市場動向詳細

接着 ~ くっつける技術 ~

「接着」から、どのような技術を連想するでしょうか。恐らく、「接着剤」を思いつくでしょう。身近にあるほとんどの物で接着剤が使用されています。雑貨などの日用品から工業製品の代表格である自動車、さらに航空・衛星まで、さまざまな製品において、「接着剤」は欠かせない材料です。本稿では、接着および接着剤の技術全般について概説します。最初に接着剤に関する歴史を世代ごとに紹介します。その後に、接着剤の生産量推移、接着の定義、接着のメリット・デメリットを概説します。また、接着のメカニズム、接着剤の種類と分類、選定方法、接着剤の特性や比較、トラブル事例をまとめました。さらに、接着剤の課題、関係法令、接着剤に関連した事項(接触角、瞬間接着剤、4VOCとFフォースター、SDS、IAQ)を紹介します。最後に接着剤に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

接着剤の歴史

接着の歴史について、世代別に紹介します。大きな流れは自然由来から合成系への変遷です。

1. 古代(~紀元前)

紀元前4,000年ごろの遺跡では、天然アスファルト※1が使用された日干しレンガが出土しています。アスファルトは「最古の接着剤」のひとつとされています。古代エジプトでは、ミイラの包帯の固定に使われたようです。図1は、紀元前2600年ごろの古代都市の遺跡から出土した工芸品です。貝がらの貼り付けにアスファルトが使われています。

※1

地中の原油が地表にしみ出し、揮発成分が蒸発して残ったもの。日本でも見られる。

図1 ウルの標準(Standard of Ur)
図1 ウルの標準(Standard of Ur)

Denis Bourez、 Denis Bourez - British Museum, London (8747049029) (2).jpg CC 表示 2.0

古代エジプト、中国、ヨーロッパなど、狩猟(しゅりょう)が盛んな地域では、動物の膠(にかわ)が装飾品やパピルスの接着に利用されています。日本では漆(うるし)が使われました。この時代の特徴は、接着剤の原料が動物性や植物性の天然素材です。

2. 中世(5~15世紀)

工芸品や家具製造において、にかわ・樹脂・漆などの接着剤が利用されました。東アジアでは、漆(うるし)が接着や塗装材料として発展しました。いまだ、自然素材ですが、加工技術が進化し接着材料の品質向上が進みました。

3. 近世~産業革命(16~19世紀)

木工技術や製本技術の発展とともに、接着剤の需要が増加しました。フランスやイギリスでは、膠の製造法が体系化されました。原材料は自然由来(動物・魚・植物など)に限定されています。

4. 近代

20世紀になると、化学による合成接着剤が登場しました。主な技術開発は次の通りです。
1909年:ベークランドがフェノール樹脂(ベークライト)を開発。これが合成樹脂の接着剤発展につながりました。
1920〜30年代:尿素樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニルなどの接着剤が登場しました。第二次世界大戦中には航空機や兵器用途でエポキシ接着剤、合成ゴム系接着剤が実用化されました。接着剤の工業化が進んだ時期です。

5. 戦後の高度成長時代(1950年代~)

接着剤産業が大きく進展しました。家電、自動車、建築、包装など、広範囲の分野で需要が拡大しました。この時期に瞬間接着剤(シアノアクリレート)が開発され、普及しました。ポリウレタン樹脂、アクリル系接着剤などの高性能接着剤へ進化しました。

6. 現代(2000年代~)

接着剤は高機能化に加えて環境対応への両立が求められています。環境負荷を減らすために、水性接着剤、ホットメルト、溶剤フリーが主流となりつつあります。また、バイオ接着剤(再生可能原料由来)や医療用接着剤(手術用・止血用)も登場しました。自動車、航空機、電子機器では、従来の接合技術を進化させた構造用接着の採用が進んでいます。

接着剤の生産量

図2は日本における接着剤生産量の推移です。近年の生産量は減少傾向です。要因としては、物の生産拠点が海外へ移転、製品の軽量化や部品点数削減による接着剤の使用量減少、梱包における接着剤の不使用や少量化が進む、などです。

図2 生産量推移
図2 生産量推移

出典:日本接着剤工業会が公開している資料をもとに作成

図3は接着剤の2024年における用途分野別の出荷量割合です。割合が高い順位は合板、建築(現場施工)、包装、自動車向けとなっています。

図3 用途分野別割合(2024年)
図3 用途分野別割合(2024年)

出典:日本接着剤工業会が公開している資料をもとに作成

接着の定義

「接着」とは、日本産業規格JIS K6800によると、「接着剤を媒介とし、化学的若しくは物理的な力又はその両者によって2つの面が結合した状態」と定義されています。つまり、「接着剤」※2が重要な役割を担っていることです。はんだ付け、ロー付け、溶接、溶着などはJIS K6800上では接着に分類されません。なお、「接着」と類似の「接合」とは「2つ以上の物体を何がしかの手段で一体化させること」の総称ですので、接着を含めて、溶接、溶着、締結、圧着などの方法で行われます※3。図4は「接合」と「接着」のイメージです。力学的な特性を面と面との視点で比較すると、「接合」は応力が集中し、「接着」は応力が分散します。用途や要件によって使い分けられます。

※2

語源及びいつ頃から呼称されるようなったかの明確な記録はないようですが、明治から大正にかけて、技術書や雑誌で見られ始め、昭和期になると一般化し定着したようです。

※3

関連する記事
締結:2024年2月公開「部品をとめる ~ ねじ、ボルト ~」
溶接:2023年2月公開「溶接 ~ 物をつなぐ技術 ~」

図4 接合と接着
図4 接合と接着

接着のメリット、デメリット

接着は、他の溶接やボルトナット締めどの接合に比べて多くのメリットがあります。接合の性能面や作業面の観点でまとめると表1です。

表1 接合のメリット
観点 メリット 補足説明
性能面 接合できる材料が広範囲 金属と樹脂、金属とガラスなど、異なる材料同士を接合可能
応力の分散が可能 局所的な応力集中が起きにくい
軽量化が可能 溶接やねじ締結に比べて部材が軽くできる場合が多い
シール性がある 接着剤がすき間を埋めるので密閉性向上
微細部の接合が可能 極小部品や細かい接合部にも適用できる
外観が良好 表面にねじや溶接痕が出ず、美観を保ちやすい
作業面 低温作業が可能 多くの接着剤は常温〜中温で硬化し、高温設備が不要。熱影響の少ない接合が可能。
設備が簡易 溶接機やボルト締結装置などに比べて、大がかりな道具や装置が不要
熟練技能を要さない 塗布→圧着→硬化など、複雑な技能を要さない場合が多い
火気を使わない工法 火花や高温を伴わず、火災や火傷のリスク低
主に無音の作業 作業中に騒音が発生しない
自動化・省人化が可能 ディスペンサーやロボットで塗布・接合工程の自動化が可能
狭所や複雑形状にも対応しやすい 工具が入らない場所でも塗布でき、形状に柔軟に追従。
短時間硬化が可能(接着剤による) UV硬化型や瞬間接着剤では短時間で固化するので作業効率高
後処理が少ない バリ取りや再加工が不要な場合が多い

一方、接着のデメリットをまとめると、表2となります。接着のメリットと併せて、接合の工法として採用する場合は事前の検討が必要です。

表2 接合のデメリット
観点 デメリット 補足説明
接合メカニズム面 接合状態を可視化しにくい 機械的結合・化学結合・拡散など複数の要素が絡むため、強度の予測が難しい
表面処理の影響を受けやすい 表面状態で接着性能が異なる
時間経過で劣化する 接着層が使用される環境要因の影響を受けやすい
性能面 耐熱性・耐水性に限界がある 高温、高湿などの環境下で性能低下を起こす場合がある
一度接着すると外せない 原則、不可逆的な接合であり、再分解・再利用が困難
厚みや形状により強度がばらつく 接着層の厚みや塗布不均一により、性能が安定しないことがある
作業面 実用強度に至るまでに時間を要す 加熱や養生が必要な場合がある
作業環境に制約がある 温度・湿度・粉塵などの環境条件に影響を受けやすい
面倒な人的作業がある 混合比、塗布量、圧着などの手作業の影響を受けやすい
設計面 接着面積を確保する必要がある 面での接合になるため、構造設計上の制約となる
強度設計が難しい 機械的結合・化学結合など複数の要素が絡むため、強度の予測が難しい
分解・再組立が困難 製品の修理やリサイクルとする設計には不向きなことがある
品質管理面 外観から接着の良否を判別しにくい 接着内部の不良(未硬化・はく離)を外観で見つけにくい
バラツキが出やすい 使用材料、作業条件、保管状態により品質が変動しやすい

接着のメカニズム

被接着剤(くっつけるもの)に接着剤を塗布し貼り合わせた後に接着剤が固化(硬化)して、非接着材同士が固定されます。この接着するメカニズムは単一でなく複合的ですが、代表的なメカニズムとして、① 機械的接合、② 物理的相互作用、③ 化学的相互作用が挙げられます。

① 機械的接合

「アンカ効果」や「投錨効果(とうびょう効果)」とも呼ばれます。接着剤が、被接着材表面にある隙間(すきま)に入り込んで固まり、あたかも、錨(いかり)を降ろしたように接着することです。

図5 機械的接合
図5 機械的接合

② 物理的相互作用

接着剤の分子と被接着材の分子とが引き合って接着するメカニズムです。「ファンデルワールス力」と呼ばれます。分子間の距離が近いほど強くなります。離れると急激に弱くなります。

図6 物理的相互作用
図6 物理的相互作用

参考情報:ヤモリが壁を登ることができるのは、このファンデルワース力のおかげです。ヤモリの足には数百万本の微細な毛があり、壁の分子に近づくことでファンデルワールス力が発生し、自重を支えています。ちなみにカエルは足にある吸盤の保持力で登っています。

③ 化学的相互作用

接着剤の分子と被接着材の分子とが化学反応によって結合します。

図7 化学的相互作用
図7 化学的相互作用

接着剤の種類

接着剤には多くの種類があり、それぞれが固有の接着特性を有しており、要求仕様などに応じて選択されています。接着剤の分類にはいろいろな観点でのまとめ方がありますが、主成分の観点で分類すると、「有機系」と「無機系」とに大別され、さらに「有機系」は「天然系」と「合成系」とに分類されます。

表3 接着剤の大分類
接着剤 有機系 天然系 でんぷん系
タンパク質系
樹脂系
天然ゴム系
アスファルト
合成系 樹脂系(熱可塑性系、熱硬化性系)
エラストマ(弾性)系
瞬間接着剤
混合系
無機系 セメント系
ケイ酸ソーダ(水ガラス)、セラミックス

合成系をさらに細分化すると、樹脂系接着剤は熱可塑性と熱硬化性に分類されます。

表4 合成系接着剤の細分類
接着剤 合成系 熱可塑性樹脂系 酢酸ビニル系
ポリビニルアセタール系
塩化ビニル系
ポリアミド系
アクリル系
ポリエチレン系(PE、EVA)
セルロース計
熱硬化性樹脂系 ユリア系
メラミン系
フェノール系
エポキシ系
ポリウレタン系
ポリエステル系
エラストマ系 クロロプレンゴム系
ニトリルゴム系
SBR系
ブチルゴム系
シリコーンゴム系
ウレタンゴム系
混合系 エポキシ・ナイロン系

その他の分類法として、① 硬化方法による分類、② 用途別の分類もあります。

① 硬化方法による分類

硬化区分は「化学的硬化」と「物理的硬化」とに分類できます。

表5 硬化方法による分類
硬化区分 硬化型 一例 特性
化学的硬化 二液混合型 エポキシ系、ポリウレタン系 主剤と硬化剤を混合して反応
空気中水分反応型 シアノアクリレート(瞬間接着剤) 空気中の水分と反応して硬化
紫外線硬化型(UV硬化型) UVアクリレート系 紫外線照射により硬化
加熱反応型(熱硬化型) フェノール系 加熱により硬化
物理的硬化 溶剤揮発型 ゴム系、塩化ビニル系 溶剤が揮発して粘着成分が残り接着する
水分蒸発型 でんぷん糊、PVA(ポリビニルアルコール) 水が蒸発して硬化
熱可塑型 ホットメルト接着剤 加熱により溶融→冷却で硬化(再加熱で再融解)
圧着型 両面テープ 圧力により被着体に密着、粘着力を発揮

② 用途別の分類

用途別に分類すると、高強度となる「構造用」から「文房用」まで分類できます。

表6 用途別分類
用途分類 主な対象 主な接着剤
構造用(高強度) 金属、CFRP、硬質プラスチックなどの接合 エポキシ系(2液)、アクリル系構造用、ポリウレタン系、変性シリコーン系
工業用(中強度〜高強度) 電子部品、機械部品、建材の固定など エポキシ系、ホットメルト、UV硬化型
日用品用(中強度以下) 木材、プラスチック、布、紙など日用品の工作 シアノアクリレート(瞬間接着剤)、PVA系、ホットメルト
建築、土木用 コンクリート、金属、ガラス、タイルなどの接合 エポキシ系、ウレタン系、変性シリコーン系
電子、電気部品 半導体、プリント基板など エポキシ系、シリコーン系、UV硬化型
自動車 ボディ、内装、ガラスなどの接着 エポキシ系、ウレタン系、ホットメルト、ブチル系、アクリル系
医療 医療機器、組織の接着、固定 シアノアクリレート系、アクリル系、UV硬化型
包装 紙、段ボールなどの包装材の接着 水性系(でんぷん糊、PVA)、ホットメルト、感圧型粘着剤
はがせる用途 両面テープ、ラベル 感圧型粘着剤(アクリル系、ゴム系)
文具用 紙、木材などに使用 PVA系、でんぷん糊、EVA系

接着剤の選定

接着剤には多くの種類があります。その中から最適な接着剤を選定することは難しいことです。しかしながら、要件にあった適切な接着剤を選定しないと、トラブルを引き起こす可能性があります。接着剤の選定に際しては、事前の検討が必要です。接着剤を選定する基本的な項目は次の通りです。

  1. 接着剤を使う目的
  2. 接着する被接着材
  3. 被接着材の構造
  4. 接着剤を塗布する工法
  5. 接着後に使用される場所、環境
  6. 法規制やコストの要件

以上の要件を検討した上でも、接着剤メーカ各社の製品から適切な接着剤を選定することは難題となります。そこで、被接着材の組み合わせに対応した接着剤の選定を判りやすくまとめた「接着早見表」が作成されています。表7は「接着剤早見表」の一例です。具体例は接着剤メーカや各所の公開資料をご覧ください。

表7 接着剤早見表
材料材料 金属 プラスチック ゴム 木材 ガラス セラミック 紙・布
金属 エポキシ系、ウレタン系 エポキシ系、瞬間接着剤 ウレタン系、接着テープ エポキシ系、ウレタン系 エポキシ系、UV硬化型 エポキシ系 ウレタン系、ホットメルト
プラスチック エポキシ系、瞬間接着剤 プラスチック用瞬間接着剤、アクリル系、溶剤型接着剤 ゴム用接着剤、瞬間接着剤 木工用ウレタン系、ホットメルト 瞬間接着剤 瞬間接着剤 アクリル系、ホットメルト
ゴム ウレタン系、弾性接着剤 ゴム用接着剤、瞬間接着剤 ゴム用接着剤、接着テープ ウレタン系 瞬間接着剤、UV硬化型 難接着 ゴム用接着剤
木材 エポキシ系、木工用接着剤 ウレタン系、ホットメルト ウレタン系、弾性接着剤 木工用接着剤 エポキシ系 エポキシ系 木工用接着剤
ガラス エポキシ系、UV硬化型 瞬間接着剤、UV硬化型 瞬間接着剤 エポキシ系 UV硬化型 UV硬化型、シリコーン系 難接着
セラミック エポキシ系 瞬間接着剤、ウレタン系 難接着 エポキシ系 UV硬化型、エポキシ系 エポキシ系 難接着
紙・布 ホットメルト、ウレタン系 アクリル系、ホットメルト ゴム用接着剤、ホットメルト 木工用接着剤 難接着 難接着 紙工用のり、アクリル系

機能性接着剤

接着剤の基本機能は「物をくっつける」ですが、接着の機能に加えて、新たな機能を付加した接着剤は「機能性接着剤」として呼称されています。機能の特性の視点で体系化すると、図8となります。

図8 機能性接着剤の分類
  機能特性 接着剤の例
機能性接着剤 電気的 導電性接着剤
絶縁性接着剤
力学的 構造用接着剤
弾性接着剤
熱的 耐熱性接着剤
耐低温性接着剤
難燃性接着剤
界面的 油面用接着剤
湿潤面用接着剤
放射線的 紫外線硬化型接着剤
電子線硬化型接着剤
光学的 透明性接着剤
生体的 歯科用、医療用

接着剤の耐熱特性

接着剤は高分子材料を主な成分としているため、耐熱性が課題となります。一般的に使用されるエポキシ系接着剤の耐熱性は50℃程度、無機系接着剤のケイ酸系は高温(800℃)の耐熱性を有しています。表9は主要な接着剤と耐熱特性です。

表9 主要な接着剤と耐熱性
温度範囲 接着剤の主成分 主な用途
400℃ ~ 1000℃超 無機系(セラミック接着剤,水ガラス系) 属やセラミック部材の接着、炉内や断熱材用途
250℃ ~ 400℃ ポリイミド系
耐熱グレードエポキシ系
耐熱シリコーン
航空宇宙、電子機器、産業用高温接着
150℃ ~ 250℃ エポキシ樹脂系
シリコーン系
ポリアミド系
フェノール樹脂系
電子部品、モーター接着、耐熱部材接着
80℃ ~ 150℃ アクリル樹脂系
ウレタン系
エポキシ系
自動車内装、建材、電気部品など広範囲
~ 80℃ 酢酸ビニル樹脂系(PVA)
天然ゴム系
シアノアクリレート系(瞬間接着剤)
木工、文具、軽作業

主要な接着剤の特性比較

主要な接着剤である、シアノアクリレート系(瞬間接着剤)、エポキシ系接着剤、ポリウレタン接着剤、アクリル系接着剤について、特性を比較すると表10となります。各接着剤の基本的な特徴は、シアノアクリレート系は「接着の速さ」と「強さ」が長所ですが、柔軟性や耐環境性は劣ります。エポキシ系は耐熱性、耐水性に優れていますが、硬化時間が長いです。ポリウレタン系は柔軟性があり衝撃吸収性があります。アクリル系は多くの用途に適しています。

表10 主要な接着剤の特性比較
性能項目 シアノアクリレート系 エポキシ系 ポリウレタン系 アクリル系
硬化速度 非常に速い(数秒〜数十秒) 遅い〜中程度(数分〜数時間) 中程度(数分〜数時間) 中程度(数分〜数時間)
接着強度 高い 非常に高い 高い 高い
耐熱性 中〜低 高い 高い 中〜高
耐水性 低〜中 高い 高い 中〜高
弾性(柔軟性) 低い 低〜中 高い 中〜高
多用途性(素材対応) 良いだがプラスチック系に弱い 幅広い 幅広い 幅広い
施工性 簡単・一液型 混合・硬化時間要 混合・硬化時間要 混合・硬化時間要
保存安定性 良好 良好 中〜良好 良好

接着剤のトラブル

接着剤のトラブルは単一の要因でなく、諸条件が複雑に関係していることが多いため原因の特定が難しいとされています。予防対応としては、適切な接着剤の設定、被接着材の前処理、正しい施行条件(温度、湿度、圧力)、実環境を想定した評価試験の実施等が重要です。表11はトラブルの一例です。

表11 接着剤でのトラブル事例
トラブル事例 発生原因 補足説明
接着強度不足(はがれ) 接着剤の種類が被接着材に適さない 樹脂や金属など材料表面の洗浄不足が主因
表面処理不足(油・ホコリ)
硬化不足(温度・湿度不良)
はがれやすい・すぐに取れる 初期接着性を過信 繰り返し荷重や振動に耐えられないケースも
柔軟性の不足
硬化しない 混合比不良(2液型) エポキシ・ウレタン系などで発生
硬化条件(温度・湿度)不適
使用期限切れ
接着剤が膨張・変色 紫外線や熱、水分による劣化 屋外使用や高温環境でアクリル・ウレタンに多い
接着剤がひび割れ・破断 環境変化による応力(熱膨張差など) 硬くて強い接着剤ほど熱変化に弱いことも
硬化後の脆さ
被着材が溶けた・変形 溶剤型接着剤の影響 ポリスチレンなど一部樹脂は要注意
脱気・泡入りによる接着不良 混合時の気泡混入、塗布不良 見た目ではわかりにくく、強度低下要因
耐水性がない 水分に弱い接着剤の使用 木工用ボンド(酢酸ビニル系)などで発生
金属が腐食 酸性の硬化副生成物が原因 シアノアクリレート系や酸性硬化型で注意
接着剤が漏れる・はみ出す 過剰塗布・設計不備 はみ出しが外観不良や絶縁不良を引き起こすことも

接着剤の課題

接着剤には何らかの有機溶剤が使用されています。直接的な取り扱い注意事項としては火気や健康への課題があります。特に溶液形接着剤には有機溶剤が多く含まれます。水性形接着剤には有機溶剤が含まれないので安全との見方がありますが、アルコールなどが添加剤と言う名称で含まれているので、扱いに際しては注意が必要です。また、無溶剤形接着剤と呼称されるエポキシ系接着剤、ホットメルト接着剤などでも、少量の有機溶剤が含まれている物があります。よって、健康問題への対応が必要です。加えて、接着剤が使用されている製品や接着剤そのものを廃棄する際に、環境汚染の要因とならない配慮が求められます。また、多くの合成接着剤は石油由来の原料が使用されているので資源問題への対応がなされています。以上の課題をまとめると、接着剤においても、製造 → 使用 → 廃棄までのライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)が重視されます。

接着剤に関連する法令

接着剤に関連する法令は、成分そのものを対象とするものだけでなく、建築や環境、廃棄など、多くの法令が公布されています(表12)。また、国内法令に加えて、輸出する製品については欧米等の法令を準することが必要です(表13)。国連が策定したGHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は国内法令やJISにおいても準用されています。

表12 接着剤に関連する国内法令
分野 法令名 概要 補足説明
成分・化学物質関連法令 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 有害な化学物質の製造・使用・輸入を規制 接着剤に含まれる化学物質(ホルムアルデヒド、可塑剤など)の評価対象
労働安全衛生法 労働者の健康保護 SDS(安全データシート)提供義務、有機溶剤中毒予防規則
毒物及び劇物取締法 毒物・劇物の販売・管理を規制 一部の接着剤原料が劇物指定されていることがある
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法) 特定化学物質の排出量を届け出 有機溶剤など含有時に対象になる場合あり
製品の表示・流通関連法令 家庭用品品質表示法 一般消費者向け製品の成分表示 ホビー用・家庭用接着剤が対象
消防法 可燃性液体・危険物の保管・表示 有機溶剤系接着剤は危険物第4類に該当
毒物劇物表示・取扱規則 劇物の表示義務 ラベルへの赤枠・指定文言など
建築・工業用途に関わる法令 建築基準法 居住空間の安全性・空気環境の管理 ホルムアルデヒド放散等級(F☆☆☆☆など)に影響
建設業法・公共工事標準仕様書 工事での材料使用基準 接着剤の仕様・試験方法の指定あり(JISなどに基づく)
環境・廃棄関連法令 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 廃接着剤の処理・産業廃棄物の扱い 廃接着剤の分類・委託処理など
大気汚染防止法 揮発性有機化合物(VOC)の排出規制 有機溶剤含有接着剤の使用規制あり(工場など)
表13 欧米の関係法令
名称 策定機関 概要
GHS Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 国連 化学品の危険性の分類、表示、SDS(安全データシート)を世界で統一
REACH規則 Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals 化学物質規制 EU 化学物質の登録・評価・認可・制限
CLP規則 Classification, Labelling and Packaging 化学物質分類表示 EU GHSに基づき、化学物質の危険有害性を分類し、ラベル、SDS(安全データシート)に反映
RoHS指令 Restriction of Hazardous Substances 廃棄・リサイクル規制 EU 電子、電気製品に含まれる有害物質の使用制限
Clean Air Act Clean Air Act(大気浄化法) 大気浄化法 米国 揮発性有機化合物(VOC)規制
OSHA規則 Occupational Safety and Health Administration 労働安全衛生 米国 職場での化学物質の安全な使用、表示、教育に関する規定

関連事項

1) 接着角

フッ素コートされたフライパンに水滴を落としても、フライパンの面に水が馴染まないことは経験していると思います。この現象はフッ素コート面の表面張力※4が小さいからです。接着の観点で言えば、接着剤が馴染まない、つまり接着性が低いことになります。この特質を表す指標を「接触角」と呼称します。液滴と固体表面とで形成される角度です。接触角が小さいほど液体が濡れやすく、大きいほど濡れにくくなります。図8は接触角と馴染みやすさの関係イメージです。よって、接着剤と被接着材との組み合わせによって接着の特性が変わります。なお、本稿では解説しませんが、接着性を向上させるために、「プライマ」と呼ばれる下地処理剤を施した後に、接着剤を塗布します

※4

液体や固体が表面をできるだけ小さくしようとする特性。

図8 接触角と接着特性
図8 接触角と接着特性

2) 瞬間接着剤

接着剤のなかでも、速乾性の特徴を売りにした瞬間接着剤について技術解説します。主成分はシアノアクリレートです。1950年代にイーストマン・コダック社(米国)が発明し商品化したのが始まりです。基本的な特徴は水分と反応して瞬時に硬化する性質です。欧米では、登録商標である「Super Glue」が一般名称として定着※5しているようです。

※5

The Super Glue Corporation(米国)が「The Original Super Glue®」で商標登録。商標が広く使われた結果、実質的に一般名称として定着化した現象は「genericide」と呼ばれている。身近な例では、「ホッチキス(E.H. Hotchkiss社)」、「セロテープ(ニチバン社)」、「バンドエイド(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)」など、多くの例がある。

3) 4VOCとF☆☆☆☆(フォースター)

「4VOC」とは、厚生労働省が公表した「室内空気中化学物質の濃度指針値」で対象となっているトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンを指します。規格や規定ではなく自主的な、環境に配慮すべき指針値です。なお、日本接着剤工業会が、「室内空気中化学物質の濃度指針値」に基づく基準を満たした接着剤について、「4VOC基準適合」の証明書発行と表示許諾を行っています。「F☆☆☆☆(フォースター)」はシックハウス症候群の主因とされている「ホルムアルデヒド」の放散量に関する等級表示です。JIS A 5905で規定されています。また、建築基準法で使用部材の要件として定められています。等級が「F☆☆☆☆」であれば、使用制限はなく、あらゆる部材に使用できます。「F☆☆☆」であれば使用する面積に制限があります。「F☆☆」以下の部材は、原則使用できません。ただし、「F☆☆☆☆」の部材でも、4VOCが含有する可能性があるため、接着剤及び使用されている部材を使用する際は、両方の基準を満たしている製品の使用が安心と言えるでしょう。

4) モータの永久磁石接着

電動車用モータの主流である永久磁石同期モータ(SPM:Surface Permanent Magnet Motor)※6では、磁石をロータの外側に張り付けるので、高回転時の遠心力によって磁石がはがれるリスクがあります。特に強力な磁力が特徴である「ネオジウム磁石」は線膨張係数がプラスとマイナスの特性を示すので、接着剤の選定には留意が求められます。主に使用される接着剤は、2液混合型エポキシ接着剤です。

5) SDS(Safety Data Sheet)

安全データシートの略です。2012年に国際的に名称が統一されましたが、以前はMSDS(Material Safety Data Sheet)と呼称されていました。化学物質やそれを含む製品を安全に取り扱うための情報を記載した文書です。各メーカで用意されており、主な記載内容16項目で、JIS Z 7253に規定されています。記載項目は、化学品及び会社情報(化学品の名称、化学物質名、製品名、会社情報など)、危険有害性の要約、組成及び成分情報、応急措置、火災時の措置、漏出時の措置、取扱い及び保管上の注意、ばく露防止及び保護措置、物理的及び化学的性質、安定性及び反応性、有害性情報、環境影響情報、廃棄上の注意、輸送上の注意、適用法令、その他の情報、です。

6) 接着剤の塗布方法

接着剤を塗る際にも留意点があります。図9は接着材を面接合する際の塗り方です。圧着後に空気が閉じ込められないような塗り方が推奨されます。

図9 接着剤の塗り方
図9 接着剤の塗り方

7) IAQ問題

IAQ(Indoor Air Quality)問題とは、直訳すると「室内空気質問題」となります。これは主に専門分野で使われる用語ですが、一般的には住宅で問題となっている「シックハウス症候群(Sick House Syndrome)」として知られています。これ以外にもオフィスビルや商業施設で課題となる「シックビルディング症候群(Sick Building Syndrome)」があります。症状や対象、発症者に違いはありますが、頭痛、目や喉の痛み、アレルギ症状、集中力低下、倦怠感などです。原因についても両者で異なりますが、共通している要因の一つとして建築材、塗料や接着剤などから放出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)が挙げられます。シックハウス症候群に関する知識や対応策等については、厚生労働科学研究の成果物として公開された資料をご覧ください。
「科学的根拠に基づく シックハウス症候群に関する 相談マニュアル(改訂新版)」

関連計測器の紹介

接着剤に関連した計測器の一例を紹介します。

図10 接着剤に関連した計測器の例
図10 接着剤に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

接着剤の技術進化が社会生活を大きく向上させてきました。今後も「くっつける技術」の進化が個々人の利便性を高めるだけでなく、社会全体の発展に貢献するでしょう。

自動車関連の他の記事は こちらから