ETC (電子料金収受システム) ~ 有料道路ではなくてはならないシステム
高速道路や有料道路で通行料金を自動で支払うことができる電子料金収受システム(Electronic Toll Collection System:略称ETC※1)は、料金所での渋滞緩和などを目的として2001年から本格的に運用が始まりました。現在では利用率が大幅に高まり、2022年時点で94%を超えています。次のシステムとして、ETC2.0が導入され、料金支払いシステムから高度な道路情報システムとして期待されます。
本稿ではETCに関する技術を紹介します。最初に導入の背景や普及状況を解説します。その後に、システム構成や個々の技術を概説します。ETCシステムがDSRC(狭帯域通信)で情報を授受する仕組みや、車載器の構成などを示します。さらに、今後、普及すると見込まれるETC2.0やETCに関連した情報を紹介します。ETC2.0車両運行管理支援サービスなどのETC2.0で追加されたサービス、圏央道の料金割引、ビッグデータの活用などを説明します。ITSスポットやETC2022年問題(スプリアス対応)、ETC2030年問題などにも触れます。最後にETCの技術に関連した計測器を紹介します。
呼称は「イーティーシ」です。国土交通省はETCの導入に合わせて、「ETC愛称コンテスト」を開催し、「イーテック」を選定しましたが、普及しなかったようです。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》
ETC導入の背景
ETCが導入された主な目的は、①料金所に起因する渋滞の緩和・解消、②キャッシュレス化による利便性の向上、③料金所の人的管理費等の節減です。図1はETC導入による高速道路の料金所における渋滞発生状況の変化です。また、CO2の削減効果も試算されています。ETCの導入による効果を確認できます。
ETC普及状況
2002年3月の本格導入後、普及率が高まり、2023年1月時点で94.4%となっています。図2はETCの普及率推移です。ETC2.0は新システムを示しています。後ほど概説します。
1 海外のETC
最初にETCを導入したのは、イタリアの有料道路(アウトストラーダ)です。その後、60以上の国・地域で導入されています。導入の目的やシステムの方式、支払い手段は多様化しています。日本では規格化された車載器で複数の道路会社や公社を利用できます。一方、諸外国では多様なETC方式が採用されています。同じ国でも路線ごとに異なるシステムが導入されている例もあります。通信方式としてはRFID※2の採用が増えているようです。導入の目的は道路の建設・維持管理費用の調達、渋滞対策などです。ETC方式としては、日本と同様なマイクロ波帯の他、GNSS※3を用いた方式、カメラによるナンバープレートの自動認識を用いた方式等があります。主な方式の特徴と採用している国・地域を紹介します。
(Radio Frequency Identifier)無線通信によりICチップとアンテナで構成されるRFタグと通信。
(Global Navigation Satellite System)詳しくは、2022年2月公開:「くるまと無線~CASE時代を支える無線技術」をご覧ください。
1)DSRC(Dedicated Short Range Communication:狭帯域通信)
マイクロ波帯の無線通信によりデータを送受します。日本、韓国、中国で普及しているアクティブ方式と欧州、オーストラリアなどで採用されているパッシブ方式があります。アクティブ方式は車載器に発振器を具備しています。大量のデータ通信が可能となります。パッシブ方式の車載器は路側の電波から電力を得ています。車載器の構造がシンプルとなりますが、路側の送信出力を強くする必要があります。
2)RFID
無線通信方式です。車載器は「RFタグ」と言われるICチップとアンテナで構成され、電池を内蔵しません。米国、カナダ、中南米、台湾などで採用されています。
3)赤外線通信
赤外線で通信を行う方式です。韓国、ベトナムなどで採用されています。韓国はDSRCと併用しています。
4)GNSS+携帯電話
GNSS受信機と携帯電話機能を備えた車載器により車両の位置や走行経路を記録する方式です。路側の機器が不要となります。ドイツなど欧州の一部地域で採用されています。
5)ANPR(Automatic Number Plate Recognition:自動ナンバープレート認識)
自動車のナンバープレートを自動で認識し車両を特定します。ANPR単独のシステムであれば、車載器や無線の路側機は不要となります。スウェーデン、ニュージーランド、ロンドンなどで採用されています。
ETCのシステム構成
ETCシステムの基本構成は図3です。料金所に設置されたETC路側システムで、料金所に侵入してきた車両を光学式センサなどによる車両検知器で補足します。車両を検知すると無線通信により車両側の車載器と双方向通信することで、停車することなくスムーズな課金処理を実現しています。表示器は課金情報を表示し車両側へ通知します。開閉ゲートは課金処理が正常に行えると車両が通行できるようにゲートのバーを上げます。監視カメラは不正な通行等を記録するために設置されています。
ETCの無線システム
ETCは双方向無線通信を使い車両と路側との情報を送受します。無線通信はDSRC(Dedicated Short Range Communication:狭帯域通信)システムを使用します。5.8GHz帯のISMバンド※4を使います。通信の物理層に関する仕様は「狭域通信(DSRC)システム標準規格 ARIB STD-T75※5」で規格化されています。なお、ARIB STD-T75が定めているのは、通信のハードウエアに関する物理層の仕様です。通信システムに対応するためには、複数の規格やガイドライン※6に準拠することが必要です。
(Industrial Scientific and Medical band)国際連合の専門機関の1つである国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)によって割り当てられた周波数帯。産業、科学、医療での使用を想定。一般的にライセンスは不要。ETCを始め、無線LANなど多くの機器で使用されているため、電波干渉対策が必要。
一般社団法人 電波産業会、略称 ARIB(アライブ)。「通信・放送分野における新たな電波利用システムの研究開発や技術基準の国際統一化等を推進するとともに、国際化の進展や通信と放送の融合化、電波を用いたビジネスの振興等に迅速かつ的確に対応できる体制の確立」を目指して設立された。
規格類の一例、
- ARIB STD-T77:DSRCシステム
- ARIB STD-T88:DSRCアプリケーションサブレイヤ
- ARIB STD-T110:DSRC基本アプリケーションインタフェース
- ITS FORUM RC-003:DSRCシステム基地局設置のガイドライン
- ITS FORUM RC-004:DSRC基本アプリケーションインタフェース仕様ガイドライン
- ETCシステムに関する仕様等の情報は、一般社団法人 ITSサービス高度化機構(ITS-TEA)、 一般社団法人 電波産業会(ARIB)などのサイトをご覧ください。
DSRCの主要な通信仕様は表1です。
ETCシステムの処理概要
車両が料金所に入る時と出る時に車載器と路側機で通信を行います。入る時は、先ず車載器側から路側機へ車載器の固有情報やETCカードの情報を送信します。路側機から車載機器へカードの処理内容や入口情報(通過時刻、料金所番号、路側で撮影したナンバープレート情報など)を送信し車載器が受け取り、ETCカードに記録します。出口の料金所では、車載器に記録されている情報(ID、車載器固有情報、入口情報等)を路側機へ送信します。路側機から車載器へ車載器の記録情報や利用明細(入口料金所番号、出口料金所番号、通過事項、通行料金等)を送信します。各送受信の際、セキュリティ技術が適用されています。データの改ざん、盗聴などを防ぐための暗号化や相互認証が行われています。
ETCを利用するためには
利用するためには、①ETCカードの入手、②車載器の取り付け、③車載器の登録、が必要です。ETCカード入手のためにはクレジットカード会社へ申請が必要です。なお、クレジットカードを保有していない場合、高速道路6社が共同で発行している「ETCパーソナルカード」でも利用できます。また、大口・多頻度利用者向けとして「ETCコーポレートカード」があります。車載器のセットアップは車両との紐付けを行うため、車両情報を車載器に登録します。セットアップを実施できるのは登録店に限られています。個人や未登録店ではできません。セットアップ店の検索はETC総合ポータルサイトで行えます。図4はETCカード、車載器、路側機間の情報授受の仕組みです。
ETC車載器の回路構成
図5はETC車載器の基本構成です。セキュリティ回路、音声・表示回路、演算処理回路(通常、マイクロコンピュータで構成)、通信プロトコル処理回路、5.8GHz帯の送受信回路、およびアンテナで構成されています。アンテナと本体が分離したタイプと一体タイプがあります。
ETC2.0の概要
ETC利用の高度化技術としてETC2.0が導入されました。2016年から本格的に運用されています。2023年2月時点の普及率は30.1%です。図7はETC2.0の普及の推移です。
路側機との情報授受は「ITSスポット※7」を介して行います。全国の高速道路に約1,800箇所以上、直轄国道に約2,400箇所以上(2023年4月時点)設置されています。図8は高速道路上のITSスポット設置場所です。
交通安全、渋滞対策、環境対策などを目的として、車と道路とを無線通信で結ぶため、道路に設置した設備
ETC2.0はカーナビ向けの道路交通情報サービス(VICS:Vehicle Information and Communication System)※8の一部に位置づけられます。VICSはFM多重放送、光ビーコン、電波ビーコンの3つのメディアで提供されています。その内、電波ビーコンは2022年3月31日でサービスを停止し、ETC2.0に一本化されました。図9はVICSとETC2.0とのサービスに関する比較です。
2022年2月公開:「くるまと無線~CASE時代を支える無線技術」をご覧ください。
導入時のETCでは料金収受が主な機能でしたが、ETC2.0では高速道路の情報と走行車両の情報とを連携し、渋滞情報の提供や安全運転の支援、災害発生時の誘導など、新たなサービスが提供されます。図10はETC2.0でのサービス構成です。
図11はETC2.0の機能概要です。車両から取得したデータを加工し、各種サービスで活用します。車両側のデータはETC2.0対応のカーナビに蓄積され、車両がITSスポットの路側機の下を通過すると、路側に送信されます。収集されるデータは、「走行履歴」と「挙動履歴」です。
- 走行履歴データ:時間、位置(緯度・経度)、速度など走行距離200m毎 または 進行方向が45度変化した場合に車載側で記録
- 挙動履歴データ:時間、前後左右の加速度、ヨーレートなど加速度が0.25 G以上 または ヨーレートが±8.5 deg/s以上変化した場合に車載側で記録
図11で図示した「データ活用」の例を概説します。
1 車両運行管理支援サービス
事業者等の申請により車両を特定し、その車両の走行位置や急ブレーキ等のデータ(特定プローブデータ)を抽出して配信事業者に提供されます。配信事業者は「特定プローブデータ」の加工などを行うサービス事業者に配信し、物流事業者の車両運行管理に活用されます。
2 高速道路の休憩施設の不足解消に向けた社会実験
休憩施設等の不足を解消するため、高速道路から「道の駅」への一時退出を可能とします。一時退出しても、一定の時間内(2時間以内)に高速道路へ再進入した場合には、高速道路を降りずに利用した料金のままとなります。
3 圏央道割引
都心を通過する交通について圏央道への迂回を促進するために実施されています。圏央道の利用分が割引されるなどのメリットがあります。
4 ビッグデータを活用した生活道路の交通安全対策
収集されたデータをもとに、道路の潜在的な危険個所を抽出し、速度抑制や進入抑制の対策に活用されます。
5 官民ビッグデータによる災害通行実績データシステム
カーメーカが独自に実施している通行実績データとETC2.0で取得した通行実績データを融合し、災害時に「通れるマップ」として提供されます。
各サービスの詳細はETC総合情報ポータルサイトをご覧ください。
ETCの今後
1 スマートインターチェンジ
ETCが導入されるまでの料金支払いシステムでは料金所を一箇所に集約するため、大規模なインターチェンジが必要でした。ETCを活用すると、料金所の無人化が可能となり小規模なインターチェンジで対応が可能となります。スマートインターチェンジと呼ばれています。既存の道路を活かしつつ、柔軟に追加することができます。2023年4月時点で140箇所以上に設置されています。設置場所はETC総合情報サイトをご覧ください。
2 スプリアス対応(ETC2022年問題)
電波法関連法令の改正により、一部のETC車載器は2022年12月1日以降に使用すると電波法違反になるとされていましたが、「令和3年総務省令第75号」により、新スプリアス規格への移行期限が「当分の間」に改正されました。詳細は「総務省電波利用ホームページ」をご参照下さい。なお、移行期限後に使用できなくなるETC車載器は、「平成19年以前の技術基準適合証明・工事設計認証(旧スプリアス認証※9)を受け、製造されたETC車載器」ですが、対象となる車載器の情報は、自動車メーカや車載器メーカ各社のホームページをご覧ください。
スプリアス規格:必要周波数帯の外側に発射される不要な電波の強度の許容値に関する規格。改定の背景は電波利用環境の維持、向上及び電波利用の推進を図るため、WRC(World Radiocommunication Conference:世界無線通信会議)において、無線設備のスプリアス発射の強度の許容値に関する無線通信規則(RR:Radio Regulation)の改正が行われた。それに合わせて国内の関係法令が改正された。
3 新セキュリティ対応(ETC2030年問題)
セキュリティ脅威の増大に対応するためセキュリティ規格が変更されます。規格の変更時期は未定ですが、2030年頃までに新セキュリティ規格対応の車載器しか使えないようになる予定です。
関連計測器の紹介
ETCに関連した計測器の一例を紹介します。
その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。
おわりに
本稿ではETCに関する技術を紹介しました。これまで、料金所の渋滞解消を主目的として導入されましたが、ETC2.0の普及により、渋滞解消を目的とすることはもとより、有料道路乗り継ぎのシームレス化および道路交通情報の基幹システムとしてさらに進化することを期待しましょう。
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