電力計の基礎と概要 (第3回)
【インタビュー】横河計測の電力計事業への取り組み
1915年の創業当時からさまざまな電力計を開発してきた横河電機のグループ会社である横河計測に電力計事業への取り組みについて新製品WT5000を開発した技術開発本部第1技術部長の岩瀬久様、開発マネージャーの河野正司様、設計実務を担当された南裕樹様に話を伺った。
質問1:電力計市場を取り巻く動向
世界が豊かになるにつれてエネルギー消費量が増えて、二酸化炭素の放出による地球温暖化が問題となってきている。この問題を解決する一つの方法としてエネルギーの効率的な利用に注目が集まっている。
パワーエレクトロニクス技術の進化はエネルギーの効率的な利用に貢献してきた。パワーエレクトロニクスの研究や開発は活発に行われており、部品から装置まで次々と新製品が登場しいている。
パワーエレクトロニクスの開発にはさまざまな測定器が使われるが、電力計は「消費電力、機器の効率、電源品質の測定」に使われている。最近の傾向としてパワーエレクトロニク機器に複数の電力変換器が搭載されるようになったため、同時に複数の電力変換器の測定を行い、システムの最適化をしたいという要求が出てきた。またパワー半導体の高速化が進んだことにより広帯域で高精度の電力計測の要求も高まっている。
電力計への要求が多様になったことにより、高性能・高機能なハイエンド機から基本機能に絞ったベーシック機までさまざまな電力計が作られるようになってきている。
質問2:現在までの高精度電力測定への取り組み
横河電機は創業者である横河民輔が最初に目標にしたのが積算電力量計の国産化であったという歴史を持つ企業であるため、電力計は創業から100年以上続く事業である。現在に至るまで高性能電力計を開発するトップメーカという自負がある。
電力計本体を構成する技術要素は「広帯域の電圧・電流センシング、アナログ回路、高速ディジタル信号処理、マンマシンインターフェース」である。これらをバランスよく開発することが重要と考えている。
また、横河計測は電力計を使った規格試験向けに測定環境を提供することも必要と考えており、最新のIEC規格に準拠した低周波EMC試験環境の提供をしている。
横河計測は電力計本体を構成する要素技術の開発と、お客様の利用を支援するためのアプリケーション開発が共に重要と考えている。
横河計測の電力計事業はすでにグローバルビジネスとなっているため、世界各国に多くのお客様がいる。高性能な電力計を長く安心して使って頂くために校正環境を世界中に構築してきた。現在、世界の校正拠点は日本、韓国、中国、タイ、オランダ、アメリカに置いている。いずれも横河電機の拠点であるため、校正環境は十分に管理されている。
質問3:横河計測の最近の取り組み
横河計測では、2018年の秋に電力計の最上位モデルとなるWT5000プレシジョンパワーアナライザを発売した。
WT5000を開発した市場の背景はパワーエレクトロニクス装置の高度化と高性能化がある。具体的にはシステム内に複数の電力変換器を持った装置が増えてきた。例えば電動化した自動車や蓄電機能付きの太陽光発電システムでは複数の電力変換器が装置に搭載されている。これらの製品に使われるパワー半導体は高効率と小型化のために高速動作を実現している。
新しい市場要求に応えるために、WT5000を4台使えば最大28モジュールの同時測定が行えるようにした。また次世代パワー半導体として期待されているSiCを使った機器の評価にも使えるよう広帯域化も実現した。WT5000を使って電力エネルギーの測定を行うことにより、効率的にパワーエレクトロニクス装置の最適化が行える。
横河計測では電力計測技術を広く啓蒙するため、さまざまな機会を作ってセミナーを積極的に開催している。また展示会にも参加して多くのお客様に横河計測の電力計を見て頂くとともに、横河計測のアプリケーションエンジニアがお客様と直接会話をして課題解決のヒントを提供することや、お客様から直接ご要望を伺う機会としている。
横河計測にとって電力計は創業以来の重要な事業領域であり、今後とも市場の要望に根差したソリューションを提供していく。
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