過給機 ~ エンジンの高出力化と高効率化に貢献するデバイス ~
自動車用エンジン※1の「過給機」から何を連想するでしょうか。自動車用エンジンの過給機として採用されているのは主として「ターボチャージャ(turbocharger)」と「スーパーチャージャ(supercharger)」です。ターボチャージャは一般的に、「ターボ」で聞き覚えがあると思います。ターボチャージャは排気ガスのエネルギを再利用しエンジンの効率を高めるための装置です。過去には、エンジンの動力性能を高めることが主な目的で高性能な車両に適用されていましたが、近年は燃費の改善など、カーボンニュートラルへの対応手段として採用が増えています。なお、過給機としては、「ターボ」が主流となっています。本稿では、自動車エンジン用の「過給機」を中心に解説します。先ず、過給機の役割、過給機が搭載されていないエンジンとの比較を概説します。次に過給機の歴史について年代ごとに紹介します。その後に、過給機の分類と主要な種類である、ターボチャージャ、スーパーチャージャについて解説します。併せて、過給機の比較を行い、過給機に関連した技術(ウエイストゲートバルブ、インタークーラ、ターボラグ、アンチラグ)についても触れます。最後に過給機に関連した計測器を紹介します。
自動車用エンジンについては2022年6月公開記事「自動車用内燃機関の進化~まだまだ活躍するガソリンエンジン~」が詳しい。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
過給機の役割
過給機とはエンジンにより多くの空気を燃焼室に送り込むため、空気を圧縮し送り込む装置です。原動力で分類すると基本原理は①ターボチャージャ、②スーパーチャージャ、③電動チャージャとなります。詳細については、後ほど解説します。なお、過給機を装着されていないエンジンは「自然吸気エンジン(NAエンジン:Naturally Aspirated Engine)」と呼称されます。エンジン自身のピストンが下降する時の負圧でシリンダ内に空気を取り込みます。つまり、「過給」する機構を持たないエンジンです。構造はシンプルですが、エンジンの出力性能を高めるためには排気量を大きくすることが必要になります。
- ターボチャージャ:エンジンから排出される排気ガスエネルギをタービンによって回転エネルギに変換し、同軸上にある圧縮機に伝え、吸入した空気をエンジンの燃焼室に送り込む。
- スーパーチャージャ:エンジンのクランクシャフトからギヤやベルトで圧縮機を直接駆動し圧縮空気を生成する。
- 電動チャージャ:電動モータでタービンや圧縮機を直接駆動し圧縮機を生成する。
NAエンジンと過給機付きエンジンとの比較
NAエンジンと過給機付きエンジンとを比較すると表1となります。搭載される車両の車格や用途、走行環境、コスト等の複数条件を考慮して検討されます。
| 比較項目 | NAエンジン(自然吸気) | 過給機付きエンジン |
|---|---|---|
| 吸気方式 | 大気圧による自然吸気 | 強制吸気(圧縮空気を供給) |
| 吸気圧力 | 大気圧以下 | 1気圧を超える(1.2〜2.0気圧程度) |
| 出力特性 | 滑らかでリニア | 急激なトルク上昇 |
| レスポンス | リニアで自然な加速感 | ターボラグがある場合もあり |
| 燃費 | 負荷が低い状態では良好 | ダウンサイジングにより燃費向上可能 |
| 構造の複雑さ | シンプル・軽量 | 過給機や冷却装置などが追加され複雑、重量増 |
| メンテナンス性 | 故障リスクが低く整備が容易 | 過給機や冷却系の管理が必要 |
| 熱管理 | 熱の発生が少ない | 高温になりやすく冷却性能が重要 |
| 耐久性 | 長寿命な傾向 | 高負荷により部品の摩耗が早い場合も |
| 高地性能 | 空気が薄いと出力低下 | 過給機により高地でも安定した出力 |
| 価格 | 一般的に安価 | 車両価格が高くなる傾向 |
過給機の歴史
過給機の歴史を世代別にまとめると次の通りです。過給機の基本理論が考案された1880年代に始まり、航空機での採用、自動車での普及、ダウン・サイジング・コンセプトへの対応、電動化対応へと技術進化しました。
| 世代 | 年代 | 主な出来事 |
|---|---|---|
| 黎明期 | 1880~1900年代 | ゴトリープ・ダイムラ(独)が空気の強制供給を着想し特許取得。1905年アルフレッド・ビュッヒ(独)がターボの基本特許を取得。 |
| 1910年代 | 航空機の高高度性能を解決する方式として機械式スーパーチャージャを導入。 | |
| 航空機への応用 | 1920年代 | レースカーにスーパーチャージャ搭載。ターボは航空機用で開発進展。 |
| 1930年代 | 航空機で多段式スーパーチャージャ、ターボ過給機の研究進展。 | |
| 1940年代 | 米軍爆撃機にターボを搭載し高高度飛行性能を実現。航空機分野で過給機が急速に普及。 | |
| 自動車への応用 | 1950年代 | 自動車はスーパーチャージャが主流。ターボはディーゼルエンジン(船舶、トラック、産業用)で実用化。 |
| 1960年代 | 1962年GMのオールズモービルが乗用車に初めてターボを採用。 | |
| 1970年代 | 欧州の高性能車(BMW 2002ターボ、ポルシェ930ターボ)、ディーゼル車に普及。 | |
| 電子制御の導入 | 1980年代 | ECU※2 制御の導入、インタークーラ普及。F1ターボ時代。 |
| 多様化 | 1990年代 | ターボの信頼性向上、ディーゼルエンジンでのターボ普及。スーパーチャージャはUSおよび欧州車ではV型エンジンが中心。 |
| ダウンサイジング対応 | 2000年代 | 小排気量+ターボで大排気量並みの性能が得られる「ダウンサイジング」が確立。効率的な過給となる可変ジオメトリーターボなど登場。 |
| 近年 | 2010年代~ | 電動スーパーチャージャ、電動+ターボ(ハイブリッド)登場。F1ではハイブリッドターボの導入。 |
(Electronic Control Unit) 2021年6月公開記事「自動車ECUのインタフェース~スイッチ信号から無線通信まで多岐にわたる技術を適用~」が詳しい。
過給機の種類
過給機の種類を基本的な構造で分類すると図1となります。大きく分けると、ターボチャージャとスーパーチャージャです。また各々は機械的な駆動とモータによる電動式が挙げられます。
1)ターボチャージャ
ターボチャージャは排気ガスのエネルギで圧縮機(コンプレッサ)を回し、吸入空気を圧縮しエンジンへ圧送する装置です。図2はターボチャージャの一例です。
基本的な構成は、①タービンハウジング、②タービンロータ、③シャフト、④コンプレッサーハウジング、⑤コンプレッサです。
- タービンハウジング:排気ガスが流入する
- タービンロータ:排気ガスにより回転する羽根状の構造。シャフトでコンプレッサと直結されている。
- シャフト:タービンロータとコンプレッサとを直結する軸
- コンプレッサーハウジング:外気を取り込み圧縮する流路
- コンプレッサ:吸入空気を圧縮する羽根状の構造
図3はターボチャージャの内部構造です。排気管から導入された排気ガスを、タービンロータで回転運動へ変換します。タービンロータに直結したコンプレッサが回転し圧縮空気を生成します。空気をシリンダ内へ圧送することになるので、空気量に見合った燃料も噴射されるため、エンジンの排気量を増やさずに、エンジン出力を増大することができます。
ターボシステムにはいくつかの種類があります。自動車で採用された主なものは①シングルターボ、②ツインスクロールターボ、③可変ノズルターボ、④ツインターボ、⑤シーケンシャルターボ、⑥電動ターボがあります。
① シングルターボ
1基のターボチャージャで全回転域をまかないます。
② ツインターボ
6気筒以上の多気筒エンジンに使われ、気筒を2グループに分けて、同じサイズのターボ2基で過給します。例えば、直列6気筒エンジンの場合、3気筒ごとに1基ずつ搭載します。
③ シーケンシャルターボ
サイズの異なる2つのターボが搭載され、エンジンの回転数に応じて切り替える方式です。エンジン回転数が低い時は小さい方のターボへ排気の流れを制御し、高回転になると大きい方のターボへ排気が流れるように制御します。小さい方のターボは素早く応答しますが高回転状態では過給が不足します。大きい方のターボは高回転で過給圧を高められますが、ターボラグが大きくなります。2つのターボの役割を変えることで、高出力化とターボラグの抑制を両立させます。
④ 可変容量ターボ
可変ターボの中で最も普及しているのが、VGT(可変容量ターボ)です。VGTは、タービンハウジングのスクロール内部に排出ガスの流れを制御する小型の可動式ベーン(翼)を多数配置しています。配置された可動式ベーンの開度を、運転条件に応じて電動アクチュエータなどで制御します。低速条件では、ベーン間の隙間を絞って(開度小)、タービンに吹き出すガス流速を上げます。少ない排出ガスエネルギでも、過給圧を上げることができレスポンスが向上します。一方、回転が上がり、排出ガス流量が十分になると、ベーン間の隙間を開けて(開度大)、絞りを減らして過給圧を制御します。
出典:User:Ton1、VariableGeometryTurbo 2.JPG、CC BY-SA 3.0
Ton1-bot、Variable Geometry Turbine Closed.JPG、CC BY-SA 3.0
User:Ton1、Variable Geometry Turbine Open.JPG、CC BY-SA 3.0
⑤ 電動ターボ
ターボ内のタービンとコンプレッサの間にモータを内蔵し、モータ動力とタービンの回転力の両方を使う「ハイブリッド」方式です。中高速域では、通常のターボと組み合わせて、低速域は電動スーパーチャージャとして、中高速域はターボに切り替える2段階方式です。過去に、量産車で搭載されていましたが、EV車への方向性が強まっていることから、現状は搭載が見送られているようです。現在のF1では、搭載されているエンジンの排気ガスから得られる熱エネルギを回生し電気エネルギへ変換します。電動ターボと同様な仕組みで、モータによってタービンの回転アシストやターボラグ(後述)の解消に役立っています。一般的な呼称はERS(Energy Recovery System)です。装置名はMGU-H(Motor Generator Unit-Heat)※3。
2021.10公開記事「モータスポーツにもカーボンニュートラルの波~走る実験室として発展」が詳しい。
2)スーパーチャージャ
スーパーチャージャは、エンジンの出力を利用して駆動します。クランクシャフトからベルトやギヤなどを介してコンプレッサを回転させ、吸気を圧縮する機械駆動式過給機です。色々なタイプのコンプレッサがありますが、自動車で採用された代表的なのは①ルーツ式、②リショルム式、③遠心式、④電動式です。主流はルーツ式です。
① ルーツ式
ルーツ式は、ドライブロータ(クランクシャフトに連動して回転)とドリブンロータとが一対となって、両ロータが逆回転しながら、吸入、移動、吐出を繰り返します。
② リショルム式
スクリュー式とも呼ばれ、互いに噛み合った一対の螺旋状ロータで構成されます。ケースとロータ間の空間が徐々に縮小され、吸入空気が圧縮、吐出されます。
③ 遠心式
ターボチャージャのコンプレッサ部をクランクシャフトからベルトなどを介してコンプレッサを回転させ、吸気を圧縮する機械駆動式過給機です。過給圧を高めるため、ギヤなどを用いてタービンを高速化します。
④ 電動式
タービンをモータで直接駆動する方式で、エンジンへの直接的な負荷になりません。
過給機の比較
過給機を比較すると表3となります。車両のタイプやエンジンの型式等の要件により使い分けられます。
| 過給機タイプ | 駆動方式 | 特徴 | 用途例 |
|---|---|---|---|
| ターボチャージャ | 排気ガス | 高出力化、燃費改善、低回転でラグ | 乗用車、ディーゼル |
| 電動ターボチャージャ | 排気+電動 | ターボラグの低減、圧力制御の柔軟性 | ハイブリッド車、高性能ガソリン車 |
| スーパーチャージャ | ベルト駆動 | 即応性、低回転トルク増、燃費やや低下 | スポーツ車 |
| 電動スーパーチャージャ | 電動モーター | ターボラグ抑制、エンジン負荷無し、制御が自在 | 直噴ガソリン車の補助、スポーツ車 |
関連技術
ターボに関連する機能や技術を紹介します。
1) ウエイストゲートバルブ
過給機により得られる圧力を過給圧(ブート圧)と言い、高まりすぎるとノッキング※4などの異常燃焼をきたしエンジンへダメージを与えます。防ぐためには、エンジンの状況に応じてブースト圧を制御することが必要です。そのためのアクチュエータは「ウエイストゲートバルブ」と呼称されています。排気タービンの上流側と下流側をバイパスする経路が接続され、その間に「ウエイストゲートバルブ」が設けられています。バルブを駆動するアクチュエータには、ばねが内蔵されており、通常はバルブが閉じた状態で保持されていますが、ブースト圧が所定の圧を超えると、ばねに打ち勝ってバルブが開き、排気ガスがバイパス通路も通るようになり、タービンの回転数が下がることでブースト圧が低下します。なお、近年のアクチュエータはECUで制御する電磁バルブとなっており、ブースト圧の自在な制御が可能となっています」。
混合気が意図しないタイミングで着火し、エンジンから「カラカラ」といった音が発生。ピストンやバルブが損傷する可能性がある。
ウエイストゲートバルブが導入された目的は、過給圧の高まりを抑えるためでした。導入された当初は、前述の通り過給圧が高まるとバルブを開けていました。バルブの「ノーマルクローズ制御」と言えます。近年のエンジンでは、「ノーマルオープン制御」が主流となっています。理由は、ECUによるウエイストゲートバルブ制御が自在になったことと、ダウン・サイジング・コンセプトに対応したターボの普及です。「ノーマルクローズ制御」では、エンジンの負荷が低い時でも、排気がタービンへ流れるため、排気の圧力損失が生じます。負荷が高くなると、過給圧が上がるので、出力特性を調整するためのエンジン制御が必要になります。一方、「ノーマルオープン制御」では低負荷時のウエイストゲートバルブが開いているので、排気損失が抑制され、NAエンジンとして効率よく稼働できます。高負荷に遷移する際には、ウエイストバルブを閉じていくことで、出力を高められます。
2) インタークーラ
ターボチャージャは空気を圧縮することでエンジンに多くの酸素を供給します。一方、気体は圧縮されると温度が上昇します。そのため、密度が低下します。上昇した温度を下げるために、インタークーラで空気を冷却することで、密度を高めてより多くの酸素を燃焼室に送り込み、燃焼効率と出力を向上させます。また、吸気温度が高温になると、エンジンの燃焼室内で異常燃焼(ノッキング)を引き起こす可能性があります。これを防ぐために、インタークーラで吸気温度を下げます。図15はインタークーラの例です。
図16はターボチャージャシステムにおけるインタークーラの実装位置です。圧縮機からの吸気をインタークーラで温度を低下させてエンジン内へ送り込みます。
3)ターボラグ
ターボを装着したエンジンは、エンジンから排出されるエネルギによってタービンを駆動し、同軸にあるコンプレッサを回転させることで吸入空気を圧縮しシリンダ内へ圧送します。よって、アクセルを戻すと排気エネルギが減少するので、タービンの回転数が減少します。その後、アクセルペダルを踏みこんでも、すぐにはタービンの回転数は高まらないので、ブースト圧も同様に高まらず、エンジンの出力はドライバが意図する出力を得られません。この事象をターボラグと称し、ターボ車固有の特徴でもあります。図17はターボとスーパーチャージャとのブースト圧上昇特性を示したイメージです。ターボラグを認識できます。
4) アンチ・ラグ・システム
アンチ・ラグ・システム(Anti-lag System, ALS)はターボラグを抑制するシステムです。アクセルをオフしている時でもターボチャージャの回転を維持し、加速時のエンジンレスポンスを向上させます。モータスポーツ車両、例えばWRC(世界ラリー選手権)車では、アクセルをオフした際、“パパパパパン・・・・”などの炸裂音が聞こえます。基本原理は、アクセルをオフした際、燃焼ガスを排気管内に供給することでタービンを回転させます。主な方式としては、①スロットル制御方式、②バイパス式があります。
① スロットル制御方式
電子制御スロットル車での採用が多いです。アクセルオフ時に、スロットバルブを開け、さらに点火時期を遅らせることで失火させ、未燃焼ガスを発生させて排気マニホールド内で燃焼させます。その排気エネルギでタービンの回転を維持します。
② バイパス方式
吸気側から排気側へバイパス流路を設け、アクセルオフ時にバイパス流路から排気側へ吸気を送り込むことで、余分の燃焼ガスを発生させ排気マニホールド内で燃焼させます。
アンチ・ラグ・システムは排気系の温度上昇を伴うことから、エンジンや排気系へのダメージとなる可能性が高いです。量産車の事例では、明確にアンチ・ラグ・システムとはうたっていませんが、同様の効果を持つ制御が組み込まれている車両はあります。作動する条件等があり一般公道では限定的なようです。WRCなどのベースとなる量産車では、純正のECUに機能として組み込まれていても、特定の改造を施さないと作動しない例もあります。
余談
第二次世界大戦時に零式艦上戦闘機(ゼロ戦)は米国陸軍航空機Boeing B-29 Superfortress(いわゆるB-29)を撃墜できなかった一つの要因として、ゼロ戦のエンジンには高高度航行に対応するターボチャージャが搭載されておらず、B-29に比べて高度性能が高くなかったことが挙げられます。B-29はターボチャージが搭載され高高度航行が可能でしたが、ゼロ戦に搭載されていた過給機(スーパーチャージャ)では高高度になるとエンジンの出力性能低下は避けられず、B-29を追撃できなかったようです。ただし、過給機の性能差だけでなく、乗員の環境保護(高高度による高山病の症状、機体内の温度低下、搭載燃料量)等々の複合要因が影響しています。その後、過給機の性能を改善した機体は試作されましたが、時遅しだったのでしょう。
関連計測器の紹介
過給機に関連した計測器の一例を紹介します。
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おわりに
エンジン用の過給機は、自動車分野はもとより、船舶や建設機械などエンジン出力の向上、燃費改善、環境性能の向上を目的として普及しました。今後も、燃料電池システムや電動車への適用など、新たな技術分野へ対応するため、さらなる技術進化に期待しましょう。
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