カメラを支える技術 ~ 光を見える化する仕組み ~
今やほとんどの車にカメラが搭載されています。車両が後退する時に周辺を確認するモニタ機能として採用されたのを皮切りに、ドライブレコーダ用のカメラ、さらに先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)を始めとする安全運転支援機能へと急速に拡大しています。また、撮像素子の進化やデジタル技術の高度化がカメラの普及を支えています。本稿では主に撮影用のデジタルカメラや関連技術について解説します。最初にカメラの歴史について、技術世代ごとに概説します。次に、デジタルカメラの基本技術を紹介します。具体的にはデジタルカメラの基本構造、一眼レフカメラの構造、シャッタ方式、カメラのレンズ、撮像素子の歴史と技術進化です。そして、関連技術として、撮像素子のサイズ、オートフォーカスの技術進化と歴史、焦点深度と被写界深度、レンズの収差、ホワイトバランス、レンズの製造方法についても触れます。最後にカメラに関連する計測器を紹介します。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
カメラの歴史
① 第1世代:カメラ・オブスクラの時代(~19世紀初頭)
「カメラ」の由来はラテン語の「camera obscura」の略とされています。意味は「暗い部屋」です。暗い部屋(箱)に小さな穴をあけると、外の景色が上下反転した像として内部に映し出される現象を利用した装置がカメラの原型です。古代中国や古代ギリシャの記録として残っています。この時代には画像を保存することはできないので、人の手による模写が必要でした。その後、レンズを用いた装置によって像の鮮明度が向上したことから、画家たちが遠近法を正確に描くための器具として利用しました。
② 第2世代:写真の誕生(1830年代~1880年代)
19世紀に入ると、光を化学的に定着させる手段が考案されました。感光材料(銀塩)の化学反応を利用することで、画像として記録することが可能になり、「写真」の概念が確立された時代です。1826年頃には、ジョセフ・ニセフォール・ニエプス(フランス)が世界初の写真撮影に成功しました。さらに、1839年には、ルイ・ダゲール(フランス)が銀板写真のダゲレオタイプを発表しましたが、1枚しか得られず、複製はできないものでした。しかし、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット(英国) が「ネガポジ」方式を考案し、複製可能な写真となりました。現在の写真プリントの原型と言えるものです。その後、湿板写真や乾板写真の技術進化により、撮影時間や取り扱いが改善され、写真館や肖像写真が一般市民にも普及しました。
③ 第3世代:ロールフィルム革命(1880年代~1930年代)
19世紀末になると、イーストマン・コダック社によるロールフィルムと簡便なカメラの登場によって写真が急速に大衆化しました。当時の広告で使われた歴史に残るキャッチコピーは「You press the button, we do the rest(あなたはシャッタを押すだけで、残りは私たちが引き受ける)」。あらかじめロールフィルムが装着された状態のカメラが販売され、撮影が終わるとカメラごとコダック社へ送ります。その後、コダック社によってプリントされ新しいフィルムが装填されて返却されました。小型化が進み、携帯性が向上したことから誰でも写真を撮れる時代へ移行しました。
④ 第4世代:35mmカメラと一眼レフの時代(1930年代~1980年代)
20世紀に入ると、35mmフィルムが標準化されカメラの基本構造が形成されました。当初はレンジファインダ方式※1が主流でしたが、その後、一眼レフカメラが主流となり、レンズを通した像をそのまま確認できる構造が一般的となりました。これを支えた技術は、ペンタプリズム(後ほど解説)による正立像の表示、レンズを通した測光方式(TTL測光)※2、自動露出機構、オートフォーカスなどです。1960年以降は日本のカメラメーカが世界市場をリードしました。
レンジファインダカメラの一例。撮影レンズを通さない専用の独立窓で構成。
(Through the Lens) 撮影レンズを通過した光をカメラ内部で測定する方式。撮像素子やフィルムに到達する光をレンズ越しに測定するため、被写体の明るさを正確に計測可能。
⑤ 第5世代:電子化・デジタル化の始まり(1980年代~2000年代)
1980年代に入ると、電子技術がふんだんに導入され、従来のフィルムからデジタル化への移行が始まりました。1981年はその流れにつながる転換期となりました。撮像素子にはCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)が採用され、ロールフィルムではなく撮像素子によるデジタル撮影となりました。1981年にSONYが発表した電子スチルカメラ「Mavica(マビカ)」が注目を集めました。このカメラがセンセーショナルだった理由は以下の3点でした。①フィルム不要:テレビにつないで再生、②フィルムの代わりにCCDを使用、③液晶モニタが搭載され、撮影した画像をその場で確認。この時点では完全なデジタルカメラではなかったものの、CCDの進化や記録媒体の電子化が進展し完全なデジタルカメラが普及しました。画像データもデジタルデータとして扱えるようになりました。その後、1995年にカシオ計算機が発売した民生向けデジタルカメラ「QV-10」は撮影画像をその場で確認できる背面の液晶パネルを採用するなど、大ヒットしました。なお、「QV-10」はデジタルカメラ普及の先駆けとして、2012年に国立科学博物館が認定する重要科学技術史資料(未来技術遺産)として登録されました。また、SONY「Mavica」も2014年に「世界初の電子スチルカメラ(マビカ試作機)」として重要科学技術史資料に登録されています。重要科学技術史資料については、産業技術史資料情報センタのサイトをご覧ください。https://sts.kahaku.go.jp/
出典:Noische at Japanese Wikipedia、Wikimedia Commons、QV-10.jpg、CC BY-SA 3.0
出典:Morio、Wikimedia Commons、Sony Mavica 1981 prototype CP+ 2011(filter crop soerfm).jpg、CC BY-SA 3.0
⑥ 第6世代:デジタル一眼レフ全盛期(2000年代~2010年代)
2000年代にはデジタル一眼レフカメラが一般ユーザにも普及しました。撮像素子はCCDからCMOSへ移行し、高画素化や高感度化が進みました。撮影した画像を専用の処理回路(一般的には画像処理エンジンと呼称)とRAW撮影(生データ撮影)、動画記録が標準的な機能となりました。
⑦ 第7世代:ミラーレス革命(2010年代~2020年代)
2010年代になると、一眼レフカメラをより小型化するための技術として、ミラー機構を廃止したミラーレスカメラが登場しました(詳細は後述)。ミラーレス化に伴い、光学式ファインダは電子ビューファインダ(EVF:Electronic View Finder)へ置き換わりました。また、機構部分が減少したことで、高速連写や高速AF(Auto Focus:オートフォーカス)が可能となりました。さらに、動画も4K・8Kの高解像度撮影が標準的な機能となりました。また、撮影したデータをスマートフォンと連携する機能も採用されました。その後、撮影カメラの主役はスマートフォンへ移りつつありますが、カメラの技術進化は現在も続いています。複数の小型カメラとソフトウエアの処理を組み合わせることで、HDR合成※3、ナイトモード、ポートレートモードなどに代表される「計算写真技術」※4が発展しました。
(High Dynamic Range) 明るい部分から暗い部分まで、広い明暗差を合成する技術。例えば、逆光の風景では、人物は暗くなり過ぎず、空は明るすぎない画像を生成可能。近年のスマートフォンではシャッタを押した瞬間に複数枚の画像を撮影し合成。
レンズや撮像素子など、カメラの性能だけでなく、コンピュータによる画像処理やAI技術により画質向上や表現を実現。
⑧ 第8世代:AI技術の導入(2020年~)
近年ではAI技術がカメラへ本格的に導入されています。被写体認識の対象は人物にとどまらず、動物や乗り物などへ拡大しています。また、撮影した画像の処理技術や編集においてもAI技術が広く活用されています。現在のカメラは単なる撮影・記録装置から、光学・電子技術・半導体技術、さらにAI技術を融合した知能化システムへ進化しています。
デジタルカメラの構造
1)デジタルカメラの基本構造
デジタルカメラの基本構造は図3です。「OBJECT(被写体)」から反射してくる「光(Light)」がカメラに入ることで撮影が始まります。「OPTICS(光学系)」はレンズ※5の部分です。被写体から来た光を集めてピントを合わせます。また、収差(理想的な像からのズレ。後述)を補正します。「IMAGE SENSOR(撮像素子)」はデジタルカメラの核となる部品です。光を電気信号へ変換します。代表的な撮像素子はCCDやCMOSです。各画素(ピクセル)が光を受けると、「明るい → 大きな電荷」、「暗い → 小さな電荷」が発生します。つまり、光の強さを電気信号へ変換します。この時点ではまだアナログ信号です。「ANALOG TO DIGITAL CONVERTER(A/D変換機)」でデジタルデータへ変換します。A/Dコンバータのビット数は12ビットから16ビットです。12ビット(エントリークラスのカメラ、スマートフォン)、14ビット(上位クラスのカメラ)、16ビット(ハイエンドクラスのカメラ)。「DIGITAL SIGNAL PROCESSOR(デジタル処理部)」はデジタル信号処理回路(いわゆる画像処理エンジン)です。主な処理は、ノイズ除去、色補正、明るさ調整、シャープネスなどです。また、画像ファイルとして各種形式(JPEG:標準的な形式、RAW:何も加工していないデータ、HEIF:スマートフォンなどで採用)へ変換します。「TIMING GENERATION(タイミング生成回路)」は各回路を同期して動作させるための制御ブロックです。撮像素子やシャッタ、A/Dコンバータなどのタイミング制御を行います。
レンズ(lens)という名称は、ラテン語で「レンズ豆」を意味する「lens」 に由来するとされる。初期のレンズである凸レンズがレンズ豆に似た形状をしていたことから、「レンズ」と名付けられた。
2)一眼レフカメラの構造
図4はデジタル一眼レフカメラの内部構造と撮影時の光の流れを示しています。左側は構図を見ている状態、右側はシャッタを切った瞬間です。構図を見ている時、被写体からの光はレンズを通過した後、カメラ内部の反射ミラーに当たります。斜めに配置されたミラーによって、光を上方向へ反射します。反射された光はペンタプリズムと呼ばれるガラスの塊へ送られ、内部で複数回反射することで人間の目で自然に見える向きに補正されます。理由は、ミラーで反射された像は上下左右が逆になるためです。その後、光はファインダへ導かれ、撮影者はレンズを通った実際の映像を直接確認できます。この時、撮像素子は反射ミラーでさえぎられているので、光は届きません。一眼レフカメラの特徴は、撮影する画像とファインダで見る画像が同一であることです。このことにより、撮影者が撮影する画角やピントの状態を正確に確認できます。
次にシャッタボタンを押すと、ミラーが瞬間的に跳ね上がります。すると光はファインダ側へは送られず、レンズを通した光はまっすぐ後方の撮像素子へ到達し画像として記録されます。撮影時にファインダが一瞬暗くなる現象は、ミラーが跳ね上がって光の通路が遮断されるためです。ミラーやシャッタが動作する機械音や振動も発生します。カメラの裏面に設置されている「Monitor」によって、撮影した画像をその場で確認することができます。また、ミラーを上げた状態を維持して、ファインダを通さない電子ファインダとして使えます。ミラーの上下動作による作動音や振動を避けることも可能です。
近年、普及が進んでいる「ミラーレスカメラ」は名前の通り、「一眼レフカメラ」で用いられている反射ミラーとペンタプリズムを廃止した構造となっています。図5はミラーレスカメラと一眼レフカメラとの比較です。ミラーレスカメラはレンズを通した光は常に撮像素子へ届いています。撮像素子が捉えた映像を電子ファインダや液晶モニタへ表示する方式を採用しています。小型化が可能な構造である反面、電子ビューファインダに対応する画像処理による表示遅延や消費電力などの課題もあります。
3)シャッタ方式
シャッタの方式は大きく分けると3種類あります。①メカシャッタ方式、②電子シャッタ方式、③電子先幕シャッタ方式。これらのシャッタ方式はカメラの用途や要求性能などによって使い分けられます。
① メカシャッタ方式
フォーカルプレーンシャッタは2枚の幕で構成されます。図6はメカシャッタ方式の動作イメージです。赤枠と緑枠はそれぞれ先幕と後幕、黒色破線・実線は撮像素子を表しています。各々の幕が撮像素子の前を通ることで露光時間を制御します。左側は低速時の動作を表しており、Fig.1はシャッタを切る前の初期状態で、先幕(赤)が撮像素子を覆っており、光が届きません。そして、シャッタが切られると、先幕が横方向に動き出し、撮像面の一部が開き始めます。開いた部分にだけ光が当たり、露光が開始されます。Fig.2では、先幕が完全に移動し終わり、撮像面全体が露出します。シャッタスピードが比較的遅い場合には、「一度に全面が開く」動作になります。さらに時間が進むと後幕(緑)が動き始め、撮像面を覆っていきます。Fig.3では、後幕が完全に閉じ、撮像素子全体が遮光された状態に戻ります。これで1回の撮影が終了します。
一方、高速シャッタ(右側の図)では、先幕が開ききる前に後幕が追いかけるように動き始めるので、細いスリットが撮像面を横切る状態になります。スリットが移動しながら露光するため、画面の各部分は順番に露光されますが、同時に全面が開くことはありません。特徴は、露光時間が「幕の移動速度」ではなく「先幕と後幕の間隔」で決まることです。そのため、高速シャッタになるほどスリットが狭くなり、撮像面を走査するように露光が行われます。
出典:Ziggur at English Wikipedia、Wikimedia Commons、FPS diagram 1.gif、public domain
Ziggur at English Wikipedia、Wikimedia Commons、FPS diagram 2.gif、public domain
なお、上記のメカシャッタでは幕が横方向に動きますが、上下方向に動作するメカシャッタが主流となっています。別の機構としてレンズシャッタ方式も採用されています。レンズ内もしくは前後に複数の金属の羽根が開閉する仕組みになっています。特徴は、どのシャッタ速度でもストロボの同調が可能で、作動音と振動が少なく画像が歪みません。
② 電子シャッタ方式
電子シャッタ方式とは、カメラ内部の機械的な幕(シャッタ)を動かさずに、撮像素子の電気的な制御によって露光の開始と終了を行う方式です。フォーカルプレーンシャッタ方式では先幕と後幕の2枚の幕が物理的に動くことで光を遮ったり通したりして露光時間を設定しますが、電子シャッタ方式では、撮像素子に蓄えられた電荷の読み出しタイミングを制御することで、「光を記録する時間」を電子的に行います。電子シャッタ方式の特徴は、機械部品を動かさないためシャッタ音や振動がないことです。静かな場所での撮影やカメラのブレを抑えたい場面で有利になります。また、機械的な制約がないので、フォーカルプレーンシャッタ方式に比べて高速なシャッタスピードを実現することが可能です。一方、電子シャッタ方式にも課題があります。多くのデジタルカメラでは、撮像素子の全画素を一度に読み出すのではなく、上から下へ順番に読み取る「ローリングシャッタ方式」が採用されています。このため、動いている被写体を撮影すると形が歪んで写ったり、高速で点滅する光源の下(例えば、駅のLED式表示器)では画面に縞模様(フリッカ)が発生したりすることがあります。
「ローリングシャッタ方式」の課題詳細と対応策として採用される「グローバルシャッタ方式」の特徴について解説します。
a.ローリングシャッタ方式
撮像素子の画面を上から下へ、1行ずつ順番に露光と読み出しを行います。構造がシンプルで高画質化しやすく、現在の一般的なデジタルカメラやスマホに広く普及しています。しかし、高速で動く被写体を撮影すると、上の画素と下の画素とで時間のズレが生じるため、動くものが斜めに歪んだり、プロペラが変形したりする現象が起きます。すなわち、「同じ瞬間を撮影しているわけではない」ということです。図7はローリングシャッタの事象例です。プロペラが直線ではなく曲がって撮影されています。
出典:Dicklyon、Wikimedia Commons、Propellor with rolling-shutter artifact.jpg、CC BY-SA 4.0
b.グローバルシャッタ方式
撮像素子内の全画素を同時に露光し読み出します。高速に動く被写体や、カメラを素早く振って撮影しても、歪みが生じません。一方、撮像素子の画素内に電荷を一時保存しておくメモリ回路が必要なため、画素構造が複雑になり、高画質化や低ノイズ化が難しいとされています。
③ 電子先幕シャッタ方式
電子先幕シャッタ方式とは、フォーカルプレーンシャッタのうち、露光の開始を先幕の動き(機械)ではなく電子的に行う方式です。通常のメカシャッタでは、撮影は「先幕が開く → 後幕が閉じる」という幕の物理的な動きによって行われますが、電子先幕シャッタではこの最初の動作が異なります。撮影を開始する時、撮像素子の読み出しを制御することで一斉に素子の露光をスタートさせます。そして露光の終了はフォーカルプレーン方式と同様に、後幕(機械シャッタ)が閉じることで行われます。特徴は、高速化と静音化です。先幕の動作がないので動作を速くでき、振動も抑制できます。機械シャッタと電子シャッタとを良いとこ取りしたハイブリッド方式と言えます。表1は各シャッタ方式の比較です。
| シャッタ方式 | 先幕 | 後幕 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| メカシャッタ | メカ | メカ | 高速シャッタでもボケが綺麗、露出が安定 | 音、振動 |
| 電子先幕シャッタ | 電子 | メカ | 振動がない、タイムラグが短い、歪まない | 高速シャッタでボケが欠け・ムラ |
| 電子シャッタ | 電子 | 電子 | 完全無音、超高速連写ができる | 動体が歪む、縞模様(フリッカ) |
4)レンズ
レンズはガラスや樹脂でつくられており、光の屈折を利用します。光がレンズに入ると進行方向が曲がります。この特性を利用して被写体の像を撮像素子上に生成します。このことを結像と言います。レンズ交換式カメラのレンズの基本構成は、レンズ群、絞り、フォーカス機構、マウント部です。図8はレンズの一般的な構造です。
出典:Geminiで作成
① レンズ群:
カメラレンズのレンズ群とは、複数枚のレンズを組み合わせて構成される光学系です。通常、1枚ではなく多数のレンズ(ガラスや樹脂)で構成されます。実際のカメラレンズではいくつかのグループに分け、それぞれに役割を持たせています。レンズ群の構成は、一般的に「前群」、「中間群」、「後群」に分けられます。「前群」は被写体からの光を集める役割です。基本的な焦点距離が決まります。また、画角に影響します。「中間群」はズーム機構やフォーカス機構として動作するレンズが含まれます。「後群」は最終的な像を撮像素子へ結像させる役割を持ちます。
② 絞り:
撮像素子へあたる光量を調整するための開口機構です。一般的にレンズ群の中間付近に配置されています。複数枚の羽根で構成され、最大口径(開放)の時はほぼ丸になります。
出典:Allophos、Wikimedia Commons、Diaphragme Photo.svg、CC BY-SA 3.0
一般的にレンズ前部には、レンズの名前とともに、数値が表示されています。図10のレンズは焦点距離35mmを、F値1.4を表しています。F値とはレンズの焦点距離をレンズの有効口径で割った値です。レンズの明るさは、有効口径の大小と焦点距離とが関係します。有効口径が大きいほど、また、焦点距離が短いほど明るい像が形成されます。有効口径をD、焦点距離をfとすると、F値は、F = f / Dで表されます。ズームレンズの場合、レンズ前面の表記例として、24 – 105 mm F4 – 7.1となっている場合、焦点距離が24mmから105mmまでズームができ、24mmの場合のF値はF4、105mmの場合のF値は7.1となります。
③ フォーカス機構:
被写体にピントを合わせるために、レンズ群の一部または全体を前後に移動させる機構です。これにより、撮像素子上で結像させます。設定方法には、撮影者が手動で操作する「マニュアルフォーカス」と、カメラが自動で制御する「オートフォーカス(AF)」があります。オートフォーカスの駆動方式としては、DCモータ、超音波モータ、リニアモータなどがあります。
④ マウント部
レンズを精度よく固定する役割です。さらに、カメラとレンズとを電気的に接続する端子が設けられています。マウント部は各カメラメーカ独自のマウント規格を採用しています。
5)撮像素子
民生用カメラがデジタル化へ移行できた大きな要因は、1980年代に撮像素子としてCCDを採用した電子カメラが登場し、カメラの電子化・デジタル化へ本格的に移行したことです。ここでは、撮像素子の歴史について概観します。
① CCD撮像素子の時代(1980年代~2000年代)
1980年代になると、半導体技術を応用したCCD(Charge Coupled Device)撮像素子が実用化されました。CCDは受光した電荷を画素間で順次転送して読み出す構造を持ち、高画質と低ノイズを特徴とし、初期のデジタルカメラやビデオカメラで広く採用されました。デジタルカメラの中核技術となりましたが、読出しの高速化や消費電力の低減には課題を残していました。
② CMOS撮像素子の時代(2000年代~2010年代)
2000年代に入ると、CCDに代わりCMOS(Complementary MOS)撮像素子が主流となりました。CMOS撮像素子は各画素に増幅回路を持つ構造のため、高速読出しや低消費電力、小型化に優れていました。また、半導体製造プロセスと親和性が高いので、大規模集積化が容易である利点もありました。初期のCMOS撮像素子はノイズ性能でCCDに劣るとされていましたが、技術進歩により画質は改善され、デジタル一眼レフやスマートフォンへ急速に普及しました。
③ 裏面照射型CMOSの時代(2010年代~)
2010年代には、裏面照射型(BSI:Back Side Illumination)CMOS撮像素子※6が普及しました。従来の撮像素子では配線層が受光面の一部をさえぎっていましたが、BSI構造では配線を受光面の裏側に配置することで、光の取り込み効率を向上できます。その結果、小型の撮像素子でも高感度・低ノイズの撮影が可能となり、スマートフォン分野で急速に普及しました。
④ 積層型CMOSの時代(2010年代後半~)
積層型CMOS撮像素子では、画素層と信号処理回路を別層として積み重ねる構造が導入されました。これにより読出し速度が大幅に向上し、高速連写や高速オートフォーカスが可能となり、ローリングシャッタ歪みも低減されました。さらにDRAMを内蔵した積層型撮像素子も実用化され、高速動画撮影や高度な被写体追従機能などが実現されています。
⑤ AI融合型イメージセンサの時代(2020年代~)
近年ではAI技術と融合したイメージセンサが発展しています。被写体認識AF、HDR合成、ノイズ低減、超解像などの画像処理がリアルタイムで行われるほか、撮像素子内部に演算回路を備えたインテリジェントセンサも登場しています。これにより撮像素子は単なる光検出デバイスから、「認識」と「処理」を統合した高度なシステムへ進化しています。
裏面照射型と表面照射型との比較は図12です。表面照射型センサでは光を検知する前面に配線層が形成されている。そのため、入射光の一部は配線層によって遮られ、フォトダイオードへ届きにくくなる。一方、裏面照射型のセンサでは入射光を遮る配線層は最下部に形成されているので、フォトダイオードは光を効率よく受けられる構造となっている。
出典:Geminiにより作成
関連技術
1)撮像素子のサイズ
撮像素子のサイズが大きいほど多くの光を取り込めるので、低ノイズ化、高ダイナミックレンジ化などを実現できます。撮像素子の画素数やサイズはカメラの用途や要求性能に応じて選択されます。図13は撮像素子のサイズを比較しました。主な用途は、フルサイズ:高級機やプロ用途向け、APS-C:中級機向け、マイクロフォーサーズ:小型ミラーレス用途、1インチ:小型コンパクトデジタル向け、1/2.3インチ:スマホ向け、として採用されています。フルサイズはフィルムカメラの35mmに相当します。フルサイズの面積を「1」とすると、APS-Cは「約0.43」、一般的なスマホ用は「約0.034」です。
2)オートフォーカス(AF:Auto Focus)の進化
民生用カメラの使い勝手を大きく変えた技術としてオートフォーカスが挙げられます。オートフォーカスの登場によって、自動で被写体との距離を測定し、自動でピントを合わせられるようになりました。現在では、単なるオートフォーカス機能だけでなく、顔認識や被写体追尾などの高度な機能へと進化しています。オートフォーカスの歴史とともに技術進化を概説します。
① 第1世代:マニュアルフォーカスの時代(~1970年代前半)
初期のカメラでは、ピント合わせは撮影者が手動で行っていました。目視で合焦(ピントが合うこと)を判断しながらフォーカスリングを操作する必要がありました。この時代にはAF技術は存在せず、焦点調整は撮影者の技能に依存していました。
② 第2世代:アクティブAFの登場(1970年代後半~1980年代前半)
初期のAFは、赤外線や超音波を使って被写体までの距離を測定するアクティブ方式でした。低コントラストでも動作する利点がある一方、ガラス越しの撮影や遠距離では誤動作しやすく、精度にも限界がありました。
③ 第3世代:位相差検出AFの確立(1980年代~1990年代)
レンズから入った光を専用のセンサでレンズを通過した光のズレから合焦を判断する位相差AFが確立され、高速かつ高精度なフォーカスが可能になりました。一眼レフでは専用の位相差センサを用いることで性能が向上し、一般的な機能として普及しました。
④ 第4世代:多点AFと高機能化(1990年代~2000年代)
複数の測距点を持つ多点AFや、被写体を追従するAFが発展し、動体の撮影性能が向上しました。また低輝度環境での対応も進み、さまざまな条件下で安定したAFが可能となりました。
⑤ 第5世代:コントラストAFとライブビュー対応(2000年代後半~2010年代前半)
デジタル化の進展により、撮像素子の情報を用いたコントラストAFが普及しました。高い合焦精度という利点がある一方で、AF速度は遅く、位相差AFとの性能差が課題として明確になった時期です。
⑥ 第6世代:像面位相差AFとハイブリッドAF(2010年代)
撮像素子上に位相差検出機能を実装する技術が登場し、像面位相差AFが実用化されました。撮像素子内に位相差検出用のセンサを実装することで、瞬時にレンズを動かす方向と移動量とを計算できるようになりました。これにより、ミラーレスカメラで課題とされていたAF性能は、像面位相差とコントラスト方式の良さを組み合わせることで、高速性と高精度の両立が可能となりました。なお、位相検出用センサは撮影用画素に影響を与えるので、撮像素子の設計には高度の工夫が求められます。
⑦ 第7世代:追尾性能と認識機能の向上(2010年代後半~)
顔検出などが実用化され、被写体を自動的に認識して追尾する機能が登場しました。人物だけでなく動物や乗り物にも対応し、AFは「被写体のどこにピントを合わせるか」を判断する技術へ進化しました。
⑧ 第8世代:計算写真とAI統合(2020年代~)
近年では全画素に組み込まれた位相差検出用機能やAI認識技術により、画面全域で高速・高精度なAFが可能になっています。AFは画像処理やシーン理解と一体化し、「認識にもとづいて最適なピントを決めるシステム」へと進化しています。
4)焦点深度と被写界深度
写真を撮る場合、被写体に対してピントを合わせますが、この時、その前後でもピントが合った状態となります。この範囲を焦点深度と言います。被写界深度とはピントを合わせた位置の前後で、「許容できる範囲で被写体がシャープに見える距離の範囲」です。言い換えると、焦点深度はカメラの内部、被写界深度とはカメラの外部の事象です。図17は焦点深度と被写界深度の関係を示しています。なお、焦点深度及び被写界深度はレンズの仕様や絞りによって変化します。図18は被写界深度の違いを示す撮影例です。左側の写真ではピントが合う被写体の位置が狭くなっています。右側の写真では全ての被写体にピントが合っています。
許容錯乱円とはカメラでピントを合わせた際に、写真上で「ピントが合っている(ぼやけていない)」と肉眼で認識できる限界の大きさ(円の直径)のこと。
出典:Alex1ruff、Wikimedia Commons、Dof blocks f1 4.jpg、CC BY-SA 4.0
Alex1ruff、Wikimedia Commons、Dof blocks f4 0.jpg、CC BY-SA 4.0
Alex1ruff、Wikimedia Commons、Dof blocks f22.jpg、CC BY-SA 4.0
5)レンズの収差
レンズを通した光は、理想的には一点に集まるべきですが、実際には一点に集まらず、像のぼやけや歪みが生じます。このような現象を収差と言います。例えば、メガネをかけている人がレンズの周辺部で見ると像が歪んで見えることがあります。これも収差の一種です。収差のうち、像のぼけや歪みなどの幾何学的な性質によって分類したものが、ザイデル(ドイツ)による「ザイデルの5収差」です。もう一つの要因として、光の波長(色)によって屈折率が異なるために、色ごとのピント位置が変化する色収差があります。
① ザイデルの5収差
- 球面収差
レンズの中心部と周辺部を通る光とで屈折の程度が異なるために焦点位置が一致しない現象です。像全体がわずかなボケや、ピントが完全に合わない状態となります。レンズを開放で使用した場合に目立ちやすくなります。 - コマ収差
光軸から外れた位置にある点状の被写体が、非対称に広がった像として結像する現象です。これにより、点光源が彗星のように尾を引いた形に見えます。画面周辺部で顕著に現れます。 - 非点収差
レンズを通過した光が、縦方向と横方向で異なる位置に焦点を結ぶことで発生します。点像が一点に結ばれず、ある位置では縦に伸び、別の位置では横に伸びる像となります。ピント位置によって像の形状が変化するのが特徴です。 - 像面湾曲
本来平面であるべき結像面が曲面状になる現象です。画面中央にピントを合わせると周辺がぼけ、逆に周辺に合わせると中央がぼけるといった状態が生じます。平面的な被写体、例えば建物や複写撮影などで表れやすいです。 - 歪曲収差
像の倍率が画面位置によって変化することで、直線が曲線として写る現象です。画面の外側へ膨らむようにひずむ、「たる型」と、画面の内側へ引っ張られるようにひずむ、「糸巻き型」があります。広角レンズや望遠レンズでそれぞれ発生しやすい傾向があります。
② 色収差
色収差とは、光の波長によって屈折率が異なる特性に起因して生じます。異なる色の光が同一の位置に結像しない現象です。レンズの材料は波長ごとに屈折率がわずかに異なるため、各色の光は異なる角度で屈折し、それぞれ異なる位置に焦点を結びます。その結果、本来一致すべき像にずれが生じ、色のにじみや輪郭のボケとして現れます。色収差は大きく二つに分類されます。なお、色収差は、ザイデルの5収差とは異なり、光の波長依存性という物理的要因に基づく収差であり、単色光を前提とするザイデルの5収差とは本質的に区別されます。レンズ設計において、この色収差を補正するために、異なる分散特性を持つガラスを組み合わせたアクロマートやアポクロマートが用いられるほか、低分散ガラス(EDレンズなど)が使用されます。
- 軸上色収差
光軸方向において色ごとに焦点位置が異なる現象です。例えば、青色の光は短い波長により強く屈折し、赤色の光は弱く屈折するため、両者の焦点位置が前後にずれます。そのため、ピント面の前後でボケに色付きが生じ、被写体前後のボケ部分に紫や緑のにじみとして現れます。 - 倍率色収差
色によって像の大きさや位置が異なる現象です。この収差は主に画面周辺部で顕著に現れ、像の輪郭に赤や青の縁取りが発生します。軸上色収差とは異なり、ピント位置を変えても完全に解消されないのが特徴です。
6)ホワイトバランス
発光光源には、それぞれ特有の「色(色温度)」があります。そのため、照射される光に応じて物体の色が少しずつ違って見えます。太陽光は光の成分がバランスよく含まれていますが、蛍光灯や白熱電球では色温度が低い傾向なので、太陽光のもとで見える物体の色とは異なってきます。人間の目はある程度補正することは可能ですが、撮像素子で撮った画像は色温度による違いがよく分かります。そこで、それぞれの光源下で同じように見せるための補正をホワイトバランスと呼称します。ホワイトバランス調整は「自動」、「太陽光」、「蛍光灯」、「曇り」などの撮影条件をカメラ側で選択すると画像処理により補正が行われます。
7)レンズの製造方法
レンズの製造には大きく分けると、「研磨」と「成形」の二つが用いられます。加工原理や用途が異なるので、目的に応じて使い分けられます。
① 研磨
研磨は、ガラス素材を削りながら精密な曲面を作り出す方法です。古くから用いられてきた基本的な製造技術です。まず、光学ガラスの塊を切り出し、粗研磨によっておおよその曲率を形成します。その後に、より細かい研磨工程を繰り返すことで、設計された曲率に近づけていきます。ラッピングやポリッシングと呼ばれる仕上げ工程により、表面粗さを整え、透過性能と精度を確保します。極めて高い形状精度や面精度が得られるため、高性能レンズや大型レンズ、特殊用途の光学系に適しています。一方で、加工に時間がかかるので、コストも高くなります。非球面レンズの加工は可能ではありますが、工程は複雑になり製造難度やコストはさらに高くなります。
② 成形
成形は、ガラスや樹脂を金型に押し当てて、レンズを一体的に作る方法です。代表的方法がガラスモールド成形であり、加熱して軟化させたガラスを高精度な金型でプレスすることで、設計通りの形状を一度に成形できます。非球面形状も金型により容易に再現できるため、複雑な収差補正を必要とするレンズの製法に適しています。また、プラスチックレンズの射出成形も用いられており、軽量で大量生産に向いていることから、スマートフォンカメラや小型光学機器に多用されています。成形方式のメリットは、大量生産時のコスト効率と形状の再現性の高さです。一方で、レンズの性能は金型精度に依存するため初期投資が大きくなります。
関連計測器の紹介
カメラに関連した計測器の一例を紹介します。
その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
近年のカメラは、撮像素子や画像処理、ミラーレス化の進展により高画質化・高速化が進んでいます。一方で、スマートフォンカメラの普及や高性能化・高機能化によって撮影環境は大きく変化しています。しかしながら、計算写真学(コンピュテーショナルフォトグラフィ:computational photography)の活用が進んでいます。専用カメラとスマートフォンとがそれぞれの異なる強みを活かしながら発展し、さらなる高機能化と高性能化に期待しましょう。
自動車関連の他の記事は こちらから
