市場動向詳細

自動車の液体 ~ なくてはならない素材 ~

自動車を構成する主な素材※1は、EV車を除いて、成分で分類すると金属、樹脂(プラスチック)、ゴム、ガラス、繊維、塗料ですが、自動車を動かすためには、自動車全体に対する重量の割合は低いですが、燃料やオイルを始めとした液体は不可欠です。燃料がなければ、エンジンを動かすことはできません。また、エンジンオイルが不足すれば故障につながります。つまり、自動車で使われる液体はエンジンの性能、信頼性、安全性に直接関係します。自動車は1900年初頭から大量生産が始まり、技術進化していますが、自動車の技術を支えているのは「液体の技術進化」と言えます。本稿では、自動車で使用される液体について解説します。まず、自動車で使われている液体の歴史について概説します。次に、液体について、色々な観点の分類(成分ごとの分類、用途別の分類、物理特性による分類、液体の搭載量)で整理します。そして、代表的な液体の成分(ガソリン、エンジンオイル、ブレーキフルード、エンジン冷却水、エアコン冷媒、ウォッシャー液、尿素水、グリス)について、成分や特徴を解説します。さらに、関連する技術として、石油精製プロセス、ピストンリング、ガソリンスタンド関連について触れます。最後に自動車で使われる液体に関連する計測器を紹介します。

※1

自動車で使われている材料については、2024年10月公開「自動車の材料 ~ いろいろな材料で作られている自動車 ~」をご覧ください。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》 

自動車で使用される液体の歴史

① 初期の自動車(1900年代)

この時代の液体は自動車を動かすための必需品でした。1900年初頭に大量生産が始まった初期の自動車、例えば「フォードT型」では、走らせるために最低限の液体が使われていました。主な液体は、燃料としては、石油精製の副産物であるホワイトガソリン※2や灯油、アルコールなどを混用していたようです。エンジンオイルは、粘度が高い鉱物油が使われていたので、冬場はオイルが固まり始動性が悪かったようです。グリスはカルシウム石けんをベースとした「カップグリス(Calcium Soap Grease)」です。耐水性はあるものの、耐熱性が低く、劣化が早いので手による充填が必要でした。デフ(デファレンシャルギヤ:差動装置)のオイルは、蒸気機関車で使われるような高粘度の重質油が使われました。この世代では、オイルやグリスは設計的な使用ではなく、対症療法的だったのでしょう。冷却水は当然のことながら水のみですので、冬季には凍結して動かないことが推察されます。

※2

キャンプ用品のランタンなどで使われ、添加剤を含まず純度が高い。

図1 フォードT型
図1 フォードT型

② 1920〜1950年代

量産車時代に移行し自動車が普及すると素材の品質や供給方法が改善され、自動車のメンテナンスの頻度が下がりました。寒冷地や舗装不良道路への対応が技術進化の背景にありました。主な液体の性能向上内容をまとめると、ガソリンの品質安定、エンジンオイルの精製向上、冷却水による腐食と凍結の防止、ブレーキの油圧化です。その結果、エンジン回転数や出力性能の安定化、冷却系の腐食防止、ブレーキ性能の向上につながりました。「誰にでも使える自動車」になりました。

③ 1950〜1970年代

大戦後、自動車の性能と快適性が向上しました。背景は、高速道路の整備、高性能エンジンの希求、快適性や操作性の追求です。主な液体の高性能化として、添加剤を加えたエンジンオイル、自動変速機やパワーステアリングのオイル、リチウムグリス(後ほど解説)、カーエアコン用冷媒(CFC系フロン)が挙げられます。「オイルとグリスとで車の性能と操作性」を支えた時代です。

④ 1970〜2000年代

科学技術による高性能・高機能液体が導入されました。排出ガス規制やオイルショック、電子制御エンジンの導入等が液体の技術革新を促しました。主な動向は、ガソリンの無鉛化・添加剤、エンジンオイルのマルチグレード・合成油、冷却液のLLC化(ロングライフクーラント)、環境配慮型冷媒エアコン用冷媒への切り替え(HCFC → HFC)、ブレーキフルードの高沸点化などです。

⑤ 2000〜現在

環境負荷の軽減を背景として、電動化と高効率化に対応した技術が開発されました。エンジンオイルは低粘度化、モータやインバータ、電池の冷却液導入、ディーゼルエンジンの排ガス対応用尿素水※3の導入が挙げられます。液体の役割が、単機能としてではなく、「熱とエネルギ」を制御することへと変化しました。

※3

ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムについては、2023年8月公開「欧州 新排ガス規制ユーロ7 ~ 電動化を見すえた新たなルール」をご覧ください。

自動車で使われる液体の歴史を整理すると表1です。初期の自動車では最低限必要なものから、近年は自動車全体の熱やエネルギを制御する重要な役割となりました。

表1 自動車で使われる液体の時代ごとの役割
世代 液体の位置づけ
初期 動かすための必需品
1920 ~ 1950年 壊れにくくする存在
1950 ~ 1970年 性能を引き出す要素
1970 ~ 2000年 規制と信頼性対応
2000年 以降 熱・エネルギー制御

自動車で使われる液体

自動車で使われる液体について、次の観点で整理しました。①種別と重量比、②用途、③物理特性、④液体使用量、⑤機能と特徴です。いずれの分類で表記した数値は各所のデータをもとに、筆者が算定したことを予めご理解ください。

① 材料別の分類

自動車に使用されている材料と重量との関係を1,500kgの乗用車を例として算定しました。当然のことながら、自動車のボディや「走る・曲がる・止まる」に関係する材料が半分近くを占めています。液体の重量比は他の材料に比べて低いことが分かります。

表2 材料の種別と重量比
分類 主な内訳 重量[kg] 重量比[%]
鉄鋼 鋼板、鋳鉄、特殊鋼 780 52%
非鉄金属 アルミ、銅、Mg、Zn 225 15%
プラスチック 内外装、機能樹脂 165 11%
ゴム タイヤ、シール 75 5%
ガラス 窓ガラス 75 5%
繊維・複合材料 シート、吸音材、バンパ 60 4%
塗料・接着剤 塗膜、構造接着 30 2%
液体(燃料・油・グリス等) 燃料、オイル、冷却水、グリス 90 6%
1,500 100

② 用途別の分類

自動車を構成する材料を、用途別に分類すると表3となります。各用途には必ず液体が用いられていることが判ります。

表3 用途別
用途 液体名 目的
1. 潤滑系(摩擦低減・保護) エンジンオイル エンジン内部(クランク、ピストン、カムなど)の潤滑・冷却・清浄
トランスミッションオイル 変速機の潤滑・油圧制御
デファレンシャルオイル デフギアの潤滑
トランスファーオイル 四輪駆動車のトランスファーケースの潤滑
CVTフルード 無段変速機専用の作動油
2. 油圧作動液(力を伝える) ブレーキフルード ブレーキペダルの力を油圧としてブレーキに伝える
パワーステアリングフルード 油圧式パワーステアリングの作動油
クラッチフルード 油圧クラッチ車のクラッチ操作に使用(多くはブレーキフルードと共用)
3. 熱管理(冷却・温度制御) 冷却水(LLC:ロングライフクーラント) エンジンの冷却
防錆・防凍・沸点上昇の機能
インバーター冷却液(EV・HV) 電動車のパワーエレクトロニクス冷却
バッテリー冷却液(EV) 駆動用バッテリー温度管理
4. 空調系 冷媒(エアコンガス) カーエアコンの冷媒
   R134a  
   R1234yf(最近の車)  
コンプレッサオイル エアコンコンプレッサ内部潤滑
5. 清掃・視界確保 ウィンドウォッシャー液 フロントガラスの洗浄
6.エネルギ ガソリン 燃料
軽油
水素(燃料電池車)
バイオ燃料(E20)
合成燃料(e-fuel)
7.排ガス関連 尿素水(AdBlue) ディーゼル車のSCR触媒でNOxを低減
8. その他特殊液体 ショックアブソーバーオイル ダンパー内部の作動油
バッテリー電解液 鉛バッテリーの硫酸溶液

③ 物理特性別の分類

自動車を構成する液体を物理的な特性で分類すると表4となります。

表4 代表的な液体の物理特性
液体 主用途 粘度 温度範囲 特徴
エンジンオイル 潤滑 5~40 cSt −30~150℃ 清浄分散剤を含む
ATF 変速機作動 30~40 cSt −40~150℃ 摩擦特性が重要
CVTフルード CVT 20~35 cSt −40~150℃ ベルト滑り防止
デフオイル ギヤ潤滑 80~250 cSt −30~140℃ 極圧添加剤
ブレーキフルード 油圧 2~5 cSt −40~260℃ 吸湿性あり
パワステフルード 油圧 15~25 cSt −40~130℃ 低温流動性
LLC 冷却 水に近い −35~120℃ 防錆・防凍
冷媒R1234yf 空調 気液混合 −30~80℃ 低GWP
ウォッシャー液 洗浄 低粘度 −20~50℃ アルコール含有
尿素水 排ガス 水に近い −11~60℃ 32.5%尿素

④ 液体使用量

自動車で使用される液体の分量は表5となります。燃料を除いても多くの液体が使用されています。

表5 液体の使用量
順位 液体
1 燃料 40〜70 L
2 冷却水 5〜10 L
3 ウォッシャー液 2〜5 L
4 エンジンオイル 3〜6 L
5 トランスミッション油 2〜4 L
6 デフオイル 1〜2 L
7 ブレーキフルード 0.5〜1 L
8 冷媒 0.4〜0.8 kg
9 パワステフルード 0.5〜1 L
10 尿素水 10〜20 L(ディーゼル車)

⑤ 主要な液体の機能と特徴

代表的な液体について、主成分を整理すると表6となります。

表6 代表的な液体の成分
液体 主用途 主成分(ベース液) 特徴 主な添加剤
燃料(ガソリン) エンジン燃焼 炭化水素(C4~C12) 自動車用液体で最も多く使用 オクタン価向上剤、清浄剤、防錆剤
燃料(軽油) ディーゼル燃焼 炭化水素(C10~C20) ディーゼルエンジン用燃料 セタン価向上剤、流動点降下剤
エンジンオイル 潤滑 鉱物油または合成油 潤滑+冷却+洗浄 清浄剤、分散剤、摩耗防止剤
トランスミッションオイル/ATF ギア潤滑 鉱物油または合成油 潤滑油
ATFは伝達、作動、潤滑
摩擦調整剤、酸化防止剤
ブレーキフルード 油圧ブレーキ グリコールエーテル 非圧縮性、高沸点、吸湿性あり
(定期交換要)
防錆剤、酸化防止剤
冷却液 エンジン冷却 水+グリコール類 凍結防止、防錆、沸点上昇 防錆剤、消泡剤
エアコン用冷媒 エアコン HFO冷媒 低GWP(現在の主流) 分解予防剤、酸化防止剤、腐食防止剤
パワステフルード 油圧操舵 鉱物油または合成油 作動油、低温流動性、高温安定性 摩耗防止剤、酸化防止剤
ウォッシャー液 窓洗浄 水+アルコール 洗浄、耐凍結性、JIS K 2398規程 界面活性剤、防腐剤
尿素水 排ガス浄化 水+尿素(32.5%) ディーゼル車の排ガス浄化 尿素32.5% 理由は凍結温度が最も低くなる等
グリス 潤滑 鉱物油または合成油 流れない液体 増ちょう剤(リチウムコンプレックス
石けん系、非石けん系)

a)燃料

自動車用燃料はエンジンで燃焼させてエネルギを取り出し車両を走行させるためのエネルギ源です。現在の自動車では主に液体燃料が使われますが、ガス燃料等多様化しています。代表的な燃料の種類と成分、特徴を概説します。

  1. ガソリン
    火花点火式エンジンの燃料です。主成分は炭化水素(C4~C12程度)、エネルギ密度(体積・質量とも)優れています。レギュラーガソリンとハイオクタンガソリン(通称ハイオク)が販売されています。ハイオクの主成分はレギュラーガソリンと同等ですが、ターボエンジン等の高性能エンジンで要求される異常燃焼(ノッキング)を抑制する添加剤が多く含まれています。
  2. 軽油
    軽油は圧縮着火式エンジン(ディーゼルエンジン)用の燃料です。主成分は炭化水素(C10~C20程度)、揮発性が低く、発火性が高いです。
  3. LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)
    タクシーの燃料として使われています。プロパン、ブタンが主成分です。燃焼がクリーンでCO2の排出が少ないです。
  4. バイオ燃料
    植物などの再生可能資源から生成される燃料です。主な成分はバイオエタノールです。サトウキビやトウモロコシから製造されます。ガソリンに混合して使用されます。
  5. 水素
    水素エンジンや燃料電池車で使用されます。排出物は基本的に水だけです。なお、現在、市販されている自動車では、液体の水素ではなく、圧縮気体水素が採用されています。液体水素は気体水素の体積の800分の1程度まで小さくできますが、マイナス253℃以下を維持することが必要なため、特殊な断熱タンクが必要となるので、技術的・コスト的に市販車への適用には至っていません。実証実験として、モータスポーツでは液体水素が採用されています。

b)エンジンオイル

基本的な役割は、「各部を円滑に動かす潤滑作用」、「エンジンの部品同士の隙間を密閉し、発生するパワーを逃がさない」、「燃焼などで発生する熱を吸収して放出する冷却作用」、「燃焼によって発生した汚れを取り込む清浄分散作用」、「サビや腐食からエンジンを守る防錆作用」などです。エンジンオイルには多くの種類がありますが、新車時にはOEM※4が推奨する粘度(オイルの硬さ)のエンジンオイルが入っています。エンジンオイルは、車種、使用環境などの条件によって変わります。

※4

(Original Equipment Manufacturer)自動車業界では一般的に完成車メーカをOEMと表記。

エンジンオイルはエンジンの形式によって分類されます。「4ストロークエンジン用」、「2ストロークエンジン用」、「ディーゼルエンジン用」があります。2ストロークエンジンでは燃料のガソリンと混合され一緒に燃焼するため、交換より補充するのが一般的です。ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと異なる燃料(軽油)、燃焼であるため、ディーゼルエンジン専用のオイルが必要です。かつての軽油に硫黄成分が含まれていたため、燃焼後の酸性を中和するアルカリ性の添加物が含まれていました。現状の軽油には硫黄成分はほとんど含まれていません。

エンジンオイルはベースとなるオイルに添加剤を加えてエンジンオイルとなります。ベースとなるオイルを大別すると、「鉱物油」、「部分合成油」、「フル合成油」の3種類です。

鉱物油 原油を精製する過程で得られるオイル。価格が安く経済的ですが、特性の劣化等のため高性能を求めることはできません。品質よりも価格を重視したオイル。
部分合成油 鉱物油に化学合成油を混ぜたベースオイル。鉱物油に対して性能とコストをバランスさせたもの。
フル合成油 化学合成されたベースオイル。高い粘度特性など高性能な特性を有する。性能重視なので高コスト。

ベースオイルに加えて各種の添加剤が、通常20%程度含まれています。添加剤として、酸化防止剤(オイルの酸化防止)、油性剤(金属表面の油膜形成)、防錆剤(錆の発生防止)、極圧添加剤(高荷重保護)、流動点降下剤(低温時の固化防止)、消泡剤(泡立ち防止)、摩耗防止剤(摩耗低減)等多くの添加物が含まれています。

エンジンオイルは様々なメーカから様々なオイルが製造されています。基本的な特性である「粘度の規格」が英数字で表記されています。オイルには低温時に硬くなり(粘度が増す)、高温時には柔らかくなる(粘度が減る)性質があります。図2はエンジンオイルに表記されている「粘度記号」です。「0W-20」は低温時の粘度が「0」、高温時の粘度が「20」を示しています。低温時の数字が小さいほど、寒さに強いオイル、高温時の数字が大きいほど、高温時でも粘度を保つ特性となっています。

図2 エンジンオイルの粘度記号
図2 エンジンオイルの粘度記号

c)ブレーキフルード

ブレーキフルードは油圧ブレーキの作動液です。ブレーキペダルの力をホイールのブレーキ装置へ伝える液体です。ブレーキフルードに求められる性能は、次の通りです。

高沸点 ブレーキ時に高温になる。500℃以上になることもある。気泡が発生しブレーキが効きにくくなる、ベーパーロック現象が発生。
低圧縮性 ブレーキペダルの力を減らすことなく伝える。圧力による体積変化が少ないこと。
粘度安定性 低温時でも粘度が高まらず作動する。
潤滑性 ブレーキ装置作動部の摩耗防止。
防錆性 配管や作動部品の腐食防止。
ゴム適合性 ゴム製のシール部材を劣化させない。

ブレーキフルードの成分は、「グリコール系」が主流です。無色透明もしくは薄い黄色です。なお、吸湿性が高いので定期的な交換が必要です。また、塗装を痛めるため付着させない配慮が必要です。付着した場合は大量の水で洗い流すことが推奨されます。

d)エンジン冷却水

エンジン冷却水(クーラント)はエンジンで発生する大量の熱を吸収し、ラジエータで放熱する冷却水です。単なる水ではなく、防凍、防錆、沸騰防止などの機能を持つ液体です。主な成分は、「水」、「エチレングリコール」です。比率はほぼ50:50です。エチレングリコールが採用された理由は、化学的な安定性にすぐれているので、性能が長時間劣化しにくく、水と混ぜることで、「凝固点降下」と「沸点上昇」の作用を発揮します。また、安価に入手できることです。長寿命化した冷却液をLLC(Long Life Coolant)と呼称されます。エチレングリコールには毒性があるので、万一漏れた場合でも環境リスクに配慮する車両や電動車のバッテリやモータ等の冷却では「プロピレングリコール」が使われることがあります。

e)エアコン冷媒

エアコンは現在の自動車に不可欠な空調機能です。冷媒の機能を端的に言うと、「空気から熱を回収して別の場所へ移動させるための流体」です。冷媒の働きは、蒸発と凝縮を繰り返すことで、「熱を移動」させます。車室内から熱を吸収し、車室外へ熱を放出することで、冷房が成立します。図3はエアコンの基本構成と動作イメージです。冷媒は、蒸発(低圧・低温化:エバポレータ内で気化し熱を吸収)→圧縮(コンプレッサで高圧・高温) → 凝縮(液化:コンデンサで熱を放出) → 膨張(膨張弁で低圧・低温)となります。このサイクルを繰り返すことで、冷媒は「熱を吸って・運ぶ」役目となります。

図3 エアコンの基本構成と動作イメージ
図3 エアコンの基本構成と動作イメージ

なお、EV車やPHEV車では暖房用のエンジン排熱が利用できない、もしくは不足することから、図3における「放熱」を暖房として使います。熱源としてヒータを使用しないことで、電費(内燃機関の燃費に相当)の悪化を抑制できます。

ここで、冷媒に関する歴史を世代ごとに紹介します。

  1. 1970~1990年代前半

    R12(CFC-12)と呼ばれる冷媒として「ジクロロジフルオロメタン」が採用されました。冷却性能が高く非可燃性であることから広く使用されました。しかし、オゾン層破壊物質であることが明らかになり、モントリオール議定書※5に基づく国際的な規制により1990年代に段階的な廃止となりました。

    ※5

    オゾン層保護を目的とした国際的枠組み「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が1987年に締結。オゾン層破壊物質の生産・消費を規制する「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が1989年に発効。

  2. 1990年代〜2010年代

    R134a(HFC-134a)と呼ばれる「テトラフルオロエタン」がR12の代替冷媒として登場しました。オゾン層を破壊しないことから、長年にわたり採用されました。しかしながら、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が高いことから、温室効果ガスとしての影響が問題視され、環境規制の強化により、低GWPへの移行が進められました。

  3. 現在の主流

    R1234yf(HFO-1234yf)と呼ばれる「テトラフルオロプロペン」が採用されています。温暖化係数がR134aに対して大幅に低く、オゾン層を破壊しない特性であることから現在の主流となっています。欧州、北米、日本では多くの新型車に採用しています。ただし、やや可燃性であることや、価格が高いことが課題です。

  4. 次世代冷媒

    次世代の冷媒としてCO2を用いるR744が注目されています。一部の車種ですでに採用されています。自然界に存在する物質であることから、環境負荷が極小とされていますが、課題は、超高圧化が必要なことと、高圧に対応した性能の機器が求められるためシステムが大型化することです。なお、CO2冷媒による冷熱サイクルは「トランスクリティカルサイクル(遷臨界サイクル)」と呼称され、従来の冷媒とは異なる働きです。高圧側が臨界温度・臨界圧力を越えるので、気体と液体との区別がなくなる状態となり、放熱するが凝縮しません。よって、コンデンサが不要となり、ガスを冷却するガスクーラが設けられます。自動販売機や給湯システムにおいては、普及が加速しています。「トランスクリティカルサイクル」の詳細については、各所の技術情報をご覧ください。

f)ウォッシャー液

ウォッシャ液は、自動車のウインドウに吹き付けてワイパを使い、ガラス表面を洗浄するために使われる液体です。ヘッドライトに装備されている車種もあります。主成分は「水」と「メタノール」、「界面活性剤」です。界面活性剤は汚れの表面に吸着して、汚れと水との間の表面張力を小さくして汚れを浮き上がらせます。これによって水だけでは落とせない泥や油膜汚れを洗浄できます。なお、「水」だけにすると、凝固点が下がらないので凍結することがあることと、腐敗する可能性があるので避けるべきでしょう。

g)尿素水

ディーゼル車の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去するための液体です。化学反応により、NOxを無害化します。主な成分は「水」と「尿素」です。比率は、水(67.5%)、尿素(32.5%)です。尿素(32.5%)は厳密に規定されています。理由は、尿素水の凍結温度が最も低くなる、化学反応効率が良い、結晶化しにくい、からです。尿素は排気ガス中でアンモニア(NH3)と二酸化炭素(CO2)に分解されます。その後、触媒中で、NOxとNH3とが水と窒素に変換されます。この反応によりNOxが浄化されます。図4はディーゼルエンジンの排気ガス浄化システムです。尿素水は「尿素SCR触媒」の上流に噴射されます。尿素水の消費量は1,000km走行当たり1~2L程度です。尿素水がなくなるとエンジンを始動できなくなります。

図4 ディーゼルエンジンの排気ガス浄化システム
図4 ディーゼルエンジンの排気ガス浄化システム

h)グリス

自動車用グリスは、自動車に搭載される各種部品の摩擦や摩耗、防錆、耐熱、耐久性向上を目的として使用される半固体状の潤滑剤です。潤滑・保護・耐久性向上を目的として用いられる半固体状の潤滑剤です。オイルと違い、粘度が高いので塗布した場所に留まり長期間効果が持続する、外部からの水・泥などの侵入を防ぐ、高温環境でも劣化しにくい特性があります。グリスの基本構成は、ベースオイル(潤滑性能の中核、鉱物油・合成油・シリコーン油等)、増ちょう剤(半固体状にする成分、リチウム石けん・カルシウム石けん・フッ素系等)、添加剤(用途に応じて添加、極圧剤・摩耗防止剤・防錆剤等)です。主な使用箇所は、足回り系(ボールジョイント・サスペンションブッシュ・ステアリング部等)、駆動系(ユニバーサルジョイント・ドライブシャフト等)、電装系(スイッチ・コネクタ・モータ軸受・ギヤ等)。主な種類と用途は、リチウムグリス(万能タイプ、汎用的、一般的なベアリング・摺動部)、二硫化モリブデングリス(極圧性に優れ、重荷重がかかる足回り部品)、ポリウレアグリス(高耐熱・長寿命部品、ホイールベアリング等)、シリコングリス(広い温度範囲、ゴム・樹脂を膨潤させない)。

関連技術

1)石油精製プロセス

図5は製油プラントと石油タンクの構成例です。

図5 製油プラントとタンク
図5 製油プラントとタンク

製油所に運ばれてきた原油は、常圧蒸留塔などの装置によって、ガソリン、灯油、軽油、重油などのさまざまな石油製品へ精製されます。常圧蒸留塔は原油精製プロセスの中核設備です。高さが50m、直径10mもあります。原油を加熱し蒸気状にして塔の下部から吹き込みます。原油を沸点の違いを利用し沸点の範囲ごとの留分に分離します。常圧蒸留塔の最上部で得られるのが石油ガス成分のLPガスです。以下、沸点の範囲ごとに、ガソリン・ナフサ留分、灯油留分、軽油留分、残油留分へ分離されます。各留分は、そのままでは製品とならないため、各種の後処理が行われ製品化されます。

図6 石油精製プロセス
図6 石油精製プロセス

2)ピストンリング

ピストンリングは、ピストン上部の溝(リング溝)に数本装着されます。通常は3本構成です。ピストンの上側から、トップリング、セカンドリング、オイルリングとなっています。ピストンリングの主な役割は、①燃焼ガスの密封、②熱の伝達、③潤滑油の制御です。

① 燃焼ガスの密封

焼室で発生する高圧ガスが、ピストンとシリンダの隙間からクランクケースへ漏れるのを防ぎます。トップリングが主に担当します。

② 熱の伝達

燃焼で加熱されたピストンの熱を、リングを通じてシリンダ壁へ伝えます。ピストンの熱のかなりの割合がピストンリング → シリンダ → 冷却水の経路で伝達されます。

③ 潤滑油の制御

シリンダ壁には潤滑のための薄い油膜が必要ですが、多すぎると燃焼室へ入り込みオイル消費の増加や白煙の原因になります。オイルリングで余分なオイルを掻き落とし、必要な油膜だけ残します。

図7 ピストンとピストンリング
図7 ピストンとピストンリング

3)ガソリンスタンドの構造

ガソリンスタンドの構造を解説する前にガソリンスタンド数の推移を紹介します。国内のガソリン販売量は人口減少や自動車の燃費向上等の構造的要因により減少傾向です。さらに、電気自動車やプラグインハイブリッド車等の普及がさらなる減少要因と推察されます。SS(サービスステーション)の数はピークを迎えた1990年度中旬をピークに2024年度末には27,009か所へ減少が続いています。一方、規制緩和により1998年にドライバーの給油作業を一定の有資格者が監視する有人セルフ方式のSSが導入されて以来、従来のSSに比べて効率的な運営が可能であることから、その数は増加し、2024年度末には10,915か所、SS全体に占める普及率は約40%になっています。図8はSS数の推移です。

図8 ガソリンスタンド数の推移
図8 ガソリンスタンド数の推移

出典:資源エネルギー庁が公開しているデータを元に作成

① ガソリンスタンドの基本構造

ガソリンスタンドは危険物を扱うことから安全性を考慮した構造となっています。図9はガソリンスタンドの基本構造です。

図9 ガソリンスタンドの基本構造
図9 ガソリンスタンドの基本構造
計量器 燃料を給油する装置。
アイランド 計量器を車から守るために、周りに一段高くした場所(建築では犬走りとも言われる)。事務所の周りも一段高い。
地下タンク FRP製や鉄製のタンクに燃料を貯蔵。
注油口 タンクローリから地下タンクに注油する。
防火壁 万一の事故に備え、周辺に災害を及ぼさないための壁。
ピット 車の点検・整備、オイル交換などを行う。
キャノピ 計量器の上に設置した屋根。

② 給油ノズルと満タン検知

給油ノズルには、先端に小さな穴(検知口)から空気を吸い込みます。満タンになると油面で検知口がふさがれ、空気を吸い込めなくなり空気導入路が真空状態になり、センサが気圧の変化を検知して自動的にレバーのロックを解除し給油を停止します。電気信号を扱わずに機械的で単純な構造にすることで安全性の高い仕組みとなっています。

図10 給油ノズルの構造と給油停止原理
図10 給油ノズルの構造と給油停止原理

関連計測器の紹介

自動車で使用される液体に関連した計測器の一例を紹介します。

図11 自動車に使われる液体に関連した計測器の例
図11 自動車に使われる液体に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

自動車には多くの液体が使用されており、基本動作である「走る」、「止まる」、「曲がる」を支えるためには欠かせない材料です。これらの液体に求められる潤滑や保護といった基本機能や要件は大きく変わりませんが、今後も環境対応や材料技術の進展に伴い、性能向上などのさらなる進化を期待しましょう。

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