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自動車の認証 ~ クルマに安心して乗るための「合格通知」制度 ~

自動車は、多くの法令に準拠して開発、生産、販売されています。自動車は人命と直接的に関係する安全性はもとより、環境などに対する制約を受けます※1。仮に、違反が判明すると、企業イメージの低下を来すだけでなく、状況によってはリコール※2の対象となることにとどまらず、賠償の対象となり得ます。本稿では、自動車の認証について概説します。まず、車両認証制度について、歴史的な背景や対応について述べます。その後に、車両認証の流れを解説します。車両認証の規範である関係法令と審査規程の内容を記述します。次に、認証業務について国の代行機関(指定代行機関)である自動車技術総合機構(NALTEC)の業務概要や保有設備を紹介します。また、車両認証に関連する今後の動きについても触れます。最後に認証に関連する計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている法令や規格等に関する記述は参考情報であり、原文を保証するものではありません。さらに、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》 

※1

自動車をとりまくルールに関連する記事は以下をご覧ください。
2022年7月公開:「自動車をとりまくルール~安心安全の基本

※2

リコールに関連する記事は以下をご覧ください。
2021年11月公開:「自動車の品質をより良くするために~リコール制度について

自動車の認証制度とは

車両認証制度とは、自動車が販売される前および販売後も含めて、国が定める安全性や環境性能のルールに適合しているかを確認する仕組みです。導入された背景を歴史的に整理すると次の通りです。①自動車が普及し始めた初期、②交通事故の増加と安全性の確保、③排出ガスや騒音など環境問題への対応、④大量生産に対応、⑤国際調和。

① 自動車が普及し始めた初期

自動車が普及し始めた当初は、生産台数が少なかったので個別検査が可能。高度経済成長期に入ると大量生産、車種の多様化、技術の高度化が進展。そのため、行政機関の負担が増大、検査基準の設定や判定基準のばらつき等が課題となり、上市前に一括して確認する仕組みが必要となりました。

② 交通事故の増加と安全性の確保

自動車社会の進展により交通事故数や死者数が急増し、また車両構造に起因する事故が顕在化しました。事前の確認による予防的制度の導入が求められました。

③ 排出ガスや騒音など環境問題への対応

1960年代には自動車の排気ガス(CO、HC、NOx)、騒音問題が深刻化し、特に都市部では社会問題化しました。この状況下でも事前に認証する規制が必要となりました。

④ 大量生産への対応

同一仕様で大量生産される車両について、代表車両で性能や構造を審査する制度による「型式指定」の考え方が定着しました。

⑤ 国際調和

日本車の輸出先が欧州および世界へ拡大したことから、日本と輸出先との二重規制対応の非効率化を解消するため、国際調和が取り入れられました。「1958年協定」とも言われ、正式名称は「車両等の型式認定相互承認に関する協定」。自動車の安全・環境基準の国際的統一と、認証手続きの相互承認による国際流通の円滑化が目的とされています。

1)型式指定制度の概要

市場に投入する前に適合性の確認を行います。車両の型式指定、装置型式指定および共通構造部認定の審査を受けます。特殊車両などの個別審査も適合性の確認が必要です。適合性の前提は、道路運送車両法の保安基準への合致です。認定を受けて、量産段階においては、適合性を継続する規定を満足することが必要です。体系図は図2です。市場投入前の適合性確認①自動車型式指定、②装置型式指定、③共通構造部型式認定の概要は表1です。

図1 型式指定制度の概要
図1 型式指定制度の概要

出典:国土交通省が公開している資料を抜粋して作成

図2 認証制度の体系
図2 認証制度の体系
表1 市場投入前の適合性確認
制度 概要 対象事例
① 自動車型式指定 一定の自動車モデル(例えば、トヨタ ヤリス)が安全基準や環境基準に
適合しているかを事前に確認する制度。審査、試験は指定機関が実施。
大量生産される車種
② 装置型式指定 自動車に搭載される特定の装置が保安基準の適合性を確認。
自動車型式指定の申請時に技術審査が省略される。
ブレーキ、灯火器、
シートベルト、ヘッドランプ等
③ 共通構造部型式認定 複数の車種・車両型式で共通に使用される車台や骨格などの「構造部」が、
強度や安全基準に適合していることを、設計や試験で認定。
フレーム、車体構造部等

2)車両認証の流れ

自動車の型式指定を申請してからユーザに渡るまでの流れは図3です。

図3 自動車の型式指定制度概要
図3 自動車の型式指定制度概要

出典:国土交通省が公開している資料を抜粋して作成

量産車に絞って表記すると図4となります。先ず、OEMは新規に必要な書類を作成し申請します(①)。その申請内容が基準に適合しているかどうかの審査を受けます(②)。ここで、共通構造部認定および装置型式指定を受けた装置があれば、該当する適合性審査が省略されます。なお、共通構造部認定および装置型式指定は事前に適合性の審査を受けることが必要です。そして、基準に適合していると判定されると型式指定を得られます(③)。大量生産される型式であれば、OEMや部品サプライヤの完成検査を実施することで、1台毎の現車を提示することが不要となります。最後に登録検査を受けた後、車両が登録され、ユーザへ引き渡されます。なお、完成検査、共通構造部認定および装置型式指定を受けた装置については定期的に監査が実施されます。

図4 自動車隆機指定制度(量産車)
図4 自動車隆機指定制度(量産車)

関係法令

自動車に関する法令の根幹をなすのは、「道路運送車両法」と「道路交通法」です。両法令の違いを端的に表現すると、「道路運送車両法」は「車両が公道にでる資格」を与え、「道路交通法」は「公道で車両をどう使うか」です。「道路交通法」については、「2022年7月公開:自動車をとりまくルール ~ 安心安全の基本 ~」をご覧ください。

車両認証制度に係る法令における最上位の位置づけは法律である「道路運送車両法」です。内容がより詳細になっていくピラミッド構成です。「道路運送車両法」の配下に、政令である「道路運送車両法施行令」、国土交通省令である「道路運送車両法施行規則」、技術基準の「保安基準」、「型式」を認めるための「型式指定規則」で構成されています。その他に、個別の要件を規定する「告示」や「通達」、「通知」などが関係省庁から発出されています。関係法令の条文数は、法律、省令をだけでも200条以上あります。さらに、技術基準の告示は数百件定められており、認証を得るためには、相当のリソースを要すことが推察されます。なお、法令体系の区分は、「憲法」、「法律」、「政令」、「省令」、「告示」、「通達」、「通知」、「業務連絡」となります。

政令 法律の規定に基づき内閣が定める命令
省令 法律や政令に基づき各省大臣が定める規則
告示 法令の施行や運用に関する事項の公示
通達 法令の解釈や運用基準を示す上級機関から下級機関に対する内部文書
通知 特定の事項について、具体的な事項を伝達する助言的文書
事務連絡 現場レベルの業務連絡や法令の補足説明を行う非公式文書

日本の法令体系は、法律を頂点に、内閣が制定する政令、各省大臣が制定する省令が階層的に構成され、具体的な基準などを定める告示が発出されます。通達、通知、事務連絡は、行政内部における法令の解釈や運用をガイドするための文書であり、国民を直接的に拘束する法令ではありません。

表2 車両認証に係る法令
区分 法令名 条文数 概要
法律 道路運送車両法 約110条 ・車両認証制度の根幹となる法令
・型式指定、検査、保安基準の委任
政令 道路運送車両法施行令 約70条 ・認証制度の枠組みを具体化
・制度設計レベルの詳細化
省令 道路運送車両法施行規則 約70条 ・OEM、試験機関の実務ルールの根拠
・型式指定申請に必要な書類、認証試験方法、完成検査、表示義務等を規定
省令 道路運送車両の保安基準 約70条 ・構造、装置に関する安全基準を規定
灯火、制動、操舵、排ガス、電磁適合性など技術要件
省令 自動車型式指定規則 約15条 ・型式認証の申請手続き、試験方法、証明書発行等を規定
省令 装置型式指定規則 約14条 ・装置単体の認証に関する申請手続き、試験方法等を規定
省令 共通構造部型式指定規則 約14条 ・複数の型式自動車で共通使用の構造部分の認証に関する申請手続き、試験方法等を規定
告示 技術基準告示 数百件 ・試験方法、評価基準(衝突安全、排ガス、EMCなど)
規程 審査事務規程 約1700頁 ・道路運送車両法で定める審査指定機関(自動車技術総合機構)で実施される審査事務を規定
書類審査、試験方法、判定等
・OEM、メーカの実務で必須の参照文書

車両認証において、OEMや装置・部品メーカが実務で必須となる規定は「審査事務規程」です。道路運送車両法および国(国土交通省)により、代行機関として権限を委任されているのは独立行政法人 自動車技術総合機構(NALTEC)です。「審査事務規程」に則り、自動車に関する型式認証や技術審査を担い、国の制度を技術的な側面で支える中立、専門的な機関です。基本理念は「安全で環境にやさしい交通社会の実現に貢献すること」とされています。主な使命として次の6項目を挙げています。

① 国の施策への貢献

自動車・鉄道など陸上交通技術の進展と国際競争に対応し、設計から使用まで総合的に国の政策に協力する。

② 審査業務の厳正実施

自動車の審査を的確・公正に行い、型式認証の基準適合性審査も効率的に実施する。

③ リコール対応

リコールを迅速・確実に進めるため、技術検証業務を的確に行う。

④ 登録確認調査

自動車の登録確認調査を確実に実施する。

⑤ 研究・技術開発支援

基準策定を支援する研究の中核として新技術に対応し、産学官連携の基盤機能を担う。

⑥ 国際標準化と海外展開

審査で得た知見を活かし、自動車・鉄道技術の国際標準化に貢献し、鉄道認証を通じて海外展開を支援する。

「審査事務規程」では具体的な審査手続きや審査手順、審査項目の基準値や判定項目を定めています。「業務審査規程」の本則は全11章から構成され、これに別表、様式、別添が付属しています。総ページ数は、刊行物によると約1,700頁で構成されています。図5は「審査事務規程」の目次です。

図5 審査事務規程の目次
図5 審査事務規程の目次

「審査事務規程」の概要は次の通りです。「審査事務規程」の詳細は、NALTECのサイトをご覧ください。
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/shinsajimukitei.html

表3 審査事務規程の概要
項目 概要
第1章 総則 規程の目的、用語定義、審査の基本原則を規定
第2章 型式指定等に係る審査の実施方法 型式指定・改造許可の審査手順、開始時期、審査方法
第3章 型式指定等に係る審査結果の通知方法 審査結果を通知する際の様式、手順を規定
第4章 検査等に係る審査の実施方法 完成検査、新規検査、継続検査など、検査審査の実地審査手順
第5章 検査等に係る審査結果の通知方法 検査証記載、データ反映
第6章 新規検査・予備検査 型式認証に対する新規検査、予備検査の手続きと方法
第7章 新規/予備/継続/構造等変更検査 寸法、重量、安定性、ブレーキ、灯火、排ガスなど詳細項目
第8章 改造等ない使用過程車の検査 改造がない継続検査の審査要領(第7章と並列配置)
第9章 テスタ等による機能維持確認 OBD等での機能確認手順、判定方法
第10章 立入検査・街頭検査 立入検査、街頭検査の実施方法、報告手順
第11章 臨時検査 臨時検査の手続き、条件、結果処理方法等 実施の要領
附則 改正施行日、経過措置、旧規定からの移行ルール
別表 審査事務規程の本則を補足する一覧表
・添付書面一覧(どの書類を付けるか)
・外国の試験機関一覧
・NOx・PM に関する地域区分データ
・排出基準適合状況表 等
様式 申請書類や報告書の定型フォーマット(全16)
・審査結果通知書
・排出ガス試験結果証明書
・改造車審査申請書
・検査成績書
・立入検査報告書 等
別添 審査業務を技術的に補足する要領等を規定(全15項目)
・書面審査要領
・並行輸入車審査要領
・改造車審査要領
・走行性能技術基準
・近接排気騒音測定方法 等
別添1 試験規程 詳細 ・「道路運送車両法の保安基準」の具体的な試験方法詳細を規定
・TRIAS(トリアス:Test Requirements and Instruction for
Automobile)の項目は緒元測定試験を始め、全329項目
・最新の安心安全システムや国際基準にも準拠
・個々の試験ごとにTRIAS番号、試験名称、手順を規程

作成する書類のページ数は新車の型式認証で、一般的に5,000ページ以上となるようです。近年のEV化や安心安全システムの進化により大幅な増加傾向です。

自動車技術総合機構(NALTEC)の業務概要

自動車認証審査部において審査業務を行っています。「自動車型式指定制度」と「装置型式指定制度」に対応しています。道路運送車両法の規定により、新型自動車及びその装置が販売される前に、型式毎に安全・環境基準への適合性について技術上の審査を実施しています。申請者より提出のあった申請書面の審査や、実車を用いた各種試験を行うことにより、さまざまな基準への適合性を確認しています。

1)具体的な審査業務

5つのチームで実施しています。

① ブレーキ、騒音、自動運転担当

ABS/BAS/ESCを含む制動試験、定常・加速走行などの騒音試験、AEBS、LKAS等のADASの性能試験、自動運転の評価など走行に関する性能評価

② 燃費・電力消費・排ガス担当

原動機・電動機の出力測定、排出される規制物質の排出量・燃料消費率・電気自動車の電力消費率の測定などの性能評価

③ 灯火・一般安全担当

灯火器、視界、車両の外装部品・装置の安全性、電磁両立性等の性能評価

④ 衝突安全・歩行者保護担当

衝突時における乗車人員や歩行者の傷害値等の確認、電動車の電池安全などを評価

⑤ サイバーセキュリティ担当

自動車のサイバーセキュリティ、ソフトウェアアップデートに関する組織能力や車両要件の評価

2)NALTECの設備概要

図6 設備概要
図6 設備概要

出典:NALTECのサイトに掲載されている画像を引用

今後の動き

1)自動車の整備事業関連規制の見直し

近年の先進安全技術に対応するため、整備事業分野においても求められる技術が高度化しています。さらに、点検・整備を担う人材の確保が課題となっています。このような状況に対応するため、整備事業に関連する法令の見直しが進められています。2025年7月に国土交通省から公表された諸施策を紹介します。見直し内容は、次の7項目です。①認証工場の機器要件の見直し、②指定工場(大型)の最低行員数の緩和、③自動運転車の検査員要件の強化、④自動車整備資格の実務経験年数の短縮、⑤「電子」点検整備記録簿の解禁、⑥オンライン研修・講習の解禁、⑦スキャンツール等による点検可能範囲の拡大。詳細は図7です。

図7 整備事業関連規制の見直し
図7 整備事業関連規制の見直し

出典:国土交通省が公開している資料を抜粋して作成

2)車検証の見直し

車検(自動車検査登録制度)は、国が定める安全基準や環境基準を満足するかどうか、所有者・使用者の公的証明、税金・保険料の徴収を目的として、所定の期間ごとに国が行う検査です。検査に合格すると、「検査標章(車検シール)」と「自動車検査証(車検証)」が交付されます。この車検証は自動車関連手続きのデジタル化(DX:Digital Transformation)に対応するため、2023年1月から、電子車検証への切り替えが始まりました。主なメリットは、運輸支局への出頭不要化、国土交通省が推進する、自動車保有関係手続のワンストップサービス化(OSS)、紛失・破損リスクの軽減、紙資源削減 等です。従来の紙車検証と電子車検証の特徴は次の通りです。

① 紙車検証

自動車検査登録に必要な各種情報が記載されています。

図8 紙車検証
図8 紙車検証

出典:国土交通省が公開している資料を抜粋して作成

② 電子車検証

登録番号、車名、車台番号、型式など必要最小限の記載事項を除き、自動車検査証情報はICタグ※3に記録します。ICタグの情報は汎用のICカードリーダが接続されたPCや読み取り機能付きスマートフォン及びタブレット(Android端末のみ)で参照可能です。車検証閲覧アプリにより、車検証情報のほか、車検証情報ファイルの出力(PDF等)や車検証情報以外の情報(リコール情報等)の確認等も可能になります。詳細は国土交通省のサイトをご覧ください。 https://www.denshishakensho-portal.mlit.go.jp/user/application/

※3

13.56MHzのNFC(Near Field Communication)TypeB技術を使用した近距離無線通信。Suica(JR東日本の登録商標)や運転免許証と同じ読み取り方式。

図9 電子車検証
図9 電子車検証

出典:国土交通省が公開している資料を抜粋して作成

車検証ICタグの「車検証の空き領域利活用サービス」が令和7年4月に開始されました。サービスの概要、利用方法等は「車検証の空き領域利活用ポータル」をご覧ください。

3)自動車型式指定規則の見直し

複数の自動車メーカ等による型式指定申請において、不適切な事例が確認されたことから、国土交通省に設置された「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」で議論が進められ、対応策が実施されます。主な対策は、次の3項目です。

  1. 型式指定時に、自動車メーカ等における認証業務に係る内部統制に関する取組状況を確認すること。
  2. 型式指定後に、実車による試験を行い、量産車の保安基準適合性等を監視すること。
  3. 不正を行った者に限定して、審査の強化等の措置を一定期間講じること。

これらを踏まえて、型式指定申請における関係法令が改正等を行うことになりました。「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」のとりまとめ結果および法改正等については、次のURLをご覧ください。

関連計測器の紹介

自動車の認証に関連した計測器の一例を紹介します。

図10 自動車の認証に関連した計測器の例
図10 自動車の認証に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

昨今の車両認証に関連する不正問題受けて、再発防止策が講じられます。車両認証は、ユーザの自動車に対する信頼を担保することはもとより、重大な事故や公害の未然防止、さらに自動車の効率的な生産と流通を支える根幹の仕組みです。今後も自動車が安心安全で環境にやさしいモビリティであることを期待したい。

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