市場動向詳細

Green NCAP ~ 自動車の環境性能を評価 ~

自動車の安心安全を評価し見える化する制度として、日本ではJNCAP※1、欧州ではEuro NCAPが普及しています。一方、地球温暖化に対応する仕組みの基本は自動車の排気ガス規制や燃費規制等の法令に準拠することですが、欧州において、環境性能に特化した仕組である、Green NCAPが導入されました。本稿ではGreen NCAPの概要を紹介します。まず、設立された背景を説明します。併せて、世界や日本におけるCO2の排出状況を説明します。次にGreen NCAPの使命、運営体制、具体的な評価方法を概説します。Green NCAPの評価結果の実例も紹介します。その後に、日本においては、まだ導入されていませんが、Green NCAPとの対比を説明します。そして、Green NCAPに関連する技術を紹介します。最後にGreen NCAPに関連した計測器を紹介します。

※1

(Japan New Car Assessment Program) 日本の新車アセスメント・プログラム。
2024年12月26日公開「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP」をご覧ください。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

Green NCAP設立の背景

輸送機器からの排出ガスは大気汚染の主な原因の1つです。その結果、地球温暖化や温室効果ガス※2の増加をきたし、世界的な気象変動の要因となっています。気象変動の事例については、枚挙に暇はありません。Green NCAPが導入された背景をまとめると、①気象変動と温室効果ガスへの危機感、②自動車の評価性能が実走行とカタログデータに乖離、③自動車を選択する要件が安心安全だけでなく環境性能を志向、です。

※2

「地球温暖化対策の推進に関する法律」で定められている温暖化ガスは次の通りです。二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボンのうち政令で定めるもの(HFCs)、パーフルオロカーボンのうち政令で定めるもの(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)。なお、HFCs以下の4ガスはいわゆる代替フロン等のガス。

① 気候変動と温室効果ガスへの危機感

CO2による地球温暖化が深刻化し、生活環境の悪化だけでなく、人類の生存を脅かすことになりつつあり、世界的にCO2削減の要求が高まっています。図1はIEA(International Energy Agency:国際エネルギ機関)が公表した2000年~2024年のCO2排出量のデータです。欧米では漸減しているものの、特定の地域では増加傾向です。また、人口一人当たりの排出量では、米国は減少していますが、その他の地域では増加もしくは微減の傾向です。

図1 CO2排出量の推移(トータル及び一人当たり)
図1 CO2排出量の推移(トータル及び一人当たり)

出典:IEA CC BY 4.0

自動車は世界全体のCO2排出の約15%以上を占める要因となっていることが、各所の調査で明らかになっています。この状況を踏まえて欧州を中心に、「2050年までにカーボンニュートラル」の動きが進展しています。そのためには、自動車の排出量を正しく評価し、脱炭素に向けた比較が必要になってきました。日本においても、2020年に当時の菅内閣総理大臣が「我が国が2050年までにカーボンニュートラルを目指すこと」を宣言しました。図2は日本における部門別のCO2排出量の推移です。2023年度における部門別の割合(図3)では、運輸部門は19%を占めています。

図2 部門別のCO2排出量の推移
図2 部門別のCO2排出量の推移

出典:国立研究開発法人 国立環境研究所 作成「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量」から抜粋

図3 部門別CO2排出量@2023年度
図3 部門別CO2排出量@2023年度

出典:国立研究開発法人 国立環境研究所 作成「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量」を基に作成

② 実態と乖離した「カタログ燃費・排出量」

過去にOEMによる排出ガスの不正(ディーゼルゲートとも呼称)が明らかになり、環境性能の信頼性がゆらぎました。ディーゼルエンジン車の販売が落ち込むきっかけとなったとも評価されています。不正の背景である実際の走行環境によるデータと試験室でのデータ(カタログに記載されるデータ)とに大きな差があることは、以前から認識されていました。とは言え、購入者の視点では、「燃費の良い車種はどれなのか?」が判断しづらい状況になっており、実走行での環境性能評価が求められるようになりました。

③ 車選びの基準が「安心安全」に加えて「環境性能」へ変化

これまで、自動車は、走行性能やデザイン、近年は安全性が重視されてきましたが、地球全体でのカーボンニュートラルの方向へ進んでことから、「環境性能に優れているのか?」という価値観が加わってきました。購入者に対して燃費などの環境性能を見える化することが必要になりました。

以上の背景から、Green NCAPが誕生したと推察されます。活動を具体化するため、Euro NCAP※3を運営する団体が母体となり、2019年にGreen NCAPが独立した組織としてスタートしました。

※3

(The European New Car Assessment Programme) 欧州新車アセスメント・プログラム。「ユーロ・エヌキャップ」と呼称。自動車の安全性能を評価する独立機関。1997年に設立され、主にヨーロッパ市場向けの新車について、衝突安全性などをテスト・評価。主な目的は消費者へ安全性の目安となる情報の提供と、OEMに対してより高い安全性能を促すこと。評価結果を5つ星(最高5つ)で表示し、安全性能が高いほど星の数が多くなる。日本ではJNCAPとして運用されている。詳細は2024年12月26日公開「自動車の安心・安全を評価する仕組み〜日本の自動車アセスメントJNCAP」をご覧ください。

Green NCAPの使命

Green NCAPの使命は、名前の通り、クリーンでエネルギ効率が高く、環境にやさしい車の開発を促進することです。地球環境に配慮した車選びを支える新しい物差しとして、実走行に近い条件で、排出ガス・CO2・エネルギー効率を評価する制度です。大気の質を改善し自動車で使われる資源の最小化及び地球温暖化を抑制することを目的としています。詳細は、Green NCAPのサイトをご覧ください。

Green NCAPの運営体制

Green NCAPはEURO NCAPによって、支援運営されています。FIA(Fédération Internationale de l'Automobile:国際自動車連盟)の資金提供を受けています。また、多くの企業や団体が参加するコンソーシアム(19組織@2025年5月1日時点)も構成されています。

Green NCAP 評価方法

1)対象車種

自動車には、動力源として、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ハイブリッド、フル電動など多くの型式があり、また車両の用途も乗用車、商用車、貨物トラックなどがあります。全ての車両領域を評価することは現実的でないため、現時点は、乗用車とバンだけを評価対象としています。将来的には対象機種の範囲が拡大されるでしょう。また、騒音性能などの新たな評価項目も付加されるようです。

2)評価項目

Green NCAPでは3つの項目(index)で評価します。①Clean Air index(クリーンエア指数)、②Energy Efficiency index(エネルギ効率指標)、③Greenhouse Gas emissions index(温室効果ガス指標)です。それぞれの評価結果から総合スコアを算出します。各指標のロゴも定められています。詳細は次のURLをご覧ください。https://www.greenncap.com/how-to-read-the-stars/

  1. クリーンエア指数
    NOx、CO、PM(粒子状物質)など有害な排出ガス量を測定し、大気への影響を評価。
  2. エネルギ効率指標
    車両が走行する際に消費するエネルギの効率性を評価。内燃機関では燃費、EVでは電費を評価。
  3. 温室効果ガス指標
    CO2などの温室効果ガスの排出量を評価。

③温室効果ガス指標については、他の指標と異なり、直接的な評価数値によるものではなく、間接的な評価手法となっているので補足説明します。EVでは「電力由来CO2」が考慮されます。「電力由来CO2」とは、車両が走行する際にCO2の排出はゼロでも、充電する電気を発電する段階でCO2が排出されるので、その分も評価に含めることです。EVは「ゼロエミッション」と称されますが、いわゆる「Well to Wheel:井戸から車輪まで」のライフサイクルでの排出を評価するためです。異なる動力源の車両を評価するためには、統一的な前提条件が必要なので導入されているのでしょう。「どのような電源(=エネルギミックス)」で発電された電気を使用しているかによって、EVの「間接的なCO2排出量」を決めます。石炭火力発電では多くのCO2を排出します。太陽光や風力発電では、CO2の排出はほぼゼロと言えます。具体的な算出式は次の通りです。

間接CO2排出量(gCO2/100km) = EVの消費電力(kWh/100km) × 国のCO2排出原単位(gCO2/kWh)

「国のCO2排出原単位」は、欧州連合 欧州環境庁(The European Environment Agency :EEA)が公表しています。エストニア、ポーランドは化石燃料の比率が高いと推察されま。スウェーデン、フィンランド、フランスは天然の再生可能エネルギや原子力などの低炭素電源の比率が高いためです。なお、各国とも排出量の削減が大幅に進んでいることを認識できます。

図4 欧州国別CO2排出原単位
図4 欧州国別CO2排出原単位

出典:欧州環境庁が公開しているデータを基に作成

3)評価方法の特徴

  1. 実走行を模した試験条件
    従来のラボ条件(NEDC※4など)だけではなく、現実に近い運転条件(RDE:Real Driving Emissions)を含めて試験を行います。温度環境、速度領域、加減速、渋滞などが試験条件に含まれます。
  2. WLTPに基づいた標準試験
    燃費測定や排出量測定は、EUで標準採用されているWLTP(Worldwide Harmonized Light Vehicles Test Procedure)に準拠します。
  3. 実験室+車載用測定機器の併用
    シャシーダイナモ(試験装置)上での試験及び実車に可搬型の測定システムを搭載して、走行中の排出ガスも測定します。
※4

(New European Driving Cycle)欧州で乗用車の燃費や排出ガスを評価するために用いられる試験サイクル。主として市街地走行と郊外走行を想定した走行パターンで構成。

なお、プラグインハイブリッド(PHEV)の評価条件は、内燃機関を使用するモードとバッテリが完全に充電されて駆動力を供給するモードの2つの運転モードでの汚染物質排出量、エネルギ効率、温室効果ガスを考慮に入れます。当然のことながら、フル電動車(EV)やPHEVは走行中の排出ガスがゼロなので①Clean Air indexと③Greenhouse Gas emissions indexは高評価になります。ただし、エネルギ効率(Energy Efficiency Index)は重要な指数となり、電費(Wh/km)が悪いEVは高評価になりません。回生ブレーキ効率や充電効率も評価対象となります。Green NCAPの評価手順の詳細は次のURLをご覧ください。https://www.greenncap.com/test-procedures/

総合評価の算出方法

各指標で最大10点、合計で30点満点となります。各種のテスト結果から得られた各指標(①Clean Air / ②Energy Efficiency / ③Greenhouse Gas emissions)を総合評価して★を算出します。評価の例は次の通りです。

★★★★★ 非常に優れた環境性能(EVで効率的な車両)
★★★☆☆ 平均的な内燃機関車
★☆☆☆☆ 排出ガスが多い、燃費が悪い車両

主な車種の評価結果は表1です。EVは高評価を得ていますが、ハイブリッドは内燃機関なので、各指標とも評価は低くなります。
個々の車種について評価したい場合は、Green NCAPのサイトで行えます。

表1 Green NCAP 評価結果の例
車種 動力式 評価年 ①クリーンエア指標 ②エネルギ効率指標 ③温室効果ガス指標
BYD DOLPHIN EV 2024 10.0 9.6 9.9
Hyundai KONA EV 2024 10.0 9.7 9.9
Tesla Model3 EV 2024 10.0 9.7 9.8
Toyota Yaris Hybrid 2021 6.3 7.4 5.9
VW Golf Hybrid 2021 6.2 6.2 5.6

出典:欧州環境庁が公開しているデータを基に作成

Green NCAPの動向

2025年3月にGreen NCAPから発表されたLCA Award(Life Cycle Assessment:LCA賞)では、5つ星評価となったEVの5車種が受賞しました。BYD Dolphin、Hyundai KONA、Jeep Avenger、Open/Vauxhall Corsa、Tesla Model 3 です。この発表は、現時点のフレームワーク下での最後のLCA賞となります。今夏から適用される2025年評価手順は、星評価に完全に統合され、排気ガスだけでなく、車両の寿命全体にわたる環境への影響に焦点を当てるようになります。

日本の対応

現時点(2025年4月)、日本にGreen NCAPと同等の制度が導入される計画は公表されていません。しかしながら、環境課題に対応する各種の性能評価は既存の法令で基準が規定され、車両として満たすことを求めています。表2はGreen NCAPと日本の関連法令との比較です。

表2 Green NCAPと日本の関係法令との比較
比較項目 Green NCAP 日本の制度・法令(代表例)
目的 実走行ベースで車の環境性能を総合評価し、消費者にわかりやすく伝える 主に形式認定と基準適合を通じて、環境基準を満たす車を管理・排出規制する
法令根拠 法律というより民間主体の自発的評価(Euro NCAPの拡張) 道路運送車両法
自動車NOx・PM法
自動車リサイクル法
環境基本法 など
評価対象 排出ガス(NOx、CO、PM)
温室効果ガス(CO2
エネルギ効率(燃費や電力消費)
排出ガス基準(JC08/WLTCモード)
CO2削減目標
次世代自動車の補助制度など
試験条件 実走行ベース(RDE)
ラボと路上両方で測定
多様な環境条件
主に定められた試験モード(WLTC、JC08)
実走行評価は一部のみ(RDE義務は新型車のみ段階的に)
スコアの開示 公開・星評価(★1~5)
車種別に評価結果がWebで一般公開
一般消費者向けには詳細なスコア表示はない(型式認定は官報などで公開)
制度の性質 民間による自主的な消費者情報提供プログラム 法令に基づく規制・認定制度(罰則・型式取り消しあり)
環境政策との連動 欧州のZEV(Zero Emission Vehicle)推進政策やライフサイクルCO2指標との連動 自動車環境性能割り、エコカ減税、ZEV補助など一部連動はある

関連技術

1)ブルーカーボン

ブルーカーボン(Blue Carbon)とは海洋生物により取り込まれた炭素のことです。2009年10月に公表された国連環境計画の報告書で命名されています。海洋や海洋沿岸の生態系によってCO2を吸収し貯留する仕組みです。森林や陸上の生態系によってCO2を吸収し貯留することは「グリーンカーボン」と呼ばれます。報告書の詳細は次のURLをご覧ください。「Blue Carbon:The Role of Healthy Oceans in Binding Carbon」

国立研究法人 水産研究・教育機構が公表した「海草・海藻藻場のCO2貯留量 算定ガイドブック 令和5年11月」によると、CO2を吸収し貯留するプロセスとして次の4を挙げています。①堆積貯留、②難分解貯留、③深海貯留、④RDOC貯留。

  1. 堆積貯留 :枯れた海草や海藻が海底に堆積し、長期間貯留される。
  2. 難分解貯留 :枯れた海草や海藻などが細分化され流出し、長期間にわたってCO2に戻らない粒子の細片として、沿岸域に堆積する。
  3. 深海貯留 :潮流や波浪などで、ちぎれた海草や海藻が外洋に流され、浮力を失って深海へ沈降し、長期間貯留される。
  4. RDOC貯留 :海草や海藻から溶け出す分解されにくい有機物となり、長期間にわたり海水中に貯留される。RDOC:Refractory Dissolved Organic Carbon。
図5 ブルーカーボンの貯留4プロセスのイメージ
図5 ブルーカーボンの貯留4プロセスのイメージ

出典:国⽴研究開発法⼈ ⽔産研究・教育機構「海草・海藻藻場のCO2貯留量 算定ガイドブック」を抜粋して作成

2)CO2吸収・固定化技術

CO2を吸収または固定化する技術は、前述の「ブルーカーボン」に代表される自然の力を活用することや人工的に固定化する技術が研究され、すでに実用化されている技術もあります。人口的にCO2を吸収し固定化する技術の例として、①CCS(Carbon Capture and Storage)、②CCU(Carbon Capture and Utilization)、③DAC(Direct Air Capture)、④鉱物固定化(Mineralization)が挙げられます。

  1. CCS:火力発電所、工場などの排出源から直接CO2を回収し地中に貯留。
  2. CCU:回収したCO2を合成燃料(e-fuel)、建材などに再利用。
  3. DAC:大気中のCO2を直接回収する技術。
  4. 鉱物固定化:セメント・コンクリートに利用。

上記技術の詳細については、2023年7月公開「カーボンニュートラル燃料 ~ 持続可能なエネルギ源への移行に期待」をご覧ください。

3)EV化

車両の電動化はGreen NCAPの評価点に大きく貢献します。電動化技術の詳細については、過去の記事をご覧ください。

2021年9月公開「電動化の進展~カーボンニュートラルに向けた動向

2022年4月公開「車載ECUのインバータ技術~電動化に欠かせないコア技術

4)排ガス浄化技術

動力源が内燃機関であっても、排出ガスの低減化が求められます。従来のハイブリッド向けのエンジンは既存機種の改良版が主でしたが、ハイブリッドのニーズが高まってきたことから、ハイブリッド専用設計のエンジンが今後も開発されるでしょう。内燃機械の技術詳細については、2022年6月公開「自動車用内燃機関の進化~まだまだ活躍するガソリンエンジン」をご覧ください。

5)回生ブレーキ

車両が減速する時に、通常は機械的なブレーキで運動エネルギを消費しますが、電気エネルギに変換してバッテリに還流させるシステムです。ハイブリッドエンジン車やEVに搭載されているシステムです。エネルギ効率に強く影響します。回生率が高いと、燃費や電費が改善し、評価点が高くなります。ただし、回生ブレーキは減速時に必ず作動するシステムではなく、バッテリが満充電の時は回生できません。また、制動力が限定的になるため、機械的なブレーキとの協調が必要です。停車するまでは機械的なブレーキを作動させます。回生機能の概要は図6です。EVの基本構成は、モータ/ジェネレータ、インバータ、バッテリ、制御ECUです。通常走行はバッテリの電源でインバータがモータを駆動します。減速時はジェネレータを発電機として機能させ、回生動作となり、インバータによりバッテリを充電します。

図6 EVの基本構成
図6 EVの基本構成

6)バッテリ特性の改善

EVはGreen NCAPの高評価を得られる技術ですが、EVで特に重要な技術はバッテリです。バッテリの特性の中で重視される項目は、充放電効率、広い温度範囲、高エネルギ密度、特性劣化抑制です。

  • 充放電特性:走行時に電力損失が少なければ、エネルギ効率指標に直結。
  • 広い温度範囲:寒冷時でも性能低下が軽減できれば、実走行テストや冷間時テストの評価に好影響。
  • 高エネルギ密度:車両全体の重量を抑え、電費を改善。
  • 劣化抑制性能:バッテリが劣化すると電費が悪化。

7)主要なバッテリ技術とGreen NCAPへの寄与

表3は主要なバッテリ技術の特徴とGreen NCAPへの寄与です。NMCはエネルギ密度に優れていますが、コストや安全面での課題があります。LPF系の電池は今後の主流となっています。安全性やコスト面の効果が期待されています。半固体電池は既存の課題を大きく改善できる電池として期待されていますが、量産化を目指して開発途上です。バッテリマネジメント技術は電池の特性を最大限に発揮させる間接技術として重視されています。

表3 主要なバッテリの特徴とGreen NCAPへの寄与
バッテリ種類 特徴 Green NCAP 評価への寄与
NMC(ニッケル・マンガン・コバルト) 高エネルギー密度・多くのEVに採用 ◎:効率、航続性に優れる
LFP(リン酸鉄リチウム) 安定性・寿命に優れるがエネルギー密度やや低い ◯:劣化に強い、コスト面も優れる
半固体電池 電解液少なく高安全・中間技術 ◯:今後の実用化に期待
全固体電池 超高エネルギ密度・安全性 ◎:大幅な効率向上と軽量化、実用化途上
バッテリマネジメントシステム バッテリ温度や充放電を最適制御 ◎:運用面で効率を最大化、重要な間接要素

8)ディーゼルエンジンの環境性能改善

ディーゼルエンジンについては、環境性能に関してネガティブなイメージを持たれていますが、物流用の車両では当面、主力の動力源として採用されると予想されます。ディーゼルエンジンが主流である理由は、高トルク・高燃費なので重い荷物を運ぶトラックに最適であり運行コストを抑制できることです。一方、排気ガスの観点では、窒素酸化物(NOx)やPM(粒子状物質:すす)の多さが課題です。Green NCAPの評価上、クリーンエア指標に影響します。対応策として、エンジン構造の改良に加えて、排気ガスの後処理装置が進化しています。例えば、PMを捕集するフィルタ(DPF:Diesel particulate filter)、ディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)、尿素SCRシステム(尿素水:AdBlue®※5を噴射。NOxの除去)などが具備されています。ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムについては、2023年8月に公開した「欧州 新排ガス規制ユーロ7 ~ 電動化を見すえた新たなルール」をご覧ください。

※5

AdBlue®:アドブルーと呼称される。ドイツ自動車工業会(VDA)の登録商標。

9)ヒートポンプ式エアコン

EVの冬場はバッテリの性能低下や暖房の消費電力が増加することにより、走行距離が低下します。リチウムイオンバッテリは低温時に内部抵抗が増加し、放電性能や充電容量が低下します。EVにはエンジンの廃熱がないので、バッテリを電源とする電力を消費します。暖房の電力を軽減する方策として、ヒートポンプ式エアコンが採用されています。基本原理は、「空気中の熱を移動」させることです。室外熱交換器で、冷媒と外気の間で熱を吸収します。室内熱交換器により冷媒の熱を車室内へ放出します。なお、外気温が低いと熱エネルギが減るので、PTCヒータ(Positive Temperature Coefficient:正の温度係数)を併用します。PTCヒータはバッテリの加温用デバイスとしても使用されます。図7はヒートポンプ式エアコンの構造イメージです。外気の熱を熱交換器で吸収すると冷媒の温度が上昇します。コンプレッサで冷媒を圧縮すると温度が上昇します。その熱を熱交換器で排熱し空気を加熱します。その後、冷媒を膨張させると冷媒の温度が低下します。このサイクルを繰り返すことで、外気の熱を移動させ、空気を加熱します。

図7 ヒートポンプ式エアコンの原理イメージ
図7 ヒートポンプ式エアコンの原理イメージ

10)車両の空気抵抗と軽量化

車体の形状や素材の工夫で、走行時のエネルギ損失を減らす方法です。空気抵抗の改善は特に高速走行時に効果があります。ハイブリッド車には、従来の車体を流用するのではなく、専用設計が行われている事例もあります。

11)Green NCAP評価に寄与しない技術

再生可能エネルギはCO2排出原単位に影響することを前述しましたが、EVやプラグインハイブリッド車へ充電する際に、再生可能エネルギによる電源を使用しても、Green NCAPの評価対象となりません。今後、Green NCAPの評価対象になり得る技術として、ソーラ充電、合成燃料や水素燃料電池、電池のリユースやリサイクル等が推察されます。

関連計測器の紹介

Green NCAPに関連した計測器の一例を紹介します。

図8 Grenn NCAPに関連した計測器の例
図8 Grenn NCAPに関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

地球温暖化対応の取組みは世界各国や地域により多少の差はあるものの、世界共通の課題です。自動車の安心安全につながるNCAPが世界中に進展してきたことと同様に、環境対応の評価指標として、Green NCAPが導入されました。現時点は欧州地域で実施されていますが、遠くない将来に米国や日本などでも導入されるでしょう。今後も、地球環境を維持向上させる制度や技術進化を期待しましょう。

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