市場動向詳細

通信技術 ~ 現代社会の基盤 ~

現代社会において、「つながる」ことは、仕事、医療、教育、災害対応など、あらゆる場面で不可欠なことです。その中で、基盤となっている通信技術が現在社会を支えています。通信技術を電気的な手段で分類すると、有線通信と無線通信になり、両者の違いを比較すると表1です。通信技術として求められる条件に合わせて採用されます。本稿では無線通信を主として通信技術の全般について概説します。最初に通信に関する歴史について、世代ごとに紹介します。その後に、通信技術の定義と体系、通信技術の要素技術(媒体、変調、多重化、伝送技術など)を概説します。さらに、通信技術の中で、携帯電話に関することやNFCなどの近距離無線通信技術などを述べます。あわせて、通信に関連する技術についても概説します。携帯電話の位置を把握する仕組みや電波の伝わり方を取り上げて、無線通信に関する基本的な技術を紹介します。最後に通信技術に関連した計測器を紹介します。

表1 有線通信と無線通信との比較
観点 有線通信 無線通信
コスト(設備)
通信品質 安定 変動
移動性
セキュリティ 比較的強い 外的干渉に弱い

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

通信技術の歴史

通信技術の歴史について、伝達手段を観点に概説します。

1) 古代から中世

視覚や聴覚による伝達が行われました。例えば、「のろし」や「火、煙」です。中国やローマで行われました。日本でも、戦国時代に行われていたようです。その他、「太鼓や笛、鐘」など聴覚による方法や手旗信号の原型や鏡を使って太陽光を反射させる方法、伝令や飛脚による言葉や手紙を運ぶ方法も使われました。

2) 18世紀から19世紀

この時代には、通信と定義できる方策が導入されました。図1は現存する腕木通信装置です。大型の手旗信号とも言える方法で数メートルの棒を組み合わせた構造となっており、ロープで操作しました。この腕木を望遠鏡で読み取ることで情報を伝達しました。図1では、数字の「10」を表示しています。19世紀のフランスでは、腕木通信網は4,000km以上も整備されていたようです。

図1 腕木通信装置
図1 腕木通信装置

日本においては、腕木通信装置は普及しなかったですが、江戸時代には、大型の旗を振る「旗振り通信」が使われていたようです。図2は一例で、屋根の上に旗を振る場所を設けて大型の旗を振っています。また、飛脚による伝令も街道を中心に普及していました。

図2 江戸時代の旗振り通信
図2 江戸時代の旗振り通信

出典:望月小太郎『Japan to-day』(1910年)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Communications_by_flags.jpg パブリックドメイン

通信技術に関する19世紀の最大の発明は、モールス信号による電信でしょう。文字や記号を「点」と「線」との組み合わせで表して電気信号として通信する方法です。リアルタイムでかつ長距離の情報伝達が可能になりました。

図3 サミュエルモースの電信機
図3 サミュエルモースの電信機

出典:https://commons.wikimedia.org Morse telegraph.jpg パブリックドメイン{{PD-US}}

3) 19世紀後半から20世紀前半

音声と無線が通信の主役となりました。1876年には、アレクサンダー・グラハム・ベル(米国)が電話を発明しました。現在の電話通信にいたります。図4はベルの電話機特許を抜粋した基本原理図です。左側のダイヤフラムAに向かって話すと、ダイヤフラムが振動し、電磁コイルの電磁誘導によって振動を電気信号へ変換されます。導線eに電流が流れて受話側の電磁石によりダイヤフラムLが振動し音声を再生します。

図4 ベルの電話機の原理
図4 ベルの電話機の原理

出典:U.S. Patent No. 174,465, Alexander Graham Bell, 1876. パブリックドメイン

その後、1895年に、マルコーニ(米国)のよって、モールス信号を電波で送る無線電信が発明されました。当初、船舶や軍事向けで利用されました。その後、音声や音楽を不特定多数に送る手段としてラジオが普及しました。1901年にマルコーニは大西洋間の通信に成功し、無線通信技術の発展に貢献しました。蛇足ですが、1912年にタイタニック号が氷山に衝突し沈没した際、搭載されていたマルコーニの無線機によって避難信号が発信され、多くの乗客と乗務員の救助に役立ったようです。図5はマルコーニの無線電信機の基本原理です。オペレータが手動で電鍵を操作しモールス信号(トン・ツー)を打ち、誘導コイルおよび断続機により高電圧を生成し、放電電極に火花を飛ばします。火花放電により送信アンテナから電波が放射されます。受信機側では、アンテナから受信した信号をコヒーラと呼ばれる検波器で検出し電流を流します。その信号を印字機等で再生します。ただし、コヒーラは一度電流が流れると初期の状態に戻らないため、電波を受信するたびに、ハンマの構造をしたデ・コヒーラでコヒーラをたたき物理的に初期化し、次の受信に備えます。

図5 マルコーニの電波送信の仕組み
図5 マルコーニの電波送信の仕組み

この時代に発展した無線の基礎技術を築いた科学者はマックスウェル(独)、ヘルツ(独)、マルコーニ(米)と言えるでしょう。電波の発見はマックスウェル、実証したのはヘルツ、無線通信技術を方案したのはマルコーニです。

1864年:マックスウェル(独)が電気や磁気の力は波のように伝わることを『電磁理論』で数学的に証明し、電磁波(電波)の存在を予言。
1888年:ハインリッヒ・ヘルツ(独)が火花を飛ばして電磁波(電波)を発生させ、数m離れた所で電波を掴まえた。
1895年:マルコーニ(米)が電磁波を使って通信ができないかと考え、無線電信機を製作し遠距離通信に成功。

4) 20世紀中盤から後半

通信に関する技術が大きく進化した時代です。特に、テレビ放送と衛星通信により、マスメディア化とグローバル化が進みました。テレビ放送では映像と音声を同時に配信することが可能となりました。また、衛星通信が導入されたことで、リアルタイムで世界中との通信が実現できました。

5) 20世紀から現在

デジタルやインターネットによって世界が大きく変化しました。インターネットの普及により、電子メールやSNS、Web会議など、多種多様な通信手段が誕生しました。個人の通信手段として、携帯電話の導入からスマートフォンへ移行し爆発的に普及しました。また、インターネットと融合した新たなコミュニケーションが可能となりました。今後は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やVR(Virtual Reality:仮想現実)により、言語の壁を越えた通信や仮想空間での情報共有などが展開されるでしょう。

通信技術の定義

通信技術とは、情報(音声、文字、画像など)を離れた場所へ伝えるために機器と機器とがやり取りでるようにする技術のことです。当然のことながら、正確性や即応性が求められます。本稿では、身近な道具として使われているスマートフォンやインターネット、テレビなどで適用されている技術について概説します。通信技術の基本構成は① 送信側、② 通信経路、③ 受信側、④ プロトコルです。

  1. 送信側  :情報を送る(例えば、スマートフォン)
  2. 通信経路 :情報を伝える(例えば、有線通信、無線通信)
  3. 受信側  :情報を受け取る(例えば、スマートフォン)
  4. プロトコル:情報をやり取りするルール
図6 通信技術の基本構成
図6 通信技術の基本構成

通信技術の体系

通信技術を体系化する観点は一義的ではありません。色々な観点で分類することができます。本稿では、代表的ないくつかの観点で分類します。分類した個々の通信技術については、後ほど解説します。

1 通信プロセスによる分類

端末から端末間への信号の流れで分類します。送信端末から受信端末へ向けて、信号をどのように変換し、どの通信媒体を使うのか。さらに、通信媒体を通じてどのように信号を送るのか。そして、受信する端末側で送られてきた信号をどのような手法で元のデータへ変換するかになります。

表2 通信プロセスによる分類
機能 処理
① 送信端末 どのような端末なのかどうか。例えば、スマートホン、汎用無線通信機。
② 変調・信号処理 元のデータをどのように変換して送信するのか。
③ 物理媒体 通信する媒体は、有線なのか無線なのか。
④ 伝送制御 信号を伝達する手法
⑤ 受信制御 受信した信号を復元
⑥ 受信端末 端末の種類

2 通信技術の構成要素による分類

通信技術は種々の要素技術により構成されています。通信の基本構成は、1) 物理媒体、2) 変調方式、3) 多重化技術、4) 伝送制御技術、5) アクセス制御、6) ネットワーク構成、となります。

1) 物理媒体(Physical Medium)

通信信号を伝送するための物理的な通路です。媒体の種類によって通信の速度・距離・ノイズ耐性などが異なります。通信を構築する環境や要求性能等により選択されます。大きく分類すると有線媒体と無線媒体となります。有線媒体の例としては、ツイストペアケーブル(Ethernet)、同軸ケーブル(CATV、旧来のLAN)、光ファイバ。無線媒体の例としては、電波、赤外線です。

2) 変調方式(Modulation Techniques)

デジタルまたはアナログの信号を、伝送に適した形に変換する方法です。物理媒体により選択されます。主な方式としては、アナログ変調、デジタル変調に大別できます。

図7 変調方式の分類
図7 変調方式の分類
a) アナログ変調

アナログ変調の事例は、ラジオ放送で適用されている① AM(Amplitude Modulation)変調や② FM(Frequency Modulation)変調です。信号波と搬送波とを合成して生成されます。

① AM変調

図8 AM変調
図8 AM変調

② FM変調

図9 FM変調
図9 FM変調
b) デジタル変調

デジタル変調としては、基本方式と言われる、① ASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移変調)、② FSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)、③ PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)の他に、移動通信システム(4Gや5G)に適用されている④ QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)があります。

① ASK

ASK(振幅偏移変調)では、データが「1」の時に電波を出し、「0」の時に電波を出さないことで、データを送信します。

図10 ASKのイメージ
図10 ASKのイメージ

② FSK

FSK(周波数偏移変調)では、「0」と「1」とを信号の有無ではなく、異なる周波数に割り当てて行います。例えば、「1」の時は20MHz、「0」の時は10MHzを送信します。

図11 FSKのイメージ
図11 FSKのイメージ

③ PSK

PSK(位相偏移変調)では、「1」、「0」に応じて位相をずらします。例えば、位相差を180°とする場合、「1」と「0」とでは位相が反転します。

図12 PSKのイメージ
図12 PSKのイメージ

④ QAM

QAM(直交振幅変調)は、情報量を増やすためにASK(振幅偏移変調)に加えて、PSK(位相偏移変調)を取り入れた方式と理解できます。振幅と位相の違いを組み合わせて、「1」と「0」を表します。図13はQAMのイメージです。位相が異なる波形(2種類)と振幅が異なる波形(2種類)を組み合わせることで、波形が2ビット割り当てられます。図14はQAMでのデータ送信例です。

図13 QAMのイメージ
図13 QAMのイメージ
図14 QAMでのデータ送出例
図14 QAMでのデータ送出例

位相および振幅を複数変化させると、多くのデータを送出することが可能になります。図15は携帯電話やWi-Fiなどで採用されている16QAMのイメージです。四象限の1つのエリアを4つに分割します。位相に加えて、振幅も変化させて、合計16種類の波形とすることで、4ビットの情報を1つの波形で送信できます。エリアをさらに拡張すると、64QAMでは6ビット、256QAMでは8ビットのデータを表現できます。最近のWi-Fi技術では、4096QAMが採用されています。

図15 16QAMのイメージ
図15 16QAMのイメージ

3) 多重化技術(Multiplexing)

音声やデータなどの複数の通信を同時に1つの伝送路で行う通信技術です。周波数帯域を有効に活用することが可能となります。主な種類は① FMD、② TMD、③ CDM、④ SDMです。

① FMD(Frequency Multiplexing Division)

周波数分割多重。信号を複数の周波数帯に分けて同時に伝送する方式です。アナログ方式のラジオやテレビ放送で採用されています。

図16 FMD
図16 FMD

② TDM(Time Division Multiplexing)

時分割多重。信号を一定の時間間隔で分割して、順番に並べて送る方式です。固定電話網や2G携帯電話や光通信などに適用されています。

図17 TDM
図17 TDM

③ CDM(Code Division Multiplexing)

符号分割多重。複数の信号を同じ周波数帯、同時刻で送るが、各信号に異なるコード(拡散符号)を付与して送る方式。受信側はコードにより他の信号と区別して受信処理する。第3世代携帯電話やGPS※1に適用されています。

※1

詳細は2022年2月公開「くるまと無線~CASE時代を支える無線技術」をご覧ください。

図18 CDMの概要
図18 CDMの概要

④ SDM(Space Division Multiplexing)

空間分割多重。物理的に異なる複数のアンテナを送受信双方が持ち、送信側は複数のデータを複数のアンテナを使って同じタイミング、同じ周波数で並行して送信する方式です。5Gの中核技術はMIMO(Multiple Input Multiple Output:複数の送受信アンテナ)と呼ばれる方式です。同じ周波数で電波を送信すると混信するように思われますが、電波(=波)は合成しても、もとの波に分離することが可能な性質です。MIMOの適用例は、5G携帯電話、Wi-Fiルータ、地デジ放送などです。なお、5G携帯電話では、Massive MIMOと呼ばれる大規模なアンテナ構成となっています。4GではMIMOのアンテナ数は2~8本ですが、Massive MIMOでは、32本、64本、128本などのアンテナで構成されています。複数の端末と同時に通信が可能になり、電波干渉の抑制や高効率化が特徴です。

図19 MIMO
図19 MIMO

4) 伝送制御技術(Transmission Control)

データを正確に、順序通りに、効率よく伝送するための制御技術です。主な要素は誤り検出と訂正、フロー制御(データの流れ制御)、輻輳制御(ふくそうせいぎょ:混雑防止)、順序制御(データのかたまりを正しい順序に制御)、再送制御(データの破損時に再送要求制御)などです。誤り検出の方式としてはCRC(Cyclic Redundancy Check)※2などが適用されています。

※2

データに対して予め決められた多項式(除数)を使ってCRC符号(検査値)を計算し、元のデータの末尾にCRC符号を付加して送信する。受信側では、受信したデータ全体を同じ多項式で割り算する。割り切れれば、「データに誤りなし」、割り切れなければ、「誤りあり」と判定できる。

5) アクセス制御(Access Control)

複数の端末が同じ伝送媒体を共有する際、通信の衝突や干渉を防ぐための制御技術です。主な方式は① TDMA、② FDMA、③ CDMA、④OFDMAです。

① TDMA(Time Division Multiple Access)

時間分割多元接続。各ユーザに時間で区切って順番に送信する。

図20 TDMA
図20 TDMA

② FDMA(Frequency Division Multiple Access)

周波数分割多元接続。各ユーザに異なる周波数を割り当てる。

図21 FDMA
図21 FDMA

③ CDMA(Code Division Multiple Access)

符号分割多元接続。同じ時間、周波数で異なる符号を付与して拡散し、広い周波数帯域に合成して送信する。

図22 CDMA
図22 CDMA

④ OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)

直交周波数分割多元接続。同じ時間に、周波数を複数に分割して割り当てて送信する。

図23 OFDMA
図23 OFDMA

6) ネットワーク構成(Network Topology / Architecture)

通信ネットワーク全体の構造です。接続媒体や形態、信頼性、拡張性、コストの観点で使い分けられます。物理的な構成(トポロジー)の例としては、バス型、スター型、リング型、メッシュ型などがあります。

バス型 一本の通信線に全ノードが接続。構造がシンプル。コスト低い。
スター型 中央の装置に各ノードが接続。拡張性あり。断線時の冗長性。
リング型 ノードがリング状に接続。障害が他へも影響。
メッシュ型 各ノードが複数の他のノードと接続。高信頼性、拡張性、複雑、コスト高。
図24 ネットワークトポロジの構成例
図24 ネットワークトポロジの構成例

3 通信技術の世代別の分類

有線通信および無線通信とも、導入されて完了した技術やシステムはなく、要素技術の進化により世代交代してきました。固定電話は有線通信の技術により導入され、その後、アナログからデジタル化へ変遷しました。革新的な技術導入は光ファイバ技術です。近年、有線の電話の基幹部分はIP化(インターネットプロトコル化)し、家庭まで光ファイバ(FTTH:Fiber To The Home)が引き込まれています。表3は有線通信の技術世代進化です。

表3 有線通信の技術進化
世代 技術名
第1世代 アナログ音声(電話)
第2世代 デジタル音声・データ(ISDN)
第3世代 ブロードバンド(ADSL、光)
第4世代 IP化・統合(FTTH、IP電話)

無線技術については携帯端末を世代ごとに分類すると表4となります。主な方式については、後ほど解説します。

表4 携帯電話の世代進化
世代 主な時期 技術的特徴 主な方式 主な用途・進化点
1G 1980年代〜 アナログ音声通話 FDMA(Frequency Division Multiple Access、周波数分割多元接続) 音声通話のみ、セキュリティ弱い、伝送容量小
2G 1990年代〜 デジタル化、SMS(ショートメッセージ) TDMA(Time Division Multiple Access、時分割多元接続) 音声+SMS、電波利用効率向上
3G 2000年代〜 高速パケット通信 CDMA(Code Division Multiple Access/符号分割多元接続) 音声+インターネット(動画対応)
4G 2010年代〜 IPベース通信、VoLTE OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access/直交周波数分割多元接続) 高速データ(動画視聴、ゲーム)
5G 2020年代〜 超高速・超低遅延・多接続 OFDMA(上り下り) +Massive MIMO(Massive Multiple Input Multiple Output:大規模多入力多出力) IoT、自動運転
6G(標準化中) 2030年頃〜 テラヘルツ帯通信、AI、量子暗号 超高速・超低遅延・超多数接続 技術導入 空間拡張(空・海・宇宙:ドローンなど)、遠隔医療

4 通信距離・帯域幅・消費電力の比較

通信技術を構成する主要な要素技術の基本特性(通信距離、帯域幅、消費電力)を観点にして整理すると表5となります。個々の技術については後述します。

表5 基本特性比較
通信技術 通信距離 帯域幅 消費電力
RFID(パッシブ型) 数cm〜数m 数kHz〜数百kHz ほぼ無
(リーダから供給)
RFID(アクティブ型) 数十m〜数百m 数kHz〜数百kHz
(バッテリー搭載)
NFC 約10cm以内 数百kHz 非常に低い
Bluetooth 約10〜100m 数MHz程度 低い
Zigbee 10〜100m 数MHz程度 非常に低い
Wi-Fi 数十m〜100m 数十〜数百MHz 中〜高
4G LTE(下り) 数km〜数十km 数MHz〜20MHz 中程度
5G NR(Sub-6GHz) 数百m〜数km 数十MHz〜100MHz 中〜高
5G NR(ミリ波帯) 数十m〜100m 数百MHz〜1GHz以上 高い
衛星通信 数千km 数MHz〜数十MHz 高い
光ファイバ 数km〜数百km 数GHz〜数十THz 低い(端末側)

5 通信技術をOSI参照モデルにマッピング

OSI参照モデル(Open System Interconnection)とはISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)により策定された通信機能を階層構造にしたモデルです。このモデルにマッピングすると、それぞれの階層で行われる通信機能が定義されます。通信の仕組みを判りやすくする側面もあります。なお、OSI参照モデルが標準化(ISO 7498)されたのは1984年なので、その後の各種技術の進化により、階層をまたがる技術も創出されましたが、今でも有用な指針です。主要な通信技術をOSI参照モデルにマッピングすると表6です。物理層、データリンク層は、通信方式や媒体(有線/無線)に最も依存します。ネットワーク層以上は、有線無線を問わず、IP化で統一されているので、共通性が高いです。無線通信においては、物理層とMAC層では多くの要素の技術が介在します。本稿では概説しませんが、チャネル選択、干渉、電力制御、ハンドオーバ(接続切換)などです。アプリケーション層から俯瞰すると、通信方式の違いを意識せずに適用できます。

表6 OSI参照モデル
階層番号 階層名 主な役割
7 アプリケーション層 アプリケーション毎の機能(メール、ブラウザなど) アプリケーション層例
6 プレゼンテーション層 データの表現形式の変換(文字コード変換や暗号化・復号化、圧縮など) プレゼンテーション層例
5 セッション層 通信の開始・維持・終了を管理。処理自体はトランスポート層で実施 セッション層例
4 トランスポート層 接続の開始・終了を管理。信頼性を確保(データの分割再構築、誤り制御、再送制御) トランスポート層例
3 ネットワーク層 通信経路を選択。パケットの経路選択や論理アドレス管理、異なるネットワーク間の接続。 ネットワーク層例
2 データリンク層 直接的に接続されたノード間のデータ通信、エラー検出・訂正、フレームの生成 データリンク層例
1 物理層 通信機器やケーブルの構造、物理的な通信媒体上のビット伝送 物理層例

6 関連技術

通信技術全般に関連する技術を概説します。

1) 携帯電話の進化

日本における移動体通信は1979年に旧電電公社により自動車電話サービスが始まり、その後45年の技術進化は目覚ましいと言えます。当初の自動車電話は自動車内でしか利用できないほどの重量でした。その後、1985年のNTT民営化後に発売された、可搬型の「ショルダーホン」から、いよいよ携帯電話への移行が始まりました。図25はショルダーホンのイメージです。重さは3kg近くあったようです。携帯電話の第1世代と言える1号機は「TZ-802型」で重さは1kg弱でした(図26)

図25 ショルダホン(100型)のイメージ
図25 ショルダホン(100型)のイメージ
図26 第1世代(TZ-802型)イメージ
図26 第1世代(TZ-802型)イメージ

2) 周波数の割り当て

携帯電話が開始された当初の周波数は800MHz帯が使用されました。その後、通信事業者の新規参入やデジタル化、携帯電話の普及に伴い新たな周波数帯域が割り当てられました。周波数帯の基本的な特徴は、周波数が低ければ遠くまで伝搬しますが、通信速度や情報量は低くなります。周波数が高くなれば、近距離の範囲となりますが、通信速度は速くなり情報量も多くなります。表7に周波数帯とバンド名、特徴をまとめました。個々の端末が対応するバンドについては、仕様書や事業者のサイトから得られます。表中の「プラチナバンド」とは、携帯電話で使われる周波数帯の内、「700MHzから900MHz」前後の周波数帯の総称です。障害物を回り込みやすく、電波が繋がりやすい特徴があるので、携帯電話の利用で価値の高い周波数帯として「プラチナバンド」と呼ばれるようになりました。

表7 携帯電話の周波数帯とバンド、特徴
周波数帯 3G/4Gバンド(通信事業者) 5Gバンド 主な用途・通信事業者
700MHz Band 28 - プラチナバンド、屋内・山間部に強い(全社)
800MHz Band 18(au) - プラチナバンド、屋内・地下に強い
Band 19(ドコモ)
900MHz Band 8(ソフトバンク) - プラチナバンド、ソフトバンクのメインバンド
1.5GHz Band 11 / 21 / 26 - 補助バンド、利用地域が限られる
1.7GHz Band 3 / 9 n3 都市部メイン、楽天・ソフトバンクなど
2.0GHz Band 1(全社) n1 W-CDMA/4G共通、5G転用も開始
2.5GHz Band 41(UQ WiMAX等) n41 高速通信向け、KDDIなど
3.4〜3.6GHz Band 42 n77 / n78 Sub6、主要5Gバンド(ドコモ・KDDI・ソフトバンク)
3.6〜4.2GHz - n77 / n78 Sub6帯のメイン、楽天・ソフトバンクなど
4.5GHz - n79(ドコモ専用) 日本独自、n79対応スマホでしか5G接続できない場合あり
28GHz - n257 ミリ波、超高速通信(全社)

携帯電話用周波数の割り当ては、経済的価値が反映されています。審査方式として、「経済価値を踏まえて、事業者が申し出た金額を審査し、周波数割り当て」を行う「比較審査方式」が実施されています。なお、無線局の免許人等は、電波を利用する共益事務(電波監視、研究開発等)に要する費用を案分して負担します。令和3年に楽天モバイルが納付した金額は約67億円です(以降7年間総額約470億円を納付)。電波利用料の詳細な料額は総務省のサイトをご覧ください。https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/fees/sum/money_r0410.pdf 諸海外においては、「比較審査方式」の他に、経済的価値を踏まえた入札方式も導入されています。近年の落札総額は、数百億円から数千億円程度となっています。

図27 電波利用額の按分割合
図27 電波利用額の按分割合

出典:総務省の公開資料を抜粋して作成

3) 携帯電話のつながる、位置把握の仕組み

携帯電話をかけると、最寄りの無線基地局につながります。その基地局から移動通信制御局へ届き、宛先へつながります。図28は無線基地局の基本構成です。無線基地局には通常3本のアンテナが120度の間隔で設置されています。各アンテナの領域はセルと呼称され、異なる周波数の電波が送信されています。3つのセルが導入された理由は、コストや電波の干渉抑制、輻輳の回避性などです。なお、小型基地局(フェムトセル)では1セル、都市部や大型施設では4、8セル方式も採用されています。図29は基地局アンテナの例です。

図28 基地局とセルとの関係
図28 基地局とセルとの関係
図29 基地局アンテナ
図29 基地局アンテナ

4) 電波が伝わる仕組み

電波は送信側から発した電界と磁界とが連鎖して、受信側に到達します。図30は電波が伝わるイメージです。送信側のアンテナから高周波電流が流れると磁界が発生します。この事象は「右ネジの法則」※3です。この磁界の発生を妨げる電界が発生し、その電界の発生を妨げる磁界が発生します。この事象が繰り返されます。受信側でこの磁界の中にアンテナを置くと交流電圧が発生します。よって、送信側の電磁波を受信側で受けることができます。

※3

詳細は2023年4月公開「モータ ~ いまや産業のコメ」をご覧ください。

図30 電波の伝わるイメージ
図30 電波の伝わるイメージ

5) Wi-Fi

Wi-Fiは無線LANを実現するための1つの技術です。無線LAN = Wi-Fiではありません。「Wi-Fi」はWi-Fi Allianceの登録商標です。セキュリティ面では、通信の盗聴防止や、なりすまし対策等として暗号化方式が採用されています。なお、一部の公共Wi-Fiで、暗号化が施されていない通信もあるため、利用する際には注意と対策が推奨されます。表8はWi-Fi規格の変遷です。

周波数帯域 2.4GHz帯は遠くまで届きやすい特性ですが、他のシステム(Bluetoothや電子レンジ)と干渉の恐れあり。
データレート 最大理論値。実効速度は環境によりに低下。
チャネル幅 広いほど高速通信が可能だが干渉も増加。
レイテンシ 双方向通信の応答時間。AR/VRやゲーム用途で重要な特性。
想定距離 障害物のない屋内環境での目安。
表8 Wi-Fi規格の変遷
名称 規格名 公開年 最大データレート 周波数帯域 チャネル幅 レイテンシ(参考) 想定通信距離(屋内)
Wi-Fi 5 802.11ac 2013年 6.9 Gbps 5 GHz 20/40/80/160 MHz ~1ms 約35m(5GHz)
Wi-Fi 6 802.11ax 2019年 9.6 Gbps 2.4 / 5 GHz 20/40/80/160 MHz <1ms 約50m(2.4GHz)
Wi-Fi 6E 802.11ax 2020年 9.6 Gbps 6 GHz 20/40/80/160 MHz <1ms 約30m
Wi-Fi 7 802.11be 2024年 46 Gbps(理論値) 2.4 / 5 / 6 GHz 20〜320 MHz <1ms(低遅延設計) 約30〜50m

6) Bluetooth

近距離無線通信を行うための通信規格として定められました。数メートルから数十メートルの範囲で端末間のデータ交換や音声通信が行えます。Bluetoothは「Bluetooth SIG(Special Interest Group)」の登録商標です。主な用途は、マウス、キーボード、スマートウォッチ、車載機器、ワイヤレスイヤホンなどです。名称は、開発初期メンバであるIntel社の社員がデンマーク王様のあだ名から引用したようです。商標登録する際に申請した名称が却下されたので、開発のプロジェクト名(Bluetooth)が登録されました。規格は1999年にBluetooth1.0が公開されて以降、最新はBluetooth6.1(2025年5月公開)まで進化しています。表9は各世代の特徴です。

表9 Bluetoothの規格変遷
世代 公開年 特徴
2.x 2004年~ 古典的なBluetooth
ヘッドセットやキーボードなど初期の無線接続用
最大3 Mbpsの速度
ペアリング方式の簡略化(Secure Simple Pairing)
3.x 2009年 Wi-Fiとの連携
大容量データ転送を可能に(最大24 Mbps)
実質的には普及が限定的
4.x 2010〜2014年 Bluetooth Low Energy(BLE)導入
スマートフォンやウェアラブル機器向け
消費電力を大幅に削減
セキュリティ強化・速度向上(2.6倍)
5.x 2016〜2023年 通信速度・距離の大幅向上(最大2 Mbps、4倍の距離)
IoT用途拡大
方向検出、電子棚札対応など多様化
バージョン5.2以降は高音質・多人数音声伝送に対応
6.x 2024年〜 より正確な距離測定
プライバシー保護機能の強化
電力効率の向上、位置情報活用の進化
IoT、医療、音響分野での次世代活用に対応

7) 近距離無線通信技術

近距離無線通信は前述したWi-FiやBluetoothの他に身近な商品に種々の技術が適用されています。適用例として、物流RFIDタグ(Radio Frequency Identification)、交通系ICカード、スマートフォン決済などが挙げられます。表10は通信方式の観点で整理しました。IrDA(Infrared Data Association)は、赤外線を使った近距離無線通信規格です。2000年代以前はパソコンや携帯電話間のデータ通信に適用されていましたが、近年は無線技術が進化したので採用例は減っています。主要な技術であるNFC(Near Field Communication)は交通系ICカードやスマートフォン決済などに、RFIDは物流管理用のタグ(tag)として採用されています。なお、NFCはRFID技術の一部に位置づけられます。ソニーとNXPセミコンダクターズ(旧フィリップスセミコンダクターズ)によって共同開発されました。ISO/IECの国際規格として規定されています。適用する周波数帯は、13.56MHz帯を使用し、通信距離は10cm程度までに特化した仕様となっています。表11はRFIDとNFCとの比較です。表12はNFC全体の比較です。

表10 近距離無線通信技術の比較
通信方式 概要 通信距離の目安 主な適用例
NFC
(Near Field Communication)
電磁誘導方式(13.56MHz) ~約10cm 交通系ICカード(Suica, PASMO)
スマートフォン決済
RFID 電磁誘導 or 電波方式
(13.56MHz帯など)
~数cm〜数m 物流管理(タグ読み取り)
入退室管理
図書館の本管理
Bluetooth / Bluetooth Low Energy 電波方式(2.4GHz帯) 数m〜数十m ワイヤレスイヤホン、キーボード
Wi-Fi(近距離用途) 電波方式(2.4GHz/5GHzなど) ~数十m スマート家電との接続
スマートフォン/PC間のデータ転送
UWB(Ultra-Wideband) 電波方式(GHz帯、広帯域) 数cm〜数m スマートキー(位置検出)
屋内測位(精密な距離測定)
IrDA(赤外線通信) 赤外線方式(光を利用) ~1m リモコン
表11 RFIDとNFCの比較
比較項目 RFID NFC
通信距離 数cm〜数m 約10cm以内
周波数帯 LF(125kHz)、HF(13.56MHz)など HF(13.56MHz)
通信方向 一方向(リーダー → タグが基本) 双方向(P2P通信も可能)
用途 物流管理、入退室管理など スマートフォン決済、交通ICカードなど
搭載機器 リーダー、タグ(ICチップ)など スマートフォン、ICカードなど
表12 NFC全体像
  規格 通信距離 適用例
NFC NFCIP-2
ISO/IEC 21418
NFCIP-1
ISO/IEC 18092
Type A ISO 14443 10cm以下 Mifare(欧州 交通系カード)
Type F 18092準拠 10cm以下 Suica、PASMO、Edyなど
  Type B ISO 14443 10cm以下 IC運転免許、マイナンバーカード、パスポートなど
    ISO 15693 70cm以下 ICタグなど

関連計測器の紹介

通信技術に関連した計測器の一例を紹介します。

図31 通信技術に関連した計測器の例
図31 通信技術に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

通信技術の進歩が我々の社会生活を大きく向上させてきました。今後も「つながる技術」の進化が個々人の利便性を高めるだけでなく、社会全体の発展に貢献するでしょう。

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