市場動向詳細

ガラスの技術 ~ 砂と炎とで生み出す素材 ~

ガラスは身近な素材ですが、5000年以上前から知られていた素材です。身近な自動車の窓に使われているガラスをどのように意識していますか?外の景色を見る時のフレームであったり、風雨をさえぎる境目であったりします。防音効果もあるでしょう。材料のガラスは固体として扱われていますが、液体のような特性も持っています。ガラスの構造を表現すると「非結晶固体(アモルファス)」となります。ガラスの対極的な材料として合成樹脂はありますが、透明性、耐久性などの特性において、ガラス方が優れていると評価されています。初期の自動車からフロントシールド※1として採用されています。本稿ではガラス全般について紹介します。まず、ガラスの歴史、市場規模などを述べます。板ガラス、強化ガラス、合わせガラスの統計データを紹介します。次にガラスの特性、種類、製法を解説します。ソーダ石灰ガラスや鉛ガラスなどの種類別に、原料や特徴を表にまとめました。ローマ時代に生まれた製法の吹きガラス法から順番に、コアガラス法、クラウン法、シリンダ法、フルコール法、コルバーン法、フロート法、ロールアウト法などを図解します。業界の課題や、自動車用に求められる新たな対応にも触れます。最後にガラスに関連した計測器を紹介します。

※1

米国英語では「windshield」、英国英語では「windscreen」と表記することが一般的です。日本語では和製英語である「フロントガラス」と言われることが一般的です。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

ガラスとは

ガラス(英語でglass)とは、結晶構造を持たずに、非結晶(アモルファス)状態で固化した物質の総称です。分子の並びは液体に近いですが、固体の特性を有します。固化と液化の境目が明確でありません。温度が上がると粘性の強い液体になりますが、温度が下がると固化します。主な特性は、透明性(光を通す)、高硬度(硬い)、脆性(もろい)、熱的・電気的不良導体、化学的耐性です。なお、ガラスはフッ化水素酸に腐食されます。ガラスは一般的に、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とした物質を示すことが多いですが、広義に捉えると、非結晶状態の物質を含めることもあります。金属ガラスと呼称されるアモルファス金属やアクリルなどのプラスティック材料もあります。ガラスに使用される原料は地球の表面近くを構成する元素のクラーク数※2の上位を占めています。つまり、ガラスは地球の大部分を構成する元素から作られることから、地球と調和する優れた素材と言えます。

※2

各元素の重量パーセント。詳細は次の記事をご覧ください。2024年10月30日公開 自動車の材料 ~ いろいろな材料で作られている自動車 ~

表1 地球表面付近の元素割合(クラーク数)
順位 元素 比率(%)
1 酸素(O) 49.5
2 ケイ素(Si) 25.8
3 アルミニウム(Al) 7.6
4 鉄(Fe) 4.7
5 カルシウム(Ca) 3.4
6 ナトリウム(Na) 2.6
7 カリウム(K) 2.4
8 マグネシウム(Mg) 1.9
9 その他(Ti、H、P、、) 2.1

ガラスの生産実績

図1から図3はガラス製品(一部)の生産数量および販売金額です。2019年から減少となっていましたが、2023年から生産量、販売金額とも増加傾向となっています。

図1 板ガラス
図1 板ガラス

出典:経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」を元に作成

図2 強化ガラス
図2 強化ガラス

出典:経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」を元に作成

図3 自動車用及び鉄道車両用合わせガラス
図3 自動車用及び鉄道車両用合わせガラス

出典:経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」を元に作成

ガラスの歴史

ガラスそのものの存在は石器時代までさかのぼります。この時代はガラスを製造したのではなく、火山活動によって生成された天然ガラスである黒曜石(こくようせき)を矢じりや、刃物として使っていました。人類によってガラスが作られるようになったのは5000年以上前からと推察されています。この頃、青銅器※3が作られるようになっています。ガラスの歴史を世代ごとに概説します。なお、ガラスの製造手法等については、後述の「ガラスの製法」で解説します。

※3

銅や錫(すず)などの合金で作られた道具や工芸品

図4 黒曜石の石器例
図4 黒曜石の石器例

1 古代

最も古いガラスは、紀元前3000年頃のメソポタミアやエジプトで発見されています。当時のガラスはビーズや装飾品として使われており、偶然できたものが最初と考えられています。やがて、砂と植物の灰を混ぜて加熱することで、ガラスを作る技術が発展しました。ガラス製造の起源については諸説あるようです。例えば、銅を製錬する際の副産物を由来とする説や土器に釉(うわぐすり)としてかけた成分からガラス製法を導き出したとした説です。紀元前1500年頃には画期的な製法「コアガラス法」が発見されました。

2 ローマ時代(紀元前1世紀~5世紀)

ローマ帝国の時代になると、「吹きガラス法」が生まれ、短時間で簡単に作られるようになりました。この製法は現在もガラス工芸品等で適用されています。器、ランプなど広く普及しました。ガラスを透明にする技術を発展させ、ガラスを建築材料としても使用し始めました。西暦79年のベスビオ火山の大噴火により埋没したポンペイの町では浴場の天井窓に板ガラスが使われていました。この頃のローマ帝国はガラスの製造を国策として保護していたようです。その後、ガラスの技術は東洋まで浸透していきました。

3 中世ヨーロッパ(5世紀~15世紀)

ローマ帝国が崩壊すると、ガラス産業は一時的に衰退しました。ルネサンス時代前夜になると、再びガラス技術が発展しました。ガラスはステンドグラスとして教会や大聖堂の装飾に使われるようになりました。ベネチアのムラーノ島では、精巧な装飾ガラスが発展し、ガラス職人を集めて外部への技術流出を禁止しました。

4 ルネサンスから近世(16世紀~18世紀)

ガラスの用途として、食器や窓ガラス、工芸品だけでなく、光学ガラスの技術が開発され、望遠鏡や顕微鏡が発明されました。ガリレオ・ガリレイが望遠鏡を改良し天文学を発展させました。鉛ガラス(クリスタルガラス)が開発され、透明度が高く美しいガラス製品が作られるようになりました。

5 産業革命(18世紀~19世紀)

産業革命の時代となると、大量生産が可能になりました。ガラスを溶解する燃料として石炭が使われ、鉄骨で構築された大きな建物にガラスが使われるようになりました。窓ガラスや鏡、飲料用グラスなどが日用品としても使われるようになりました。ガラスの製法として、大変革をとげた時代です。「クラウン法」より大きなガラスを製造できる「シリンダ法」の考案や、ガラスの溶融を大量に連続して可能にする「蓄熱式加熱法」が考案されました。ガラスは、セメントや鉄と並び、「近代建築の三大要素」と呼ばれるようになりました。

6 現代(20世紀~現在)

20世紀に入ると、より大量生産が可能な製法が開発されました。基本原理は溶融したガラス槽から徐々に引き上げることです。ラバース(米国)による「ラバース法」、さらに発展させた、フルコール(ベルギ)による「フルコール法」、同時期に、コルバーン(米国)による「コルバーン法」が考案されました。「コルバーン法」は現在の主流である「フロート法」につながる機械化の原型となった画期的な技術として評価されています。20世紀以降、ガラスは建築用や日用品としてのガラスだけでなく、新たな分野に適用されるガラス系の技術や製品が発明されました。具体例としては次の製品や技術が挙げられます。
・光ファイバー(通信技術)
・液晶ディスプレイ(LCD)や強化ガラス(スマートフォンやテレビ)
・耐熱ガラス(調理器具や宇宙開発)
・特殊ガラス(ゴリラガラスやスマートガラス)
・ナノテクノロジーを活用したガラスや環境に優しいガラス素材
など、今後もさらなる技術進化が期待されます。

日本における歴史について紹介します。最古のガラスは弥生時代の遺跡の中から、勾玉(まがたま)や管玉(くだたま)※4が発見されています。700年頃にはガラスの玉を造っていたことが判っています。東大寺正倉院には渡来した複数の器やガラス玉の製造に関する記録も保管されています。時代を下り、1549年にフランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸し、時計や鉄砲とともにガラス鏡と遠目鏡(とおめがね:望遠鏡の類)を贈ったようです。江戸時代にはガラス細工が見世物興行として流行りました。また、装飾品やガラス器の装飾技術が発展しました。明治時代に入ると、数多くのガラス製造会社が設立され、日本におけるガラス関連技術が進化しました。

※4

勾玉:C字型の形状で一端に穴がある。管玉:円筒形で中央に穴がある。いずれも紐を通して装飾品として使用。

ガラスの原料

一般的なガラスの製造で使用される主要な材料は①珪砂(けいしゃ:SiO2)、石灰(CaCO3)、ソーダ灰(Na2CO3)です。その他に、着色、耐熱性、強度、透明性などを向上させる添加物を加えます。

① 珪砂

全てのガラスの基本成分です。原料は石英(せきえい)の砂が用いられます。これは珪砂(けいしや)と呼ばれています。石として掘り出されることもあり、砂のように砕いて使います。砕いたものも珪砂と呼びます。初期のガラスは、原科に含まれている多量の不純物や、製造方法が不備であったことより多数の泡や凹凸となっているため不透明です。

② ソーダ灰

化学名は炭酸ナトリウム(Na2CO3)です。ガラスの中では酸化ナトリウム(Na2O)の形になっています。初期のソーダ灰は、草木を燃やした灰から作られていました。

③ 石灰

炭酸カルシウム(CaCO3)を含む鉱石を原料として用います。ガラスの中では酸化カルシウム(CaO)の形になっています。

ガラスの色

ガラスの着色方法はいくつかの技術があります。金属酸化物をガラスの中に溶け込ませる方法、金属や非金属をコロイド状※5の粒子としてガラスの中に拡散させる方法、ガラスの表面にコーティングする方法、ガラスに染料や顔料を塗布して焼成する方法などです。

※5

微細な粒子(1㎚~1㎛)が液体や固体の中に分散した状態。身近な食材では、ミルクやゼり中の固形粒子がある。

ガラスの着色は厳密な計量が必要とされます。同じ着色剤でも、ガラスの成分や溶融する条件が変わると発色が変化することもあるようです。古代や中世時代に製作された物を再現できていない色もあるようです。表2は主な色と着色剤との関係です。

表2 ガラスの発色と着色剤
主な着色剤
銅、コバルト
金、銅
マンガン、ニッケル
ピンク マンガン、金
銅、鉄、クロム
鉄、銀、チタン
オレンジ マンガン、鉄、ニッケル
鉄、セレン
コバルト、鉄、マンガン、カーボンブラック
乳白 フッ化物、リン酸塩、金属酸化物

ガラスの特性

ガラスは液体状態で粘度が高く冷却されるので、結晶構造とならず、液体のようにランダムな原子・分子構造となっています。そのため、強度が求められる建設物の材料として採用されていません。一定の厚さ以上に積み上げるとたわみます。ガラスの基本的な特性を物理的、化学的に区分すると以下となります。

1 物理的特性

① 光学特性

ガラスは透明性が高く、可視光をよく透過します。屈折率はガラスの種類によって異なるので、レンズ等の光学機器に利用されます。紫外線や赤外線の透過性についても異なります。紫外線を吸収し赤外線を透過するガラス(UVカットガラスと呼ばれる種類)があります。表面のコーティング処理やガラスの成分調整で、光の反射や吸収の特性を変えられます。

② 機械的特性

硬度は高いですが、たわみ難い、もろい特性です。硬度はモース硬度10※6のダイヤモンドに対して、5~7の特性です。圧縮には強いが引張には弱い。強度を強くすることは可能です。

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鉱物や宝石の硬さを表す単位。1~10の段階で表記される。計測したい鉱物と基準となる鉱物とをこすり合わせ、キズの有無で硬度の高低を決める。硬さを表す尺度として、「ビッカース硬度」も使われている。ダイヤモンドでできた圧子(剛体)を測定する物質に押し当て、凹んだ面積を測定し硬度を数値化する。

③ 熱的特性

熱膨張率が低いです。熱膨張率をさらに低くした製品もあります。耐熱性については、ガラスの種類によって異なります。500℃~1000℃以上の製品もあります。熱衝撃性については、低い特性ですが、耐熱ガラスは耐熱温度差を高めています。

2 化学的特性

化学的な安定性が高いので、酸に対して比較的強いです。ただし、フッ化水素酸に溶けるので注意が必要です。アルカリ性溶液については、ガラスの主成分が溶解します。

参考)ガラスのやけ

ガラスには金属や炭素分子の含有がほとんどないので、経年劣化は少ないのですが、「水」に対しては劣化の症状が現れます。一般的に「ガラスのやけ」と言われています。浴室や噴水等など、ガラスの表面で水分の濡れと乾燥が繰り返されると、ガラスから溶け出す成分(Na+)と空気中の炭酸ガス(CO2)や亜硫酸ガス(SOx)などの酸性のガスと反応した物質がガラスの表面に析出し、白濁させることがあります。化学反応によって発生する現象なので、拭き掃除では除去が困難です。研磨等の物理的な方法が必要です。中性洗剤等でこまめに清掃することが望まれます。

3 電気的特性

ほとんどのガラスは電気絶縁性が高いです。特定のガラスは導電性を持ちます。ITOガラス(酸化インジウムスズ)など。

4 加工特性

常温では硬く加工は難しいですが、高温になると可塑性になるので、成形が可能となります。吹きガラスによる工芸品の製作や金型を使ったプレス成形が行われます。ガラスの表面に各種特性を改善するコーティングや薄膜の形成が可能です。

ガラスの種類と用途

ガラスの種類は成分の割合や製造方法によって多くの種類がありますが、ガラスの成分で大きく分類すると3つに分けられます。①ソーダ石灰ガラス、②ホウケイ酸ガラス、③鉛ガラスです。これら3つで、全てのガラスの95%以上を占めます。残りは特殊なガラスで、生産量は少ないです。表3は各種ガラスの特徴、原料、用途です。

① ソーダ石灰ガラス

窓ガラス、びん、多くの食器類などに使われ、もっとも普通のガラスです。古代に作られたガラスもソーダ石灰ガラスと考えられています。珪砂(SiO2:二酸化ケイ素)が主成分で、石灰石とソーダ灰※7をまぜて製造されます。比較的低コストです。熱膨張が大きいため、急激な温度変化によって破損することがあります。リサイクルが可能なことも特徴です。

※7

「ソーダ」はナトリウム化合物「soda」を示す言葉として使われる。ナトリウム(Na)の元素名「natrium」はドイツ語で、英語では「sodium」。一般的に、化学分野では「ナトリウム」、工業分野では「ソーダ」を持ちいるようで、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などがある。なお、重炭酸ナトリウムは「重曹」、塩化ナトリウムは「食塩」。

② 鉛ガラス(クリスタルガラス)

高級食器や装飾品などに使われガラスで、二酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化鉛(PbO)が主成分です。ソーダ石灰ガラスに比べて、屈折率が大きく、カット模様をつけるとキラキラと良く輝きます。

③ ホウケイ酸ガラス

主成分は珪砂ですが、「棚砂(たなし)」と呼ばれる高純度の珪砂が使われます。不純物、例えば鉄分(Fe2O3)などが少ないことを特徴としています。日本国内にも産地が点在しています。その他の成分として、ホウ酸の含有率を高めています。ホウケイ酸ガラスの特徴は熱膨張率が低ことです。急加熱や急冷に強いことから電子レンジ用や直火用の調理器具に使われています。一般的には耐熱ガラスと呼ばれます。なお、耐熱ガラスとは、耐熱温度差が120℃以上を指すようです。また、化学的な安定性に優れていることから、理化学機器や医療用注射器でも使用されます。

表3 各種ガラスの特徴、原料、用途
種類 特徴 原料 主な用途
ソーダ石灰ガラス 最も普及、耐熱性(膨張係数90~100) 珪砂、ソーダ灰、石灰 一般の食器、窓ガラス
ホウケイ酸ガラス 耐熱衝撃性(膨張係数30~50)、耐化学性 珪砂、ホウ酸、硼砂 耐熱食器
鉛ガラス(クリスタルガラス) 透明度、屈折率大、カットしやすい、比重大 珪砂、酸化塩、炭酸カリウム カットグラス、高級食器
石英ガラス 透明度が高い、耐熱性(膨張係数5) 石英粉、水晶粉、珪砂 光ファイバ、半導体製造装置
強化ガラス ソーダ設計ガラスの強度3倍、粉々に割れる ソーダ石灰ガラスなど 自動車のガラス、鍋ふた
化学強化ガラス 耐熱性、耐衝撃性、耐傷性 アルミノケイ酸ガラスなど スマートフォンのパネル
結晶化ガラス 耐熱性、耐熱衝撃性、高強度、寸法安定性、加工性 珪砂、酸化アルミニウム 耐熱食器、半導体基板、望遠鏡ミラー

金属ガラス

金属ガラス(メタリックガラス)は、「ガラス」が含まれているため混乱しやすいですが、実際には二酸化ケイ素(SiO2)を含まない材料が多いです。構造と特性がガラスに似通っているので「金属ガラス」と呼称され、特徴は次の通りです。

① 非晶質構造

金属ガラスもガラスと同様に、非晶質状態で固化しています。

② 製造プロセス

通常のガラスと同様に、急速冷却によって非晶質構造を形成します。

③ 物理的特性

金属ガラスは通常の金属と異なり、高強度、高硬度、耐食性の特性があります。

金属ガラスの例として、ジルコニウム、バナジウム、ニッケル、銅を主成分としたものがあります。

ガラスの製法

ガラスの製法は5000年以上前から時代とともに新たな技法が考案されてきました。前述の「ガラスの歴史」で概説した製法を含め、表4は主な製法が考案された歴史です。装飾品の製作を目的とした型による製法から始まり、紀元前1500頃に発案されたと推察される「コアガラス法」、次の画期的な方法は紀元前100年頃の「吹きガラス法」です。400年頃になると、平板のガラスを製作する「クラウン法」が発明されました。1800年代に入ると、平板の大きさを大型にできる「シリンダ法」が発案されました。「シリンダ法」をさらに進化させた「ラバーズ法」へつながりました。その後、1900年になると、ガラス板の大量生産が可能となる画期的な方法である「フルコール法」、「コルバーン法」が相次いで導入されました。1950年代には大量生産の工法として主流となっている「フロート法」が発明されました。

表4 ガラス製法の歴史
年代 ガラス製造方法
紀元前15世紀 コアガラス法
紀元前1世紀 砂型鋳造法、拭きガラス法
1200年頃 クラウン法(フランス)
1668年 キャスティング法(フランス)
1800年頃 シリンダ法
1850年代 蓄熱式加熱法(ドイツ)
1905年 ラバース法(アメリカ、機械吹き円筒法)
1913年、1916年 フルコール法(ベルギー)、コルバーン法(アメリカ)
1950年代 フロート法(イギリス)

ガラスの歴史で述べた製法について解説します。

① 砂型鋳造法

砂で作った型に溶融したガラスを流し込んで製作します。

② 吹きガラス法

金属パイプの先に溶融したガラスを巻き付け、空気を吹き込みます。

図5 吹きガラス法
図5 吹きガラス法

③ コアガラス法

コアガラス法は、紀元前16世紀ごろ、メソポタミアで始まった最古のガラス器製作技法です。金属棒に藁(わら)を巻いて、その上を粘土質の泥などで塗り固めて器の型つくったコア(芯)を乾燥させます。その周りに融かしたガラスを被せて形を整えて、着色や模様を施した後に冷やして作っていたと考えられます。最後にコアをかきだせばガラスの器が完成します。図7は「コアガラス法」により製作された保存状態の良い最古のガラス容器とされています。

図6 コアガラス法
図6 コアガラス法
図7 ファラオ トトメス 3 世の名が刻まれた聖杯
図7 ファラオ トトメス 3 世の名が刻まれた聖杯

出典:captmondo Chalice with Name of Pharaoh Thutmose III - 18th Dynasty - ÄS 630.jpg CC BY-SA 4.0

④ クラウン法

鉄製のパイプの先に溶融したガラスを巻き付け、空気を送り込むことでガラス球を造ります。目的の厚さと大きさになったら、吹込み側の反対にポンテと呼ばれる鉄の棒を取り付けます。その後、吹込み側を切断すると大きな開口となります。再度加熱し鉄の棒を回転させるとガラス球は遠心力で広がり、平面状となります。考案された当初は直径10cmから20cm程度でしたが、19世紀頃には1m以上もの円板が作られたようです。

図8 クラウン法
図8 クラウン法

⑤ キャスティング法

1668年、ド・ヌー(フランス)が発明しました。銅製のキャスティングテーブルを鋳型にして、溶融ガラスを流し込みます。そしてローラーで平らに成形。従来よりも大きな板ガラスを作れるようになりましたが、ガラス表面にローラーの跡が残ります。そのためガラスを磨く必要がありました。

⑥ シリンダ法

1800年頃、産業革命時代に「シリンダ法」が発明されました。吹いたガラスを円筒形に整えて、上端と下端を切断し、筒状になったガラスを切り開いて長方形の板にします。この方法により大きな板ガラスを製造できるようになりました

図9 シリンダ法
図9 シリンダ法

⑦ ラバース法

1902年、ラバース(米国)が「シリンダ法」を改良し量産化できる方法に発展させました。ガラス球を生成する空気をコンプレッサーにより吹込み、円筒の生成を機械装置により引き上げることで長い円筒を形成します。その後、円筒を装置から切り離し、シリンダ法と同様に両端の切断と円筒の展開を行い、板ガラスが製造されます。この方法により、板ガラスが大量生産されるようになりました。

⑧ 蓄熱式加熱法

1850年代、ジーメンス兄弟(ドイツ)が蓄熱式加熱法による溶融窯を発明しました。吹きガラスによる製作では「るつぼ窯」を使い、板ガラスが完成するまでに冷却と加熱を何度か繰り返す必要があるので、生産性が低いことが課題でした。高温を長く保つことができ、ガラスを溶かすところから仕上げまでを、連続して行えるようになりました。これが近代のガラス工業生産に貢献した画期的な方法です。

⑨ フルコール法

溶融ガラスに「デビトーズ」と呼ばれる装置を押し込みます。デビトーズの中心に細長いスリットがあり、ガラスはそのスリットを上に向かって引き上げられます。その過程で徐々に冷却され、デビトーズを出る頃には板ガラスになっています。デビトーズの寸法によって、板厚と幅が決まります。

図10 フルコール法
図10 フルコール法

⑩ コルバーン法

「デビトーズ」のような装置を使わずに、溶融したガラスを直接引き上げる方法です。図11は「コルバーン法」の装置イメージです。

図11 コルバーン法
図11 コルバーン法

⑪ フロート法

ピルキントン社(英国)によって発明されました。現在の板ガラス製造の主流となっています。図14はフロート法の工程イメージです。溶けたガラスを、フロートバス内にある1100℃で溶かした錫(すず)の上に、ガラスを流し込みます。この時の速度と量は製造するガラスの厚さ等の仕様に応じて制御します。速度を変えることでガラスの厚みを制御することが可能です。フロートバス内のガラスは錫より比重が小さいので、ガラスは錫の上に浮かんだ状態になります。その後の工程である徐冷炉でゆっくり冷やし、その後の工程で、洗浄し、所定の寸法に切断することで完成します。ラインの長さは全長600m以上におよびます。フロートガラス法によるガラスの板厚は一般的に2mm〜25mmまであります。均一な厚さのガラスを大量に生産できることから、自動車用のガラス、建築材、ディスプレイなどの用途向けに適用されています。

図12 フロート法の工程
図12 フロート法の工程

⑫ ロールアウト法

ロールアウト法は1920年代に導入されました。網入りのガラスや模様が彫られた型ガラスの製造に適用されます。溶融ガラスを上下のロールで挟んで板ガラスを製作します。網ガラスを製作する工程は2本のロールの回転に合わせて網を挟み、網入りの板ガラスが製作できます。型ガラスの場合は下側のロールに模様が刻まれており、ロールを通過すと模様が刻まれます。

図13 ロールアウト法(網入りガラス製造)
図13 ロールアウト法(網入りガラス製造)

以上、個々のガラスの製法について概説しましたが、改めて、ガラスの製法をまとめると、現在のガラス製法は大きく分けて5つの工程で行われます。①材料の調合、②溶融、③成形、④焼きなまし、⑤加工です。

1 材料の調合

主成分は珪砂(SiO2)で、ソーダ灰(Na2CO3)や石灰石(CaCO3)を加えます。製造するガラスに応じて各種材料を混ぜます。ガラスの種類と材料の成分の例は表3をご覧ください。

2 溶融

調合した原料を約 1,400~1,600℃ の高温で溶かし、均一なガラス液を作ります。溶融炉は大きく分けて坩堝炉(るつぼろ)と溶解炉があります。

3 成形

溶かしたガラスを用途に応じた方法で成形します。代表的な成形法には以下のようなものがあります。

  1. 吹きガラス法
    棒の先にガラスを巻き取り、息を吹き込んで成形します。手作りのガラス工芸品などで使用されます。
  2. プレス成形法
    金型に溶融したガラスを流し込んで、金型で押しつぶして成形します。コップや皿などの日用品の製作でに使用されます。
  3. 引き上げ法
    溶融したガラスを引き上げて、一定の厚みのガラス板を作る方法です。液晶ディスプレイや光ファイバー用ガラスなどに使われます。
  4. 延伸法(細長いガラス繊維)
    溶融したガラスを細い糸状に引き伸ばしてガラス繊維を作る方法です。断熱材(グラスウール)や光ファイバーの製作に使われます。

4 焼きなまし(アニール)

ガラスが急激に冷えることによる歪や割れを防ぐため、徐々に温度を下げる焼きなましを行い、内部応力を除去します。

5 加工・仕上げ

用途に応じて様々な加工が施されます。

  1. 強化ガラス:急冷して強度を高める。
  2. コーティング処理:反射防止や耐熱性の向上。
  3. 切断・研磨:ガラスの形状を整える。

ガラス業界の課題と対応

産業界全体の課題と同様に地球温暖化対応が喫緊の課題です。特に、ガラスの製造過程において、大量のエネルギ消費やCO2排出を避けて通れません。ガラスの製造工程における日本全体でのCO2排出量は漸減のようです。よりCO2排出量を削減するための諸施策が検討実施されています。

① 燃料転換

ガラスの製造工程で使用される重油を、単位熱量当たりのCO2排出量が少ない天然ガスへ切り替える。さらに、エネルギ源を水素などへ転換する技術が期待されます。

② 燃焼改善

燃焼時に空気から酸素へ変えることで、空気中の窒素(約80%)を燃焼温度まで上昇させるための顕熱(けんねつ)が無用となるので、結果的にCO2削減につながります。

③ 排熱利用

大量に発生する排熱を回収する方策により発電を行い、製造工程トータルで熱効率を高めます。

自動車用ガラスに求められる新たな対応

自動車のガラスにおいては、カーボンニュートラル対応もさることながら、快適性の向上やADAS等の先進デバイスへの対応が求められています。

① 快適性向上

近年のフロントガラスやドアガラス、リヤガラスは大型化しています。面積の増大に伴って、赤外線や紫外線の入射量が増え、車室内の温度上昇や紫外線による皮膚へのダメージが課題となっています。その対策として、ガラスの表面処理や合わせガラスの中間膜の改良がおこなわれています。図14は赤外線、紫外線を反射するガラスのイメージです。

図14 赤外線、紫外線反射ガラス
図14 赤外線、紫外線反射ガラス

② 電力消費低減

太陽光の熱エネルギが車室内へ入ることでエアコンの電力消費が増えます。電動車両にとっては、電費の悪化による航続距離の低下につながります。その対策として、ガラスの遮熱性能向上の対策が施されます。

③ 先進デバイス対応

ADAS等の先進技術では、使用されるセンサに応じた特定波長領域の透過性向上、ガラスのくもり抑制、着色による性能低下抑制等の性能向上が求められています。また、GPSやミリ波レーダ、携帯電話等の電波が遮熱対策で採用された表面処理や中間膜によって電波透過性に影響を与える課題があります。

関連計測器の紹介

ガラスに関連した計測器の一例を紹介します。

図15 ガラスに関連した計測器の例
図15 ガラスに関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

ガラスは身近にある素材ですが、意識することなく、接していると思います。本稿で述べた通り、人類が古代から接してきた製品であり、時代とともに技術が進展しました。今後、ガラスの基本成分や製法は大きく変わることはないかもしれませんが、環境対応や先進技術への対応について、さらなる技術進化を期待しましょう。

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