市場動向詳細

溶接 ~ 物をつなぐ技術

物を「くっつける技術」は身の回りの多種多様な製品に適用されています。「くっつける技術」を「接合技術」としてまとめると、大きく3つの手法に分類できます。先ず、「ボルト」や「リベット」などによる「機械的な締結による接合」、次に、なじみのあるスポット溶接など、金属材料の特性を生かした溶接「冶金的な接合」、3つ目は接着剤などを使用する「接着剤接合」となります。自動車においても、上記の接合手法は部品単品の製造のみならず、組み立てまで多くの箇所で適用されています。

本稿では「接合技術」の中で、特に金属材料を接合する「冶金的結合」を中心に解説します。先ず、各種結合の比較を行います。次に、溶接の歴史を概説し、その後に、溶接技術の概要や接合の原理を解説します。あわせて、主要な溶接技術を紹介します。融接技術として「アーク溶接」、「電子ビーム溶接」、「レーザー溶接」、「スポット溶接」など、圧接技術として「アプセット溶接」、「熱圧着」、「摩擦攪拌溶接」などを紹介します。最後に溶接技術に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

溶接の歴史

石器時代から青銅器時代へ、さらに鉄器時代へ移行すると、材料を製造する技術が導入されました。紀元前のメソポタミア時代のレリーフでは銅を接合する技術として、冶金接合の一例である「ろう付け」(のちほど解説)の痕跡が見受けられます。別の事例では、同じく、冶金的接合である「鍛接(たんせつ)」※1や機械的接合である「リベット接合」※2が採用されています。接合技術の基本的な手法が紀元前から採用されていることは驚きです。中世になると鉄が普及し冶金学が構築され、近代の主要な接合技術としてガスや電気による溶接へ発展していきます。接合に関する技術が大きく進化したきっかけは、産業革命の訪れと言えるでしょう。近代以降、新たな技法として考案された「アーク溶接」、「抵抗溶接」、「レーザー溶接」等についてはその他の溶接技術を含めて次章以降で解説します。日本の溶接技術は「造船業界」が主導したと認識されています。一方の接着技術は航空機での材料接着が技術開発をけん引してきた背景があるので、日本は欧米に比べて遅れをとっていると言われています。そのため、航空機でのアルミニウム合金化や炭素繊維などの複合材料を接合する技術の開発が遅れました。

※1

金属を高温に加熱した状態で、叩いて接合する技術。刃物の製作で使われてきた。

※2

穴のあいた材料を重ね、釘のような金属製のリベットを通し先端をつぶして固定する方法。

溶接技術の概要

接合技術を分類すると3つに分けられます。それらの特徴を比較すると表1となります。各手法の特徴に合わせて、製品への適用が選択されます。なお、各技術の評価は筆者によるものです。

表1 接合技術の比較
機械的接合法 冶金的接合法 接着剤接合
メリット ・信頼性の高い接合ができる
・簡便な工具で容易に接合や取り外しができる
・接合部の検査が容易にできる
・接合する材料の制限がない
・製品重量を軽減できる
・接合時間が短く、製作時間を短縮できる
・水密・気密性に優れる
・母材の厚さ方向の接合に有利である
・補修が可能なケースが多い
・ほとんどの材料ならびにそれらの接合ができる
・素材の性質や形状を変化させない
・水密・気密性に優れる
・電気的な絶縁効果が得られやすい
デメリット ・製品重量が重くなる
・工数が多くかかる
・接合材の厚みに制約がある
・補修が困難である
・局部的な熱による変形を生じる
・残留応力を発生し、接合性能に影響を及ぼす
・母材の性質が溶接熱によって変化する
・固定するのに時間がかかる
・耐熱性に限界がある
・界面が残る

冶金的接合法の代表格は溶接となります。なお、JIS(日本産業規格)によると「2個以上の母材を、接合される母材間に連続性があるように,熱,圧力又はその両方によって一体にする操作」と定義されています。溶接の分類は手法の観点で分類すると、「融接」、「圧接」、「ろう接」に分けられます。

  • 融接:母材の溶接する部分を加熱し母材のみか、もしくは母材と溶接棒などを融合させ、冷却して接合する方法です。機械的圧力は加えません。
  • 圧接:接合部へ機械的圧力を加えて加熱し接合する方法です。
  • ろう接:母材を溶融することなく、母材よりも低い融点を持った金属のろう材を溶融させて、毛細管現象を利用して接合面のすきまに浸透させて接合をする方法です。

これらの手法を加熱するエネルギの区分によって細分化すると表2となります。なお、これらの分類は筆者によるもので、統一的な基準に従ったものではありません。次節以降で主要な手法について解説します。

表2 溶接手法の分類
原理 工法 注入するエネルギー
電気的 化学的 力学的
融接 アーク溶接
電子ビーム溶接
ガス溶接
レーザー溶接
スポット溶接
プロジェクション溶接
シーム溶接
圧接 アプセット溶接
フラッシュ溶接
バットシーム溶接
爆発溶接
摩擦圧接
摩擦攪拌圧接(FSW)
拡散接合
超音波圧接
ろう接 ろう付け、はんだ付け

なぜ溶接で接合できるのか

各種の溶接によって、接合できる基本原理は「接合する材料面において、原子同士が互いに引き合える距離に近づける」ことです。なお、「原子間結合」には次の3つがあります。1)金属同士の「金属結合」。2)「金属電子」と「非金属原子」との結合に多い「イオン結合」、例えば、NaCl(塩化ナトリウム)。3)「非金属同士」を結合する場合の「共有結合」、例えば、SiO2(二酸化珪素:ガラスの成分)。結合力の強さは通常、共有結合 > イオン結合 > 金属結合となります。

1 溶接の原子間結合

接合したい部分を加熱すると金属は溶けます。その後、冷却されると溶けた部分が一体化して接合されます。図1は溶接のイメージです。通常は金属元素同士が結合状態ですが、温度が上がるとともに結合力が弱まります。金属を赤くなるまで加熱すると曲がりやすくなることを体験できます。さらに、温度が上昇すると、金属元素の原子は自由に動ける状態となり原子同士の結合力がなくなります。つまり液体状態です。そして、凝固させると、界面で原子は新たな結晶が形成され強固な結合力が生まれます。

図1 金属結合のイメージ
図1 金属結合のイメージ

2 圧接手法の原子間接合

圧接は母材を溶かさず、固相の状態で接合する技術です。母材の接合部を加熱し加圧すると、接合面が活性し金属同士が結合できる距離までに近づき結合します。

図2 圧接の結合イメージ
図2 圧接の結合イメージ

3 ろう接の原子間接合

はんだ付けの場合、接合する金属、例えば銅線は溶かさず、低い温度で溶融する「ろう材」のはんだを溶かし、銅線の間にはんだが入り込んで接合できます。はんだは溶けて液体の状態になると、はんだの金属原子は自由に動けるようになり、銅線の原子と近づき原子間の結合力が生まれます。

図3 ろう接の結合イメージ
図3 ろう接の結合イメージ

各種接合

各種の溶接手法について、溶接の分類に沿って解説します。

1 融接

接合する母材を溶融して結合する手法です。

1)アーク溶接

アーク溶接は正負の電極間で発生する放電現象「アーク放電」を利用した溶接方法です。アーク放電では5,000~20,000℃の温度が得られるので、金属を溶融させることが可能です。図4はアーク溶接のイメージです。

図4 アーク溶接
図4 アーク溶接

大気中でアーク溶接すると空気中の酸素や窒素が溶融した金属と反応し安定した接合品質が得られないことがあります。そのため、接合する部分を空気と遮断するために、フラックスで被覆した溶接棒を使用したり、シールドガスを使用したりします。シールドガスとして、炭酸ガスや不活性ガス(アルゴン、ヘリウムなど)が使用されます。アーク溶接で使用する電極が消耗するか否かで分類することができます。電極が溶融する消耗電極式溶接と電極は消耗せずに溶接棒を溶かしこんで母材を接合する非消耗電極式溶接です。各々の方式例は次の通りです。

  • 消耗電極式溶接:被覆アーク溶接(図4)、炭酸ガスアーク溶接、MAG(Metal Active Gas:マグと呼称)溶接、MIG(Metal Inert Gas:ミグと呼称)溶接、サブマージアーク溶接、セルフシールドアーク溶接
  • 非消耗電極式溶接:TIG(Tungsten Inert Gas:ティグと呼称)溶接、プラズマアーク溶接

詳細については他の情報をご覧ください。

2)電子ビーム溶接

電子ビーム溶接は真空中で発生させた熱電子により接合部を溶融させて接合する方法です。図5は電子ビーム溶接の基本構造です。

図5 電子ビーム溶接の基本構造
図5 電子ビーム溶接の基本構造

3)レーザー溶接

「レーザー(LASER)」は「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(輻射の誘導放出による光の増幅)」の略です。アインシュタインが提唱した「誘導放出」が基礎と言われています。レーザー光の特徴は「単色性」、「指向性」が高いことです。この特性を活かし、レーザー光をレンズで集光することで、光のエネルギを集中させ高いパワーが得られます。対象物にレーザー光を照射すると、材料の表面で吸収され熱に変換されるので溶融することができます。レーザー光の原理として、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)、YAGレーザー(ヤグレーザーと呼称)、ファイバーレーザーなどがあります。

  • CO2レーザー:普及しているレーザーです。二酸化炭素などの気体中で放電すると得られます。波長が長いので、光ファイバーを使った伝送はできず、ミラーなどで行います。米国 ベル研が開発しました。
  • YAGレーザー:イットリウム(Yttrium)、アルミニウム(Aluminum)、ガーネット(Garnet)などを成分とする固体から得られるレーザーです。波長が1μm程度なので光ファイバーで伝送可能です。米国 ベル研が開発しました。自動車部品の製造でも使用されます。
  • ファイバーレーザー:励起用レーザーダイオード光が光ファイバー内を伝搬しながら増幅され高出力のレーザー光が生成されます。発振器の構造がシンプルで、小型化、保守容易性の特徴があるので、YAGレーザー溶接に置き換わる事例もあるようです。

図6はレーザー溶接の基本構造です。溶融部の劣化を防ぐためにシールドガスを吹き付けます。

図6 レーザー溶接の基本構造
図6 レーザー溶接の基本構造

4)スポット溶接

原理を適切に表現すると電気抵抗溶接となります。スポット溶接(spot:点)は電気抵抗溶接で最も多く採用されている手法です。溶接する材料を重ね、電源に接続された銅製の電極で挟み通電します。その後、抵抗発熱※3で電極間を溶融させて接合します。材料が溶融し凝固した部分をナゲット(nugget:塊)と呼称します。ナゲット径の大きさが接合部の引っ張り強さに影響します。

※3

抵抗発熱は次のジュールの法則による。Q(ジュール熱) = I2(電流) × R(抵抗) × T(時間) (J)

図7 スポット溶接
図7 スポット溶接

5)プロジェクション溶接

スポット溶接の応用例です。接合部の形成をより安定させるため、片方の材料に突起部を設けて電流を集中させるようにします。図8はナットを平板に溶接する例です。図8の右側でナット部の突起部が発熱していることが分ります。

図8 プロジェクション溶接の例
図8 プロジェクション溶接の例

6)シーム溶接

スポット溶接の応用例です。溶接する材料を円板状の電極で挟んで加圧し、回転させながら通電します。電気抵抗溶接の原理を用いて連続的に溶接する手法です。溶接部が線状となるので気密性を得られます。水晶振動子の金属ケース封印などに適用されます。

図9 シーム溶接
図9 シーム溶接

2 圧接

接合部へ機械的圧力を加えて加熱し接合する方法です。

1)アプセット溶接

アプセット溶接は母材の端面同士を突き合わせて加圧し電気抵抗溶接する手法です。溶融した部分を加圧するのでアプセット(upset:据え込み)が生成されます。図10はアプセット溶接の原理です。

図10 アプセット溶接
図10 アプセット溶接

2)フラッシュ溶接

アプセット溶接と類似の手法です。母材を突き当てても加圧しないことがアプセット溶接との違いです。母材を突き当てて溶融すると、すき間が生じます。そうすると母材間でアーク放電が始まり、さらに溶融します。溶融が進んだら通電を停止し強く加圧します。アプセット溶接と同じく接合部には据え込みが生成されます。鉄道のレール接合などに採用されています。

図11 フラッシュ溶接
図11 フラッシュ溶接

3)熱圧接

母材をアセチレンガスなどで融点以下の温度まで上昇させた後に圧力し、塑性変形を起こさせ、清浄面の接触によって接合させる方法です。建築構造物の鉄筋を工事現場で接合する手法の一つとして適用されています。図12は熱圧接の原理です。

図12 熱圧接の原理
図12 熱圧接の原理

4)摩擦圧接

摩擦圧接とは、接合する母材を高速で擦り合わせ、発生する摩擦熱によって母材を軟化させると同時に圧力を加えて接合する手法です。多くの自動車部品でも適用されています。エンジンのコネクティングロッドやドライブシャフトなどの例があります。また、異種金属材料の接合にも適用されます。エンジンバルブなどの実例があります。図13は摩擦圧接の原理です。

図13 摩擦圧接の原理
図13 摩擦圧接の原理

5)摩擦攪拌(かくはん)接合

摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は1990年代の初めに英国で考案されました。円筒形の工具を回転させながら強い圧力で部材に押し付けることで発生する摩擦熱を利用して接合する技術です。融点以下で接合が可能です。部材の接合面を前処理しなくても接合が可能です。また、シールドガスは不要です。新幹線や鉄道の外板などで適用が先行し、自動車での採用も増えています。

図14 摩擦攪拌接合の基本構造
図14 摩擦攪拌接合の基本構造
図15 摩擦攪拌接合用ツールの基本構造
図15 摩擦攪拌接合用ツールの基本構造

関連計測器の紹介

溶接に関連した計測器の一例を紹介します。

図16 溶接に関連した開発で使用される計測器の例
図16 溶接に関連した開発で使用される計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

本稿では物つくりに欠かせない接合に関する技術を紹介しました。また、過去の記事では部品成形の技術※4を紹介しました。自動車業界から進展しつつあるCASE※5やカーボンニュートラル※6を支えるハードウェアにおいて、両製造技術ともあらゆる製品の製造にはなくてはならない技術です。今後も着実に技術が進化することを期待しましょう。

※4

2022年8月公開記事:「自動車部品をつくる技術~もの作りの基本

※5

Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語。

※6

温室効果ガス(CO2など)の排出量と吸収量とを均衡させること。


自動車関連の他の記事は こちらから