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めっき ~ 素材の特性を高める技術 ~

本サイトでは、過去に製品の表面を加工する技術として「塗装」※1を紹介しました。「塗装」は主として樹脂材料等の塗料を塗布する方法ですが、材料の表面に別の金属を形成する手法として「めっき」が挙げあられます。身近のさまざまな用品や、自動車用部品において適用されています。本稿では、めっきの歴史や手法について概説します。最初にメッキの定義から始め、歴史、目的、めっき材料の特徴を紹介します。次に、めっきの種類を湿式法と乾式法とに分類した体系図を示します。その後に、各方式の概要について述べます。湿式法については、電気めっき、無電解めっき(置換めっき、化学還元めっき)を、乾式法については溶融めっき、溶射、気相法を概説します。気相法については、PVD(物理蒸着法)とCVD(化学蒸着法)の観点で複数の手法を述べます。また、プラスチック素材へのめっき適用や、ひっかけ、バレルめっきなどのめっき工法、硬さ試験などの評価方法、環境規制(RoHS指令など)について触れます。最後にめっきに関連した計測器の例を示します。

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2022年11月28日公開「塗装の技術 ~ 素材の保護と美観を高める」をご覧ください。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

めっきの定義

「めっき」とは、金属や非金属などの表面に別の金属で薄い膜を生成させる加工技術です。本稿では「めっき」と表記しますが、カタカナ表記の「メッキ」を目にすることがあります。そのため、「メッキ」は外来語と認識される方もいるかと思いますが、和製造語です。漢字では「鍍金」と書きます。「めっき」と呼ばれるようになった一説は以下のようです。「鍍」の異字体(同じ意味の字)は「塗」です。「鍍金」の由来は「金を塗る」を表現した「塗金」に始まり、仏像に「めっき」する方法として、アマルガム法※2が使われ、水銀を蒸発させるので「滅金」となり、「めっきん」と呼称したようです。その後、「塗」の異字体から「鍍金」に転化されました。時代の経過とともに、「めっきん」が現在の「めっき」になったとされています。今では、カタカナ表記の「メッキ」を目にすることがありますが、生い立ちから推察すると、「メッキ」の表記は誤りとする考え方があります。

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アマルガムは水銀と他の金属を混ぜ合わせた合金の総称。常温で液体。加熱すると水銀が蒸発。歯科用途として、長年「歯科用水銀アマルガム」は使用されてきたが、日本では2016年に保険診療から外されている。水銀に関連して様々な論争があるようである。

めっきの歴史

めっきは古くて新しい技術です。紀元前16世紀には、メソポタミア北部(現在のイラク)で、鉄器にすずめっきが行われた記録があるようです。その後、エジプトや中国及び周辺地域へも広く伝わりました。紀元前700年ごろになると、東ヨーロッパの遊牧民族がアマルガム法によって、青銅に金めっきを行っていたようです。日本に伝わったのは古墳時代からです。仏教とともに伝来し、アマルガム法によってめっきが施されたようです。4世紀ごろの古墳から出土したものは、乗馬用の馬具や刀剣類、儀式用の装具などで、金めっきが施されています。図1は愛知県春日井市 猪之洞古墳(古墳時代・6世紀)で出土した装飾品です。双龍文環頭大刀柄頭(そうりゅうもんかんとうたちつかがしら)。金めっきが残っている箇所を認識できます。

図1 古墳から出土した金めっきの装飾品
図1 古墳から出土した金めっきの装飾品

出典:国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/J-35478

ご存じの東大寺盧舎那仏像(とうだいじるしゃなぶつぞう)、いわゆる東大寺大仏は752年(天平勝宝4年)に建立されました。高さは約15メートルもある現存する日本最大の仏像です。表面には、アマルガム法によって金めっきが施されました。なお、建立された時点では金めっきは完了していなかったようです。火災による焼失等があり、鎌倉時代や江戸時代に補修されています。建立当時の名残は台座や像の一部だけのようです。その後、めっきの技術は広がりましたが、基本的な原理は無電解めっき法(後ほど解説)でした。しかし、めっきにおけるブレークスルとなったのは、商用として使える実用的な電気めっき法(後ほど解説)の発明です。1840年にエルキントン社(英国)※3が電気めっきに関する多くの特許を取得しました。これを支えたのは1800年にボルタ(イタリア)が発明したボルタ電池※4です。電気を安定して供給できるようになったからです。日本に電気めっきが伝来したのは江戸時代末期です。1855年に薩摩藩の藩主、島津斉彬(しまづなりあきら)が、初めて、金めっきと銀メッキを甲冑(かっちゅう)に施したとされています。明治時代になると、電気めっきが普及し、めっきの工業化が進みました。大戦後には金属以外へのめっきが可能となる手法が開発され、ハードディスクや半導体など現在の技術革新を支える重要な技術になりました。

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後継の事業者によって存続しています。当時の銀食器は今でもアンティークとして人気があるようです。

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電池の技術については、2021年4月27日公開「電池の進化~EV化のキーパーツ」をご覧ください。

めっきの目的

めっきを施す目的は、装飾性だけでなく多種多様です。代表的な目的を紹介します。

  1. 耐食性
    素材の腐食を防ぐためです。もっとも多く適用されているでしょう。身近な工業製品では、ほとんどの「ねじ」※5に施されています。自動車用部品ではボディを構成する亜鉛めっき鋼板が主な例です。その他のめっき材料として、すずやニッケルが使用されます。
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    2024年2月29日公開「部品をとめる ~ ねじ、ボルト ~」をご覧ください。

  2. 装飾性
    製品の見栄えを良くするためです。アクセサリなどの宝飾品に利用されています。工業製品や自動車部品でも適用されています。めっきの材料としては、金、銀、クロムなどです。
  3. 導電性
    製品に導電性を与えるために適用されます。半導体などを実装するプリント配線板や、ハードディスク装置の記録媒体などです。
    図2 ねじのめっき
    図2 ねじのめっき
    図3 インナードアハンドルのめっき
    図3 インナードアハンドルのめっき
    図4 プリント配線板
    図4 プリント配線板
  4. 耐摩耗性
    摺動する部品などの摩耗を抑制する手法として採用されています。自動車では、エンジン部品を始め多くの部品で採用されています。
  5. 耐熱性
    部品の耐熱性を向上させるために適用されます。融点の高いめっき材料として、タングステンやニッケルが使用されます。自動車用部品ではエンジン関連の部品に適用されています。
  6. 金属以外への適用
    金属以外の材料、例えば、プラスチックなどに施されています。自動車部品では、フロントグリルやドアハンドルが一例です。素材のプラスチックの耐候性や外観の向上を目的としています。
図5 エンジンのクランクシャフト
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図6 エンジンのバルブ
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図7 自動車のフロントグリル
図7 自動車のフロントグリル

主要なめっき材料と特徴

代表的なめっきの材料と特徴は以下です。めっきする目的によって使い分けられます。

  1. 銅めっき
    銅(Cu)は電気伝導性や熱伝導性に優れています。また、金属として延伸性があるので加工しやすい特徴があります。他の金属をめっきする際の下地めっきとしても適用されます。自動車のエンブレムでは、素材の樹脂に銅めっきを施し、その上層に他の金属をめっきします。電気伝導性を活かして、プリント配線板の配線として施されます。
  2. ニッケルめっき
    ニッケル(Ni)は歴史のあるめっき手法です。1830年代に開発されて、日本では明治初期に行われたようです。下地めっきや装飾めっき、電子部品のめっきなど多くの用途で使用されています。めっき液の濃度や添加剤の配分、作業条件により、外観が、無光沢/半光沢/光沢に仕上げられます。
  3. クロムめっき
    クロム(Cr)めっきは装飾用のめっきの他、耐食性や耐摩耗性を向上させる用途として適用されています。自動車用部品では耐摩耗性を高めるため、エンジン部品などの摩耗しやすい部品などに用いられています。
  4. すずめっき
    すず(Sn)は融点が低く(232℃)、錆びにくく、比較的安価なので古くから使われてきました。導電性にも優れていることから、電子部品を実装するハンダ付けの合金材料として活用されています。また、耐酸性の特性を活かして、缶詰のめっきとして施されています。
  5. 亜鉛めっき
    亜鉛(Zn)は鉄材料の防錆めっきとして適用されています。イオン化傾向が鉄よりも高いのでイオンになりやすい特性があります。鉄に亜鉛めっきを施した製品で表面に傷があっても、亜鉛が先に腐食するので、鉄材を保護することができます。

    イオン化傾向について、「トタン」と「ブリキ」との違いで解説します。「トタン」は鉄の表面に亜鉛めっきを施したもの。「ブリキ」は鉄の表面にすずめっきを施したものです。両者とも鉄の腐食を防止するための製品ですが、その違いをイオン化傾向の観点で理解できます。イオン化傾向とは金属が水溶液中で陽イオンになろうとする特性のことです。イオン化傾向が高い金属ほど、電子を放出しやすくなります。電子を放出することは「酸化される」ことになるので、イオン化傾向が高いほど酸化されやすくなります。イオン化傾向の列は以下となります。Au(金)のイオン化傾向が最も低いので錆びにくい金属であることが理解できます。なお、H(水素)は金属でないですが、水溶液中での電子のやりとりに関係するため挙げられています。
    Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > H > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

    図8はすずめっき鋼板と亜鉛めっき鋼板に傷がある場合の腐食が発生するイメージです。Fe(鉄)にすず(Sn)がめっきされている鋼板では、傷部に水滴があると、FeはSnよりイオン化傾向が高いので、水の中にFeが溶け出して鉄イオン(Fe-)となり鋼板が腐食します。一方、亜鉛めっき鋼板では、Znの方がFeよりもイオン化傾向が高いので、亜鉛が溶け出して亜鉛イオン(Zn-)となり、鋼材の腐食を防止します。

    図8 すずめっきと亜鉛めっきの腐食メカニズム
    図8 すずめっきと亜鉛めっきの腐食メカニズム
  6. 金めっき
    金(Au)はめっき材料のなかで、電気伝導性が特に優れています。電子部品、例えば、ICのボンディングワイヤ、コネクタの端子などに使用されます。金はイオン化傾向が低いので腐食しづらい特性から、アクセサリなどの装飾を目的にした表面加工にも適しています。
  7. 銀めっき
    銀(Ag)は電気伝導率が高い金属です。光沢性が高いので、ネックレスや指輪などの宝飾品として使用されています。また、耐抗菌性があるので食器などにも適用されています。
  8. 合金めっき
    複数の金属元素による合金を材料としてめっきを行います。単体の金属では得られない特性を付与することが可能となります。耐食性、耐摩耗性の向上が期待できます。例えば、ニッケルークロム合金めっきは耐食性や光沢に優れているので装飾品に適用されています。亜鉛―ニッケル合金めっきは耐食性に優れるので自動車部品で使用されています。銅―すず合金めっきは導電性と腐食性が特徴なので電子部品で使われています。
  9. 複合めっき
    金属めっきの中にセラミック粒子やダイヤモンド粒子などの非金属粒子を分散させためっき層を生成する技術です。金属めっきの特性に加えて、非金属粒子の特性を付加することができます。ダイヤモンドや炭化ケイ素などによる耐摩耗性、テフロンなどによる潤滑性の向上が図られます。

めっきの種類

めっきの種類は古代から続く方法だけでなく、新たな方式も考案されてきました。基本的な分類は、湿式法と乾式法となります。湿式法はめっき液を使う化学反応による膜を生成させます。乾式法はめっき液を使わず、物理的な方法でめっき膜を生成します。めっきの方法を体系化すると図9となります。

図9 めっきの体系
図9 めっきの体系

1 湿式法

1)電気めっき

主流のめっき方法です。電気めっきの原理は図10です。電気分解を応用し、めっき液中の金属イオンを電気的エネルギと化学変化により還元※6し、金属皮膜を生成させます。図10はニッケルめっきの場合です。ニッケルイオンを含むめっき液に金属ニッケルを陽極、メッキしたい製品を陰極として直流電源を接続し電流を流すと、陽極のニッケルは電子(e)を電極に残してニッケルイオンとなります。陰極の製品から電子を得たニッケルイオンは金属となり製品にニッケル被膜が生成されます。

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還元反応:物質が電子を得る、もしくは物質が酸素を失う、あるいは水素と結合する。酸化反応:物質が電子を失う、もしくは物質が酸素と結合する、あるいは水素を失う。

図10 電気めっきの原理
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2) 無電解めっき

一般的に電気を使わないめっき方法です。後述の溶融めっきは除きます。化学反応によってめっき層を形成します。無電解メッキをさらに分類すると、置換型と化学還元型に分けられます。置換型めっきでは、めっきしたい金属よりめっきされる金属(製品)のイオン化傾向が高い組み合わせだけで可能な方法です。図11は置換めっきの一例です。銅よりイオン化傾向の高い鉄がイオンとなって電子を放出します。その電子により銅イオンが還元されて銅が析出します。

図11 置換めっきの原理
図11 置換めっきの原理

図12は化学還元型(自己触媒型)のめっきの一例です。還元剤(RA)が触媒で酸化され、電子を放出します。その電子によりNiが還元され、析出します。このNiがNiイオンを還元する触媒となって連続して反応を進行させます。

図12 化学還元型(自己触媒型)めっきの原理
図12 化学還元型(自己触媒型)めっきの原理

図13は非触媒型めっきの一例です。ガラス板に銀の膜を生成し鏡を製作する手法として採用されています。めっき液中の銀イオンが添加されている還元剤から電子を受け取り、ガラス表面に銀が析出します。この反応は「銀鏡反応」と呼ばれます。めっき液全体で反応が進むので、還元反応が終わると銀の析出が止まります。よって、めっき膜の厚さには限界があります。

図13 非触媒型めっきの原理
図13 非触媒型めっきの原理

2 乾式法

1) 溶融めっき

めっき材の金属を融点以上に加熱すると液体状態になります。自動車用の鋼板として使用される亜鉛めっき鋼板の例では、亜鉛を溶融した槽に被めっき材料の鉄鋼板を浸漬して引き上げると、鉄と亜鉛との合金層が生成され、その上に亜鉛の膜が形成されます。その後の処理として一般的に亜鉛めっきの耐食性をさらに高めるための処理が行われます。図14は亜鉛めっき鋼板の断面イメージです。

図14 亜鉛めっき鋼板の断面イメージ
図14 亜鉛めっき鋼板の断面イメージ

2) 溶射法

めっきする金属を溶融し、めっきする製品に溶射してめっき膜を形成する方法です。熱源としては、ガスなどによる燃焼炎や電気エネルギによるものがあります。溶射するめっき材料としては、単体金属、合金、セラミックス、サーメット※7などがあります。

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セラミック(ceramic)と金属(metal)との合成語と言われている。セラミックスの耐熱性と金属の弾力性を備えた複合材料。

図15 溶射法の原理イメージ
図15 溶射法の原理イメージ

3) 気相法

ドライエッチングとも呼ばれ、物理蒸着法(PVD)と化学蒸着法(CVD)※8とに分けられます。物理蒸着法には、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法があります。化学蒸着法には熱化学反応法とプラズマCVD法があります。

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PVD:Physical Vapor Deposition、CVD:Chemical Vapor Deposition

4) 物理蒸着法(PVD)

  1. 真空蒸着法
    真空にした容器の中で、金属を加熱し、蒸発させて膜を生成する技術です。図16は原理イメージです。
    図16 真空蒸着法
    図16 真空蒸着法
  2. イオンプレーティング法
    基本原理は真空蒸着法と同様に金属を蒸発させて成膜しますが、成膜する基板にマイナスの電圧を印可し、蒸発させる金属にプラスの電圧を印可します。そうすることで、蒸発した金属がイオン化され基板に効率良くめっきすることができます。また、析出速度が速いことも特徴です。
    図17 イオンプレーティング法
    図17 イオンプレーティング法
  3. スパッタリング法
    放電によりアルゴンガスをイオン化し、めっき材料にぶつけることで、めっき材料が弾き出されてめっきする基板に飛んで行き、めっき膜が造られます。高温の反応なので、高融点の金属や化合物でも成膜することができます。
    図18 スパッタリング法
    図18 スパッタリング法

5) 化学蒸着法(CVD法)

  1. プラズマCVD法
    めっき材をプラズマ化させることが特徴です。めっきする材料とする極と対極とに高周波を印可してプラズマを発生させ、めっきする技術です。
    図19 プラズマCVD法
    図19 プラズマCVD法
  2. 熱化学反応法
    めっきする材料を反応炉に入れて高温に加熱し、反応ガスとめっきする材料を蒸発させて炉内に供給し、熱化学反応によってめっきを製膜させます。

めっき技術の応用

1 プラスチック素材のめっき

自動車のエンブレムやフロントグリルの素材は主としてABS樹脂ですが、表面は光沢のある金属めっきが施されています。樹脂にめっきをすることで多くのメリットがあります。部品の形状を樹脂成型で済まし、機械加工することなく、めっきすることで、金属部品に比べて、材料コストや加工コストの低減、軽量化などが可能です。ABS樹脂に金属をめっきする基本は大きく分類すると4つの工程となります。①素地を荒らすエッチング、②表面に触媒を吸着させる。③表面に金属を析出させる。④次のめっき工程、となります。ABS樹脂はA(アクリルニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)ですが、クロム酸などのエッチング液に浸すとブタジエン粒子が溶解し、小さな凸凹が形成されます。その後の金属めっきが凸凹に食い込んで密着性が高まります。次の工程で、触媒としてのパラジウム(Pd)を吸着させます。そして、パラジウムを触媒にして、無電解ニッケル(Ni)めっきを行うと、ニッケルが還元作用によって析出され、導電性が付加されます。その次の工程で電気めっきを行うと、金属めっき膜が生成されます。

図20 樹脂めっき工程の概要
図20 樹脂めっき工程の概要

2 電鋳法

英語では、Electroformingとなり、日本語では電気鋳造法を略して「電鋳法(でんちゅうほう)」と呼ばれています。電鋳法による製作イメージは図21となります。①製品と同形状の母型を製作、②母型の表面処理、③母型にめっき、④母型からめっきを離型。これが電鋳品となります、⑤電鋳品に所望の厚さまでめっき、⑥電鋳品を離型すると母型の複製品が完成。アナログレコードの原盤への適用に始まり、光ディスク(CD、DVD等)の製造金型、電気カミソリの刃製造等に適用されています。

図21 電鋳法による製作イメージ
図21 電鋳法による製作イメージ

めっきの工法

1 ひっかけ

めっきする製品をジグにひっかけてめっきする工法です。製品が吊るされる側が電気的にマイナスとなります。手作業でめっきする方法と自動搬送機で行う方法があります。

図22 ひっかけめっきのイメージ
図22 ひっかけめっきのイメージ

2 バレルめっき

ボルトやナットなどの小物をめっきする場合に主として採用される工法です。ひっかけ工法では難しい形状の製品を大量にめっきすることが可能です。めっきする部品をバレル(たる)に投入しバレルを回転させたり、揺動させたりします。

図23 バレルめっきのイメージ
図23 バレルめっきのイメージ

3 連続めっき

リールに巻かれた線材や帯状に巻かれた長尺(フープ材と呼称)の原材料を専用のめっき装置を使用して、脱脂等の前処理から成膜、後処理までを連続して行い、再び巻き取って製品化する工法です。自動車用鋼材として使用される亜鉛めっき鋼板の製造に適用されています。

図24 連続めっき
図24 連続めっき

めっき成膜後の化成処理

めっき工程後、金属表面に化学変化を与えて、耐食性を向上させたり、見栄えを与えたりするなど安定した化合物層をつくることです。この化合物層はめっき層の金属(母材)が元となります。母材と異なる金属皮膜を施す場合は、「化成処理」ではなく「めっき」となり、区別が必要です。化成処理の代表的な手法として、亜鉛めっき鋼板のクロメート処理があります。亜鉛めっきは前述した通り、亜鉛めっきが犠牲的に働き、鉄材の腐食を抑制しますが、亜鉛めっきのままでは、酸化して変色しやすくなります。そこで、さらに耐食性を向上させたり、光沢を与えたりするためにクロメート処理を適用します。なお、亜鉛めっきの化成処理としてクロメート処理がありますが、得られる膜は六価クロムが含まれるので、規制物質の対応として代替えの処理が行われています。主な方法は三価クロム化成処理です。図25は亜鉛めっきの三価クロム化成処理イメージです。

図25 三価クロム化成処理
図25 三価クロム化成処理

めっきの評価方法

めっきの出来栄えを評価する代表的な方法を紹介します。

  1. 耐食性試験
    塩水噴霧試験は標準的な方法です。 製品を一定条件の食塩水噴霧中に置いて腐食状態を評価します。
  2. めっき厚さ試験
    めっき厚を測定する主な手法として、①顕微鏡断面試験、②電解法、③蛍光X線法があります。
    ①顕微鏡断面試験:製品を切断し電子顕微鏡で拡大視しめっき膜の厚さを測定。
    ②電解法:めっき膜と電解液を用い、素地までの溶解に要した電気量、時間、溶融金属量から膜厚を測定。
    ③蛍光X線法:製品にX線を照射し、放射される蛍光X線の強度を測定してめっき厚さを測定。
  3. 密着性試験
    やすり試験、テープ試験曲げ試験、引張試験、熱衝撃試験等多くの方法があります。JIS(日本産業規格)H8504で17種の適用例が記述されています。詳細はJISを参照してください。
  4. 硬さ試験
    一般的な硬さ試験には「ロックウェル硬さ」、「ビッカース硬さ」、「ブリネル硬さ」と呼ばれる方法があります。測定に関する技術については、2022年8月29日公開「自動車部品をつくる技術~もの作りの基本」をご覧ください。
表1 めっきの硬さ試験
試験名称 試験方法
ロックウェル硬さ 圧子を試験片に押し付け、押し込み「深さ」で硬さを求める。
ビッカース硬さ ダイヤモンド製の四角錐の頂点を試験片に押し付け、押し込み痕の「表面積」で硬さを求める。
ブリネル硬さ 鋼球の圧子を試験片に押し付け、押し込み痕の「表面積」で硬さを求める。

めっきの環境規制

めっきの工程では多くの薬剤を使用することから、健康や環境へ影響します。そのため、日本国内のみならず海外でも環境規制が制定されています。国内における主要な規制は「水質汚濁防止法」です。規制対象となる物質として、有害物質と指定物質が定められています。有害物質はカドミウムなどの人の健康に被害を生ずる恐れがある物質で、28種類が定められています。指定物質は有害物質や油を除いて、公共用水へ多量に排出されると人や生活環境に影響を及ぼす物質です。60種類挙げられています。欧州における主要な規制は、ELV指令、WEEE指令、RoHS指令です。各指令の概要は以下の通りです。

  1. ELV指令(End of Life Vehicle:廃自動車指令)
    2000年に交付された欧州指令で、自動車のリサイクルに関する要求と特定有害物質の含有に関する規制があります。含有物の規制として自動車の材料および部品について、基本的に鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの許容濃度以上の含有を禁止。
  2. WEEE指令(Waste Electrical and Electronic Equipment Directive:電気・電子機器の廃棄)
    2003年にRoHS指令と同時に公布、電気・電子機器のリサイクルと有害物質に関する規制です。基本的にリサイクルを要求。
  3. RoHS指令(Restriction of use of certain hazardous substance in the Electrical and electronic equipment:有害物質使用制限指令)
    2011年に改正され「RoHS2」と呼称されています。有害物質を一定割合以上含む製品が市場に出回らないことを規制しています。規制対象は10物質。めっきに関係する物質としては、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムが指定されています。なお、鉛については、一部の原材料で含有率に応じて適用除外となっています。自動車のバッテリでも継続して使用されています。現時点では「技術的・科学的に代替が難しい用途」であることが背景にあるようです。各種規制に対応するための技術は開発されており、例えば六価クロムから三価クロムへ、鉛はんだから鉛フリはんだへ代替技術として置き換わっていますが、今後も規制の動向に対応した材料や工程等の対応が求められます。

関連計測器の紹介

めっきの技術に関連した計測器の一例を紹介します。

図26 めっきの技術に関連した計測器の例
図26 めっきの技術に関連した計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

めっきは古代から活用されてきた金属表面の加工技術ですが、時代とともに進化してきました。現在は環境に配慮した技術が開発されています。一方、めっきを支える基礎技術は多くの領域に広がっています。例えば、めっき液などの化学分野、素地となる材料の金属分野、電気めっきに関する電気化学や電気工学、めっき工程の製造装置に係る機械工学などです。今後も、技術分野の総合力を活かして、時代の要請に応える技術が開発されることを期待しましょう。

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