市場動向詳細

時計 ~ 人類の発展を刻む ~

単位※1の基準となる「長さの単位」と「質量の単位」に関する「メートル条約」が1875年に制定され、今年(2025年)で150周年となります。国際単位系(SI)では、物理量の単位の基礎となる7つの基本単位が定義されています。秒(時間)、メートル(長さ)、キログラム(質量)、アンペア(電流)、ケルビン(熱力学温度)、モル(物質量)、カンデラ(光度)です。本稿では、7つの基本単位の中で、秒(時間)に基づく「時計」について解説します。時(とき)を図る手段は人類の進化とともに考案され、文明の発展により技術進化してきました。「時計」の基本機能である「時を図る」は変わっていませんが、その精度は劇的に向上し現在も進化しています。先ず、時計(クロック、ウォッチ)※2の国内市場を紹介します。その後に、時計の歴史について年代ごとに概説します。その中で、時計の基本構造や原理を述べます。次に、時計の技術にとって大変革となった水晶発振子の原理や関連技術を紹介します。また、現在の「秒」の定義となっている「セシウム原子時計の構造」、地球全体で統一された「協定世界時(UTC)」、「うるう秒」、を解説します。さらに、「次世代の時計技術」、「うるう年」、「時の記念日」、「時計の右回り」、「発振回路」、「最大最小の時計」についても触れます。最後に時計に関連した計測器を紹介します。

※1

単位に関する記事は2025年4月に公開した「単位 ~ すべての基本 ~」をご覧ください。

※2

一般的に、「クロック」は設置型時計、「ウォッチ」は腕時計や懐中時計などの携帯用時計

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

日本における時計の市場

図1と図2は日本における、2024年1月~12月の市場状況です。数量、金額については、ウォッチ、クロックとも合計では前年比増加していますが、国内メーカは輸入品に対してやや劣勢です。

図1 ウォッチの市場規模
図1 ウォッチの市場規模

出典:一般社団法人 日本時計協会が公表している資料を元に作成

図2 クロックの市場規模
図2 クロックの市場規模

出典:一般社団法人 日本時計協会が公表している資料を元に作成

時計の歴史

人類にとって、「時間を知る」ことの欲求から、「時間を図る」手段である「時計」が考案されたと推察されます。世代ごとに「時計」の変遷について概説します。なお、主要な技術については後述します。

1)古代の自然時計

巨石を円形あるいは列状に配置されており、日の出や太陽の影の向きに合わせて設計されたようです。図3は紀元前5000年頃の古代エジプトで建てられた、ナブタ・プラヤ遺跡に残る遺構です。石柱によって太陽の影の動きを利用した日時計としての機能の他に、冬至や夏至などの天文的な動きを把握できるようです。

図3 ナブタ・プラヤ遺跡に残る遺構
図3 ナブタ・プラヤ遺跡に残る遺構

出典:Raymbetz、Calendar_aswan.JPG、CC BY-SA 3.0

日本の江戸時代においては、携帯用の日時計が使われていました。

図4 江戸時代の携帯用日時計
図4 江戸時代の携帯用日時計

出所:セイコーミュージアム 銀座

古代以降でも様々な日時計が使われました。

図5 さまざまな日時計(古代以降も含む)
図5 さまざまな日時計(古代以降も含む)

出所:セイコーミュージアム 銀座

日時計は夜間に使えないことから、これを補う手段として水時計が考案されたと推測されます。水時計の起源は史実として明確な記録はないようですが、図6は紀元前1400年ごろエジプト製作された現存する最古の水時計として知られています。石膏(せっこう)製の容器で丸形の形状です。容器の底に小さい穴があり、水が一定の速さで漏れる構造です。容器の内側に目盛りがあり、水位の低下で時刻を読んでいたようです。

図6 水時計の例
図6 水時計の例

出所:セイコーミュージアム 銀座

水を動力源とした時計も造られました。時計の機能に加えて、天文観測が可能な「水運儀象台」の復元モデルが、「しもすわ今昔館おいでや 時計工房 儀象堂」に展示されています。およそ900年前の中国北宋時代に造られ、高さは10メートル以上です。https://gishodo.watch/

ろうそくの燃焼も自然現象を活用する時計として活用されました。図7はドイツで使われていたろうそく時計の例です。メモリが刻まれていることが判ります。

図7 ろうそく時計の例
図7 ろうそく時計の例

出典:de:Benutzer:Flyout、https://de.wikipedia.org/wiki/Bild:Kerzenuhr.jpg、CC BY-SA 3.0

燃焼を時計として活用された他の例として、線香や粉香を燃やすものや、照明を兼ねた油を燃やす時計が、ヨーロッパだけでなくアジアなどの各地で使われました。図8は燃焼時計の例です。香が燃焼している位置を上部の窓から観察することで時刻を読み取ります。

図8 燃焼時計の例(江戸時代)
図8 燃焼時計の例(江戸時代)

出所:セイコーミュージアム 銀座

2)中世ヨーロッパ

14世紀の中世になると機械式の時計が登場します。おもりと歯車で構成されています。図9はおもり時計の基本構造です。設置された場所は、教会の大聖堂や広場です。図10はフランス ストラスブールにある、ストラスブール大聖堂内の天文大時計です。天文計算の機能があり、暦や惑星の運行などを表示できます。なお、初代は14世紀に建造され、現在の物は16世紀に改修を受けています。精度は1時間程度のようです。

図9 おもり時計の基本構造
図9 おもり時計の基本構造
図10 ストラスブール大聖堂にある天文大時計
図10 ストラスブール大聖堂にある天文大時計

3)近世(15~17世紀)

携帯が可能となるものや、精度がより向上した時計が考案されました。動力源としては、ゼンマイや振り子が適用されました。ゼンマイ時計の発明者は明確でないようですが、15世紀末にペーター・ヘンライン(ドイツ、生没年不詳)が普及させたとの説が有力です。ゼンマイ時計が発案されるまで、動力源として、おもりが使われていました。ゼンマイの発明により時計は小型化され携帯時計が普及しました。時計の歴史における転換点と言えます。その後、1675年にクリスチャン・ホイヘンス(オランダ)※3が、ヒゲゼンマイを発明しました。精度は大幅に向上し、誤差は数十秒/日程度となりました。

※3

時計学の他、広範囲の分野を研究した科学者。なかでも、波動説である「ホイヘンスの原理」や土星の環の発見者でもある。

  1. 機械式時計の動作基本原理
    振幅の誤差の大きい棒テンプの改善が課題でした。解決策として振り子式の調速機が発明されました。時計の精度は向上しましたが、振り子時計は、ある程度の大きさが必要であり、時計自体が揺れると精度に影響します。そのため、小型化、特に携帯化には適さない構造でした。

a. 振り子時計の基本構造

図11 振り子時計の基本構造
図11 振り子時計の基本構造

b. 携帯機械時計の基本構造

この問題を解決したのが、「ヒゲゼンマイ」の発明です。ロバート・フック(1635-1703 イギリス)の「弾性の法則」をもとに、クリスチャン・ホイヘンス(1629-1695 オランダ)は「ヒゲゼンマイ」を「うずまき状」にすることを発案しました。これは「テンプゼンマイ」と呼ばれる構造で、振り子と同じように等時性のある振動を発生させます。振り子と異なり重力の影響を受けにくいので、等時性と小型化を可能にしました。1675年に「テンプゼンマイ」と「脱進機」とを組み合わせた機構により、懐中時計を実現しました。この構造は、その後の時計の進化に対応していますが、基本構造は大きく変化していません。クリスチャン・ホイヘンスは、現在の携帯機械時計に欠かせない基本技術である「振り子の等速性」、「テンプゼンマイ」を実用化したことから「機械時計の父」と呼ばれます。

図12は機械式時計の基本構造です。香箱(こうばこ)の中に入っているゼンマイをりゅうずで巻き上げると、ゼンマイがほどける時に回転力が発生します。その回転力によって香箱が回転します。香箱の周囲には歯車が刻まれており、二番車の歯とかみ合っています。そして、香箱の回転は二番車・三番車・四番車へと伝わっていきます。そのままでは、ゼンマイの動力で歯車をただ回すだけの機械になってしまいます。時計として正確に時を刻むためには歯車の回る速度をコントロールしなければなりません。そのために調速・脱進機構が必要になってきます。調速装置としてのテンプはテン輪・テン真・ヒゲゼンマイ等から構成されており、ヒゲゼンマイが巻かれたりほどけたりする運動により、テン輪が一定の周期を持って振幅運動をするようになっています。その正確なリズムを輪列機構に伝える部品が脱進機です。脱進機はガンギ車・アンクル等から構成されており、歯車から伝わってきたゼンマイの力をテンプに伝える役目も担っています。テンプは振り子の等時性と同等な機構で、等時性を持ったヒゲゼンマイの伸縮によって、テン輪が振り子と同じように一定の周期で往復運動を行います。

図12 機械式時計の基本構造
図12 機械式時計の基本構造
図13 機械式時計の調速機構
図13 機械式時計の調速機構

4)近代(18世紀~19世紀)

航海時代に入ると、船舶が航海する際、経度は天体観測で図ることができますが、経度を求めるためには正確な時刻が必要です。この課題を解決するために「航海用クロノメータ」の開発が求められました。1759年にジョン・ハリソン(1963-1776 イギリス)が、日差1.8秒のH1クロノメータを完成させました。H3では、バイメタルの温度補償が導入されました。H4では懐中時計型で実用的なマリンクロノメータとなりました。その後も改良を重ね、最終的にはH5と命名された懐中時計を製作しました。

図14 ジョン・ハリソン H5クロノメータ
図14 ジョン・ハリソン H5クロノメータ

出典:Racklever、Harrison‘s Chronometer H5.JPG、Attribution 2.5 Generic

その他の各モデルは以下のサイトをご覧ください。

1884年の国際子午線会議で、グリニッジ天文台を通る子午線を世界中の経度と時刻の基点(本初子午線、ほんしょしごせん)とすることが制定されました。これが、世界標準時(GMT)の基準となりました。

5)現代(20世紀)

世界大戦では軍用の腕時計が普及し、大戦後は一般向けとして普及しました。そして、時計における革新的な技術として、クォーツ時計が登場します。クォーツ時計のコア技術である水晶振動子により、時計の精度と安定性は劇的に向上しました。水晶発振の基本原理である「圧電効果」と「逆圧電効果」は1880年代に発見され、ベル研究所のウォーレン・マリソン(カナダ、1986-1980)が水晶振動子を利用したクォーツ時計を試作しました。この試作品は温度特性を安定させるため、振動子を恒温槽に入れておかなければならなかったです。1932年に、温度特性の課題を解決する方法を発見したのは、東京工業大学(現 東京科学大学)の古賀博士です。水晶の結晶から発振子を取り出すカットを変えると、X軸カット(X軸に直角の面)とY軸カット(Y軸に直角の面)とでは温度特性の係数が逆であることから、X軸カットとY軸カットの間に温度特性の係数がゼロになる面があるとの仮定から、Z軸から35度15分の角度で切り出すと温度係数が最小に抑えられることを見出しました。「R1」カットと呼称されていましたが、その後「ATカット」と命名されたようです。その後、色々なカットが創出されました。なお、一般的に時計用として水晶振動子は、音叉の形状に似ていることから、「音叉型カット(Tuning Fork)」と呼称されています。周波数特性は、後述する32.768 kHzとなっています。

図15 水晶振動子のカット
図15 水晶振動子のカット

1950年代に精工舎(現 セイコーグループ株式会社)が初めて製造した商業用水晶時計は図16です。高さ2メートル、幅1メートル、奥行き0.5メートルの大きさです。

図16 精工舎 商業用水晶時計
図16 精工舎 商業用水晶時計

出所:セイコーミュージアム銀座

水晶発振子

1)水晶発振子の原理

水晶の結晶に圧力を加えると、一方の面に(+)電荷を、もう一方の面に(―)の電荷が発生します。逆の圧力(引っ張る力)を加えると、各面に発生する電荷が逆転します。この現象を圧電効果と呼称します。逆に、水晶に電圧を印可すると、機械的に振動します。この現象を逆圧電効果と呼びます。以上の両特性により、電気信号を機械振動に変換して、対象となる水晶振動子の固有周波数で安定した振動が得られます。水晶発振子が発振する振動状態(姿態)は「屈曲振動」と「厚みすべり振動」などがあります。「屈曲振動」は、ほとんどの時計で使われている「音叉型振動子」の振動状態です。

図17 水晶発振子の振動姿態
図17 水晶発振子の振動姿態
図18 水晶発振子の等価回路
図18 水晶発振子の等価回路

クォーツ時計では、共振周波数が32.768 kHzの水晶振動子が利用されます。32.768 kHzの信号を分周回路、例えば1/2分周するフリップフロップ回路で15回分周すると1 Hzの信号が得られます。この信号により、アナログ式の時計では、秒針、分針、時針を回転させます。

図19 クォーツ時計の基本構造
図19 クォーツ時計の基本構造

2)セラミック発振子と水晶発振子との違い

民生用や車載用製品ではコストを抑制するため、セラミック発振子が採用されています。セラミック発振子と水晶発振子とも基本的な発振メカニズムは、圧電効果を利用します。両者の違いは、使用される素材、周波数精度、コストおよび用途です。セラミック発振子は水晶発振子に比べて低コストですが、水晶発振子に比べて周波数精度が低いことが特徴です。一方、水晶発振子は高精度の発振周波数を生成できますが、コストや耐衝撃性の考慮が必要です。

3)水晶振動子と水晶発振器

水晶振動子は、圧電現象を有する水晶素子を専用の容器に組み込んだものです。水晶振動子に発振回路を組み込んだものが水晶発振器です。水晶発振器の選定は、時計用途も含めて周波数精度や安定度等の要件に応じて決定されます。水晶発振器の代表的な種類はSPXO、TCXO、VCXO、OCXO、プログラマブルXO、スペクトラム拡張機能付XOです。各発振器の特徴は表1の通りです。

表1 水晶発振器の種類と特徴
名称 特徴
SPXO Simple Packaged Crystal Oscillator 水晶の周波数安定度をそのまま引き出した発振器。一般的な精度は±20~±100ppm(温度特性)。多くの用途で使用。
TCXO Temperature Compensated Crystal Oscillator 温度補償回路を設けた発振器。雰囲気の温度変化による影響を受けづらい。SPXOより高精度。一般的な精度は数ppmレベル。無線通信の基準信号やネットワーク等の用途で使用。
VCXO Voltage Controlled Crystal Oscillator 発振回路に電圧制御可変素子を設け、設定電圧によって出力周波数を変化させる電圧制御発振器で。 VCXOとTCXOを複合化した水晶発振器もある。周波数の微調整を電気的に行なえる特徴。一般的なVCXOの可変範囲は50ppm。
OCXO Oven Controlled Crystal Oscillator 恒温槽で発振素子を一定温度に保ち、周波数安定度を得る。精度は ±0.01 ppm レベル。通信基地局や計測器で使用。
プログラマブルXO Programmable Crystal Oscillator PLL回路を持った発振器。プログラムすることにより任意の出力周波数を設定できる。
スペクトラム拡張機能付XO Spread Spectrum Oscillator 特定の周波数領域に周波数を変調することによりスペクトラムのピークを抑制しEMIを低減する

1969年にはSEIKOが世界初のクォーツ腕時計を発売しました。機械式時計の日差数秒から大幅に向上させました。また、大量生産によって、高精度で低価格な時計が世界的に普及しました。その後、時計の時刻を補正する手段として、1990年代に電波時計が設置されました。さらに、GPS時刻による補正も採用されています。

セシウム原子時計の構造

1955年にはセシウム原子時計が開発され、1967年に、国際度量衡総会※4で、秒の単位は「1秒 = セシウム133原子の基底状態遷移の9,192,631,770周期」と定められました。

※4

※1の記事をご覧ください。

原子は、中心にある原子核とその周りを周回する電子で構成されています。セシウム原子はエネルギの異なる状態に遷移する時、特定周波数の電磁波を放出します。セシウム原子の固有振動数は、9,192,631,770Hzであることから、この周波数を数えると1秒が決まります。原子時計の基本構成は、①原子炉、②マイクロ波発振器、③共振器、④検出器、⑤周波数制御器、⑥出力部、です。原子炉で原子を供給します。原子は共振器へ取り込まれます。共振器にマイクロ波を照射することで、原子を励起状態へ遷移させます。検出器で周波数を計測し、計測数がピークになるように周波数制御器でマイクロ波の周波数をフィードバックし共振周波数にロックします。そうすることで、マイクロ波発振器の周波数を出力部からデジタルカウンタで、セシウム原子の固有周波数である、「9,19,631,770」カウントすれば「1秒」が得られ、3000万年に1秒しかずれないほどの精度を実現します。

表2 原子時計の基本構成と機能
基本構成 概要
原子源 セシウムやルビジウムなどの原子を供給。
マイクロ波発振器 原子に照射するマイクロ波を生成。周波数を原子の遷移周波数に調整。
共振器 原子とマイクロ波が相互作用する領域。
検出器 原子の励起状態の変化を検出し共鳴周波数を測定。
周波数制御器 マイクロ波発振器の周波数をフィードバック制御し共振周波数にロック。
出力部 安定化された周波数を外部に出力。デジタルカウンタで計測し「1秒」を生成。
図20 原子時計の基本構成
図20 原子時計の基本構成

世界標準の時刻

地球全体で統一された時刻体系は「協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)」です。かつては世界の標準時はGMT(グリニッジ標準時)とされていました。時間帯(タイムゾーン)はこのUTCを基準に「±〇時間」で表せます。日本は「UTC+9」です。各国の電子時計で生成されたデータを定期的に国際度量衡局が集約して統計処理を行ってUTCを算出しています。世界で約80の機関が電子時計を運用しています。日本では国立研究開発法人情報通信研究機構が運用しています。なお、時刻のゼロ点は、世界協定時(UTC)における1日の始まりで、世界時の基準となる時刻です。「1970年1月1日00:00:00」を初期値としています。一方、地球の自転周期はムラがあり一定ではありません。時間を測定する技術が進歩して原子時計で正確な時間の測定が可能になった結果、地球の自転を基準とした「天文時(UT1)」と、原子時計によって定められた「国際原子時(TAI)」との差が0.9秒以下になるように、補正することが決められました。このズレをなくすために、1日を1秒伸ばす「閏秒(うるう秒)」が実施されています。この「うるう秒」の補正は2035年までに廃止する方向となっています。

「うるう秒」の調整は1972年の特別調整以降、27回あります。なお、1972年までは旧協定世界時となっていたので、1972年に国際原子時(TAI)と協定世界時(UTC)との差が10秒になるように調整されました。図21は国際原子時(TAI)と「うるう秒」を時系列で示しています。表3は「うるう秒」実施時期の一覧です。現時点、協定世界時(UTC)は国際原子(TAI)から37秒の遅れとなっています。

図21 原子時と「うるう秒」
図21 原子時と「うるう秒」

出典:情報通信研究機構(NICT)時空標準研究所

表3 うるう秒実施履歴
月日 うるう秒 協定世界時-国際原子時
  2025年  
第27回 2017年 1月1日 +1秒 -37秒
第26回 2015年 7月1日 +1秒 -36秒
第25回 2012年 7月1日 +1秒 -35秒
第24回 2009年 1月1日 +1秒 -34秒
第23回 2006年 1月1日 +1秒 -33秒
第22回 1999年 1月1日 +1秒 -32秒
第21回 1997年 7月1日 +1秒 -31秒
第20回 1996年 1月1日 +1秒 -30秒
第19回 1994年 7月1日 +1秒 -29秒
第18回 1993年 7月1日 +1秒 -28秒
第17回 1992年 7月1日 +1秒 -27秒
第16回 1991年 1月1日 +1秒 -26秒
第15回 1990年 1月1日 +1秒 -25秒
第14回 1988年 1月1日 +1秒 -24秒
第13回 1985年 7月1日 +1秒 -23秒
第12回 1983年 7月1日 +1秒 -22秒
第11回 1982年 7月1日 +1秒 -21秒
第10回 1981年 7月1日 +1秒 -20秒
第9回 1980年 1月1日 +1秒 -19秒
第8回 1979年 1月1日 +1秒 -18秒
第7回 1978年 1月1日 +1秒 -17秒
第6回 1977年 1月1日 +1秒 -16秒
第5回 1976年 1月1日 +1秒 -15秒
第4回 1975年 1月1日 +1秒 -14秒
第3回 1974年 1月1日 +1秒 -13秒
第2回 1973年 1月1日 +1秒 -12秒
第1回 1972年 7月1日 +1秒 -11秒
  1972年 1月1日 -10秒

出典:情報通信研究機構(NICT)時空標準研究所の公表資料を元に作成

地球の自転速度が長期的にだんだん遅くなっている状況については、国立天文台のサイトをご覧ください。https://www.nao.ac.jp/faq/a0404.html

「うるう秒」は「+1秒」の補正となっているのは、自転速度が遅くなっているからですが、ある調査によると、今年2025年7月10日の自転周期は、現代的な手法で時間を図るようになって以降、最も短い1日となったようです。国際地球回転・基準系事業(IERS)によると、1.38 msec短かったようです。今後も、数日、短くなる日があるようです。自転周期が短くなった理由は明確でないようですが、太古の昔には、化石等の調査から20時間程度だったことも判明しています。短い周期の日が積算すると、「-うるう秒」の処置が必要になる時が来るかもしれません。

次世代の時計技術

次世代の時計として注力されている時計は、「光格子時計」です。セシウム原子時計はマイクロ波をベースとしていますが、光格子時計はレーザ光を使います。光の周波数はマイクロ波に比べて非常に高いので、さらに高精度を実現できます。まだ、研究段階ですが日本を含め世界各国が開発中です。精度を比較すると次の通りで原子時計の精度を大幅に上回ります。次世代の「秒」の定義に向けた候補として期待されています。
セシウム原子時計の精度:3000万年に1秒のずれ
光格子時計の精度:300億年に1秒のずれ

光格子時計による効果は時計の観点では感じることはないでしょうが、色々な分野で新たな世界が見えてくると推察されます。例えば、GNSS(全地球航法衛星システム、例えばGPS)の精度が数メートルから数cm以下へ、アインシュタインが提唱した「重力の少ない方が、時間の進み方が速くなる」を実証が可能となります。2011年に東京大学とNICT(情報通信研究機構)が行った実証実験では、両地点の標高差56mによる「一般相対論的重力シフト」をリアルタイムで検出しました。光格子時計同士であれば、数cmの高度差でも時間差を測れるようです。重力の変化を検出できれば、地球の重力を直接測定することで地殻変動や火山活動の把握なども可能となるでしょう。

「うるう年」

「うるう年」は漢字で「閏年」と記述します。訓読みは「うるうどし」ですが、音読みは「じゅんねん」です。「閏年」は中国から伝来したとされていますが、当時、日本には漢字の「閏」はなく、「うるおう、うるう」と読む「潤」が当てられた説があるようです。「うるう年」でない年は「平年」と呼称されます。平年の年間日数は365日で地球が太陽の周りを1周する公転周期ですが、実際の公転周期は365.24219日なので、毎年0.25日(約6時間)のズレが生じます。このズレが積み重なると、4年位で日付がズレます。これを修正するのが「うるう年」で、4年で1日分を調整します。「ただし、「うるう年」は4年に1回やってくるわけではありません。「うるう年」のルールは次の通りです。

  1. 4で割り切れる年は「うるう年」
  2. ただし、100で割り切れる年は「平年」
  3. ただし、400で割り切れる年は「うるう年」

参考:「うるう年」の2月29日生まれの方が免許を更新する期日は?
「道路交通法 第百一条 2」には「免許証等の更新を受けようとする者の誕生日が二月二十九日である場合における同項の規定の適用については、その者のうるう年以外の年における誕生日は二月二十八日であるものとみなす。」と規定されています。よって、うるう年以外の免許更新期日は2月28日となります。

時の記念日

1920年(大正9年)に毎年6月10日を「時の記念日」として制定されました。「日本書紀」に天智天皇が西暦671年6月10日(旧暦4月25日)に水時計である「漏刻(ろうこく)」を設置し、時を告げたと記述されていることが由来とされています。

参考:日本書紀 巻第廿七に、漏刻に関する記述があります。
「置漏剋於新臺、始打候時動鍾鼓、始用漏剋。此漏剋者、天皇爲皇太子時、始親所製造也、云々」
現在風に訳すと、
「新しい台に漏刻(水時計)を置き、初めて時を知らせるために鐘や鼓を打ち、漏刻を使用した。天皇が皇太子であった時に自ら作ったものである、など」

図22 日本書紀 巻27(国史大系 第1巻 日本書紀)
図22 日本書紀 巻27(国史大系 第1巻 日本書紀)

出典:「経済雑誌社 編『国史大系』第1巻 日本書紀,経済雑誌社,明治30」
国立国会図書館デジタルコレクションを抜粋して作成
https://dl.ndl.go.jp/pid/991091 (参照 2025-08-22)

図23 漏刻の復元モデル
図23 漏刻の復元モデル

出典:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/64/Model_of_Rokoku.jpg、うぃき野郎、CC BY-SA 4.0

図24は日本最古の水時計とされている「漏刻」の遺構が発見された、明日香村(奈良) 飛鳥水落遺跡(あすかみずおちいせき)です。

図24 明日香村(奈良)飛鳥水落遺跡
図24 明日香村(奈良)飛鳥水落遺跡

時計の右回り

時計の指針が右回りの理由は、日時計の影が動く回り方が右回りだったことからとされています。南半球の影の回り方は左回りとなりますが、文明の発展は北半球地域が中心であったことから、そのまま受け入れられたようです。ただし、南半球に所在するボリビアのラパスにある政府宮殿には左回りの時計が設置されています。南半球は「左回りの時計が日時計に由来する自然の姿である」ことの主張でしょうか。

図25 ボリビア政府宮殿の左回り時計
図25 ボリビア政府宮殿の左回り時計

左回りに関連することを紹介します。陸上のトラック競技は左回りです。諸説が絡んでいるようですが、人間の多くは右利きで、右足の蹴りが強くなるので左回りであればコーナを曲がる動作に適していることからのようです。また、俗説のようですが、人間の心臓は左側にあり、右回りにすると遠心力で心臓がますます左側に動くので、生理的な調和から左回りになったとされています。

発振回路

時計の基本要素である「発振回路」の変遷は次の通りです。機械式時計の「テンプ+ヒゲゼンマイ」の登場により、精度が向上しました。その後、水晶発振子が時計の精度を劇的に向上させました。現在では、外部の基準時刻(電波時計、GPS時刻)による補正でさらに向上しました。次世代の発振回路として有望視されているのは、シリコンのMEMSによる発振回路の構成です。耐衝撃性、小型化に寄与できます。

表4 発振回路の要素技術変遷
世代 要素技術 特徴
機械式時計 テンプ+ヒゲゼンマイ ・機械式時計のコア技術
・テンプの往復運動で発振
・外部回路は不要だが、温度、姿勢、摩耗の影響
水晶時計 水晶発振子 ・圧電効果により一定周波数で振動
高精度クォーツ時計 温度補償型水晶 ・温度変化の影響を抑制するカット
・一般の水晶発振子より高い周波数
・PLLで安定化
GPS・電波時計 標準電波やGPS時刻で補正 ・標準電波時計やGPS時刻に適用されている原子時計に同期
次世代 MEMS技術 ・クォーツに比べて耐衝撃性、小型化が可能

最大最小の時計

大小は条件により選定される時計は変わりますが、一例として紹介します。

1)最大の時計

サウジアラビア、メッカに所在する「アブラ―ジュ・アル・ベイト時計塔」は文字盤の直径:約43メートル、分針の長さ:約22メートルです。

図26 アブラ―ジュ・アル・ベイト時計塔
図26 アブラ―ジュ・アル・ベイト時計塔

2)最小の時計

図27は米国 国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)が公開したチップスケール原子時計のコア部分です。原子時計を構成する部品が含まれています。金ワイヤで外部の時計の電子回路と接続します。

図27 最小寸法レベルの原子時計
図27 最小寸法レベルの原子時計

出典:米国 国立標準技術研究所 チップスケール原子時計

関連計測器の紹介

時計に関連した計測器の一例を紹介します。

図28 時計に関連した計測器の例
図28 時計に関連した計測器の例

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おわりに

時計は文明の発展とともに、自然現象を活用していた日時計に始まり、水時計 → 機械式時計 → クォーツ時計 → 原子時計となり、劇的に進化してきました。今後も、時計の基本機能は変わらずとも、時を図る単一の機能に加えて、より高度化し利便性の高い道具として進化していくでしょう。

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