WPTの温湿度センサ、EMC対策LAB、ESD可視化、MRA認証機関 ~ R&S J新オフィス開所式
ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社(R&S J)は本社を西新宿から大崎に移転し、2025年12月3日に新オフィスの開所式を開催した。2003年の日本法人設立から約20年、開所式では多くのパートナ企業の中から次の4社が発表した。R&S Jとの新たな協業を含む、各社の発表概要を紹介する。
- エイターリンク株式会社 AirPlug™の実証実験
- 株式会社テクノサイエンスジャパン EMC対策LABの開設
- マイクロウェーブ ファクトリー株式会社 ESD可視化システム
- 株式会社ディーエスピーリサーチ MRA認証機関の活動概要
バッテリーレス/コードレスな温湿度センサ
エイターリンク株式会社はスタンフォード大学発のディープテックスタートアップ※1で、2020年に創業した。マイクロ波WPT(ワイヤレス給電)技術によって、配線のないデジタル世界の実現を目指している。同社ホームページの歴史によれば、2022年9月に日本初の無線電力伝送用構内無線局(WPT局)第一号を取得、2024年に空間伝送型ワイヤレス給電システムを販売開始、米国インディアナポリスに拠点開設、2025年にシリーズBエクステンションラウンドで18億円、ベンチャーデットで10億円の資金調達、タイのバンコクに現地法人設立、と発展してきた。FA(ファクトリーオートメーション)、ビルマネジメント、メディカルインプラントの領域で事業を展開している。同社のコア技術は中距離のWPTで、低消費電力でありながら、中長距離での電力伝送を実現する。従来方式では困難だった距離・環境下でも、効率的に安全に電力を届けることができる。
(deep tech startup) 高度な科学技術(ディープテック)によって短期間で急成長する企業。通常のスタートアップは既存技術の応用だが、基礎研究から始めてハードルが高い実用化を達成していくディープテックは多額の資金が必要。経済産業省の支援事業がある。NEDOは2025年にディープテックスタートアップ11社の採択を公表している。
R&S Jはエイターリンクのワイヤレス給電ソリューションAirPlug™を新オフィスに導入した。WPTによるバッテリーレス/コードレスな温湿度センサを使い、センシングデバイス設置における電気配線の大幅な削減を行い、クリーンで柔軟性の高いオフィス環境を実現した。「オフィスを実証実験の場として提供するだけでなく、高周波測定技術でエイターリンクをサポートし、両社の強みを活かした新たなソリューションの創出を目指す。この協業はオープンイノベーションの推進と、先進ベンチャー企業との連携強化を象徴する」(2025年12月4日 R&S Jプレスリリース)。今回の協業は「R&S Jオフィスの快適性向上とサステナビリティ推進に貢献するが、収集したデータは今後のエイターリンクの技術開発に役立てていく」(代表取締役CEO 岩佐 凌 氏)。
R&S J新オフィスに「EMC対策LAB(ラボ)」を新設
株式会社テクノサイエンスジャパン(TSJ)はEMCソリューションのシステムインテグレータで、約20年前からR&S Jのパートナである。今回の新オフィス開設を契機に、新たなパートナ事業として「EMC対策LAB(仮称)」を開設する。これまでTSJはR&SのEMIテストレシーバをインテグレートして、最終製品(完成品)のEMC適合性を判定する試験システムを設計・提案してきた。アンケートなどのヒヤリングで、お客さまは製品開発時の初期評価やEMC作業に大変苦労していることが浮かび上がった。そこで「“測って結果を出すハードウェア面の提案”だけでなく“エキスパートによるソフトウェア面支援”の窓口として、EMC対策LAB開設を提案した。測定して終わりではなく、対策を次のテーマに設定した」(代表取締役社長 山田 和謙 氏)。
TSJにはEMC業界で著名な技術者が数名いる。まず手始めに彼らを講師にしたセミナーで、実践的な対策技術や手軽な簡易評価手法をレクチャーする。一歩踏み込んだ、個別顧客の技術相談会も検討している。テーマはオートモーティブで注目されている電源変動試験などで、電波暗室を使わない机上での簡易試験も実機で行う。お客さまはEMC対策ノウハウの蓄積、R&SとTSJは開発の初期段階から貢献するという三者共にメリットがある。設計・開発の市場を開拓することで、電波暗室の用途も従来の完成品・量産品から、試作品の評価に広がると期待している。
机上での試験例として、デスクトップのボード上で基準電位面にDUT(評価したい基板)を置き、EMIプローブで測定するイメージが紹介された。EMI対策専用のソフトウェアを使い、EMIテストレシーバやスペクトラムアナライザの操作に不慣れな人でも測定することができる。ただし簡易評価のため、結果は電波暗室での最終評価と相関が取れるわけではない。測定ソフトウェアは対策を主眼にしている。
都心のオフィスで電波暗室をつくるのは難しいが、工夫をすればデスクトップでの簡易検査で対策とその効果を測定することはできる。EMC対策LABによってお客さまとの接点を増やし、新しい市場を開拓する。
ESD可視化システムによるEMCの課題解決
マイクロウェーブ ファクトリー株式会社(MWF)はEMC・マイクロ波・ミリ波技術を用いたRF測定システムを提供する会社として2003年に創業した。「無線通信の性能をどう測定するか、人間の目で見えるようにするかを提案している」(常務取締役 櫻井 正則 氏)。製品を評価する計測器を揃えた電波暗室が八王子にあり、R&SのSG、スペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザなどのRF基本測定器を揃えて、測定サービスを行っている。MWFの主力事業は電波暗室とその中で使う設備の販売である。測定器メーカではないが、測定器を制御するソフトウェアはラインアップしている。
お客さまは電波暗室や測定器、ソフトウェアなどを別々のベンダから購入するのが普通だが、MWFはそれらを一式で提供できる。RF測定に必要な電波暗室や測定システムを一元的に提供できる国内唯一の企業と自負している。機材構成はニーズに合った提案をしている。たとえばアンテナ測定でも単にネットワークアナライザを使う場合と、CMWやCMX(R&Sの無線機テスタ)を使ったOTA※2測定がある。RFの基本的な測定パッケージを開発済みのため、お客さまは導入後にスムーズに測定が行える。購入前のプレテストを八王子の電波暗室で行うこともある。昨今、周波数帯は上がっている。5Gは30GHzを超えたミリ波帯を使うが、6Gでは100GHz以上になる。ミリ波帯の測定機材は高額のため、同社の電波暗室は有効に活用されているという。
(Over The Air) 無線経由でコンテンツやソフトウェアを更新する技術。携帯電話などの測定はケーブル接続ではなくOTAチャンバ(chamber:小さな部屋や空間、小箱)内で行う。計測器メーカは各種チャンバをラインアップしている。
R&Sのオシロスコープを使ったコラボ製品の1つにESD(Electro Static Discharge、静電気放電)可視化システムがある。製品に使用されているプリント基板に静電気が発生した際の電流の流れを可視化するが、ESDだけでなく電磁放射(EMI)にも対応している。放電ガンで静電気を与え、ロボットアームに取り付けたプローブを様々な角度で当てることで基板全体をカバーした評価を行う。従来はベテラン技術者がESD問題を経験で解決してきたが、そのような技術者が減少し、可視化ツールで問題の発生源をつきとめるニーズがある。新オフィスに開設予定のラボ(EMC対策LAB)に可視化システムを設置したデモを計画している。
移動体通信、ミリ波、曝露の認証
無線通信を含む日本の電気通信の規制緩和は1985年に始まった。電気通信事業法の施行によって、国営の日本電信電話公社(電電公社、現NTT)が独占していた通信事業に民間企業が参入した(通信の自由化)。規制緩和の流れで認証機関も国営ではなくなり、株式会社ディーエスピーリサーチ(DSPR)は民間認証機関第一号として2001年に業務を開始した。現在の業務内容は、電気通信事業法に基づく技術基準適合認定及び設計認証や、電波法に基づく技術基準適合証明及び工事設計認証などである(同社ホームページより)。日本には(内外含めて)34のMRA※3認証機関があり、ユーザはDSPRを含めて自由に選べる。「DSPRのお客さまは80%が海外」(代表取締役 中西 伸浩 氏)。
(Mutual Recognition Agreement) 相互承認協定。国や地域間で製品の試験・認証結果(適合性評価)を相互に認め合う仕組み。校正については国際機関のILAC(アイラック)が相互承認を取り決めている。ILAC加盟の認証機関で行った校正書類にはILAC MRAと印刷される。
DSPRでは中核となる試験をMMEと称して、機材にはR&S製品を多く使っている。MMEはMobile Communication Device(移動体通信装置)、Millimeter Wave Radio Device(ミリ波無線装置)、Exposure for Radio Device(無線機器による曝露)の3つの頭文字である。「始めのM(移動体通信)ではフルセットでR&S製品を設備し、RedCap※4などの新しい規格も基地局シミュレータに搭載している。次のM(ミリ波)は、オートモーティブの65GHzレーダーセンサの試験が多い。ヘルスケアの生体では日本で認証できるのは65GHzまでだが、125GHzでの試験もある。」(中西 氏)。
(Reduced Capability) 2022年に策定された、5G時代の新しいセルラーIoT規格。読み方:レッドキャップ。
最後のE(曝露)は日本では認識が低いが、欧州では「電波の人体曝露」は話題で、DSPRはコンソーシアムに参加している。日本では5GHzまでがSAR※5、5GHz以上は電力密度※6で評価する(測定器はスイス製で高額)。電磁波による子供の被曝を母親が知りたいという話があり、DSPRはフランス企業とExposure Allianceを進めている。
(Specific Absorption Rate) 比吸収率。携帯電話などの無線機器が発する電磁波が人体にどれだけ吸収されるかを示す指標。単位: W/kg(ワット毎キログラム)。
(Power Density)5GHz以上では電磁界エネルギが皮膚などの表層組織に蓄積されるため、組織深部のSARよりも体表面での吸収電力密度を目安にする。単位: mW/cm2 か W/m2。
DSPRは神戸が拠点で、紹介した試験例は神戸の設備だが、R&S J新オフィスでも使える機材があれば提供することを検討している。
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