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単位 ~ すべての基本 ~

1875年に、「世界の単位を統一するメートル条約」が締結されました。17か国間で調印され、今年(2025年)は150周年となります。単位の基本は、生い立ちは異なるものの人工物から始まりました。その後、文明の発展とともに、自然界の法則による定義へ進化しました。2019年5月には、最後の人工物で定義されていた「キログラム」が130年ぶりに改定され、人工物から解放されました。本稿では単位の全般について紹介します。まず、単位の歴史を紹介します。次に、単位の基本となるメートル条約に関連する国際単位系(SI)、組立単位、SI接頭語、SIに属さない単位などを概説します。その後に、国際単位系の大改正、国際原器、世界標準の時刻を解説します。単位に関する不思議なことにも触れます。最後に単位に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

単位の歴史

単位は、文明の発展とともに進化してきたと言えます。単位の歴史について、①古代、②中世、③メートル法の誕生、④国際単位系(SI)の誕生に分けて概説します。歴史上、キーポイントとなった単位や技術については後ほど解説します。

① 古代

メソポタミア・エジプト(約5000年前)では貿易や建築のために測定が行われました。最初の単位は人体(指、手、足、肘など)を基準とし、例えばエジプトでは「キュービット(cubit)」が使われました。約45cm位です。紀元前2500年頃に建てられた「エジプトのクフ王の大ピラミッド」は四つの角は完全な直角で、それぞれの面は東西南北を正確に対応しています。バビロニアでは六十進法に基づく単位体系が発達し、今日の時間単位(60秒=1分、60分=1時間)の起源となりました。「マヤ文明」においては、1年間を「約365日」と認識されています。天体観測により精密に算出していたようです。ギリシャ・ローマ時代になると、商取引や建築のために単位が確立されました。それぞれの単位は現在の単位の基礎となっているものもあり、「メートル法」以前の度量衡(ど・りょう・こう)※1に色濃く残っています。

※1

度(長さの単位)、量(体積の単位)、衡(重さ、質量の単位)。

② 中世

地域ごとに異なる単位が使われ、貿易や市民生活に混乱を招きました。例えば、イギリスでは「インチ」「フィート」「ヤード」が使われ、中国では「尺」「里」が使用されました。ヨーロッパ各地でも異なる測定基準が存在したので、基準を統一する必要性が高まっていました。

③ メートル法の誕生(18世紀~19世紀)

フランス革命後の1799年に科学的な基準に基づいたメートル法が制定されました。1メートルは北極点から赤道までの子午線の1000万分の1として定義されました。なお、現在の測定では当時の10000kmに対して、10001.966kmです。この差は当時の測定精度に起因します。1875年にメートル条約が署名され、国際度量衡局(BIPM:Bureau International des Poids et Mesures)が設立されました。これにより、世界的な単位の統一が進みました。1889年に定められたメートル原器は、各国に配布されました。温度による影響や、摩耗を抑えるため、白金イリジウムで製作されています。人名に由来する主な単位は、産業革命時代になされた、力(ニュートン)、仕事(ジュール)、仕事率(ワット)で、国際的なルールに従って「固有の名称をもつ単位」と呼ばれます。

④ 国際単位系(SI)の確立(20世紀~現在)

20世紀に入ると、科学と技術の進化により、単位の統一がますます必要になってきました。1960年に「国際単位系(SI)」が制定され、「メートル」、「キログラム」、「秒」、「アンペア」などが基本単位となりました。「メートル」は「クリプトン86の波長」に基づき再定義されました。1983年には、光の速度を基に現在の定義の基礎となりました。2019年には、キログラムの定義がプランク定数に基づくものに改定され、人工物の基準から解放され、自然界の法則を基準とする単位体系が確立されました。これにより、SIは世界中で幅広く使用され、科学、産業の基盤となっています。

日本における歴史

① 古代から奈良時代(7世紀以前)

中国からの影響を受けつつ、大宝律令(たいほうりつりょう)※2により、独自の単位である「尺貫法(しゃっかんほう)」の基礎が定められました。

※2

701年に制定された日本で最初の体系的な法律。律(りつ)は刑法、令(りょう)は行政に関する定め。

② 鎌倉時代から江戸時代

日本独自の「尺貫法」は確立しましたが、異なる単位も使用されていました。例えば、尺貫法の尺(約30.4cm)に加えて、曲尺(かねじゃく)の30.3cm、鯨尺(くじらじゃく)の37.9cmです。

③ 明治時代から近年

明治政府は度量衡の統一を進め、1875年(明治8年)に「メートル法」(後述)に加入し、国際基準が導入されました。1891年(明治24年)に近代的な度量衡制度である「度量衡法」が制定され、尺貫法とともに、「メートル法」も公認されました。但し、「尺と貫」を基本としています。1921年(大正10年)に「メートル法」へ※3、1951年(昭和26年)に単位の対象が、度量衡から「熱量」や「濃度」などへ拡大され、度量衡法が現在の「計量法」※4へ移行しました。1993年(平成5年)に国際単位系(SI)へ統一されました。

※3

メートル法の使用が決定したことから、4月11日を「メートル法公布記念日(またはメートル記念日)」と呼ばれる。

※4

法令の原文はe-GOVで閲覧できます。

メートル条約

単位の確立と国際的な統一を目的として、1875年5月20日にパリで、17カ国の代表により締結されました。日本は1885年(明治18年10月9日)に条約に加入しました(当時は大日本帝国)。現在、メートル条約加盟国は64カ国、国際度量衡総会の準加盟国/経済圏は36か国です(2024年1月現在)。メートル条約により、3つの組織、①国際度量衡総会、②国際度量衡委員会、③国際度量衡局が設置されました。組織全体の概要は図1です。

① 国際度量衡総会(CGPM)

フランス語:Conférence générale des poids et mesuresの略。英語表記はGeneral Conference of Weights and Measures。他の組織の最上位に位置づけられています。メートル条約に基づき、度量衡に関する国際決議を行うために加盟国が参加する総会です。4年に1度、パリ(フランス)で開催されます。

② 国際度量衡委員会(CIPM)

フランス語:Comité International des Poids et Mesuresの略。異なる国からの委員18名で構成され、日本は一つの席を得ています。主な役割は国際度量衡総会で採択された事項の実行、国際単位系(SI)の定義、実現、普及、各国の国家計量標準機関(NMI)が維持する計量標準の評価、加盟国間での相互承認の促進、10の諮問委員会の設置と技術的な課題検討などです。国際度量衡総会の事実上の理事機関です。

③ 国際度量衡局(BIPM)

フランス語:Bureau International des Poids et Mesuresの略。度量衡に関する維持・研究を行なう国際組織です。国際度量衡総会および国際度量衡局の事務局業務を担っています。かつての原器を保管管理しています。また、国際原子時の維持管理を行っています。

図1 国際度量衡総会組織
図1 国際度量衡総会組織

日本における国際単位(SI)の主たる組織は図2です。経済産業省の所管法人である、国立研究開発法人産業技術総合研究所(略称:産総研)の一部門 計量標準総合センターが担当しています。

図2 日本における国際単位の担当組織
図2 日本における国際単位の担当組織

国際単位系(SI)

国際単位系(SI)について概説します。SIの原文は次のサイトでご覧ください。https://www.bipm.org/en/publications/si-brochure

① SI基本単位

SIでは、全ての物理量の単位の基礎となる7つの基本単位が定義されています。秒(時間)、メートル(長さ)、キログラム(質量)、アンペア(電流)、ケルビン(熱力学温度)、モル(物質量)、カンデラ(光度)です。

表1 SI 7つの基本単位
基本単位(記号) SI単位
時間 秒(s) セシウム133 原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を9 192 631 770 と定めることによって定義される。
長さ メートル(m) 真空中の光の速さc を単位m s−1 で表したときに、その数値を299 792 458 と定めることによって定義される。ここで、秒はΔνCs によって定義される。
質量 キログラム(kg) プランク定数h を単位J s(kg m2 s−1に等しい)で表したときに、その数値を6.626 070 15 × 10−34 と定めることによって定義される。ここで、メートルおよび秒はc およびΔνCs に関連して定義される。
電流 アンペア(A) 電気素量e を単位C(A s に等しい)で表したときに、その数値を1.602 176 634 × 10−19 と定めることによって定義される。ここで、秒はΔνCs によって定義される。
熱力学温度 ケルビン(K) ボルツマン定数k を単位J K−1(kg m2 s−2 K−1 に等しい)で表したときに、その数値を1.380 649 × 10−23 と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒はh、c およびΔνCs に関連して定義される。
物質量 モル(mol) 1 モルには、厳密に6.022 140 76 × 1023の要素粒子が含まれる。この数は、アボガドロ定数NA を単位mol−1 で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。系の物質量(記号はn)は、特定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。
光度 カンデラ(cd) 所定の方向における光度のSI 単位であり、周波数540 × 1012 Hz の単色放射の視感効果度Kcd を単位lm W−1(cd sr W−1 あるいはcd sr kg−1 m−2 s3 に等しい)で表したときに、その数値を683 と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒はh、c およびΔνCs に関連して定義される。

出典:国際単位系(SI)第9版(2019)を基に作成

② 組立単位

7つのSI単位の量は全て「組立量」と呼ばれます。「組立単位」を使って測定されます。22個の組立単位が定義され、固有の名称が付与されています。組立単位の中には単位の表現では等しいものがあります。例えば、周波数(ヘルツ)と放射線核種の放射能(ベクレル)の「s-1」です。「シーベルト」は「方向性線量当量」および「個人線量当量」でも使用されます。

表2 組立単位
単位の名称 単位記号 他のSI単位による表し方 SI基本単位による表し方 解説
平面角 ラジアン rad m/m 円の半径の長さに等しい弧を挟む中心角を1radとする。1rad=(r/2π・r)×360°
立体角 ステラジアン sr m2/m2 球の半径を一辺の長さとする正方形に等しい面積をもつ球面上の部分を、球の中心から見るときの立体角を1srとする。全球は4π sr
周波数 ヘルツ Hz s-1 周期的変化が1秒間に何回繰り返されるかを示す。
ニュートン N kg・m・s-2 物体に加速度を生じたり、物体に変形を生じたりする作用。
圧力,応力 パスカル Pa N/m2 kg・m-1・s-2 圧力とは、気体・液体・固体などがある面を境にして垂直に押し合う力。応力とは内圧のこと.
エネルギ、仕事、熱量 ジュール J N・m kg・m2・s-2 エネルギーは,物体が物理的な仕事をする能力。
仕事率、放射束 ワット W J/s kg・m2・s-3 単位時間当たりのエネルギ。
電荷 クーロン C A・s 電気量は電流と時間の積。電荷は、物質・原子・電子などの物体が帯びている静電気量。
電位差 ボルト V W/A kg・m2・s-3・A-1 2点間の電位の差。
静電容量 ファラド F C/V kg-1・m-2・s4・A2 2つの導体間の電位差を単位量あげるに必要な電気量。電荷を蓄える能力の大きさ。
電気抵抗 オーム Ω V/A kg・m2・s-3・A-2 電流の流れにくさ。
コンダクタンス ジーメンス S A/V kg-1・m-2・s3・A2 電流の流れやすさ。電気抵抗の逆数。
磁束 ウェーバー Wb V・s kg・m2・s-2・A-1 磁界中のある垂直断面を通過する磁力線の量。
磁束密度 テスラ T Wb/ m2 kg・s-2・A-1 磁界中のある垂直な断面の単位断面積当たりを通過する磁束。
インダクタンス ヘンリー H Wb/A kg・m2・s-2・A-2 コイルなどで電流の変化速度が誘導起電力に比例する時の比例常数。交流電流の周波数に比例した流れにくさの比例常数。
セルシウス温度 セルシウス度 °C K セルシウス度θ(℃)は,熱力学温度T(K)−273.15
光束 ルーメン lm cd・sr 等方性の光度1cdの点光源から1srの立体角内に放射される光束。
照度 ルクス lx lm/ m2 1m2の面を,1 lmの光束で一様に照らした時の照度。
放射線核種の放射能 ベクレル Bq s-1 1Bqは、1sの間に1個の原子崩壊を起こす放射能。
吸収線量、カーマ グレイ Gy J/kg m2・s-2 1Gyは放射線のイオン化作用によって、1kgの物質に1Jのエネルギーを与える吸収線量。
線量当量 シーベルト Sv J/kg m2・s-2 1Svに放射線の生物学的効果の強さを考慮する因子を乗じた量。
酵素活性 カタール kat kat mol s-1 1秒間に1モルの反応が進行する触媒作用の強さ。

SI組立単位と基本単位との関係は図3となります。図中の最上位の単位がSI基本単位です。実線は掛け算、破線は割り算を意味します。

図3 SI基本単位と組立単位との関係
画像のキャプション

出典:E. Tiesinga, K. Dill, D. Newell/NIST(National Institute of Standards and Technology、アメリカ国立標準技術研究所)

③ SI接頭語

k(キロ)、M(メガ)、m(ミリ)、μ(マイクロ)など、大きな量や小さな量を記述するために、10のべき乗を表し、SI単位と共に用いられるものをSI接頭語と呼びます。SI接頭語の範囲は下記の24個が使用可能です。なお、和名については、SIの原文には定義がなく日本独自の命名です。

表3 SI単位の接頭語
接頭語 記号 指数表記 十進数表記 制定年 和名(参考)
クエタ(quetta) Q 1030 1 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 2022 百穣(ひゃくじょう)
ロナ(ronna) R 1027 1 000 000 000 000 000 000 000 000 000 2022 千𥝱(せんじょ)
ヨタ(yotta) Y 1024 1 000 000 000 000 000 000 000 000 1991 𥝱(じょ)
ゼタ(zetta) Z 1021 1 000 000 000 000 000 000 000 1991 十垓(じゅうがい)
エクサ(exa) E 1018 1 000 000 000 000 000 000 1975 百京(ひゃっけい)
ペタ(peta) P 1015 1 000 000 000 000 000 1975 千兆
テラ(tera) T 1012 1 000 000 000 000 1960
ギガ(giga) G 109 1 000 000 000 1960 十億
メガ(mega) M 106 1 000 000 1960 百万
キロ(kilo) k 103 1 000 1960
ヘクト(hecto) h 102 100 1960
デカ(deca) da 101 10 1960
デシ(deci) d 10−1 0.1 1960 分(ぶ)
センチ(centi) c 10−2 0.01 1960 厘(りん)
ミリ(milli) m 10−3 0.001 1960 毛(もう)
マイクロ(micro) µ 10−6 0.000 001 1960 微(び)
ナノ(nano) n 10−9 0.000 000 001 1960 塵(じん)
ピコ(pico) p 10−12 0.000 000 000 001 1960 漠(ばく)
フェムト(femto) f 10−15 0.000 000 000 000 001 1964 須臾(しゅゆ)
アト(atto) a 10−18 0.000 000 000 000 000 001 1964 刹那(せつな)
ゼプト(zepto) z 10−21 0.000 000 000 000 000 000 001 1991 清浄(せいじょう)
ヨクト(yocto) y 10−24 0.000 000 000 000 000 000 000 001 1991
ロント(ronto) r 10−27 0.000 000 000 000 000 000 000 000 001 2022
クエクト(quecto) q 10−30 0.000 000 000 000 000 000 000 000 000 001 2022

④ SIに属さない単位

これまで述べてきたSIは全世界で認められた単位系ですが、SI単位以外の単位では、一般的に変換する係数を適用してSI単位を用いています。非SI単位の中には広く使用されているものがあります。表4はよく使われている非SI単位です。体積の単位「リットル」には「l」と「L」の2つの記号が併用されています。理由は小文字の「l」と数字の「1」との混同を避けるためです。ただし、単位のフォントは直立体で表記するルールなので、斜体文字での表記は正しくありません。

表4 非SI単位の例
名称 記号 SI単位による値
min 1 min=60 s
h 1 h=60 min=3600 s
d 1 d=24 h=86 400 s
° 1°=(π/180) rad
1′=(1/60)°=(π/10 800) rad
1″=(1/60)′=(π/648 000) rad
リットル l、L 1 L=10-3m3
トン t 1 t=103 kg
エネルギ eV 1 eV =1.602 176 634 × 10-19 J
デシベル dB

⑤ 単位の書き方

SI単位の記述ルールは、SI文書(https://www.bipm.org/en/publications/si-brochure)で定められています。日本では、日本産業規格 JIS Z 8000[量及び単位]で規定されています。代表的な記述ルールは次の通りです。

  • 量の値は数字と単位の積で表す。
  • 量の記号は斜体(イタリック体)で、単位記号は直立体で記述する。例、自動車の速さ v = 15.0 m/s = 54 km/h
  • 数値と単位記号の間には半角スペースを挿入する。但し、百分率や℃などはスペースを入れない場合あり。
  • 単位記号は大文字・小文字を厳密に区別する。例、キログラム:kg、ケルビン:K(人物由来)、ニュートン:N(人物由来)
    単位の名称を略さずに記述する時は、人名と単位名とを区別するために、最初から小文字で表記する。例、温度 293 kelvin
  • 単位記号の積は「·」もしくは半角スペースで表す。例、N m、N·m
  • 単位記号の商は、「/」または負の指数で表す。例、m/s、m s−1
  • 接頭語の記号は直立体とし、単位記号との間にスペースを入れずに表記する。

単位に関するトピックス

1) 国際単位系の大改定

2019年5月20日に国際単位系(SI)にかかわる大きな改定が実施されました。SIの7つの基本単位 秒(時間)、メートル(長さ)、キログラム(質量)、アンペア(電流)、ケルビン(熱力学温度)、モル(物質量)、カンデラ(光度)のうち、キログラム、アンペア、ケルビン、モルの定義が改定されました。キログラムに関する改定は130年ぶりです。この改定によって、SIの基本単位は全てキログラム原器のような人工物から解放され、自然界の法則に則った定義となりました。

2) 日本におけるメートルの定義と国家標準の変遷

日本におけるメートルの定義と国家標準の変遷は次の通りです。

表5 メートルの定義と国家標準の変遷
メートル定義 国際メートル原器の
目盛り間の距離
Kr(クリプトン)86の準位 2p10と5d5間の遷移に対応する光の真空中における波長の1 650 763.73倍 光が真空中を
1秒の299 792 458分の1
の時間に伝わる行程の長さ
日本の国家標準 メートル原器メートル原器 クリプトンランプクリプトンランプ よう素安定化ヘリウムネオンレーザよう素安定化
ヘリウムネオンレーザ
光周波数コム+UTC光周波数コム+UTC
期間 1889年~1960年 1960年~1983年 1983年~ 2009年 2009年~
精度 10-6 ~ 10-7 10-8 ~ 10-9 不確かさ 2.1 × 10-11 不確かさ 6.81 × 10-14

① メートル原器(1889年~1960年)

日本に配布された国際メートル原器(複製)のメモリ線間の距離とされました。精度は10-6 ~ 10-7です。

② クリプトン86ランプの波長(1960年~1983年)

「クリプトン86原子の準位2p10と5d5間遷移に対応する光の真空中における波長の1 650 763.73倍に等しい長さ」と定義されました。クリプトンランプが選ばれた理由は、多くのランプの中で最も狭いスペクトル線幅を持つからです。精度は10-6 ~ 10-7です。

③ よう素安定化ヘリウムネオンレーザの波長(1983年~2009年)

クリプトン86ランプの波長によるメートルの定義では精度の制約が判っていたので、より高精度の方策が検討議論され、1983年の国際度量衡総会において、「メートルは1秒の299 792 458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さとする」定義に改定されました。この要件を達成する方策として、よう素安定化ヘリウムネオンレーザが利用されました。不確かさは2.1×10-11

④ 光周波数コムによるレーザの周波数計測(2009年~ )

光周波数コムの技術解説は専門書に譲るとして、特徴を端的に表現すると、可視光レベルの物差しです。現在の計測手法はセシウム原子の遷移周波数帯(9 192 631 770 Hz)ですが、光の周波数はテラヘルツ帯ですので、より高精度に時間を刻めます。不確かさは6.8×10-14です。日本では、秒の定義、国家標準の維持や国際標準との比較を行う国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT:National Institute of information and Communication Technology)が所有、運用しています。その他、大学や研究機関などでも最先端技術を開発するために保有しています。

3) 国際原器

前述の通り、2019年5月20日に重さの基準や長さの基準となる国際原器はすでに廃止されていますが、かつての原器(複製)を紹介します。国際原器は国際度量衡局で保管されています。

① 国際キログラム原器(レプリカ)

図4はシテ科学博物館(パリ、フランス)に保管されているキログラム原器のレプリカです。二重のガラスケースに入れられています。

図4 国際キログラム原器(レプリカ)
図4 国際キログラム原器(レプリカ)

出典:Japs 88、Prototype kilogram replica.JPG CC BY-SA 3.0

各国に配布された標準原器を再測定し比較したところ、変動が見て取れます。このことは、厳重な管理を行っていても、質量の変化を避けられないことを示しています。図5中の1889年黒点は国際キログラム原器の相対値をゼロとし、その後の変化をプロットしています。最も変動が少なかったのは、国際キログラム原器(黒線)と35および40です。

図5 メートル原器の質量変動
図5 メートル原器の質量変動

出典:Greg L Prototype_mass_drifts.jpg CC BY-SA 3.0

② 国際メートル原器定義

図6はアムステルダム国立美術館所蔵のメートル尺、分銅、体積計(いずれもレプリカ)です。

図6 メートル尺 / 分銅 / 体積計
図6 メートル尺 / 分銅 / 体積計

出典: Yerpo 、File:Metric standards Rijksmuseum.jpg、CC BY-SA 4.0

日本が保有している各種原器は、計量標準総合センターで保管管理され、国指定重要文化財となっています。2012年9月6日にメートル原器および長さ関連原器が、2022年3月22日にキログラム原器および質量関連原器が指定されました。写真や詳細な解説は次のサイトをご覧ください。計量標準総合センター

4) 世界標準の時刻

地球全体で統一された時刻体系は「協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)」です。かつては世界の標準時はGMT(グリニッジ標準時)とされていました。時間帯(タイムゾーン)はこのUTCを基準に「±〇時間」で表せます。日本は「UTC+9」です。各国の電子時計で生成されたデータを定期的に国際度量衡局が集約して統計処理を行ってUTCを算出しています。世界で約80の機関が電子時計を運用しています。日本では国立研究開発法人情報通信研究機構が運用しています。なお、時刻のゼロ点は、世界協定時(UTC)における1日の始まりで、世界時の基準となる時刻です。「1970年1月1日00:00:00」を初期値としています。経度0度地点(イギリスのグリニッジ天文台を通る本初子午線)における平均太陽時※5が基になっています。

※5

地球から見た太陽の動きは地球の楕円公転や地軸の傾きにより一定でないので、南中する時刻は日によってズレる。平均太陽時は一定の速さで動く理想の太陽に基づき定義された時刻。

時間を測定する技術が進歩して原子時計で正確な時間の測定が可能になった結果、地球の自転を基準とした「天文時間」と原子時計の測定する「原子時間」の間に誤差が存在することが明らかになりました。このズレをなくすために、1日を1秒伸ばす「閏秒(うるう秒)」が実施されています。この「うるう秒」を2035年までに廃止することが決定しました。ただし、猶予する条件はあります。

5) メール法条約締結150周年

2025年はメートル法締結から150年を迎えました。150周年のテーマは「Measurements for all times, for all people」です。訳すと「全ての時代に、全ての人のための測定」でしょうか。計量が公平な取引の保証、科学的発見の促進、地球規模の課題への対応など、重要な役割を果たしているという意味が込められているのでしょう。

単位の不思議

単位に関する不思議なことについて紹介します。

1) 単位の起源

① 60進法の起源

1時間は60分、1分は60秒と時計の単位は60進法となっています。起源は、紀元前2000年以上前のバビロニア人とされています。月の新月から満月までの間隔が約30日。12回繰り返すと1年365日が経過することを分かっていたようです。ここから、円周を近似値として360とし、6で割ると60となるので、基本を60としたとのことです。英語の1時間は「hour」です。1時間を60等分すると「minute」となります。ラテン語の「minutes:小さなもの」を由来としており、1時間を細かくした「minute」となったようです。分を60分割した秒「second」は「2番目に細かくした」からのようです。

② 台風の風速

熱帯低気圧が発達し、中心付近の最大風速が17.2 m/s以上にあると「台風」と呼びます。風速がきりのいい数字ではなく、小数点となって理由は、もともと風速は「ノット(kt)」で表していたからです。風速34ノット以上のものを「台風」と呼称していたので、メートルに変換すると、17.2 m/sとなります。

③ ビール瓶の内容量

大瓶ビールの容量は633ml、小瓶が344mlとなっています。生い立ちは「尺貫法」です。当時の容量は大瓶が4合、小瓶が2合として販売されていましたが、新たな酒税法を制定する際、実際の容量を調査したところ、ばらつきがあったので、少なめの量に統一したようです。なお、缶ビールの容量が500 ml、350 mlとなっているのは、後になって発売されたからです。

④ 日本酒の味

日本酒のラベルに記載されている「日本酒度」と「酸度」は、その日本酒の特徴を示す指標です。個人的な感覚による違いはありますが、味の傾向が判ります。「日本酒度」は糖質の比重を示します。日本酒度計と呼称される比重計を浮かべて計測します。比重が軽ければ「プラス」、重ければ「マイナス」となります。「プラス」であれば辛口、「マイナス」であれば甘口を意味します。「酸度」は日本酒に含まれる酸(コハク酸、乳酸、リンゴ酸など)の割合を示す指標で、味の濃淡を表現します。「中和滴定」と言われる方法で測定します。日本酒にアルカリ性溶液を滴定液として加えて、pHが中和した時がアルカリと酸とがほぼ同じにことから酸度が判ります。酸度が小さければ、酸味が弱く、「淡麗」な口当たりになります。酸度が大きければ、酸味が強く、濃厚な味わいとなります。

⑤ 真珠の重さ

尺貫法による単位は、正式な契約書では使用が認められていませんが、真珠の取引では重さの単位として、今でも「匁(もんめ)」が慣習として使用されています。日本が初めて真珠の養殖に成功し世界の生産を主導したので世界中に浸透したので廃止できず、使用されているようです。小さい真珠では、「グレン(grain)」が使われることもあるようです。

⑥ 宝石のカラット

宝石の重さを表す単位は「カラット」です。由来は地中海地域に多く生えているマメ科の植物「キトラ」の種子です。「イナゴマメ」とも呼ばれます。宝石は軽いが、正確に測ることが必要だったので、宝石の重さに近い「イナゴマメ」を秤に使ったようです。メートル法により、1カラット = 0.2 g と定められています。

⑦ 登山道の目安

登山道には山頂までの道のりを示す「○○合目」の標識がたっています。一般的には頂上の10合目まで示されていますが、標高や距離を等間隔にしたものではありません。例えば、富士山の登山道では、富士スバルライン五合目は標高2,300m、須走口五合目は2,000m、御殿場口新五合目は1,450mです。その後の「○○合目」は均等ではありません。5合目からの標識が多いのは、登山道の入り口・駐車場などが整備されていることからのようです。何れにしても、「○○合目」は主観によって定められています。

2) 物の数え方

物の数え方は、一般的に「個」「本」「枚」などの助数詞が使われますが、中には物の生い立ちなどから特異な助数詞が使われます。

① 蝶(ちょう)

学術論文などでは「頭」を使います。由来は英語の「head」を直訳したことのようです。明治時代から使われています。動物園で飼育されている動物の数を数える際に、標準的な表記として「頭」が使われるようです。なお、記録する目的によっては、「匹」や「羽」などが使われます。

② 寿司の数え方「貫(かん)」

「貫」の語源に定説はないようです。一説では、江戸時代の貨幣単位「一貫文」に由来します。

③ イカの「1パイ」、「2ハイ」

イカの内臓を取り除くと、空洞のような形「杯」に似ていることから。「カニ」や「アワビ」も同様に「ハイ」。

④ ウサギ

一般的には「〇〇羽(わ)」。「羽」となっていることには諸説あるようですが、肉食が禁じられていた時にウサギを鳥のように数えて食べたことが有力。

⑤ ミサイル

弾を撃つ系の兵器では「発」、発射装置は「台」。

⑥ 山

単独の山を数える時は「1座」。由来は、神様が宿る場所と信仰。

⑦ 飛行機、飛行船

飛行機やヘリコプタは「〇機」だが、飛行船は名前の通り「隻(せき)」。

⑧ 船

タンカや客船などの大型船は「隻(せき)」、小型船は「艘(そう)」、小型ヨットは「艇(てい)」。

関連計測器の紹介

単位に関連した計測器の一例を紹介します。

図7 単位に関連した計測器の例
図7 単位に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

単位の歴史は紀元前4000年以上前から始まりました。生活の中で必要になった物差しから始まり、文明や技術の進展とともに、大きく進化しました。現在では、世界共通の国際単位(SI)に統一されていますが、今後も技術進化に対応するため、測る技術も進化すると推察されます。

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