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鉄道の技術 ~ モータリゼーションの進化に対応

鉄道はモータリゼーションの多様化にともなって、局所的には事業環境が厳しくなっています。この傾向は日本だけでなく、世界各地でも散見されます。しかしながら、鉄道の本質的な特徴である大量輸送、高速性、安全性、カーボンニュートラル対応などは他の交通手段に比べ優れています。今後も鉄道に期待されることは都市部における公共交通機関としての機能や長距離間の貨物輸送力です。一方で、鉄道を趣味とされている方が多数います。本稿では鉄道の黎明期における歴史を紹介します。その後、鉄道に関する固有の技術や鉄道のエレクトロニクス化について解説します。具体的な技術としては、軌間、車両の構成や番号、モータなどを説明します。台車、駆動装置、き電、勾配には特長があります。エレクトロニクスでは、リニアモータカーや安全システムを述べます。安全システムにはATS、ATC、ATO、TASC、CBTCなどの仕組みがあります。最後に鉄道に関連した計測器を紹介します。

《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

先ず、鉄道の定義を確認しましょう。広辞苑では「敷設した線路上で動力を用いて列車を運転する施設。また、それを用いた交通機関。日本では1872年(明治5)新橋・横浜間に初めて開通。広くモノレール等を含むこともある。」となっています。鉄道事業法施行規則 第4条では次の8種類が定められています。
1)普通鉄道 2)懸垂式鉄道(モノレール) 3)跨座(こざ)式鉄道(モノレール) 4)案内軌条式鉄道(新交通システム) 5)無軌条電車(トロリーバス) 6)鋼索鉄道(ケーブルカー) 7)浮上式鉄道(リニアモータカー) 8)前各号に掲げる以外の鉄道

鉄道の歴史

最古の鉄道は、鉱山に導入された馬が引く運搬車両とされています。その後、馬車鉄道による旅客輸送は行われましたが、鉄道が急速に整備された背景は英国での産業革命による蒸気機関の進化です。世界初の蒸気機関車を走らせたのは英国 リチャード・トレビシックです。

図1 リチャード・トレビックのペナダレン号
図1 リチャード・トレビックのペナダレン号

実用的な蒸気機関車を開発したのは、「鉄道の父」と言われている、英国 ジョージ・スティーブンソンです。なお、日立製作所が英国で車両を製造しているニュートン・エイクリフ工場はジョージ・スティーブンソンの「ロコモーション1号」が組み立てられた場所の近くに所在しています。交通機関として本格的に営業を始めた鉄道は1825年に開業した英国ストックトン&ダーリントン鉄道です。

図2 ストックトン&ダーリントン鉄道の車両 ロコモーション1号
図2 ストックトン&ダーリントン鉄道の車両 ロコモーション1号

ジョージ・スティーブンソンは蒸気機関車の改良を重ね、後にロケット号を製作しました。

図3 ジョージ・スティーブンソンのロケット号
図3 ジョージ・スティーブンソンのロケット号

以降、米国、フランス、ドイツでも鉄道が開業され世界各地で急速に発展していきました。電車による鉄道の営業開始は1881年ドイツです。地下鉄の開業は1863年の英国です。産業革命の最盛期で、人口の集中による道路の混雑が背景としてあったようです。日本では1927年 浅草~上野間が最初です。その次は1933年 大阪の梅田~心斎橋間です。

鉄道事業の状況

日本国内における鉄道車両の生産状況を紹介します。図4は車両の需要先別です。ここ十年間は1,800台前後を推移しています。

図4 国内生産推移統計データ(年度別需要先鉄道車輛生産実績)
図4 国内生産推移統計データ(年度別需要先鉄道車輛生産実績)

出典:一般社団法人 日本鉄道車輛工業会(https://www.tetsushako.or.jp)

図5は車種別の生産比率です。ディーゼルエンジン車は5%程度で、電気系の車両や貨車がほとんどを占めています。

図5 鉄道車両車種別生産比率(2021年度)
図5 鉄道車両車種別生産比率(2021年度)

出典:一般社団法人 日本鉄道車輛工業会(https://www.tetsushako.or.jp)

図6は分野別の生産金額です。電気関連部品や機構関連部品の出荷金額は車両と同程度です。輸出金額は全分野ともそれほど高くないと言えます。

図6 2020年度 生産車両の分野別生産金額
図6 2020年度 生産車両の分野別生産金額

出典:一般社団法人 日本鉄道車輛工業会(https://www.tetsushako.or.jp)

鉄道の技術

それでは、鉄道に関する代表的な技術や仕組みを紹介します。

1 軌間

レールの幅を「軌間(ゲージ:gauge)」と言います。軌間を大きく分類すると、「標準軌」、「広軌」、「狭軌」になります。

標準軌:

世界で最初に鉄道が実用化された英国の軌間は1,435mmです。これから、標準軌と呼ばれています。ヨーロッパ、米国など、世界各地の70%近くが採用しています。

広軌:

標準軌より広いレールの幅を広軌と呼んでいます。軌間の幅は1,524mm、1,600mm、1,676mmがあります。インドなどで採用されています。

狭軌:

標準軌より狭い幅を狭軌と呼びます。日本の在来線、ニュージーランドなどで採用されています。

日本では、1,435mm、1,372mm、1,067mm、762mmがあります。1872年に開通した初めての鉄道(新橋~横浜間)で採用されたのは1,067mmで、その後、多くの鉄道で採用されています。新幹線の軌間は標準軌の1,435mmです。これ以外の例は以下の通りです。

1,435mm:

京成、京急、東京メトロ銀座線・丸ノ内線、京阪、阪急、阪神の全線、近鉄の幹線・湯の山線、西鉄の天神大牟田線、新京成電鉄

1,372mm:

京王(井の頭線を除く)、東急世田谷線、都営地下鉄新宿線

762mm:

三岐鉄道 北勢線

軌間が共通の路線で相互乗り入れが行われています。特に日本で多くを占める1,067mmのJR在来線と民営鉄道の相互乗り入れが多く行われています。

2 車両の構成

鉄道車両は動力機構を持つ動力車と持たない付随車で編成されます。動力方式には、動力集中方式と動力分散式があります。動力集中式は先頭の動力車がけん引します。最後尾の車両にも動力車が配置され、前方の車両を押す編成もあります。貨物列車や海外の路線などで採用されています。動力分散式は動力車を複数配置した編成です。線路の負荷軽減や高加減速度の向上、車両の軽量化などのメリットがあります。都市部の路線や新幹線などで採用されています。近年、海外でも分散方式の採用が検討されています。

3 モータ

モータの方式を大きく分けると、直流モータと交流モータになります。直流モータは長年、使用されました。モータの制御は、初期の機械式の電圧制御から始まり、半導体の進化により、制御方式は高度化しました。しかしながら、直流モータは、ブラシの保守や小型・軽量化の課題があるため、交流モータへ移行しました。交流モータには色々な方式はありますが、日本では交流誘導モータが主流となりました。固定子側で回転磁界を生成し、ロータ側は金属体で構成されるので、小型・軽量化、保守等でメリットがあります。新幹線では、開業当初、直流モータでしたが、300系と呼ばれる車両から、交流誘導モータが採用され現在に至っています。

4 パワーエレクトロニクス

近年の電車は新幹線を含めて、モータ制御は高度化しています。モータ制御装置の基幹技術はインバータ、コンバータ※1と呼称される電圧変換です。インバータ・コンバータで採用される半導体は、サイリスタから始まり、GTO(Gate Turn Off)サイリスタとなり、近年の車両ではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が採用されています。さらに、JR東日本 山手線(E235系)やJR東海 新幹線(N700S 系)などでは、先端半導体であるSiC(シリコンカーバイド)が採用されています。

※1

インバータ・コンバータの基本原理やパワー半導体の概要については以下をご覧ください。
2022年4月公開:「車載ECUのインバータ技術~電動化に欠かせないコア技術

5 台車

車両の下に取り付けられている走行装置を台車と言います。通常、2つ以上の車軸で構成され、車体とは独立した動きをする台車をボギー台車と呼称されます。台車の基本機能は以下にまとめられます。1)上下左右前後の振動をバネによって緩和し車体の振動を抑える。2)加速や減速を車体と一体化する。3)線路の曲線に追従するように水平方向に回転する。車輪から車体全体の基本構造は図7となります。

図7 台車の基本構造
図7 台車の基本構造

従来の台車では上記2,3の機能を実現する構造として心皿と呼ばれる部品が採用されていました。オスとメスとが勘合される構造です。

図8 心皿の構造
図8 心皿の構造

その後、台車の小型軽量化やコスト等の要求により種々の構造が開発されてきました。現在の主流は新幹線や在来線などで採用されているボルスタレス台車です。台車枠と車体とを枕バネ(bolster:ボルスタ)で直接接続されます。枕機構がないので、「ボルスタレス」と呼ばれます。また、車体とは牽引機構で接続され、モータの駆動力を車体へ伝えます。

図9 ボルスタレス台車
図9 ボルスタレス台車

6 駆動装置

台車の駆動装置を構成するモータの回転を車輪に伝えることで車両は走行できます。図10は台車の構造例です。

図10 台車の構造例
図10 台車の構造例

駆動装置は種々の構造がありますが、構造を大きく分けると、吊りかけ式とカルダン式※2となります。現在ではカルダン式が主流です。基本的な違いはモータが設置される個所と動力を伝達する構造です。吊りかけ式の構造例は図11です。モータは車輪側に取り付けられ、一端は台車と緩衝機構で接続されます。いわゆるバネ下重量が大きくなるので、レールからの振動を受けやすくなります。なお、構造がシンプルなので電気機関車などで採用されています。図12はカルダン式駆動装置の構造例です。モータは台車側に実装されます。車輪側のギヤとは継ぎ手で接続されます。バネ下重量が小さくなるので、レールへの追従性や振動面でのメリットがあります。

※2

カルダン式の由来は「カルダンジョイント」を考案したイタリア数学者 ジェローム・カルダノ(Gerolamo Cardano)とされている。

図11 吊りかけ式の構造例
図11 吊りかけ式の構造例
図12 カルダン式の構造例
図12 カルダン式の構造例

電車の主流はカルダン式ですが、吊りかけ式の例としては路面電車があります。高速性能や乗り心地はそれほど要求されず、また車両は小型なので簡便な構造を考慮したからでしょう。その他の例として貨物輸送などで使用される電気機関車が採用しています。モータの出力を効率的に伝達することやレイアウト性、乗り心地を客車ほど重視しないことから採用されています。

7 車両の記号

車両の基本仕様は1両ごとに表記されています。表記の仕組みは鉄道各社で標準的な呼称となっています。JR各社は旧国鉄の決め方を概ね継承しています。全てを取り上げることが難しいので、JRでの1例を紹介します。5つの組み合わせで車両の側面に表示されています。なお、JR以外の鉄道事業者は10000系、20000系などの表記となっています。

図13 車両の記号が表記された電車
図13 車両の記号が表記された電車
図14 車両の形式表記例
図14 車両の形式表記例

8 交流 / 直流

架線に送電することを「き電」と言います。き電方式は「直流」と「交流」が使われています。電車の導入期は「直流き電方式」でした。モータの構造が単純な直流モータを使用であることから普及しました。現在、首都圏他、3大都市圏ではJRや私鉄とも直流き電方式が主流です。電圧は1500Vです。一方、「交流き電方式」は変電所や送電などの建設コストが、直流き電方式に比べて軽減できることから、交流化が検討されました。なお、車両の製造コストは交流の方が高くなります。JR在来線では、東北・北陸・九州・北海道地域の路線が交流2万Vき電です。新幹線は交流2万5000Vのき電です。JR常磐線は特殊な「き電方式」です。上野駅から取手駅の先までは「直流」、藤代駅の手前から「交流」となります。この区間(約数十メートル)は架線が通電されていません。「デッドセクション」と呼ばれます。過去にはこの区間で車両が停車し立ち往生した事例があります。取手駅と藤代駅を通過する車両は「交流直流両用車両」です。このような状況に至った理由は、茨城県石岡市に気象庁地磁気観測所があり、直流電車が走行すると地磁気に影響するため、「交流き電」となっています。近隣を走る関東鉄道常総線は電化されず、ディーゼル車です。

9 車両の構体

鉄道車両の強度が求められる部分を「構体」と呼びます。使用材料は、初期の「木製」から始まり、その後は防火対策のため「鋼製」へ、また、腐食に強く軽量化が可能な「ステンレス製」、腐食に強いうえに、さらなる軽量化が可能で成形性・塗装適性に優れる「アルミ合金製」が採用されてきました。現在は、ほとんどの車両が「ステンレス製」か「アルミ合金製」の構体です。コスト・耐久性・軽量性・成形性などのバランスを考慮して使い分けられています。

ステンレスの構体は、通勤車両や近郊型の車両で多く採用されています。腐食に強く剛性に優れるため外板を薄くすることができ、また、塗装工程を省略できます。アルミの構体と比べて低コストですが、複雑な形状への成形が難しく、塗装に向かないため、基本的にはシンプルな箱型の通勤車両に適しています。アルミの構体は、新幹線や個性的な外観の特急車両、一部通勤車両に採用されています。腐食に強いうえにステンレス以上の軽量化が可能で、また、リサイクル性、加工性、塗装性に優れているのが特長です。製造コストはステンレスの構体よりも高くなりますが、軽量性や空気抵抗を低減が求められる高速鉄道や車体のデザイン性が重視される特急車両などに適しています。

自動車では車体のプラットフォーム化が進んでいます。開発期間の短縮化、コストダウンなどが目的です。鉄道車両においても同様にプラットフォーム化が導入されてきました。鉄道車両各社は標準プラットフォームを設定し顧客の要求に応える体制となりつつあります。例えば、東海道新幹線では標準仕様の車両を複数の車両メーカが製造しています。

10 勾配

道路の勾配は「%」で表示されています。例えば、5%の上り勾配は100m進むと5m上ることになります。鉄道では1000mあたりの上りとなり、千分率「パーミル(‰)」で表記されます。10パーミルの上り勾配は1000m進むと10m上ります。日本で最大の勾配は箱根登山鉄道と言われており、80パーミルの箇所があります。なお、この最大勾配は、車輪とレール間の摩擦による粘着式鉄道です。箱根登山鉄道では、急勾配と急カーブが多いため、レールの摩耗を抑制する目的で走行中にレールへ散水しています。日本で唯一残っているアプト式鉄道である大井川鐡道井川線(車輪と歯車型のレールを使うアプト式)では、最大勾配は90パーミル(1000m進むと90m上る)です。大井川鉄道では通常のレール間にラックレールが3列あり、車両側には専用のピニオン車輪が装備され、ラックとピニオンとがかみ合って駆動力となります。ラックレールの歯は位相をずらしており、必ず1枚の歯が深くかみ合うようになっています。

鉄道のエレクトロニクス

1 リニアモーターカー

実用化されているリニアモータカーを大きく分けると、「鉄輪式」と「浮上式」があります。浮上式は「常電導磁気浮上式」と「超電導磁気浮上式」に分けられます。鉄輪式リニアモータカーの原理は図15です。車両の台車にコイルを配置し、電動モータで1次側に相当する磁極を生成します。軌道のレール間に設置したリアクションプレートの渦電流により推力を発生します。回転するモータがないことから、車輪の小型化により車両高・トンネルの断面積抑制、勾配の登坂性能、線路の最小半径縮減など多くのメリットがあります。鉄輪式リニアモータカーは「リニアメトロ」と呼称されています。営業路線は7路線です(大阪市営地下鉄 長堀鶴見緑地線、大阪市営地下鉄 今里筋線、東京都営地下鉄 大江戸線、神戸市営地下鉄 海岸線、福岡市営地下鉄 七隈線、横浜市営地下鉄 グリーンライン、仙台市営地下鉄 東西線)。

図15 鉄輪式リニアモーターカーの原理
図15 鉄輪式リニアモーターカーの原理
図16 リニアモーターカーの構造
図16 リニアモーターカーの構造

常電導磁気浮上式の営業路線としては、愛知高速交通東部丘陵線があります。愛称は「リニモ:linimo」、愛知万博の開催に合わせて開業しました。常電導磁気浮上式を最初に開発したのは日本航空です。羽田空港や成田空港へアクセスする路線として計画されていましたが中止され、その後、技術移管され現在に至っています。図17は常電導磁気浮上式の車両構造例です。図18は走行原理です。電磁石とレール間の吸引力により車両が約10mm程度上昇します。左右に車両がずれると、U字形状のレールと電磁石が中立位置にさせる復元力で安定させます。車両を走行させる力は、車両側のリニアコイルと軌道側のリアクションプレートによる渦電流の作用で発生します。

図17 常電導磁気浮上式車両の構造
図17 常電導磁気浮上式車両の構造
図18 浮上原理
図18 浮上原理
図19 車両の浮上イメージ
図19 車両の浮上イメージ

2 安全システム

図20は道路交通事故の推移、図21は踏切事故の推移、図22は列車運転事故の推移です。鉄道の安全性は自動車に比べてはるかに高いと言えます。なお、鉄道に関連した事故は長期的に減少傾向です。但し、令和3年度は増加しました。鉄道の安全性は長年にわたる技術の積み重ねなど数々のハードウェアやソフトウェアによって達成されています。

図20 道路交通事故の推移
図20 道路交通事故の推移

出典:国土交通省「令和4年版交通安全白書」を抜粋して作成

図21 踏切事故の推移
図21 踏切事故の推移

出典:国土交通省「令和4年版交通安全白書」を抜粋して作成

図22 鉄道運転事故の推移
図22 鉄道運転事故の推移

出典:国土交通省「令和4年版交通安全白書」を抜粋して作成

鉄道の安全に関連する技術を紹介します。

(1) 軌道回路

列車の運行を安全に行うためには線路上の列車を検知することが基本です。基本原理は、「軌道回路」と言われ、ウィリアム・ロビンソン(米国)が1872年に考案しました。世界中の鉄道路線で採用されています。基本原理は図23です。軌道回路は線路を一定の距離で区切り、電気回路で電流を流します。特定の区間に列車が存在しない時、信号機は「緑」、存在する時は車輪により回路が短絡され、信号機は「緑」から「赤」へ切り替わります。鉄道の信号では道路の信号と呼称が異なり、「あお」とは言わず「みどり」となっています。軌道回路が導入されるまでは運行を人的に行うための手段が用いられていました。本稿で解説しませんが、「タブレット」、「通票」、「スタフ」が運用されました。

図23 軌道回路の動作
図23 軌道回路の動作

(2) ATS(Automatic Train Stop)

「自動列車停止装置」です。運転士が運転操作を誤った時に自動的に列車のブレーキを動作させ、停止信号までに停止させるバックアップシステムです。なお、初期のATSでは、運転士がATSの作動を確認した後は運転士の注意力に依存するため、複数の列車事故が発生しました。強制的にブレーキが作動しても、速度が超過している場合は停車できません。この弱点を解決する方式としてATS-Pが導入されました。ATS-P装置の基本構成は図24です。路面に設置された地上子(図25)を通過すると、制限速度や停止箇所までの距離などの情報を受信し、車両側で、現在の速度などから減速すべきパターンを生成します。この速度パターンで設定された速度を超過するとブレーキを作動させます。

図24 ATS-P装置構成
図24 ATS-P装置構成
図25 ATS-P地上子
図25 ATS-P地上子
図26 速度パターンとブレーキ作動のイメージ
図26 速度パターンとブレーキ作動のイメージ

(3) ATC(Automatic Train Control)

「自動列車制御装置」です。運転士の運転操作に関わらず列車の運転速度が常に信号機の指示する速度以下になるよう、自動的に制御する装置です。ATSでは、信号機に従わず走行すること(鉄道用語では「冒進」)を防ぐシステムで、非常ブレーキを作動させます。一方、ATCは車両が制限速度を守っているかどうかを制御するシステムです。信号機が見えないトンネルやカーブの多い箇所に設置されます。制限速度は、車両の運転台に表示されます。ブレーキ制御はブレーキをかけたり、緩めたりすることになります。

(4) ATO(Automatic Train Operation)

「自動列車運転装置」です。発車から次駅停車までの一連の運転操作を自動的に行う装置です。ATOの運転操作はATCによって守られており、ATOといえどもATCが指示する速度を超えて運転することはできません。ATOは、運転士が乗務しない無人運転や、ワンマン運転を行う路線で導入されています。車両が停止する際、車両のドアとホームドアとの位置がずれないように、運転士の操作ではなくシステムで停車を支援します。無人運転の営業路線として、「ゆりかもめ(東京臨海新交通臨海線)」、「ポートアイランド線(神戸新交通)」、「リニモ(愛知高速交通)」などがあります。「山手線(JR東日本)」でも将来の自動運転化を目指した実証実験が行われました。

(5) TASC(train Automatic Stop-position Controller)

「自動定位置停止装置」です。車両が停車駅のATSC用地上子を通過すると、停車位置までの距離などを受信し、車両側の装置で現在の速度やブレーキ性能、乗車率などから減速制御のパターンを生成しブレーキが制御されます。但し、運転士は突発的な事象に対応するため手放しはできません。導入された背景はホームドアの設置に伴い、車両の停止位置とホームドアとの開閉位置が合わないと反って危険になるからです。図27はホームドア設置駅の推移です。東海道新幹線熱海駅での設置に始まり、年々増加しています。令和2年度末時点で943駅となっています。なお、ホームドアの構造については、後ほど解説します。

図27 ホームドア設置駅推移(平成29年度末時点)
図27 ホームドア設置駅推移(平成29年度末時点)

出典:国土交通省の資料を抜粋して作成

(6) CBTC(Communications-Based Train Control)

「無線式列車制御システム」です。列車の運行と制御を地上側装置と列車側装置とを通信によって行う信号システムです。従来の信号システムは固定式の閉塞制御のため、閉塞区間には1列車しか在線することができず、先行列車が閉塞区間を抜けるまでは進行できません。そのため、乗客の増加に対応する輸送力増強、列車・駅の混雑、軌道回路等の保守性や障害発生時の対応力強化が課題となります。そこで、閉塞制御によらない新たなシステムとしてCBTCが導入されました。CBTCと従来システムとの比較は図28です。CBTCでは、基本的に信号機は不要となります。また、先行車までの最低停車距離位置まで移動することが可能になります。なお、CBTCの導入が進むと、鉄道各社で様々なシステム仕様が存在することになり、鉄道各社の相互乗り入れでは複数のシステムに対応するためのコストが増加します。このような状況を回避するため、国土交通省「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会」でCBTCの共通仕様を取りまとめています。検討会では、CBTCに関連する各種規格との整合性も考慮されています。関連する規格としてはJIS E 3801(日本産業規格 無線式列車制御システム)やIEEE 1474(米国 電気電子学会)、IEC/TS 62773(国際電気標準会議)などがあります。

図28 ATCとCTBCとの比較
図28 ATCとCTBCとの比較

出典:国土交通省「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会」を抜粋して作成

(7) ホームドア

近年、ホームで発生する車両との接触事故やホームからの転落事故を抑制するため、都市部の駅で普及が進んでいます。ホームドアは色々な構造が採用されています。図29は採用例です。

図29 ホームドア採用例
図29 ホームドア採用例

出典:国土交通省

今後の鉄道

1 カーボンニュートラル対応

鉄道は他の交通機関に比べて環境負荷の低い輸送手段です。国土交通省によると、輸送量あたりのCO2排出量は旅客で自家用乗用車の1/8、貨物で営業用貨物車の1/13です。

図30 輸送量当たりのCO2排出量(旅客、貨物)
図30 輸送量当たりのCO2排出量(旅客、貨物)

出典:国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」資料を抜粋して作成

国土交通省では「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」を開催しています。目的は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」に向け、「鉄道分野からのCO2排出削減のための取組みを進めるとともに、鉄道の特性を踏まえた再生可能エネルギーの活用をこれまで以上に加速させ、また代替燃料の可能性を検討するため」となっています。検討会で議論されている鉄道の脱炭素化イメージは表1です。鉄道を取り巻くあらゆる環境で、エネルギーを「減らす」、再生エネルギーを「作る」、「運ぶ」、「貯める」、「使う」を取組むことになります。この方針のもと、具体的な脱炭素化を推進するイメージは図31です。

表1 脱炭素化の観点
分類 取り組みの観点 取り組み例
A エネルギーを 減らす 省エネ車両、省エネ駅、省エネ運行ダイヤ
B 再生エネルギーを 作る 省エネ発電、未利用回生電力
C 再生エネルギーを 運ぶ 地域・広域送電、蓄電池による電気輸送、水素輸送(パイプライン・貨物)
D 再生エネルギーを 貯める 蓄電池、水素貯蔵施設(総合水素ステーション)
E 再生エネルギーを 使う グリーン電力、グリーン水素

出典:国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」資料を抜粋して作成

図31 鉄道の脱炭素化イメージ
図31 鉄道の脱炭素化イメージ

出典:国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」資料を抜粋して作成

鉄道に関する個々の技術は安全性の向上も含めて、既にカーボンニュートラルに対応する方向性は示されていますが、具体的な活動として注目されている例を紹介します。次世代の燃料として注目されているのは、「バイオディーゼル燃料」とディーゼルエンジンで発電した電力でモータを駆動させるハイブリッド車です。また、水素を燃料とする「燃料電池車両」があります。2022年3月から南武線・鶴見線の一部区間で実証実験が行われています。ハイブリッド車両の方式は自動車で採用されている方式と同様なシリーズ方式※3やパラレル方式があります。JR小梅線で世界初の営業用運転が行われました。その他、JRや私鉄でもハイブリッド車の営業運転や実証実験が行われています。図32はシリーズ方式ハイブリッド車の電気系構成です。ディーゼルエンジンで発電した交流電圧を直流に変換し、モータを駆動するとともに、蓄電池に充電します。

※3

シリーズ方式:エンジンで発電した電力を蓄電池に充電し、その電力でモータを駆動する。パラレル方式:主動力はエンジンで、モータの動力を混合する。
自動車のハイブリッドシステムに関する記事は以下をご覧ください。
2020年12月公開:「電動化システムの主要技術と規制動向~進展するxEVの現状と今後

図32 シリーズ式ハイブリッド車の電気系構成例
図32 シリーズ式ハイブリッド車の電気系構成例

2 鉄道の運営

1987年の国鉄改革に伴い多くの路線が廃止されました。代替え手段としてバスへ転換されましたが、一部の路線は鉄道の存続を希望する自治体や企業が出資する半官半民の第3セクタ鉄道として存続しました。しかしながら、営業路線の過疎化が進展して旅客収益が芳しくなく廃線となる事例もあります。そこで、第3セクタが多大な負担となっている線路や土地、付帯設備等の費用を軽くする手法として、「上下分離方式」が検討されました。従来の自社で全てをまかなう「第1種鉄道事業」から、線路や土地などの所有と鉄道事業の運営を切り分ける「第2種鉄道事業者」と「第3種鉄道事業者」に分ける運営方式です。「第2種鉄道事業」は鉄道運営会社となり、線路や土地、設備を所有する「第3種鉄道事業者」の自治体から無償もしくは使用料金を払い借り受けます。新たな手法として、BRT(Bus Rapid Transit)が採用されています。廃止された路線をバス専用道として運営し、投資の抑制や運行の定時制が期待されます。BRTは鉄道路線の災害復旧として導入されています。東日本大震災や九州豪雨後の復旧として運用されています。

関連計測器の紹介

鉄道に関連した計測器の一例を紹介します。

図33 鉄道に関連した開発で使用される計測器の例
図33 鉄道に関連した開発で使用される計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

鉄道は環境負荷が少ない移動手段として期待されています。特に、都市間をつなぐ高速鉄道のスピード性や都市部の人の移動を高密度に支援する機能として活躍できます。モータリゼーションの主軸である自動車とともに、今後も技術進化を期待します。


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