市場動向詳細

バイクの技術 ~風を楽しむモビリティ

この記事は、2022年10月27日に公開した「バイクの技術 ~風を楽しむモビリティ ~」を改版したものです。主な改版事項は、原付バイクの排ガス規制に伴う排気量対応、電動キックボードに関すること、クラッチに関する新技術です。

バイクは移動手段として、自転車を原型として発展してきました。多くの国々では4輪が普及する過程で、先ずバイクが普及しその後、4輪へ移行しています。一方、趣味としてのバイクも根強い人気があります。また、バイクのモータースポーツも歴史があります。本稿では、まずバイクの歴史、市場規模などを述べます。次に基本構造、主要な技術、エレクトロニクスシステムを概説します。バイクの種類や、クラッチ、トランスミッション、サスペンションなどの各部位を図解します。フレームの構造、ヘルメット関連の法規、最近普及し始めた電動のバイクなどに触れます。最後にバイク開発で使用される計測器を紹介します。今まで主に4輪車で解説してきた連載記事とのリンクもつけました。
《本稿の記述は、筆者の知見による解釈や、主観的な取り上げ方の面もあることをご容赦ください。また、記載されている技術情報は、当社および第三者の知的財産権他の権利に対する保証または実施権を許諾するものではありません。》

バイクの歴史

世界で最初にガソリンエンジンを搭載したバイク「Reitwagen」は1885年にダイムラーによって製作されました。本サイトの記事で紹介した世界初の4輪車とされているダイムラー1号車※1よりも先に製作されたようです。図1は「Reitwagen」です。タイヤ、ホイール、フレームなどは木製です。後輪付近にある円形の部品は補助輪です。日本では1900年初頭に製作されていますが、市販のモデルとしてバイクの普及に貢献したのは、1947年 本田宗一郎が製品化した、自転車に取り付ける構造のキットであると評価されています。その後、現在の大手バイクメーカが市場に参入しましたが、当時、大小合わせて100社近いメーカが存在していたようです。米国では1903年にビル・ハーレーとダビッドソン兄弟が試作車を完成させています。これが、現在のハーレーダビッドソンにつながっています。欧州においては、1900年中盤までに、ドゥカティ(イタリア)、BMW(ドイツ)、トライアンフ(イギリス)などがバイクの生産を始めています。

※1

ダイムラー1号車に関する記事は以下をご覧ください。
2021年8月公開:「自動車の基本~サスペンションの技術

図1 「Reitwagen」
図1 「Reitwagen」

市場の動向

日本国内の販売台数は減少傾向ですが、ここ10年間は減少傾向から横ばいとなっています。図2は国内の販売台数、図3は排気量毎の販売台数比率です。

図2 バイクの販売台数推移
図2 バイクの販売台数推移

出所:一般社団法人 日本自動車工業会の公表資料(2020年)を元に作成
https://www.jama.or.jp/statistics/facts/two_wheeled/index.html

図3 バイクの排気量別販売台数
図3 バイクの排気量別販売台数

出所:一般社団法人 日本自動車工業会の公表資料(2020年)を元に作成
https://www.jama.or.jp/statistics/facts/two_wheeled/index.html

世界の市場は各所の公開情報によると、年間販売台数は約5,700万台です。その内、インドにおいて約2,000万台となっています。二番目は中国ですが、4輪車の普及が急速に進んでいるので減少傾向が強いです。その他、東南アジア地区でも販売台数が多いです。日本の販売台数は世界レベルでは1%未満となっています。

事故分析

公益財団法人 交通事故総合分析センター(ITADRA イタルダと呼称)の研究報告書によると、2輪乗車中の死傷者数は減少傾向を続けています。死者数は減少傾向ですが、2020年は2019年から増加しました。車種別では「小型二輪」の死者数が増加し、年齢別では「45~54歳」と「16~24歳」が増加傾向です。また、事故類型の分類では、「人対人」「車両相互」に比べて「車両単独」の割合が特に高くなっており、増加傾向です。二輪車事故の要因として「人的要因」「車両的要因」「道路環境的要因」「法令違反」が考えられますが、「人的要因」が最大となっています。本稿では限られた分析結果を記述しましたが、上記の報告書では多面的な分析がなされています。ぜひご覧ください。
(出所:二輪車事故の特徴分析による事故・死傷者数の低減研究 https://www.itarda.or.jp/materials/report/free

バイクの種類

バイクには使用目的や用途に応じた多くの種類が販売されています。大きく分けると、スポーツバイクとその他のバイクです。スポーツバイクは舗装路を走ることを想定したロードバイクと不整地などの走行を想定したオフロードバイクに分けられます。図4はバイクのタイプを分類した一例です。代表的なタイプを紹介します。

  • スクータ:気軽に乗られるバイクとして、クラッチ操作はなく、フロアに足を載せて乗ります。当初は排気量50ccや125ccクラスでしたが、中型以上の大型スクータも販売されています。
  • ビジネスバイク:配達業などの用途を想定しています。荷物の積載性が良く、車体の剛性が高い構造です。耐久性や燃費も考慮されています。
  • ネイキッド:エンジン、フレーム、重量など、バランスが取れた構造です。車体を覆うカウルはありません。ネイキッド(naked:裸の)の意味通り飾りのないむき出しの構造です。
  • オフロードバイク:不整地の走行を想定したバイクです。最低地上高が他のバイクに比べて長く確保されています。また、フェンダなどは転倒しても破損しにくい樹脂製となっています。
  • スーパースポーツ:高性能なエンジンやタイヤ、フレーム、ブレーキで構成されています。また、車体を覆うカウルが装備されています。
  • アメリカンクルーザ:長い距離の走行を想定して、タイヤ間の距離(ホイールベース)や運転姿勢が考慮されています。

図4 タイプ別バイク
図4 タイプ別バイク

新原付バイク

図4のスクータで主として採用されている排気量50cc以下又は定格出力が0.6KW以下の車両(後述の特定小型原動機付自転車は除く)は2025年7月11月以降に適用される予定の新たな排ガス規制(国内第4次排ガス規制)への対応が必要となります。この新排ガス規制は大気環境保護と国際基準調和の観点から導入されます。しかしながら、現行の車種での新排ガス規制への対応は、技術的に困難であること及び開発投資の回収等経済性の課題により生産・販売を継続することが難しいとされています。ここで、技術的な課題を概説します。新排ガス規制の主要な要件は排ガス中の大気汚染物質(炭化水素、窒素酸化物等)を除去することです。新排ガス規制対応として、マフラ内に排ガスを浄化する触媒を具備することになります。一方、触媒が有効に機能するためには300℃以上の温度上昇が必要ですが、現行の原付バイク(原動機付自転車)の排気量は少ないため、触媒の温度が所定値に達する前に、新排ガス規制値を超えると見込まれています。そこで、新排ガス規制への対応として、排気量を増やすことが想定されますが、現行の法制度には合致しなくなります。現行の法制度は表1です。

表1 現行の区分
表1 現行の区分

以上の背景から、現行の原付バイクを新排ガス規制に対応させるために、関係省庁および有識者による検討が行われ、以下の方向性がまとまりました。

排気量50cc超125cc以下の原動機の最高出力を50cc相当の4.0KWに制限し、現行の原付バイクと同程度の性能とする。

二輪車の免許区分を見直す。

なお、最高出力が免許区分を決める要素となることから、出力が適正であることの保証や不正改造の防止が求められるので、容易に改造ができない機構の導入が必要となります。具体的には汎用の工具で出力制御部を細工できないような構造にしたり、電子的な制御と組み合わせたりするなどの機構が導入されるでしょう。また、外観上の識別が容易であることも求められます。さらに、出力が制限されていない第二種原動機付自転車(原付バイク)を原動機付自転車免許で運転できるかのような誤解を与えないように周知する活動も必要でしょう。新原付バイクと免許区分との関係は表2となる予定です。

表2 新原付バイクの運転免許
表2 新原付バイクの運転免許

電動キックボード

図4で図示されていない移動手段として、特定小型原動機付自転車があります。図5は特定小型電動機付自転車の代表例である電動キックボードの一例です。2022年4月に成立した道路交通法の一部を改正する規定の内、特定小型原動機付自転車に関する規定が2023年7月1日に施行されました。「原動機付自転車免許」を保有していなくても、16歳以上であれば運転できる「特定小型原動機付自転車」に区分されました。

図5 電動キックボード
図5 電動キックボード

特定小型原動機付自転車の規定

道路交通法施行規則では、特定小型原動機付自転車の基準は以下の通りです。

車体の大きさ

  • 長さ:190センチメートル以下
  • 幅:60センチメートル以下

車体の構造

  • 原動機として、定格出力が0.60キロワット以下の電動機を用いること。
  • 時速20キロメートルを超える速度を出すことができないこと。
  • 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと。
  • AT機構(オートマティックトランスミッションその他のクラッチ操作を要しない)
  • 道路運送車両の保安基準第66条の17に規定する最高速度表示灯が備えられていること。

保安基準への適合

  • 道路運送車両の保安基準に適合するものでなければ運行できません。図6は保安基準項目の位置づけ、表3は保安基準の概要です。
図6 特定小型原動機付自転車の保安基準項目
図6 特定小型原動機付自転車の保安基準項目

出典:国土交通省

表3 特定小型原動機付自転車の保安基準概要
保安基準項目 概要
接地部及び接地圧 道路を破損するおそれのないものであること。
制動装置 2個の独立した操作装置を有し、確実かつ安全に減速及び停止を行うことができ、制動停止距離が5m以下であること。
2系統以上のうち1系統は、平坦な舗装路面等で確実に特定小型原動機付自転車を停止状態に保持できること。
車体 堅牢で運行に十分耐えるものであること。
乗車装置が確実に取付けられ、振動、衝撃等によりゆるみが生じないようになっていること。
安定性 一定のくぼみや段差の路面において安定した走行を確保し、運転者による制御が可能であること。
前照灯 夜間前方15mの距離の障害物を確認できること。
尾灯 夜間後方300mから点灯を確認できること。
制動灯 昼間後方100mから点灯を確認できること。
後部反射器 夜間後方100mから走行用前照灯で照射した場合にその反射光を確認できること。
警音器 適当な音響を発するものであること(自転車に装着されるベル等でも可)。
方向指示器 車両中心線上の前方及び後方30mの距離から指示部を見通すことができる位置に少なくとも左右1個ずつ取り付けられていること。
速度抑制装置 設定最高速度で走行しているときに加速装置を操作しても加速しないこと。
設定最高速度が2種類以上ある場合、走行中に設定変更ができないこと。
電気装置 原動機用蓄電池は以下のいずれかの基準に適合していること。
国連規則、欧州規格、国連危険物輸送勧告、PSEマーク(電気用品安全法に基づく表示)
乗車装置 乗車人員が動揺、衝撃等により転落又は転倒することなく安全な乗車を確保できる構造であること。
最高速度表示灯 昼間前方及び後方25mから点灯を確認できること。
車道モード:緑色点灯、歩道モード:緑色点滅

自賠責保険への加入

  • 自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済(いわゆる自賠責保険)への加入が義務付けられています。

ナンバプレートの取付け

  • 市町村の条例等で定められたナンバプレート(標識)を取得し、車体の見やすい箇所に取り付けなければならないです。図7はナンバプレートの例です。
図7 ナンバプレートの例
図7 ナンバプレートの例

出典:警察庁の資料を抜粋して作成

特例特定小型原動機付自転車

特定小型原動機付自転車の要件に加えて、以下の基準を全て満足すれば歩道を走行することが可能です。

  • 最高速度表示灯を点滅させること。
  • 時速6キロメートルを超える速度を出すことができないこと。

特定小型原動機付自転車を時速6km超えない速度で走行させても特例特定小型原動機付自転車の扱いとはなりません。さらに、最高速度を時速6kmに設定できるのは発進前が条件です。また、走行中に最高速度を変えられない構造が必要です。なお、「特例特定小型原動機付自転車」が走行できる歩道は、「普通自転車等及び歩行者等専用」の標識がある場合です。当然のことながら、歩行者の通行を妨げないように通行することが求められます。

型式認定制度と性能等確認試験

特定小型原動機付自転車の保安基準適合性を確認する制度が創設されています。国土交通省に認可された民間の機関・団体が保安基準の適合性を確認し、確認された車両には特別なシールが貼付できます。図8は性能等確認済みシールの例です。

図8 性能等確認済みシールの例
図8 性能等確認済みシールの例

出典:国土交通省の資料を抜粋して作成

2023年3月10日時点で認定された実施機関は、公益財団法人 日本自動車輸送技術協会 昭島研究室です。2024年3月26日時点で保安基準適合性が確認された型式は次のURLをご覧ください。https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001622342.pdf

モペッド

モペッドとは、原動機とペダルが付いた、主として二輪車の総称で、和声造語です。原動機としてモータが使われるモペッドは道路交通法で原動機付自転車として扱われます。一見すると自転車に見えますが、道路交通法や道路運送車両法を遵守していない車両の走行が散見され、交通事故も発生しているようです。モペッドは電動アシスト自転車※2の範疇であると誤認識されているようです。電動機を止めてペダルだけの走行でも、自転車とはならず車両の扱いは原動機付自転車です。当然のことながら、原動機自転車の扱いなので車両としての規定を満足することはもとより、ヘルメットの着用等、交通ルールの厳守が求められます。

※2

いわゆる電動アシスト自転車は時速24km以上で、アシストしないこと。
消費者庁のサイトで道路交通法上の基準に適合しない商品に関する注意喚起が公表されています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_068/

特定小型原動機付自転車の周知・啓発

特定小型原動機付自転車の周知・啓発用のチラシが関係省庁で作成されています。

これから購入するかた向けのチラシ

図9 これから購入するかた向けのチラシ(表)
図9 これから購入するかた向けのチラシ(表)
図10 これから購入するかた向けのチラシ(裏)
図10 これから購入するかた向けのチラシ(裏)

これから乗るかた向けのチラシ

図11 これから乗るかた向けのチラシ(表)
図11 これから乗るかた向けのチラシ(表)
図12 これから乗るかた向けのチラシ(裏)
図12 これから乗るかた向けのチラシ(裏)

特定小型原動機付自転車の市場抜取調査

国土交通省では、市場での抜取調査を実施しています。調査状況については、以下のサイトをご覧ください。
自動車:特定小型原動機付自転車について - 国土交通省(mlit.go.jp)

また、不適合品の流通防止を図るため、従来から行っている「自動車の不具合情報 ホットライン」にて情報提供の窓口を設置しています。

図13 国土交通省の「自動車の不具合情報 ホットライン」
図13 国土交通省の「自動車の不具合情報 ホットライン」

https://renrakuda.mlit.go.jp/renrakuda/hotline.html

特定小型原動機付自転車の交通事故状況

図14は2021年から道路交通法が施行される2023年7月までの電動キックボードに関する交通事故状況です。事故件数累計は74件です。

図14 電動キックボードの交通事故発生状況。
図14 電動キックボードの交通事故発生状況。

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

図15は道路交通法が施行された2023年7月から2023年12月までの交通事故状況です。発生件数は85件、負傷者数は86人となっており、図14の2022年(事故件数29件)に比べ大幅に増加したことが判ります。相手方当事者は「4輪」が30%、「歩行者」が20%、「自転車」が10%です。都道府県別では東京都と大阪府で多く発生しています。電動キックボードの導入台数が多いからと推察されます。なお、本データは警察庁に報告された件数だけとなっています。

図15 特定小型原動機付自転車の交通事故状況
図15 特定小型原動機付自転車の交通事故状況

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

図16 相手方当事者別の発生状況
図16 相手方当事者別の発生状況

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

図17 都道府県別の発生状況
図17 都道府県別の発生状況

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

電動キックボードの取締り状況

電動キックボードの取締り状況は図18、図19です。検挙件数では通行区分違反、信号無視、一時停止違反が80%近くを占めています。指導計画件数では整備不良、通行区分違反、無免許が80%近くを占めています。

図18 電動キックボードの検挙件数
図18 電動キックボードの検挙件数

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

図19 電動キックボードの指導警告件数
図19 電動キックボードの指導警告件数

出典:警察庁が公開したデータを元に作成

バイクの構造

バイクの基本構造は、4輪車と外観形状は大きく異なりますが、ほとんどの部品は構造や原理が似通っています。図6はバイクの基本構成です。バイクにおいて特徴的な仕様について解説します。

図20 バイクの基本構成
図20 バイクの基本構成

1 エンジン

エンジンの構造や原理は4輪と同じですが、気筒数は独特です。シリンダが1個の単気筒エンジン、シリンダがV型に配置されたV型エンジン、複数のシリンダが直列に配置された直列エンジンなどがあります。燃焼行程は4サイクル、2サイクルがありますが、4輪と同じく排気ガス規制に対応するため4サイクルエンジンだけとなっています。過去にはロータリーエンジンを搭載した車種も販売されました。

2 キャブレタ

いわゆる気化器は排ガス規制に対応することが難しいため、電子燃料噴射装置に置き換わっています。

3 動力伝達

エンジンの出力を駆動輪へ伝える機構は1次減速機構、クラッチ、トランスミッション、2次減速機構で構成されています。クランクシャフトの回転を1次減速機構で大きく減速させます。バイクのエンジンは4輪のエンジンに比べて高速で回転するのでクラッチやミッションの負荷を軽減します。1次減速機の機構はギヤ式が主流ですが、チェーン式やギヤ併用式もあります。クラッチの基本原理は4輪と同じですが、バイクでは寸法的な制約があり小型化のため多板クラッチが採用されています。また、クラッチ板がオイルに浸っている「湿式多板クラッチ」とオイルに浸っていない「乾式多板クラッチ」があります。図7は多板クラッチの動作原理です。クラッチハウジングはクランクシャフトからギヤを経由して回転します。クラッチプレートはクラッチハウジングと一緒に回転します。フリクションプレートはクラッチボスと一緒に回転します。図の左側はクラッチが切れている状態を示し、クラッチプレートとフリクションプレートは接合していないため、クラッチボスは回転しません。図の右側はクラッチが接続されている状態です。クラッチプレートとフリクションディスクが接合しているので、クランクシャフトからの入力はトランスミッションへ伝わります。

図21 多板クラッチの動作原理
図21 多板クラッチの動作原理
図22 クラッチを構成する部品例
図22 クラッチを構成する部品例

最近のバイクには「スリッパ―クラッチ slipper clutch」(もしくはスライダークラッチ slider clutch)と呼ばれる機構が組み込まれています。ギヤをシフトダウンした際、エンジンの回転よりも、タイヤの回転が高い場合、タイヤからエンジンへトルクが伝わります。いわゆるエンジンブレーキがかかる状態です。そうすると、タイヤがスリップしたり、チェーンがバタついたりします。この状態を回避するため、クラッチの圧着力を弱くする機構により、クラッチを滑らせてエンジンブレーキを軽減させます。
クラッチの動作原理については、以下の記事をご覧ください。
2022年6月公開:「自動車トランスミッションへの期待~まだまだ進化が続く」

バイクのトランスミッションはシフトペダルで操作する「マニュアルトランスミッション」と「無段階変速機」があります。マニュアルトランスミッションは「常時噛合い式」と呼ばれる構造が主流です。常にいずれかの変速ギヤがかみ合っています。シフトフォークによって所望のギヤが選択されると、「ドッグ」と呼ばれる機構で勘合し動力が伝達されます。なお、動力を伝えない「ニュートラル」状態もできる構造となっています。ライダの変速操作はシフトチェンジレバーを左足で行います。変速の方式は「リターン式」と「ロータリ式」があります。「リターン式」は1速を踏み下げて選択し、速度が上がるにつれて、レバーを上げていきます。変速の位置は4速の場合、1 ↔ ニュートラル ↔ 2 ↔ 3 ↔ 4となっています。バイクの種類によってはシーソー式のペダルとなっています。「ロータリ式」は4速の場合、ニュートラル ↔ 1 ↔ 2 ↔ 3 ↔ 4 ↔ ニュートラルと循環する機構となっています。図9はトランスミッションの構造例です。シフトペダルと直結したシフトドラムが回転すると、ドラムに刻まれた溝によって、シフトフォークが移動しギヤが選択されます。

図23 トランスミッションの構造
図23 トランスミッションの構造

「無段変速機」は4輪のCVTと同様な構造です。トランスミッションの基本構造については前述の記事※2をご覧ください。スクータでは車速に応じ遠心力を利用してプーリーの幅が変化する構造となっています。

2次減速機の方式は4種類の方式があります。「チェーンドライブ式」が一般的です(図10)。チェーンによってトランスミッションの出力を駆動輪へ伝えます。トランスミッション側のギヤと駆動輪のギヤとで変速比の変更が可能です。「ベルトドライブ式」はチェーンの代わりに、歯が付いたベルト(コクドベルトcogged belt)で駆動します(図11)。「シャフトドライブ式」はトランスミッションと駆動輪を、「ベベルギヤ」と「ドライブシャフト」で駆動する構造です(図12)。スクータの無段階変速機では「ギヤ式」が採用されています。

図24 チェーンドライブ
図24 チェーンドライブ
図25 ベルトドライブ
図25 ベルトドライブ
図26 シャフトドライブ
図26 シャフトドライブ

4 フレーム

バイクの骨格をなす部品です。主要な部品を装着する構造となっています。図13は主要なフレームの構造例です。クレードルフレームはゆりかご(cradle)のようなフレームで構成されます。セミダブルクレードルはダウンチューブを途中から2本に分けた構造です。ダイヤモンドフレームはエンジンをフレームの一部として構成しています。トラスフレームはトラス状のパイプで構成されています。

図27 フレームの構造例
図27 フレームの構造例

バイクのフレームはタイプや重量などを考慮した構造が採用されます。鉄製やアルミ製パイプ、プレス成型、ダイキャスト製法に加えて、カーボンファイバー製のフレームも採用されています。

5 サスペンション

バイクのサスペンションはフロントとリヤで構成されます。フロントサスペンションは「テレスコピック式」と「ボトムリンク式」が主流です。「ボトムリンク式」はビジネスバイクなどで採用されています。図14は「ボトムリンク式」の構造です。フォークに取り付けられているボトムリンクが支点を中心に動きます。

図28 ボトムリンク式サスペンション
図28 ボトムリンク式サスペンション

図15はテレスコピック式サスペンションの構造です。アッパーブラケットとアンダーブラケットに取り付けられているアウターチューブとインナーチューブが望遠鏡のように(telescopic テレスコピック)伸縮します。

図29 テレスコピック式サスペンション
図29 テレスコピック式サスペンション

リヤサスペンションはフレームのピボットに接続されるスイングアームとスプリング・ダンパーユニットで構成されます。スイングアームの方式は「両持ち式」と「片持ち式」があります。図16はスイングアームの構造例です。

図30 スイングアームの構造例
図30 スイングアームの構造例

スプリング・ショックアブソーバの構造は2本(ツインサスペンション)もしくは1本(モノサスペンション)が採用されています。図17、18はリヤサスペンションの構造例です。

図31 ツインサスペンションの構造例
図31 ツインサスペンションの構造例
図32 モノサスペンションの構造例
図32 モノサスペンションの構造例

6 ブレーキ

バイクは通常、前輪と後輪で独立したブレーキが備えられています。ブレーキレバやブレーキペダルを操作することで、個々のブレーキが作動します。バイクを停車させる際の速度や路面の状況、狙いとする停止距離に応じて、前輪と後輪とのブレーキ力をライダの操作によって行います。そのため、安全にブレーキを操作するためには、ライダのテクニックが求められます。近年のバイクでは前輪もしくは後輪のブレーキを作動させると前後輪を自動的に作動させるシステム(コンバインドブレーキ)が導入されています。制動時の操縦安定性や転倒防止の向上につながります。スクータでも採用されています。後述するABS(アンチロックブレーキシステム)と協調した電子制御システムも導入されています。ブレーキの構造や原理については過去の記事をご覧ください。
2021年5月公開:「自動車のブレーキ ~ますます高まる重要性」

7 ヘルメット

バイクの構造ではないですが、運転時に着用が必要なヘルメットについて解説します。ヘルメットの着用は道路交通法で定められています。該当する条項をまとめると、以下の通りです。
第九条の五 法第七十一条の四第一項及び第二項の乗車用ヘルメットの基準は、次の各号に定めるとおりとする。

  1. 一 左右、上下の視野が十分とれること。
  2. 二 風圧によりひさしが垂れて視野を妨げることのない構造であること。
  3. 三 著しく聴力を損ねない構造であること。
  4. 四 衝撃吸収性があり、かつ、帽体が耐貫通性を有すること。
  5. 五 衝撃により容易に脱げないように固定できるあごひもを有すること。
  6. 六 重量が二キログラム以下であること。
  7. 七 人体を傷つけるおそれがある構造でないこと。

以上の要件を満足するヘルメットであれば法令に違反しませんが、販売されている商品は安全性を高めるための認定を取得していいます。代表的な認定や規格を紹介します。

  • SGマーク:財団法人 製品安全協会が認定します。国内で販売されている国産のヘルメットにほぼSGマークが張られています。輸入されたヘルメットにはSGマークが張られていないものもあります。
  • JIS規格(JIS T8133):SGマークより厳しいと言われています。1種(125cc以下用)、2種(無制限)
  • SNELL規格:「スネル記念財団」によって設定された基準です。バイク用だけでなく、カート用や自転車用も定められています。
  • ECE規格:欧州で使われている規格です。
  • MFJ規格:一般財団法人 日本モーターサイクルスポーツ協会(Motorcycle Federation of Japan)が規定した規格です。MFJが主催する大会では認定品を着用しないと出走できません。図19はヘルメットの代表的な種類です。バイクの種類に応じて使い分けられています。

図33 ヘルメットの種類
図33 ヘルメットの種類

エレクトロニクスシステム

近年のバイクには4輪で適用された多くのシステムが採用されています。主要なシステムを紹介します。

1 燃料噴射

電子制御によりエンジンに燃料を噴射します。スロットル角度センサ、O2センサ、吸入空気圧センサ、吸入空気温センサ、冷却水温センサ、カム角度センサなどで構成されています。

2 バルブタイミング

吸気排気バルブの開閉時期を制御します。クランク角センサ、カム角度センサ、スロットルポジションセンサ、ギヤポジションセンサなどの信号から最適なタイミングを制御します。

3 点火時期

点火タイミングを制御します。クランク角センサ、カム角度センサ、スロットルポジションセンサ、ギヤポジションセンサなどの信号から最適なタイミングを制御します。

4 電子制御スロットル

スロットル弁をモータによって電子制御します。スロットルポジションセンサ、スロットル開閉用のアクチュエータ、ECUとで構成されています。

5 エンジンマネジメントシステム

燃料制御、点火時期制御、スロットル制御などを統合したシステムも採用されています。ライダの好みを設定できる車種もあります。

6 通信

各種の電子制御が導入され、センサやデータの共有化が進み、信号や情報の送受信をCAN通信で行っています。

7 ABS

4輪のシステムと同様に、タイヤのロックを防止します。前輪と後輪に装着されたホイールのスピードを検出するセンサとECUとで構成されています。

8 前後輪連動ブレーキ

前後いずれかのブレーキが作動した時にもう一方のブレーキにも制動力を発生させるシステム。ABSと協調することで、タイヤのロックを防ぎながら効率的な制動力を発生させることができます。スクータでも採用されています。

9 トラクション

4輪のシステムと同様に駆動力を制御してタイヤのスリップを軽減します。ECUが前後のホイールに設けられが回転速度を検出するセンサやスロットル開度、エンジン回転数などの情報を元に、点火時期や燃料噴射量を制御してスリップを抑えます。最近のシステムはABSと統合した制御システムとなっています。また、ライダの好みに合わせて、スリップ量の設定が可能な車種もあります。更に進化したシステムでは、車体の動的な情報(ピッチ・ロール・ヨー角速度、前後・左右・上下加速度)に基づいてエンジン制御やブレーキ制御を最適化しています。

10 ローンチ制御

バイクは車体の重量に対して高出力の機種では発進時のスリップを抑えるために、クラッチの制御やエンジン制御を行うシステムです。レース用の車両で導入され市販車にも展開されています。

11 電子制御サスペンション

各種のセンサ信号に基づいてダンパーの減衰力を制御します。

12 灯火器関連

ランプの光源は4輪車と同様にLED(発光ダイオード)化が進んでいます。バイクのヘッドライトで特徴的なことは常時点灯させることです。海外の基準であるデイタイムランニングランプ(略語 DRL)が2020年9月から認可されました。昼間時に他の車両からの視認性が高まります。DRLとヘッドライトの同時点灯は禁止されています。明るさに応じて自動でヘッドライトが点灯します。DRLの認可によりヘッドライト周りのデザイン性が向上したと評価されています。今後の改定として2023年9月から車幅灯と側方反射器が義務化されます。DRLと同様に世界基準に合わせた保安基準の改定です。

13 アダプティブクルーズコントロール(ACC)

ライダが設定した速度を維持しつつ、先行車との車間距離を適切に保つ機能です。ECUがミリ波レーダの信号を元にエンジン制御、ブレーキ制御などのシステムと協調して最適な速度や車間距離を制御します。

14 デュアルクラッチシステム

4輪で普及しているDCT(デュアルクラッチトランスミッション)がバイクでも採用されています。オートマティックトランスミッションではないですが、変速する際に、クラッチ操作を行わずに変速できる機構が採用されている車種も登場しました。「クイックシフタ」等で呼ばれています。発進や停止する際はクラッチ操作が必要ですが、走りだせば、シフトペダルの操作だけで変速ができます。導入当初、シフトアップ時の機能でしたが、電子化が進展しシフトダウン時も変速が可能となっている車種もあります。変速機構をさらに進化させた機構がホンダから発売されました。発進時を含めてクラッチ操作が不要となっています。なお、従来のクラッチも装備されており、ライダのクラッチ操作が優先される構造です。登録された商標は「Honda E-Clutch:ホンダイイクラッチ」です。表4は従来システムとの比較です。Honda E-Clutchではクラッチレバを操作せずに変速できることが理解できます。加えて、クラッチ操作による変速も可能となっています。図34はHonda E-Clutchの構造イメージです。従来のクラッチにモータによる回転機構を付加したシンプルな構造です。

図34 Honda E-Clutchの構造イメージ
図34 Honda E-Clutchの構造イメージ
表4 従来システムとの比較
クラッチ形式 シングルクラッチ デュアルクラッチ
マニュアル
トランスミッション
クイックシフタ Honda E-Clutch DCT
発進時の操作 クラッチレバスロットル クラッチレバスロットル スロットル スロットル
変速時の操作 クラッチレバシフトペダル シフトペダル シフトペダル
(クラッチの制御はシステムが自動で)

(自動変速、任意操作は可)
停止時の操作 クラッチレバブレーキ操作 クラッチレバブレーキ操作 ブレーキ操作 ブレーキ操作
マニュルクラッチの操作 操作可 操作可 操作可

図35はモータ制御によるクラッチ操作とクラッチレバによるクラッチ操作、モータ制御の途中でクラッチレバの操作による介入があっても、クラッチレバの操作が優先されることが判ります。

図35 Honda E-Clutchの動作イメージ
図35 Honda E-Clutchの動作イメージ

15 盗難防止

バイクは自動車に比べて小型軽量であることから盗難されやすいです。防止策として、盗難抑制装置の導入が進んでいます。一例では、ライダが携行するカードキーとバイク側に装着されたECUと相互に通信し認証を行うことでハンドルロックの解除やエンジン制御の動作などを可能にするシステムです。駐車中のバイクの振動を検知して警告音を発する装置やバイクの位置をGPSの情報で特定できる装置も採用されています。

16 電動車

バイクにおいてもカーボンニュートラルへ向けて電動車の販売が始まっています。2000年前半に市販化されましたが伸び悩みました。2010年になるとバイクメーカ各社が販売を開始し、いよいよ普及が始まりました。システムの基本構成は、ブラシレスDCモータ、リチウムイオンバッテリ、ECUです。また、家庭用のコンセントで充電が可能な車載充電器も装着されています。モータとエンジンを併用するハイブリッド車も市販されています。バッテリは車体固定型や可搬型があります。可搬型のバッテリに関する規格を統一し、相互に利用できるようにする活動が開始されています。さらに、2022年4月 ENEOS、Honda、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機の5社によって、電動二輪車の共通仕様バッテリのシェアリングサービス提供などを目的とした法人 株式会社Gachaco(ガチャコと呼称)が設立されました。詳細は株式会社Gachacoのサイトをご覧ください。

電動バイクにも免許が必要です。エンジン車では排気量に応じた免許の区分となっていますが、電動バイクではモータの定格出力(モータが連続して安定的な出力)によって分けられています。免許の区分は以下の記事をご覧ください。
2022年7月公開:「自動車をとりまくルール~安心安全の基本」

関連計測器の紹介

バイク開発で使用される計測器の一例を紹介します。

図36 バイク開発で使用される計測器の例
図36 バイク開発で使用される計測器の例

その他の製品や仕様については 計測器情報ページ から検索してください。

おわりに

1989年に総務庁(現在の内閣府)がバイクの交通事故撲滅を目指し、毎年8月19日をバイクの日と制定しました。バイクは移動手段としてだけでなく、ライダがバイクと一体となって、景色や空気を直接感じることができますが、4輪とは違った安全面の意識や行動が必要です。これからも、バイクの楽しさや便利性を求めつつ、バイク業界がさらに発展することを期待します。


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