市場動向詳細

【インタビュー】電気インフラを守る現場試験器 ~ 双興電機製作所の保護継電器試験装置、耐圧試験器

日本の電力インフラである電力会社の機器や需要家の受変電装置は、多くの重電メーカが供給している。これら電力設備を常に正常に稼働させるには、適切な保守・検査が必須である。双興電機製作所(双興)は高圧試験に特化して、電力機器の様々な部位を検査する試験器を50年にわたり開発・製造してきた。この分野のトップブランドである同社試験器を通して、新製品からわかる現場測定の動向や、法改正による測定需要などの最新市場動向を東京営業所 佐藤 純一氏を訪問して伺った。

電力機器には高圧と特別高圧があり、リレーも試験器も異なる

Q:双興はどんな会社ですか?

先代の代表取締役会長である上川 孝男が、当時勤めていた重電メーカから独立して出身地である滋賀県で創業したのが始まりです※1。当初は重電メーカの工場で据付設置されるような大型の電気設備に組み込まれる試験器を開発・製造していたと聞いています。高圧電気の開発・製造ノウハウを生かして、次第に現在の製品ラインアップに近い、持ち運びできるような試験装置(箱型の可搬モデル)の開発・製造に移行していきました。現在の主力製品の1つであるリレー試験器※2は創業後3年程度で市場提供を開始し、開発から製造・販売は50年近くの歴史があります。双興はどんな機器のメーカなのか、時々友人に尋ねられることがあります。適切な例えかどうかはわかりませんが、人間ドックをイメージしてもらっています。人間ドックではたくさんの医療機器を使って測定して、診断をします。双興は電気設備の様々な部位を検査する試験器をトータルで開発し、特に高圧試験に注力して機器の診断をしています。電力インフラを守るソリューションを提供しているメーカと思っています。

※1

双興の本社は滋賀県で、琵琶湖の東岸、彦根と近江八幡の間に位置する。

※2

(guard relay tester / protective relay tester) 保護継電器試験器の通称。保護継電器は保護リレーやリレーと呼称される。電力インフラには多くの保護リレーが使われている。リレー試験器は電圧電流発生器の電源部と電圧計・電流計などの計測部で構成される。電源部と計測部が別筐体のモデルと、2つが1筐体になったモデルがある。品名はリレー試験器ではない場合が多い。

Q:リレー試験器には変遷がありますか?

リレーは1970年代まではアナログでした。そのためアナログのリレーに対応したリレー試験器が主流でした。1970年代にマイクロプロセッサ※3が登場すると世界中でデジタルリレーが研究され、日本では1980年代にアナログからデジタルに置き換えが始まりました※4。大手計測器メーカがデジタルリレーに対応した計測器を開発してリレー試験器に参入し、主流はデジタルのリレー試験器に移っていきました。当社は1974年創業で、その時流に乗ってアナログだけでなくデジタルのリレー試験器のラインアップを増やし、現在に至っています。GR(Ground Relay、地絡継電器)やDGR(Directional Ground Relay、地絡方向継電器)、OCR(Over Current Relay、過電流継電器)など、各種リレーに対応したモデルがあります。

※3

(microprocessor) ビジコン社(日本の電卓メーカ)の依頼により、インテルは世界初のマイクロプロセッサ4004(4ビット)を開発し、1971年に出荷した。1974年には8ビット製品がインテル、モトローラから発売され、16ビットも1970年代に開発された。マイクロプロセッサはマイコンとも呼ばれる。

※4

1970年代に入ってからは各国でマイコンを使ったデジタルリレーの研究が盛んに行われるようになった。我が国でも電力会社とメーカの共同研究を中心に開発が行われ、1980年、世界初のデジタルリレーが日本で実用化された。(「電力系統用保護リレー装置のデジタル化と技術の変遷」 東芝株式会社 佐藤 茂、IEEJ Journal Vol.131 No.5 2011年)

DGR-5000KD 位相特性試験装置
DGR-5000KD 位相特性試験装置
OCR-25CVG 多機能型試験装置
OCR-25CVG 多機能型試験装置
外観は取っ手のある箱
外観は取っ手のある箱

Q:電力機器には高圧と特別高圧※5がありますね

その通りです。一口にリレーといっても、電力系統※6の上流にあたる電力会社の施設(発電所、変電所など)に設置されるリレーは、特別高圧用です。他方、系統の下流にあたる工場やビル施設の受配電機器などに使われるリレーは高圧用です。特別高圧と高圧ではリレーの種類や機能が異なり、使われる施設も違います。使う技術者の需要に合ったリレー試験器を各社がつくっています。双興は主に工場・ビル系を対象にしたリレー試験器がほとんどです。

※5

高圧は直流750V~7000V、交流600V~7000V。特別高圧は直流・交流ともに7000Vを超える電圧を指す。電力会社との契約電力にも違いがある。電気工事の関係者は特別高圧を「特高(とっこう)」と呼ぶ。

※6

(power system、electrical grid)発電所から需要家(一般家庭や工場など)までの電力供給ネットワークのこと。発電所から送電設備を経て複数の変電所で降圧されて需要家に届くが、供給ルートは1本ではなく複数つくられている。電力の供給網を系統と呼ぶ。

Q:御社のリレー試験器の位置づけを教えてください

高圧用のリレー試験器は当社ともう1社が主につくっています。他社は当社より早く創業した分、歴史の長いお客さまが古くから使っています。他方、当社は電気設備の保守メンテナンス会社や工事会社で高い支持を得ています。工場、プラントには多くの電気設備があり、多種多様な電気試験が要求されます。電気設備点検のプロや、頻繁に試験をする方(試験会社や試験屋と呼ばれる)には当社製品は評価され、ご愛顧いただいています。

PCB特別措置法などにより、耐圧試験器の需要が増えている

Q:リレー試験器の次にモデルの多い※7耐圧試験器は、一般の電気計測器メーカと違いがありますか?

電圧範囲が違います。安全関連の試験器をラインアップしている電気計測器メーカは耐圧試験器をつくっています。だいたい仕様は最大5kVまでで、電力系統における一番下流にあたる家庭やオフィス内で利用する、一般電気機器が主な対象です。他方、当社の試験器は10kV~100kVの電圧範囲があり、高圧設備を対象としています。

※7

双興の総合カタログ(No.30/31)では、1.リレー試験器 約40モデル、2.耐圧試験器 約30モデル、3.遮断器試験器 約20モデル、その他(校正装置など) 約20モデル。カタログ未掲載の特注品を含めるとモデル数はもっと多い。

Q:数年前のJECA FAIR(電設工業展)※8で、耐圧試験器の引き合いが増えていると聞きましたが、現在も同じですか?

同じです。高圧の耐圧試験器メーカが減ったことなどが原因です。当社は自社で耐圧試験器を開発・製造しているのが強みです。カタログに載せている標準品だけでなくお客さまのご要望に応じて、さらに大きい耐圧容量や高い出力電圧などのカスタマイズにも対応しています。また、お客さまの急なご入用の場合の納期にも、なるべく応えられるように企業努力しています。

※8

一般社団法人日本電設工業協会(JECA:Japan Electrical Construction Association)が毎年5~6月に開催する展示会。電気工事で使うテスタやクランプからケーブルテスタ、オンラインスコープまで、ほとんどの現場測定器が出展する。長く「電設工業展」だったが、現在はJECA FAIR(ジェカフェア)と称している。出展品の例は以下。
2019年7月公開 【展示会レポート】JECA FAIR 2019(第67回電設工業展)(会員専用)

最前列に耐圧試験器が並ぶ(JECA FAIR 2024)
最前列に耐圧試験器が並ぶ(JECA FAIR 2024)

Q:今年5月のJECA FAIRで参考出展していた新製品が発売開始になりましたね

オート機能付きのリレー試験器ADGR-1000HPを2024年9月から発売開始しました。従来機種のADGR-1000HKの生産終了に伴う後継機種ですが、大きな変更点としてBluetoothでタブレットデバイスなどに測定データを送信できるようになりました。数年前から現場測定器のメガ※9や接地抵抗計などでBluetooth搭載機種が増えてきたことが背景にあります。このような機種を利用するお客さまから、一緒に使うリレー試験器も対応してほしいという要望があり、新たな付加価値提供の観点からBluetoothの採用を決めました※10。当社製品では初めてのBluetooth搭載モデルです。

※9

(meger) 絶縁抵抗計の通称。日本語表記は「メガー」が圧倒的に多いが、絶縁抵抗計のトップベンダ、共立電気計器は「メガ」と表記している。双興も「メガ」である。「mega ohm(メガオーム)を測定する物」、「megaのメータ」がmegerの語源といわれる。英国のMegger Group Limited(通称Megger社)の商標に由来する。

※10

事務所に戻ってから測定結果を紙に記載するのではなく、現場でタブレットに送り測定結果を報告書にする。事務所で行う作業が減り、従来よりも効率化が期待される。

箱を開けて上蓋を外す
箱を開けて上蓋を外す
電源投入時の表示
電源投入時の表示
表示部の左にBluetoothのマーク
表示部の左にBluetoothのマーク

Q:リレー試験器はあまりモデルチェンジがないと思っていました

リレーがアナログからデジタルに移行した変換時期から年月が経過し、リレー試験器は製品として成熟しています。新しいリレーが開発されない限り、リレー試験器が大幅刷新される要素はありません。ただし、従来からの変化として、計測器を構成する電子部品の改廃が早くなっています。安定的に製品を供給するために、製造中止部品に素早く対応するなど、製品開発を絶え間なく続けています。外観は変わらなくても内部は変化しています。たとえば遮断器試験器CRT-100Kも従来機種CRT-100の後継機種ですが、機能面で大きな変更点はありません。ミリセコンドカウンタMSC-3GKもMSC-3Kの後継機種として昨年発売しました。機能は大きく変わりませんが、細かな付加価値を加えながら定期的に製品更新をするように取り組んでいます。

Q:高圧機器の試験で、トピックスはありますか?

2023年3月に太陽光発電システムの安全性確保を目的として電気事業法が改正され、新たな規制が導入されました。従来は出力10kW~50kWの発電設備は大型のメガソーラー(1MW出力)のように試験要求が厳しくありませんでした。法改正によって低圧(小規模)の太陽光発電でも、設備を設置する事業者は技術基準適合、基礎情報の届出、使用前自己確認の3つが義務化されました。そのため、太陽光発電向けのリレー装置の試験需要が高まっています。この法改正によって当社ではOVGR(Over Voltage Ground Relays、地絡過電圧継電器)とRPR(Reverse Power Relay、逆電力継続器)のリレーの試験器※11の問い合わせが増えました。また、PCB特別措置法により低濃度のポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品の廃棄処分が2027年3月末までに義務付けられました。古い耐圧試験器ではトランス部にPCBを含む絶縁油を使っているモデルがあります。その場合は廃棄処分して買い替えが必要で、機種更新の問い合わせが増えてきました。なお、当社では過去からPCBを使った製品開発をしていないため、廃棄処分の心配はいらないことを付け加えておきます。

※11

DGR-5000KDなど。

T-50K50J-T 分割型交流耐圧試験装置(右がトランス部、左が操作部)
TT-50K50J-T 分割型交流耐圧試験装置
(右がトランス部、左が操作部)

OVGRとRPRの取説動画がYouTubeで1.6万回視聴・1年間

Q:リレー試験器にはトランスが多くラインアップされていますが、用途は何ですか?

設備を新しく設置したり、設備交換や工事したりすると、必ず耐圧試験を行います。耐圧試験は竣工検査の一環です。他方、年次点検のように電気を止めて検査をする際は耐圧試験を行なわず、リレー試験だけで済ませるのが一般的です。竣工検査ではリレー試験器と耐圧試験器をそれぞれ用意しないといけないので、1セットで試験ができないか、という要望で開発されたのがリレー試験器のオプションになっているトランスです。試験対象が6.6kVの場合、約1万Vをかけて耐圧試験をします。リレー試験器に電源供給している商用電源100Vからトランスで1万Vまで昇圧します。トランスを併用できるリレー試験器は耐圧試験器の機能を備えているのです。高圧機器のリレー試験器はこのようなアプリケーションに対応して耐圧試験ができます。

Q:製品カタログの後半に校正装置が載っていますね

リレー試験器をお客さまご自身で校正するための計測器です。リレー試験器を多く保有しているお客さまがランニングコストを抑えるために購入します。電圧計、電流計、位相計、周波数計、カウンタなどのリレー試験器の計測部の校正ができるのが、DMM-1550S デジタルマルチメータです。絶縁抵抗計、接地抵抗計、アーステスタの校正器や、高圧メガの校正用の抵抗器などもあります※12

※12

双興は10MΩ~100GΩを測定する高圧絶縁抵抗計をラインアップしている。

交流耐圧トランス T-13K15
交流耐圧トランス T-13K15
デジタルマルチメータ DMM-1550S
デジタルマルチメータ DMM-1550S
東京営業所のデモ器
東京営業所のデモ器

Q:製品の特長や、競合との違いはありますか?

製品の性能・機能は他社と大きく変わらず、違いはありません。ラインアップに遮断器※13試験器が多いのは他社と差別化できる特長です。VCBチェッカーを筆頭に約20モデルがあります。

※13

変電所では66,000V~154,000Vの高い電圧を扱う。この電圧用の特殊なリレー(開閉器)に真空遮断器(VCB:Vacuum Circuit Breaker)やガス遮断器がある。※6で示したように双興は耐圧試験器の次に遮断機試験器を多くラインアップしている。

Q:最近YouTubeを始めたそうですが、評判はどうですか?

お客さまから多い問い合わせについて、不明点があったらこの動画を見てもらえれば解決する、という趣旨で1年前から動画配信を始めました。現在では取り扱い説明書に書いてある内容を実演して操作説明する動画と、新しい製品の紹介動画の3種類を中心に少しずつ増やしています。前述の太陽光発電の試験需要ですが、関東では泰和電気工業(TAIWA)とオムロン、三菱電機のリレーが多いので、その試験方法(リレーとの接続から解説)の動画※14をつくったら、再生回数が多くて驚きました。反対に、考えて企画した動画がヒットしないこともあり、なかなか難しいです。

※14

1.6万回視聴「【取説動画】泰和電気OVGR、RPR試験方法※アナログ試験器Ver.」、1.5万回視聴「【取説動画】オムロンRPR試験方法」など。

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佐藤氏
佐藤氏

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