歯車 ~ 動力を伝える重要な部品~
歯車とは、「JIS B0120-1歯車用語」※1によると、「歯を順次かみ合わせることによって、運動を他に伝える、又は運動を他から受け取るように設計された歯を設けた部品」とされています。歯車は自動車において多く使われています。エンジン※2やトランスミッション※3等の型式により、歯車の個数は異なりますが、数十から100個近い歯車が使用されているようです。本稿では、歯車について解説します。先ず、歯車の歴史、歯車の種類を解説します。平行軸の歯車として、平歯車、はすば歯車、やまば歯車、内歯車、ラック&ピオニオン、非円形歯車、交差軸の歯車として、すぐばかさ歯車(ストレートベベルギヤ)、曲がりばかさ歯車(スパイラルベベルギヤ)、食い違い軸の歯車として、ウォームギヤ、ハイポイントギヤ、ねじ歯車(スパイラルギヤ)、の構造を解説します。その後に、主要な材料の製法について概説します。創生法と成形法、ホブなどについて述べます。歯先や歯面などの歯車各部の名称や、インボリュート曲線、サイクロイド曲線、バックラッシュなどの歯車理論を概説し、自動車各部への歯車の適用事例を紹介します。最後に歯車に関連した計測器の例を示します。
英語では「gear」です。JISのカタカナ表記では「ギヤ」が用いられています。なお、運動用具や衣服も「gear」と呼称されますが、カタカナ表記では「ギア」を用いることが多いようです。
・2022年6月2日公開「自動車用内燃機関の進化~まだまだ活躍するガソリンエンジン」
・2022年6月27日公開「自動車トランスミッションへの期待~まだまだ進化が続く」
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
歯車のはたらき
歯車の基本的な働きは、①回転運動を伝える、②回転速度を変える、③回転方向を変える、です。
- 回転運動を伝える。
自動車では、エンジンの運動エネルギを、トランスミッションを経由してタイヤへ伝えます。 - 回転速度を変える。
自動車のトランスミッションにおいて、エンジンの回転数をギヤで変速します。 - 回転方向を変える。
自動車の差動機構(デフ)ではエンジンからの動力を複数のギヤを経由してタイヤの車軸へ運動の方向を変えます。
歯車の歴史
歯車の起源としては車輪であろうとの見解があります。紀元前には木材を材料とした車輪が使われていたことが遺跡の発掘から判っています。また、歯車は紀元前に考案されていたようです。古代ギリシャアの哲学者であるアリストテレスの名義とされている著書「機械学」には、歯車に関連する記述が残されています。しかしながら、先人たちは類似の機構を既に使っていたと推察されます。図1はインドで使われているペルシャの水車と呼ばれる水揚げ歯車の一例です。その後、アルキメデスはらせん形状の機構による水の組み上げ装置を発明しています。この構造がウォームギヤの原型であると評価されています。その他に、複数の歯車を組み合わせた巻き上げ装置も発明しています。
1901年にギリシャのアンティキティラ島近海で沈没船から発見された「アンティキティラ島の機械」と呼称されている遺物は、近年の研究で紀元前2世紀ごろの製作とされ、複数の歯車で構成されています。天体運行を計算するためのツールであろうと推定されています。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 伊 1452年~1519年)は歯車に関連する多くのスケッチを残しています。
中世時代には歯車の仕組みが開発され、時計などの複雑な機械や装置が考案されました。産業革命の時代になると、歯車が動力源の一部として、蒸気機関車や鉱山用の機械で本格的に使用されました。また、大量生産されるようになり、工場や自動車など適用分野が広がりました。近代になると、自動車や時計、家電などで歯車に関する技術が進化し、材料、精度、加工技術が急速に発展しました。近年は、コンピュータ技術の進化に合わせて、設計精度の向上や、小型の歯車が開発され、精密部品の時計だけでなく、医療などにも適用され、さらに多くの製品で利用されています。
余談1:
五円硬貨の表面には「稲穂」、「波」、「歯車」が描かれています。「稲穂」は農業、「波」は漁業、「歯車」は工業を、また、裏面に描かれている「双葉」は林業を表しているようです。なお、穴が空いた形状は、1949年(昭和24年)に発行されてから変わっていませんが、1959年(昭和34年)から、書体が楷書体からゴシック体へ変更されています。世界の国旗でも歯車が描かれている事例があります。これらも、工業を表しているようです。
余談2:
歯車の大きさに関する記録を筆者が調べたところでは、最小のギヤは分子レベルで製作されています。歯車の寸法は2nm以下のようです。一方、大型の歯車は鉱業で使用されるもので、直径13メートル以上、重さ73トン以上あるようです。図6は神奈川県川崎市富士見公園に展示されている歯車の遺構です。ステンレス鋼板を製造する設備の一部として、1966年から1996年に稼働していました。日本冶金工業株式会社が寄贈しました。詳細は次のサイトをご覧ください。なお、設置場所は公園のリニューアルに伴い、公園内の別の場所へ移設されています。
https://www.city.kawasaki.jp/kawasaki/page/0000026764.html
左側:高さ約3m、重さ約28t、右側:高さ約2m、重さ約36t
歯車の種類と特徴
歯車を分類する観点として、歯の形状や軸の位置関係による分類がありますが、歯車軸の位置関係で分類するのが一般的で、①平行軸、②交差軸、③食い違い軸の3つとなります。平行軸の歯車には、平歯車、はすば歯車、内歯車、はすばラックなどが、交差軸の歯車には、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車などが、食い違い軸の歯車には、ウォームギヤ、ハイポイドギヤ、ねじ歯車などがあります。
1) 平行軸の歯車
a) 平歯車
軸に対して直角に歯筋が入った一般的な歯車です。構造がシンプルで作りやすいことが特徴です。「スパーギヤ」とも呼ばれます。幅広く用いられています。
b) はすば歯車
平歯車の歯筋がねじれて、つるまき線状になっている歯車です。平歯車に比べて一度にかみ合う歯数が多いので伝達効率が高く、振動や騒音が少ないことが特徴です。「ヘリカルギヤ」とも呼称されます。一般的に、乗用車に用いられる動力伝達用の歯車は、ほとんどが「はすば歯車」です。平歯車と違って歯が少しずつかみ合っていくため、平歯車に比べて音や振動の面で有利だから。ただし、歯筋が軸に対して傾いているため、回転する際、軸方向にスラスト力が働き、歯車は軸方向に動こうとします。また、平行度をずらすような力も働きます。スラスト力を受け止めるためには、平歯車に比べて軸受けが複雑になります。
c) やまば歯車
やまば歯車は歯筋が左右逆の歯車を組み合わせた構成です。各々の歯車に作用するスラスト力が逆向きとなるので、スラスト力を打ち消すことができます。トルクの伝達力が効率的で、振動や騒音が抑えられます。「ダブルヘリカルギヤ」とも呼ばれます。フランスのOEM※4シトロエンのエンブレムは山形模様(シェブロン)を縦に二つ並べた「ダブル・シェブロン」と呼ばれており、やまば歯車の歯筋に由来しているとのことです。
自動車業界では一般的に完成車メーカのことを表す。
d) 内歯車
内側に歯のある平歯車の一種です。平歯車は2つの組み合わさった歯車が逆方向に回転しますが、内歯車は2つの歯車が同一方向に回転します。内歯車は「インターナルギヤ」とも呼称されます。自動車では「内歯車」に基づく遊星歯車機構による変速装置※3が採用されています。但し、歯筋の構造は、騒音や伝達力の要件により、はすば歯車となっています。
e) ラック&ピニオン
ラックは板状の歯車ことで、ピニオンは円筒状の歯車のことです。ラックとピニオンを組み合わせた歯車を一般的に「ラック&ピニオン」と呼称します。回転運動を直線運動に変換でき、自動車ではステアリング機構※5で採用されています。ハンドルの操作により車輪を操舵できます。
詳細は2021年3月25日公開「パワーステアリングの進化 ~自動運転に欠かせない電動パワーステアリング~」をご覧ください。
f) 非円形歯車
歯車の外径形状が円でない歯車です。図13の例は楕円形の歯車で構成されています。適用されている製品例として、流量計があります。2個の楕円形歯車を長辺と短辺とが90°ずれた位置で組み合わさっています。流体は歯車とケースとの間から流れていきます。流体とケースとで構成される空間の体積は判っているので、歯車が回転すると一定量の流体が流れます。よって、歯車の回転数が判れば、流体が流れた体積を計算することが可能です。
2) 交差軸の歯車
交差軸の歯車はおのおのの回転軸が交差しない歯車の組み合わせです。
a) すぐばかさ歯車
かさ歯車とは円錐台の歯車で組み合わされます。傘に似た形状から命名されたようです。図14の例は歯の筋が直線なので「すぐばかさ歯車」と呼称されます。回転運動の方向を変更する際に使用されます。「ストレートベベルギヤ」とも言われます。
b) 曲がりばかさ歯車
円錐台形にらせんを描くように歯筋がついた歯車を「曲がりばかさ歯車」と言います。回転運動の方向を変える交差軸歯車の一種ですが、噛み合う面が多いので振動が少ない特徴があります。「スパイラルベベルギヤ」とも呼ばれます。
3) 食い違い軸の歯車
歯車の回転軸が交わらない組み合わせです。
a) ウォームギヤ
ネジが切られたシャフト(ウォーム)と、ホイールで構成された歯車を「ウォームギヤ」と言います。交差角度は通常90度です。減速比が大きいため、回転方向を変換することに加えて、大きな減速比が必要なときに使用されます。
b) ハイポイドギヤ
曲がりばかさ歯車(スパイラルベベルギヤ)の一種ですが、駆動歯車と被動歯車の軸が交差しない「食い違い軸」となっています。自動車では駆動系の、いわゆる「デフ」に適用されています。入力軸のプロペラシャフトが地面側へ配置できるので、車両の床面に影響を与えにくいボディ構造が採用できます。
c) ねじ歯車
ねじ歯車は、はずば歯車の組み合わせや、はすば歯車と平歯車の組み合わせで構成されます。食い違い軸ですが、はすば歯車の特殊な組み合わせと言えます。「スパイラルギヤ」とも呼称されます。自動車の部品ではトランスミッションで使用されます。
歯車の製法
歯車を製造するためには、まず歯車のもととなる形状の材料を加工することになります。歯車で構成される装置の性能要件やコスト等に合致する材料や製法が選択されます。その後、歯車の歯が加工されます。歯車の歯を加工方法として、主に①創成法と②成形法が採用されています。
① 創生法:
歯車の歯を全体的に少しずつ成形する製造方法です。効率よく歯車を生産できるため、量産品などの製造に適しています。代表的な工作機はホブ盤です。ホブ歯切り加工は、「ホブ:hob」と呼ばれる歯を有する工具と製造するギヤを同期して回転させることで行う加工方法です。図19はホブの一例です。図20はホブ盤の例です。ホブを回転させながら、歯車となる材料との回転を同期し、歯を生成します。例えば、ホブが回転すると歯車の材料が1歯(1ピッチ)回転します。歯車が40の歯数であれば、ホブが40回転すると材料が1回転します。実際の加工では歯を一度の工程で加工するのではなく、ホブを少しずつ歯幅方向へ移動させて加工します。
② 成形法:
歯車の歯を一枚ずつ成形していく方法です。エンドミルなどの切削工具を使って、歯を一枚ずつ切削して加工します。
歯車の理論
歯車各部の主要な名称は表1の通りです。
| 箇所 | 名称 | 説明 |
|---|---|---|
| A | 歯底 | 歯の根元 |
| B | 歯面 | 歯がかみ合う面 |
| C | 歯元歯元たけ | 歯底から歯先までの長さ |
| D | 円ピッチ | 歯と歯との間隔 |
| E | 歯先 | 歯の先端部 |
| F | 歯幅 | 歯車の軸方向長さ |
| G | 歯底円直径 | 歯の根元を結んだ円の直径 |
| H | 基礎円直径 | インボリュート曲線を描くときの円柱の直径 |
| I | ピッチ円直径 | ピッチ点を結んだ円の直径(基準円直径とも呼称) |
| J | 歯先円直径 | 歯の先端を結んだ円の直径 |
歯車に関する主な仕様について概説します。
1) 歯形
歯車の形には、インボリュート歯形とサイクロイド歯形が主として採用されています。通常、動力を伝達する歯車にはインボリュート歯形が、時計などの精密機械にはサイクロイド歯形が使われています。
① インボリュート歯車
「インボリュート曲線」と呼ばれる形状の歯形となっています。インボリュート曲線を作図するイメージは、筒に巻いた糸をほどく際、糸の先端が描く曲線です。この曲線で歯形を加工するとインボリュート歯車となります。
特徴を列挙すると、
- 歯車の中心距離が多少ずれても、歯が適正にかみ合う。
- 歯形を正確に加工しやすい。
- 歯形が曲線を接してかみ合うので、スムーズな回転運動を伝達できる。
- 歯元が太くて強度を確保しやすい。
② サイクロイド歯車
サイクロイド曲線は直線上を円が転がるときに円周にある1点が描く軌跡です。サイクロイド曲線は物体が最も速く滑り落ちる曲線です。サイクロイド歯形の特徴を挙げると、
- 歯元の面積が広いので強度が高い。
- 完全な転がりで回転するので抵抗が低い。
- かみ合う歯どうしが、まったく干渉しない。
以上の特性から、時計や精密機械などの低い負荷の製品に使用されています。
2) 歯の大きさ
歯の大きさは示す値は「モジュール値」です。ピッチ円直径を歯数で割った数値です。計算式は以下の通りです。歯車は同じモジュール値でないとかみ合いません。
m:モジュールの値、d:ピッチ円直径、z:歯数
モジュール値は、m1、m2と表現し、モジュール1、モジュール2と呼称します。標準的な表記で、歯の大きさを表し、数字が大きいほど歯が大きくなります。その他の表記として、インチ寸法の場合は、DP24などと表記します。DPはダイヤメトラルピッチの略で歯の大きさをインチ単位で表したものです。基準円直径1インチ(25.4mm)あたりの歯数で表します。ダイヤメトラルピッチ(DP)とモジュール(m)との関係は、DP = 25.4 ÷ モジュール(m)です。「JIS B 1701-2:2017」では、モジュールの標準値が規定されています。Ⅰ列とⅡ列がありますが、Ⅰ列を優先すると記述されています。Ⅰ列として、1、 1.25、 1.5、 2、 2.5、 3、 4、 5、 6、 8、 10、12などが記載されています。
3) バックラッシュ
理論的に歯車を設計できても、実際に回転させると歯と歯との隙間が少なく、スムーズに回らなくなります。そのため、ピッチ間に若干の隙間を設けます。これをバックラッシと言います。バックラッシを設けるために、歯厚を減らしたり、ギヤ軸の中心間距離を調整したりする方法などを適用します。バックラッシの大きさにより騒音が増加したり、潤滑油が行き渡らず歯面が焼き付いたりします。
自動車の適用例
歯車が自動車に適用されている代表的な事例を紹介します。
1) トランスミッション
図26はマニュアルトランスミッションの例です。平歯車とはすば歯車が使用されています。自動車のトランスミッションでは、騒音を抑制するため、前進側のギヤでははすば歯車が使用され、後退側のギヤは頻度が低いことやコストダウンのため、平歯車を使用することが多いようです。図27はステップATと呼称されるオートマチックトランスミッションの例です。はすば歯車や平歯車の他に、多段の変速を取り入れるため、遊星ギヤが採用されています。
2) ステアリング
タイヤを操舵するステアリングユニットで、ラック&ピニオンが採用されています。ハンドルからの回転運動を、ラック&ピニオンにより直線運動へ変換し、タイヤを操舵します。
3) ワイパ
自動車のワイパではウォームギヤが採用されています。駆動モータの軸にウォームギヤが接続され、ウォームギヤの回転がホイールギヤに伝わり、ワイパーアームに接続される軸が回転します。
4) デファレンシャル
図30はデフの一例です。図31はデフの内部構造です。エンジンからの駆動力がドライブピニオンを回転させます。ドライブピニオンはリングギヤを駆動します。リングギヤと一体となったデフケースが回転します。デフピニオンギヤはデフケースと一体となったピニオンシャフトにより駆動されますが、左右の駆動輪の負荷が同じ時は、デフピニオンギヤは回転せず、左右の駆動輪はデフケースと同じ回転数となります。駆動輪の負荷に差がある場合は、デフピニオンギヤが回転するので、両駆動輪に回転数差が発生します。例えば、図31で、リングギヤが300回転で回っているとします。左駆動輪の負荷が高くなり、200回転となっていると、リングギヤの回転数差100回転が右駆動輪を増速し400回転で回ります。このとき、左右輪の平均回転数はリングギヤの回転数と同じとなります。極端な例として、凍結した路面で、片方の駆動輪が300回転とすると反対側の駆動輪は0となり駆動力が伝わらなくなります。
関連計測器の紹介
歯車に関連した計測器の一例を紹介します。
その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
歯車の歴史は古く、技術進化により、形式や設計手法、材料、製造技術など多くの領域で進化してきました。今後は歯車の基本構造に大きな変化はなくとも、材料や製造技術の進化に加えて、エネルギ効率の向上や環境課題へ対応など様々な領域において技術進化が期待されます。
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