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リレー ~ 電気をつなぐ技術 ~

リレーは英語「relay」の造語です。意味は「受け継いで次につなぐ」です。日本語では「継電器」となっています。語源はラテン語とされており、フランス語を経由して15世紀頃に英語となったようです。本稿では、リレーの技術を概説します。最初にリレーの定義と歴史を紹介します。次にリレーの基本原理、分類、接点の構造・形状を解説します。電気機械式リレーの構造や回路図、外観から始まり、シングルステイブルやラッチングの動作、色々な種類がある接点(a接点、b接点、2a2b接点、4c接点など)を図解します。さらに、安全リレー、リレー駆動回路、およびリレーの動特性を概説します。リレーの駆動回路には、保護のためにダイオード方式やスナバ回路、アクティブクランプ方式などがあります。これらを回路図で説明します。その後に、リレーに関する不具合事例や、回路の遮断機能であるフューズ、特殊なリレーを紹介します。自動車に多く使われている各種のフューズを図や表で解説します。最後にリレーに関連した計測器の例を示します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

リレーとは

リレーとは、外部からの信号を受けて、電気回路の開閉を切り替える部品です。小さな電流で大きな負荷を開閉できるので、増幅器とも言えるでしょう。また、直流電源により、交流電流の開閉もできることから、電源変換機能もあります。さらに、リレーの構成により、一つの入力信号で複数の電気回路を開閉することも可能です。

図1 小信号で大電流を開閉
図1 小信号で大電流を開閉
図2 電源変換
図2 電源変換
図3 複数の電気回路を開閉
図3 複数の電気回路を開閉

リレーの歴史

リレーは電磁気学と通信技術の進展により実用化されました。1830年後半にサミュエル・モールス(米国)は継電器(リレー)を使った電信機の実験に成功し、「モールス符号」※1を考案しました。このことが、リレーが普及するきっかけになったと言えます。当時の電信機は、コイルが発生する磁界によって電流のオン/オフを機械的な運動に変換することでした。可動部に記録用のペンを装着すれば、モール信号を記録することができたようです。

※1

(Morse Code) 単点(・)と長点(-)とを組み合あせて文字を表現。例えば、アルファベット A:・-、B:-・・・。数字0:―――――、1:・――――、2:・・―――。

20世紀に入ると、電話交換機や電力系統の制御、工場設備等の産業用機器、家電を始めとした民生機器で採用が進みました。その後、半導体の技術進化により、機械的なリレーに比べて応答性や小型化に優れた半導体方式のリレーが普及しました。

リレーの基本原理

リレーには基本的に2つのタイプがあります。電気機械式リレーとソリッドステートリレーです。両者の違いは可動部があるかどうかです。

1)電気機械式リレー

コイルに電流を流すことで磁力※2を発生させ接点を動かし回路を開閉します。図4は動作原理です。図5はリレーの電気回路です。端子A、Bに接続されたコイルに通電すると電磁力が発生し可動鉄心が鉄心に引き寄せられ、可動鉄心復帰用のバネは引っ張られます。可動接点が固定接点と接触し、端子Cと端子Dの回路が閉じます。通電を止めると、可動鉄心復帰用のバネの引っ張り力により可動鉄心は鉄心から離れ、端子Cと端子Dは開きます。図6はリレーの構造例です。

※2

電磁石の基本原理を発見したのはジョセフ・ルイス・ゲイ-リュサック(フランス、1820年)。実用的な電磁石を発明したのはウイリアム・スタージャン(英国、1823年)。電磁気に関する解説は、2023年4月28日公開記事「モータ ~ いまや産業のコメ」をご覧ください。

図4 機械式リレー動作原理
図4 機械式リレー動作原理
図5 リレーの回路図
図5 リレーの回路図
図6 リレーの構造例
図6 リレーの構造例

2)ソリッドステートリレー

半導体により構成されており、機械的な接点はなく、半導体部品により電気回路を開閉します。1950年代の後半に実用化されました。可動部品のない設計のため、電気機械式リレーよりも長寿命で、低い制御信号で動作します。また、開閉の高速動作が可能、機械部品の摩耗がない、機械的な衝撃を受けない等の特徴がありますが、大電力などの用途には適しません。電圧や電流の過渡信号やEMIなどのノイズにより、動作の影響を受けることがあります。また、半導体の特性により、周囲温度の影響を受ける可能性があります。

リレーの機能による分類

リレーの動作を分類すると、シングルステイブル、ラッチングとなります。

1)シングルステイブル

コイルに通電している間だけ接点が動作します。通電を止めると接点は戻ります。

図7 シングルステイブルリレーの動作
図7 シングルステイブルリレーの動作

2)ラッチング

コイルを通電すると接点が動作し、オンまたはオフします。通電を止めても、接点の状態が保持されます。鉄芯、継鉄、接極子などの材料が磁気特性的に永久磁石と軟質磁性材料の中間の性質を示す半硬質磁性材料となっています。そのため、電流が流れなくなっても、半硬質磁性材料の残留磁束による電磁力によって鉄片を引き寄せています。よって接点を保持することができます。ラッチングの機能を行うためにリレーの構成として、1巻線と2巻線があります。1巻線式では、セットとリセットとを共用するコイルの通電極性を反転させることで、接点の開閉を切り替えます。2巻線式ではセット用コイルとリセット用コイルとが別々に設けられています。

図8 ラッチングリレーの動作
図8 ラッチングリレーの動作

接点の構成

接点の構成には、a接点、b接点、c接点、1a1b接点などと呼称される色々な種類があります。

  1. a接点
    メーク接点とも言われます。コイルの通電により接点が閉じる構造です
  2. b接点
    ブレーク接点とも言われます。コイルの通電により接点が開く構造です。通電されていない時に接点は閉じています。
  3. c接点
    トランスファ接点とも言われます。a接点とb接点とを組み合わせた構成となっています。2つの回路を切り替えることができます。
  4. 1a1b接点
    a接点とb接点との組み合わせが2個設けられています。2つの回路を1つのリレーで別々に切り替えることができます。
    図9 a接点、b接点、c接点、1a1b接点
    図9 a接点、b接点、c接点、1a1b接点
  5. その他
    2a接点などの数字は、接点の構成を表します。図10は2a2b接点、4c接点の例です。
    図10 2a2b接点、4c接点
    図10 2a2b接点、4c接点

接点の形状

接点の形状は、接点の許容電流や信頼性等の要件により、シングル接点、ツイン接点、クロスバーツイン接点等が採用されています。

図11 接点の形状
図11 接点の形状

安全リレー

リレーを工場設備などに適用する場合、機械の操作や保守を行う際、安全に行えることが不可欠です。そのため、小信号を扱う一般的な機器とは異なった安全機構を具備したリレーが選択されます。その一例として、リレー自体に安全機能を持たせた「強制ガイド式リレー」があります。強制ガイド式リレーは通常の機能として、接点の切り替えを行いますが、リレー自身の接点が溶着すると故障が取り除かれるまで故障状態を維持します。強制ガイド式リレーの一例では、a接点(ノーマルオープン)とb接点(ノーマルクローズ)は壁で仕切られ、互いに干渉しませんが、両接点はガイドによって機械的に連結されています。リレーの接点が正常であれば、コイルの通電に応じて、接点の動作は正常に行われます。図12の左はコイルの通電がオフ、中央はコイルの通電がオンとなるとガイドにより接点A、B、接点C、Dはそれぞれ開閉します。右は端子C、Dの接点が溶着する異常が発生したため、通電を止めても接点C、Dは固着した状態となりますが、ガイドに設けられているスリットにより接点A、Bは閉じることなく、開の状態を維持します。つまり、a接点とb接点とが同時に閉じることがない構造となっています。また、接点A、Bの間隔が所定以上に確保される構造となっています。この時、端子A、Bの電気的状態を監視することで、接点CとDとが固着していることを判定できます。

図12 強制ガイドリレーの動作イメージ
図12 強制ガイドリレーの動作イメージ

リレー駆動回路の保護

リレーのコイルは駆動回路に対して誘導負荷となります。図13は誘導負荷とON/OFFした際の過渡特性です。

図13 リレーのコイルを駆動した際の電流、電圧動作
図13 リレーのコイルを駆動した際の電流、電圧動作

コイルの駆動をスイッチではなく、トランジスタとした場合、図14の回路構成ではトランジスタのコレクタに逆起電圧が印可されます。この電圧がトランジスタの耐電圧を超えると、トランジスタが劣化し破損します。防止策としては逆起電圧を抑制する素子の追加が必要となります。なお、耐電圧だけでなく、その他の規格にも注意が必要です。例えば、安全動作領域(Safety Operation Area:SOA)です。詳細は各所の情報をご覧ください。

図14 コイルの駆動回路例
図14 コイルの駆動回路例

逆起電力からトランジスタを保護する手段として、数々の方策が採用されています。主要な方式として、1)ダイオード方式、2)定電圧ダイオード方式、3)スナバ回路、4)アクティブクランプ方式を解説します。詳細は各所の情報をご覧ください。

1)ダイオード方式

誘導負荷(リレーのコイル)に対してダイオードを並列に接続します。電磁エネルギをダイオードとコイルの抵抗成分によってエネルギを熱として消費させます。コレクタ電圧はダイオードの順方向電圧(VF)+VCまでしか上昇しません。但し、エネルギが消費されている間、リレーは駆動されるので、接点の開閉が遅れます。

図15 ダイオード方式の回路例
図15 ダイオード方式の回路例

2)定電圧ダイオード方式

ダイオードと直列に接続した定電圧ダイオードをコイルと並列に接続します。ダイオード方式と同様に、エネルギを熱として消費させます。コレクタの電圧はVC+Vz(ツェナー電圧)+VFまで上昇するので、トランジスタの耐圧を超えないツェナー電圧の選択が必要です。ツェナー電圧が大きいほど応答時間は早くなります。

図16 定電圧ダイオード方式の回路例
図16 定電圧ダイオード方式の回路例

3)スナバ回路

コイルのエネルギを、コイルに接続する抵抗(R)とコンデンサ(C)で構成するRC回路で消費させます。抵抗とコンデンサの定数を調整してトランジスタの破損を防止します。

図17 スナバ回路
図17 スナバ回路

4)アクティブクランプ方式

誘導負荷で発生する逆起電圧をトランジスタの耐圧以下の電圧に制限(クランプ)する方式です。図18は回路イメージです。

図18 アクティブクランプ方式の回路イメージ
図18 アクティブクランプ方式の回路イメージ

リレーの動特性

リレーの動的な特性は、理想的な動作特性とはならず、コイルを制御してからの動作時間、復帰時間など、さまざまな特性を考慮し、適用するシステムの要件を満足する設計や品種の選定が必要です。代表的な動特性を紹介します。図19はa接点の動特性をイメージしています。コイルを通電(ON)してからの動作時間およびバウンス時間、常時閉となるまでの時間を考慮することが必要です。図20はコイルの通電を止めて(OFF)してからの復帰時間とバウンス時間を設計要件に加味することが必要です。バウンス時間は接点の開閉が安定するまでに発生する間欠的な開閉動作です。筆者は、「接点のチャタリング」と経験的に呼称してきましたが、JIS(日本産業規格)では、「バウンス」と定義されています。なお、JISでの「チャタリング」とは、リレーの外的要因、例えば衝撃や振動により、接点で発生する間欠的な開閉と定義されています。

図19 a接点の動特性(コイルOFF→ON)
図19 a接点の動特性(コイルOFF→ON)
図20 a接点の動特性(コイルON→OFF)
図20 a接点の動特性(コイルON→OFF)

リレーの不具合

リレーに関する主要な不具合を紹介します。

表1 リレーの不具合事例
不良部位 事象 主な理由
コイル/接点 コイルの断線 過電圧印加により、コイルの発熱による溶断。超音波洗浄による断線の可能性もあり。
発熱による動作不良 接点のバウンスによるアーク放電で、接点が発熱し、接点の溶断や溶着などが発生し動作不良に至る。
接点 落下 リレーを落下させた衝撃により、構成部品が変形し、接点の接触不良などが発生する。
接点消耗 負荷開閉により接点は消耗し、寿命が来ると導通不良が発生する。
酸化皮膜の生成 微小負荷の開閉に銀系の接点材質のリレーを適用すると酸化皮膜を生成しやすく、接触不良に至る可能性あり。
硫化・塩化 防水性のないリレーを硫化ガス雰囲気や塩害の雰囲気で使用すると、接点が硫化や塩化が発生し接触抵抗が上昇。結果、接触不良に至る。
炭化物の生成 ソレノイドなどの誘導性負荷を開閉すると、接点の接触面に炭化物(カーボン)が生成し接触抵抗が上昇。結果、接触不良に至る。
フラックスの侵入 リレーを基板へ実装する際、はんだ付けのフラックスが内部へ侵入し、接触不良へ至る。
シリコンの侵入 シリコンガス雰囲気中で使用すると、ガスがリレー内部へ侵入し、接点面に酸化シリコンが堆積し接触不良へ至る。ガス発生源として、シリコン系コーティング剤、接着剤、ゴム、リード線など。

フューズ

本稿でこれまで述べてきたリレーの基本的機能は電気回路の開閉ですが、フューズの基本機能は所定の条件、例えば、電流により、電気回路を永久的に開状態とする部品です。主な用途は電気回路の保護です。フューズに過電流が流れると、発熱により溶断することで、電気回路を切断します。自動車においては多くのフューズが使用されています。各システムの電気回路には、その回路に合わせた電流容量のヒューズが使われています。図21はフューズの例です。端子の間に溶断部が設けられています。

図21 フューズの例
図21 フューズの例

近年のエレクトロニクス化の進展により、フューズの小型化も求められており、図22の形状が採用されています。左側上部がブレード型、下部がミニ型、右側は低背型と呼ばれています。

図22 フューズの形状例
図22 フューズの形状例

フューズの定格電流は、数値の表記と併せて樹脂部の色により、定格電流が識別できるようになっています。図23は定格電流表記の例、表2は色の例です。

図23 定格電流の表記
図23 定格電流の表記
表2 定格電流と色
フューズ定格電流
(A)
1
2
10
15
20
30

フューズが実装される部品はフューズボックスです。図24は自動車のフューズボックスの例です。

図24 フューズボックス
図24 フューズボックス

その他のフューズとして、スローブローと呼ばれているフューズも採用されています。モータが負荷では起動時の短時間に大電流が流れるため、溶断する時間が長い特性となっています。ワイパー、パワーウインドウ等の回路で使用されています。ランプなどには通常のフューズが適用されます。図25はスローブローフューズの例です。

図25 スローブローフューズ
図25 スローブローフューズ

フューズに関する試験規格については、JASO D612(日本自動車規格)で、国際規格ではISO 8820で定められています。

特殊なリレー

発電所の電圧は数十万ボルトの高圧です。最終的に一般家庭へ供給されるまでに、100V~200Vへ変圧されます。その間、必ず変電所を経由しますが、変電所において、何らかの不具合が発生すると、送電を遮断することが必要となります。家庭の100Vを遮断することと大きく異なり、単純な接点の開放では大規模なアーク放電が発生するので、火災発生等に至ることが想定されます。そのため、特殊な構造の遮断器を用いることによりアーク放電を消滅(消弧)させます。主として二つの方式が採用されています。

1)真空遮断器

開閉する電極を真空状態にしてアーク放電を消弧します。

2)ガス遮断器

絶縁性能の高いガス(SF6:sulfur hexafluoride 六フッ化硫黄)により消弧します。なお、SF6は地球温暖化への影響が大きいことから規制対象となっています。

図26 SF6式遮断器の例
図26 SF6式遮断器の例

関連計測器の紹介

リレーの技術開発に関連した計測器の一例を紹介します。

図27 リレーの技術開発に関連した計測器の例
図27 リレーの技術開発に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

リレーは1800年代前半に実用化されて以来、関連する技術進化により小信号から大電力まで、また、多くの産業分野でも普及しました。旧来の電気機械式から半導体を背景としたソリッドステートリレーの比率が高まると推察されますが、リレーの基本機能は大きく変化することはなくとも、市場の要求に対応した技術進化が期待されます。

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