市場動向レポート 「EMCの歴史、概要と測定器」2017年12月号 TechEyes Vol.26
ここ数年、夏になると落雷やゲリラ豪雨に関する報道がすっかり定着してきました。「落雷で電気製品が壊れた」といった話を一度は聞いた経験があり、漠然とした不安を抱えているのではないでしょうか。実際は、電気製品には落雷や静電気などから保護するために、日本工業規格JIS(Japanese Industrial Standards)などによって規定が設けられていることはよく知られています。開発現場では、EMCとして電子機器の開発や評価の際に取り上げられます。今号ではEMCを概観し、EMC評価で活躍する測定器についてご紹介をします。
EMCの歴史と規格
現在の開発現場ではEMC対策は必須になっていますが、EMC対策はいつから重要性が高まってきたのでしょうか。EMCの歴史は意外と古く、問題が顕在化しEMC対策の国際的な取り組みが具体化したのは1930年代までさかのぼるようです。一般財団法人 VCCI協会が発行する“VCCIだより”から、国際無線障害特別委員会 CISPR(International Special Committee on Radio Interference)の歴史、沿革に関する参考になる話をご紹介します。
「ラジオ放送が普及し、無線通信が発達していた1930年代前半になると、無線障害が顕著になってきたため、1933年にIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)やUIR(Union Internationale de Radiotelephonie [フランス語]、International SoundBroadcasting Union [英語])などの関連国際機関がフランスのパリに集まってこの問題を審議した。その結果、妨害波測定法と許容値について国際的統一を図り、これによって物品や業務の国際交易を容易にするために特別委員会CISPRを作ることになった。IECのTC(Technical Committee:専門委員会)は加盟国の代表のみで委員を構成するが、CISPRの場合は、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、フランス、ドイツおよび英国の6つの加盟国以外に、UIR、UNIPEDE(Unioninternationale des producteurs etdistributeurs d'energie electrique [フランス語]、International Union of Producers and Distributors of Electrical Energy [英語]:国際電気事業連合)、CIGRE、UIC(UnionInternationale des Chemins defer [フランス語]、InternationalUnion of Railways [英語]:国際鉄道連合)などの国際機関が委員になっている。このような経過から、当初、CISPRはIECから独立しており、その規格はCISPR Publicationとして刊行された。しかし、CISPRの事務局をIECが担当していたため、1980年代にIECの下部組織になった。
CISPRの第1回総会(Plenary Assembly)は1934年6月にパリで開催されたが、この第1回総会開催をもって、CISPRの設立とされている。初代のCISPR委員長は、英国のSirC.C. Pattersonである。このときの組織構成としては、総会の下に許容値を担当するSC-Aと測定法を担当するSC-Bの二つのSC(Subcommitee:小委員会)のみが存在していた。その後、1953年のロンドン会議で議長へのアドバイスなどを行う運営委員会(Steering Committee)が、また、1958年のハーグ会議で安全を担当するSC-Cが設置された。これらの組織は、1973年のウエストロングブランチ会議で大幅な改正が行われ、SC-A~SC-Fに示すような組織構成になった。その後、デジタル電子機器やマイクロプロセッサーのデジタル信号がラジオの受信障害として深刻な問題となり、それに対応するために運営委員会にワーキンググループを1975年に組織し、その後、SC-Bのワーキンググループとして対応することになった。このワーキンググループが1985年のシドニー会議でSC-Gとして再構成され、情報技術装置のEMCに対する許容値と測定法に関する規格を作成することになった。」
※VCCIだよりNo.118 2015.10 CISPR(国際無線障害 特別委員会)の歴史(その1)から引用