に積載できる限界の喫水を示す標識です。円と水平線を組み合わせたマークで、季節や海域ごとの満載喫水線が描かれています。図25は満載喫水線標識の例です。右側の目盛りはドラフトマークです。図26は満載喫水線標識の表記ルールです。真ん中の「S」と○とで表示されている線は、夏季海域での基準喫水線です。もっとも沈む喫水線は「TF:熱帯淡水域(Tropical Fresh Water)」、以下「F:淡水域(Fresh Water)」、「T:熱帯海域(Tropical)」、「W:冬季海域(Winter)」、「WNA:北大西洋冬季海域(Winter North Atlantic)」と続きます。
16)ファンネルマーク
船の煙突(ファンネル:Funnel)に描かれた識別です。法令上の要件ではありませんが、それぞれの船会社を示す色や図柄が描かれています。
出典:Visva022、Wikimedia Commons、Higashinihon-Ferry Funnel-Mark.JPG、public domain
17)タグボートマーク
タグボートが船体を押してもよい場所をあらわすマークです。タグボートが船体に接触して押船作業を行う際の推奨位置を示す標示です。押す場所を誤ると、船体がへこむ可能性があります。
関連計測器の紹介
船に関連した計測器の一例を紹介します。
その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
船は大量輸送を最も効率よく行う輸送手段として、世界の物流を支える基盤です。その一方、他の交通手段と同じく、安全性、環境負荷低減、運航効率向上への要求は年々高まっています。今後も、船体構造、推進装置、操船支援、脱炭素燃料などの技術革新が進んでいくでしょう。
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